◆ことばの話1310「ブッシュマン」

映画「ブッシュマン」でおなじみになったニカウさんの訃報が新聞に載ったのは、7月5日のことでした。

朝日新聞は「ニカウさん死去」。
読売新聞は夕刊で「映画『ブッシュマン』ニカウさん死去」
という見出し。
それぞれ、「ホホウ」と思ったのは、年齢に関してです。

「推定年齢は五十九歳。」(読売:ヨハネスブルク=加藤賢治)
「年齢は不明だが、59歳ぐらいだったとみられる。」(朝日:ヨハネスブルク=ロイター)
「59歳ぐらいだったと見られる。」(日経:ヨハネスブルク=共同)


ということで、読売だけが自社の記者原稿、朝日と日経は通信社発の原稿ですが、いずれも正確な年齢はわからなかったらしく、「〜だったと見られる」とか「推定年齢」などという書き方をしているのが、ちょっとおかしい。しかし、それもひとつの文化かな、とも思います。夕刊フジの記事によると、「パスポートに1944年12月16日生まれと記載されてはいるから58歳ということだが、これは作成する際に係員がニカウさんの歯を見て勝手に決めたという」とのことです。その夕刊フジ(7月5日)によると、「享年59歳ぐらい」となっています。大らかです。
記事を総合すると、ニカウさんは、

「映画を製作したミモザ・フィルムズがイギリスのBBC放送に語ったところによると、ニカウさんは7月1日に薪を拾いに出たきり戻らず、行方を捜していた家族が草原で遺体を発見した。自然死とみられる」


とのことです。映画に関しては、読売が一番詳しいので、書き写します。

「映画『ブッシュマン』(注・正確には『ミラクル・ワールド ブッシュマン』)は、アフリカ南部のカラハリ砂漠に住むコイサン族が飛行機から捨てられた清涼飲料水のビンを見つけ、「文明との出合い」により騒動がわき起こるというストーリーで、世界中で大ヒットした。映画はシリーズ化され、一躍スターとなったニカウさんは、欧米やアジア各国を回り、香港映画にも出演した。」


ここからが、ちょっと重要です。
「ただ、部族の生活に関する描写などが差別的との批判もあった。」
ということなのです。シリーズ第1作(1982年2月)は、この年1位の配収24億円を記録したそうですが、映画のタイトルの「ブッシュマン」というのも、「未開」というイメージがあるために、たしか2作目からは「コイサンマン」に変更されたと思います。
そして、読売テレビの『放送用語ガイドライン』にも「先住民・少数民族について」という項で、
「1993年の『世界先住民族国際年』前後から、欧米中心の歴史観を反省し、先住民がクローズアップされるようになりました。それに伴い、呼称も、みずからが称したい民族名や集団名を使うのが原則となってきました。日本テレビで『放送で使う言葉』(1997)には、テレビでよく登場する民族を次のように解説し言い換えるべき呼称を述べています。」

として、いくつかの民族について書いてありますが、「ブッシュマン」については、
「南アフリカの遊牧民。現地ではサンと呼んでいるようだが、『ブッシュマン』も使われている。」
と書かれていました。「ガイドブック」のそのページに、ニカウさんの訃報の記事を挟んで、ご冥福をお祈りします。合掌。

2003/7/31


◆ことばの話1309「底ばい」

古新聞のスクラップを整理していたら出てきた、去年(2002年)7月12日の読売新聞の経済面。
「株二度1万円割れも」

という大見出しの下にあった文字に目が釘付けになりました。

「経済実態は底ばい」

へ?底ばい?「横ばい」は聞いたことがありますが、「底ばい」は初耳です。ちょっと「こそばい」感じ。横に這うのが「横ばい」だから、底を這うのが「底ばい」。そういわれると不思議はないんですがね。耳慣れません。

『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』にも「底ばい」は、載っていないばい。(なぜか博多弁ふう。)『日本国語大辞典』にも載っていませんでした。

