◆ことばの話1290「県境・府県境・都県境」

ニュース原稿読みの練習を、新人の小林アナウンサーにしていたところ、「県境」という言葉が出てきました。東京出身の彼女はたぶん知らないだろうと思って、

「大阪府と京都府の境はなんて言うか知ってる?」
「えーと、府境ですか?」
「正解。じゃあ、大阪府と奈良県、あるいは大阪府と兵庫県の境は?」
「・・・・府県・・境・・ですか?」
「あたり!」
「でも、東京都と埼玉県で『都県境』とは、あまり言わないような気がします。」
「そう言われるとそうだね。」


ということで、またGoogle検索で調べてみました。(7月17日しらべ)

「県境」= 7万1800件
「府境」= 1010件
「府県境」= 1020件
「都境」= 176件
「都県境」= 1340件
「道境」= 1560件
「道県境」= 67件
「道県境・北海道」=9件、自動車道・県境


「府境」「府県境」も1000件を越えて使われてはいるものの、「県境」の7万件には遠く及びません。そして、「都県境」も意外に1000件以上使われていました。小林アナと私が知らないだけでした。「地元」で使われているのでしょう。

「都道府県」のうち残っている「北海道」はどうか?ということで「道境」ですが、これも1500件以上ですが、本当に「北海道の境」かどうかは疑問。というのも「歩車道境界」「市道境界」というような言葉の中の「道境」を選んでしまっているものが多いのです。そして「道県境」はというと67件。一気に減りました。そこでキーワードを増やして「道県境・北海道」としたのですが、これは9件しかなく、しかも「自動車道・県境」の中の「道・県境」に反応したようで、本当に「北海道」と「道県境」のキーワードが含まれているのは、1件のみでした。北海道は海で隔てられているので、「境」という概念は薄いのでしょうね。

2003/7/18

(追記)

NHKの原田さんから「県境はケンザカイとともにケンキョーという読み方もあるので、読み方を載せた方がいいのでは・・・」とご指摘をいただきました。ありがとうございました。
2003/7/24

(追記2)

2004年2月23日深夜に放送した「ドキュメント04」の中で、ナレーターの藤田千代美さんは、
「現場は京都と奈良の県境」
と読んでいました。「府県境」ではありませんでした。まあ、これはディレクターがそう書いたということでしょう。
2004/2/26



◆ことばの話1289「コンチキチン」

7月16日、久々に、祇園祭宵山に行ってまいりました。東京生まれで東京育ちの新人・小林杏奈アナウンサーの「研修」の先生として。放送はしませんが、「月鉾」の前で、1分とか1分半の「仮想リポート」の訓練を小林アナウンサーにさせるのです。その際に小林アナから出た質問です。
「『コンチキチン』って何ですか?」
アーホーかー、と言うのをグッと押さえて、
「ほら、さっきから聞こえてる、祇園囃子(ぎおんばやし)の音色だよ。鉦の音が『コンチキチン』って聞こえるだろう?」
「えー!コンチキチンとは聞こえませんよぉ。」
「じゃあ、一体なんて聞こえるんだよ?」

これに答えて小林アナいわく、
「『チャンチャカチャン』って、聞こえますーぅ!」
そうか、そう言われれば、「チキチン」は聞こえるけど、「コン」とは聞こえないような気がしてきました。
「キンチコチン」
というように聞こえます。もしかしたら、昔の人の耳には「コンチキチン」と聞こえていたのが、現代人にはそういうふうには聞こえなくなっているのではないでしょうか?

埼玉大学の山口仲美教授の「犬は『びよ』と鳴いていた〜日本語は擬音語・擬態語が面白い」(光文社新書、2002・8・20)という長いタイトルの本でも、昔の犬は「ワンワン」ではなく「びよ」と鳴いていたということが書かれていたし、可能性はありますね。
試しに翌日、広島出身の中元アナに、「初めて祇園囃子を聞いたときは、どういう音に聞こえた?」と聞くと、
「チンチキチンでした。」
とのこと。「チャンチキおけさ」みたい。静岡出身の萩原アナウンサーは、思い出し出し、
「『ピーヒャラチャリン』、ですかね。」
と答えました。奈良出身の村上アナウンサーは、
「少なくとも、コンチキチンには聞こえませんでした。」
やっぱりそうなんですね。「コンチキチン」という形は、皆決してそのように聞こえているから言っているわけではなく、
「祇園囃子というものは、『コンチキチン』に決まっているのだ」
という伝統、思い込みから来ているようなのです。別に「コンチキチン」と表さなくてもよいのです。ただ、「コンチキチン」というのが祇園囃子の代名詞であることは間違いありません。地元の人や関係者、「通(つう)」の人以外のみんなが、それを知っているかどうかが問題ですが。Googleで検索してみました。(7月17日)