Google検索では、「底ばい」は1320件も出てきました。やはり経済の専門用語のようです。「横ばい」は一般用語になっていますが、「底ばい」はそこまで行っていないようですね。というより、これまであまり「底ばい」というような、海底を這うような事態にまで経済が落ち込んだことがなかったので、聞いたことがなかったのかもしれません。その去年に比べると、株価はまだ下の状態、底より下があったのでは、そこは底ではない、"今底にある危機"ということですが、それでも景気のベクトル(矢印)は、去年は「横あるいは下向き」でしたが、今は「横あるいは、やや上向き」なのではないでしょうか。そう、思いたいです。

2003/8/1


◆ことばの話1308「赤いヤツ」

「あさイチ!」の反省会のあと、「ちょっと・・・」とNチーフプロデューサーに呼ばれました。何かヘマをしたな?と思っていくと、こんな話でした。
「よく女性アナウンサーが、『この赤いヤツもきれいですね』というふうに『ヤツ』という言葉を使うのを耳にするが、やはり女性が『ヤツ』を使うと、乱暴な感じがして、あまり印象が良くないと思うのだが、どうか。」
という内容でした。それは私もそう思いました。普段の会話で使うのはまあ、しょうがないとしても放送で使うと、特に年輩の方などは良い顔はしないでしょう。さっそく、アナウンス部の女性アナウンサーたちにその旨、連絡しました。
ところで、「○○ヤツ」という表現は、ネット上ではどのくらい使われているのでしょうか?
いつものようにGoogleで調べてみました。色の名前の後に、平仮名の「やつ」とカタカナの「ヤツ」を区別して、続けるキーワードにしました。
「赤いやつ」・・・3250件
「赤いヤツ」・・・1880件
「青いやつ」・・・2080件
「青いヤツ」・・・・919件
「白いやつ」・・・3130件
「白いヤツ」・・・2030件
「黒いやつ」・・・2890件
「黒いヤツ」・・・1650件
(7月31日しらべ)



けっこう、どの色も使われていますね。多い順に並べると、
「赤いやつ」「白いやつ」「黒いやつ」「青いやつ」「白いヤツ」「赤いヤツ」「黒いヤツ」「青いヤツ」の順。平仮名の「やつ」が優位ですね。ついでに漢字の「奴」でも調べましょうか。
「赤い奴」・・・1710件
「青い奴」・・・1020件
「白い奴」・・・2310件
「黒い奴」・・・1990件




でした。これは「白」「黒」「赤」「青」の順。全部を通してみると、「白」が「やつ」との相性がよく(?)、よく使われているようです。

2003/7/31


◆ことばの話1307「にも」

新聞を読んでいると、
「来年1月にも行われる予定」
と書かれている記事を見つけました。これを見て、
「『1月に』行われるのと、『1月にも』行われるのとでは、『も』が一つ付いているかどうかの違いだが、この「も」の持つ意味はどういうことだろうか?」
という疑問が浮かびました。「も」があるのとないのとでは、明らかに意味が違いますよね。「も」が付いてなければ、もう「来年1月」というのは「確定」している感じ。「も」が付くと、ちょっと流動的な感じ。もっと言えば、「早ければ」が頭に付いた、
「早ければ来年1月にも行われる予定」
というようなニュアンスですね。
新聞記事や報道のニュースで見かける、これと似たような例(意味は違いますが)には、
「10日には帰国する予定」
というのがあります。この「には」です。「は」が付くのと付かないのではどう違うか。当然「は」が付かなければ「10日に帰国する予定」と、予定ではあるが確定している感じ。「は」が付くと「遅くとも」が頭に付いた、
「遅くとも10日には帰国する予定」
という感じになりますね。お分かりですか、このニュアンスの違い。
そういう意味では、「にも」と「には」は「反対語」のようですね。一字違いで大違い、ということでした。