「コンチキチン」= 1190件
「チンチキチン」= 20件
「チャンチャカチャン」=722件
「コンチキチン・祇園祭」= 771件
「チンチキチン・祇園祭」= 0件
「チャンチャカチャン・祇園祭」=1件


小林アナウンサーには、自分の新鮮な感覚を失うことなく、かといって伝統を壊すことなく、新しい感覚をうまく取り入れたスタンダードというものを確立してもらいたいものです。ペルシアやベルギーといった海外の織物と日本の伝統的な絵画などを身にまとって絢爛豪華に練り歩く、あの山や鉾のように。

2003/7/17



◆ことばの話1288「アイヌ語」

「どっちの料理ショー」のリポートを担当している清水アナウンサーからメールが届きました。

『お疲れ様です。先日、料理ショーロケで産地紹介のコメントの中に「アイヌ語」という言葉がでてきました。文脈は「北海道は当麻にやって来ました。当麻とはアイヌ語で沼地という意味なんですが・・」という感じです。「アイヌ語」は使ってもいいんでしょうか?』

という内容でした。「どっちの料理ショー」は全国ネットの番組なので、近畿以外のところへ行ってリポートすることも多いのですが、先日行われたYTV社内の考査研修会で「アイヌネギ」というのは差別的な表現であるという事例を紹介されたことを思い出して、連絡してきたようです。
結論から言えば、「使ってもよい」

差別的な文脈でない限り、「アイヌ語」という言葉自体は差別的ではない、という判断です。

アイヌ語研究というと、知里真志保、金田一京助といった人の名前が浮かびますね。
また「ウタリ協会」というアイヌの伝統と文化を守ろうとしている人たちもいます。
社団法人北海道ウタリ協会のホームページによると、
『アイヌとは、アイヌ語でカムイ(神)に対する「人間」という意味で、民族呼称でもある。ウタリは「同胞」という意味。』
だそうで、ウタリ協会は、「北海道に居住しているアイヌ民族で組織し「アイヌ民族の尊厳を確立するため、その社会的地位の向上と文化の保存・伝承及び発展を図ること」を目的とする団体」(1946年2月24日 設立総会が開かれ、同年3月13日に 社団法人北海道アイヌ協会として認可、1961年4月13日 北海道ウタリ協会に名称変更)だそうです。 いわゆる「差別的用語」に関して、マニュアルとして「この言葉はダメ!」という言葉はほとんどありません。それよりも、文脈の中でその言葉が差別的に使われているかどうかが問題です。ある意味では、すべての言葉を「差別的」に使うことも可能だからです。

昔に比べると「ことば狩り」的なことはなくなりました。しかしそれは、「差別意識」がすべてなくなったから、とは思えません。「無意識に行なってしまっている差別」もきっとあることでしょう。そのあたりの配慮を行うことは、我々の仕事の上で、非常に大事なことです。

2003/7/2


◆ことばの話1287「サラ金」

先日、Nアナウンサーが担当したニュース原稿の中に、

「サラ金」

という言葉が出てきました。彼はそのまま読んでしまったのですが、ニュースが終わってから、
「今は『サラ金』という言葉は使わない。」
ということに気づきましたが、あとの祭り。そう言えば以前はよく耳にした「サラ金」=「サラリーマン金融」という言葉、最近テレビではほとんど耳にすることがなくなりました。「サラ金地獄」なんて言葉が流行って、「サラ金」の言葉のイメージが悪くなってしなったために使わなくなったのでしょう。それと、「サラリーマンだけが借り手ではない」というのもその理由の一つかもしれません。最近の呼称は「消費者金融」ですが、これの省略した呼び名は、「消金」とは言わないですねえ。
インターネット上での使用状況も調べてみました。