2003/7/31


◆ことばの話1306「秋ナスは・・」

アナウンス部の仲間で会社の食堂で昼食をとっていた時のこと。Oアナウンサーが、焼きナスを食べていました。
「ナスおいしそうだね。旬にはちょっと早いかな。でも、もうそろそろでしょ?」
と私が言うと、新人のKアナが、
「秋ナスはおいしいって、言いますもんね!」
と、すかさず口を出します。そこでOアナウンサーが、いつものクイズ。
「秋ナスは、何に食わすなって言う?」
秋ナスを知っているんだから、当然、すぐの答えが返ってくるかと思いきや、
「・・・秋ナス・・・ですか。うーんと、ホトケ?」
という、とんでもないボケぶり!
「なんで、秋ナスはホトケに食わすな、なんだよう!」
と突っ込むと、
「え、だってお盆のご先祖様のお迎えの時にナスで動物を作ったりするじゃないですか。」
とのこと。うん、それはたしかに。でも、違うよ。
「ホラよく『なんとかイビリ』とか『究極の鬼なんとか』ってドラマなんかもやってるやんか。」
「えーっと、じゃあ、赤子?」
「なんで赤子なんだよ!赤子はまだナスは食えんだろう、おっぱい飲んでるんだから。それは『初めチョロチョロ、中パッパ。赤子泣いてもフタ取るな』で、飯の炊き方だろ。」
「じゃあ、イヌ?」
「それは『夫婦喧嘩は犬も食わない』だろう!」

結局答えは出なかったので、こちらから、
「『秋ナスは嫁に食わすな』だよ。これには二通りの解釈があって、『秋ナスはおいしいから、嫁には食わせるな』という意地の悪いものと、『秋ナスは、身体を冷やすので、子供を産む身体である大切なお嫁さんに食べさせてはいけない』というやさしい考え方と両方あると言われているよ。」
と答えを教えてしまいました。それにしても、
「秋ナスと、この言葉は、ほとんど対(つい)になってるようなものなんだけどなあ。なんで知らないの?」
「だって、そんなことスーパーには書いてないですもん。」

たしかにスーパーマーケットの値札の横には「秋ナスはうまいヨ!」とは書いてあっても「秋ナスはヨメに食わすな」とか「ヨメの方、お買い求めはご遠慮下さい」とかは書いてありませんよね・・・当たり前ダ!
最近Sアナことシミケンが、「どっちの料理ショー」のロケで日本全国及び韓国まで飛び回っていてほとんど会社にいないのですが、そのシミケンの役割を、今、新人のKアナが背負ってくれているようです。
まあ、「秋ナス」と言うか「ボケナス」という感じでした。「おたんこナース」というマンガもありましたっけ。
その後アナウンス部に戻ってから、今度はK部長とHアナと、
「秋ナスと言えば、やっぱりトマス・アキナスかな。」
「たしかアクィナスとも書くんだよね。あれ、なんの人だっけ?」
「『君主論』書いた人かな?」
「それはマキャベリだろ。キリスト教関係の何かをした人だよね。」
「えーっと(と言いつつ、Google検索)、あ、『神学大全』書いた人だ!」
「ああ、そうそう、そうだっけ。」
「三位一体論についても唱えているみたい。」
「ということは、現代に通じるね、小泉さんの三位一体論。」
「うーん、奥が深いね、どうも。」

という話に発展したのでした。秋ナス、おそるべし。

2003/7/31


(追記)

「あさイチ!」に出演中の女性気象予報士Yさんにも、同じ質問をしてみたところ、
「えー・・・秋ナスは、奥さんに食わすな?」
と言っていましたから、やはり今の若い人は「ことわざ」などは、苦手だということですね。

2003/7/31
(追記2)

根本浩著『にほんご語源教科書〜現役国語教師が書いた学校で質問されたこの日本語』(ソフトマジック:2003,7,11)という本に、
『「秋なすび嫁にくわすな」と言いますが、どう考えても、そこまで美味しいものとはおもえないのですが・・・。』
という小学6年生の男の子からの質問があって、それに答えて曰く、上に書いた語源プラス、「嫁というのはネズミのことで、ネズミに食われないように注意せよ」という意味だ、とも書いてありました。

2003/8/1