「サラ金」= 5万0200件
「消費者金融」=21万2000件
「サラリーマン金融」=728件
「ヤミ金」= 9650件
ネット上では「サラ金」、まだまだ使われているようです。5万件以上あります。とは言え、主流はやはり「消費者金融」で、こちらはその4倍以上の21万件超。「サラ金」の正式名称の「サラリーマン金融」はたったの728件しかありませんでした。
消費者金融のコマーシャルは、おもしろくてインパクトの強いものが多く、「親しみやすさ」を印象づけてはいますが、やはり、その「よそ行きの顔」とは別に、利用者側がしっかりした目を持つことが絶対必要なのは言うまでもありません。そう考えると、そういった判断が出来ない「子供」に、コマーシャルを印象づけ過ぎるのは、いかがなものか、ということになりますね。

2003/7/14


◆ことばの話1286「勝ちたいんや」

今朝、出勤途中によって駅のコンビニに置いてあった栄養ドリンク、黄色と黒の縦縞で、そこに書かれていた文字は、

「勝ちたいんや」

でした。また、朝刊を開くと、1面下の新刊本広告コーナーに載っていた本が、阪神の星野仙一監督の「語りおろし」でタイトルが、
「迷ったときは前に出ろ!勝ちたいんや!」

と、また「勝ちたいんや」が出てきました。そう言えば、テレビで甲子園のお客さんを見ていても、横断幕などに頻繁にこの「勝ちたいんや」が出てきています。ずいぶん押しの強いこの言葉、一体いつから使われ出して、誰が言い出したんでしょうか?
野球担当の小沢アナウンサーに聞いたところ、答えはすぐにわかりました。

「あれは、星野監督が今年のキャンプインの時に言い出した言葉です。そのご5月ぐらいからですかね、まさにその名前の栄養ドリンクを手にして勝利監督インタビューに現れ始めたのは。最近は手にしていませんが。」

はあ、そういうことだったのか。
Googleで「勝ちたいんや」を検索すると、1020件出てきました。またネット検索で、サンケイスポーツの2003年2月1日に、沖縄のキャンプ員を前に星野監督が、こういうふうに言ったという記事が出ていました。

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<サンスポ2月1日>

勝ちたいんや!…星野監督の出陣ゲキは執念の一声

「オレは勝ちたい」「ファンを喜ばせたい」−。阪神・星野仙一監督(56)が31日、沖縄・恩納村のチーム宿舎で、コーチ、選手を前に熱く、必勝を訴えた。昨年は「チームを愛せ」と説いた闘将が、2年目の今年はいよいよ勝利の2文字を求めた。猛虎18年ぶりの頂点を、はっきり視界に入れて、いざ、キャンプイン!

「オレは勝ちたいんや!
居並ぶフロント、コーチ、選手、裏方…。星野監督がひとりひとりの目を見ながら、訴えかけた。
「特別なことは言っていない。『オレは勝ちたいねん。そのために、どうするのか』というようなことを言うた」
キャンプイン前夜の午後6時。チーム宿舎「ホテルムーンビーチ」で行われた全体ミーティング。星野監督は、節目を迎えると、多弁を嫌う。短いフレーズに本音を乗せる。それで十分だった。(中略)勝利のためなら、鬼にも仏にもなる。そんな己に選手は必ず、ついて来てくれるという確信もある。いざ、出陣。『星野組』が、2年目の戦場になだれ込む。

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そして、同じくサンスポの5月16日の誌面にはこんな記事が。

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打線のネーミング1位は「勝ちたいんや打線」

阪神・田淵幸一チーフ打撃コーチ(56)が03年型打線のネーミングを公募。13日付のサンケイスポーツ紙面で呼び掛けた結果、15日までにサンスポ読者から多数のアイデアが寄せられた。ここまでのところ、星野監督の決めゼリフから名付けた『勝ちたいんや打線』(8票)がダントツ。以下『ノンストップ打線』『エンドレス打線』(各5票)が続いた。

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さらに「栄養ドリンク」ですが、
「勝ちたいんやっ!〜阪神タイガース ローヤルゼリードリンク500」
というもののようです。近くのコンビニでも打っていました、いや売っていました。

2003/7/17