◆ことばの話1285「あべちゃん」

一つ前の1284の「ちゃん」か「くん」か?の話で思い出しました。
先輩に「あべ」という名字の人が何人かいるのですが、どの「あべ」さんも、周囲の人から、
「あべちゃん」
と呼ばれることが多いようなのです。もちろん、私にとっては先輩なので「あべさん」と「さん」を付けて呼びますが、他の人は気軽に「あべちゃん」と「ちゃん付け」で呼んでいます。と言っても、その内の一人の「あべちゃん」は、もう、孫もいる還暦目前の「おじいちゃん」なのですが。なぜ「あべ」という名字の人は「ちゃん」付けで呼ばれるのでしょうか?
Google検索で「あべ」+「敬称」を検索してみました。
「あべちゃん」=4250件
「あべくん」= 352件
「あべさん」= 2890件
「あべ君」= 145件

(7月9日しらべ)
ほーら、やっぱり、「あべちゃん」が多いですよね!
この話を他の人にしたところ、
「二文字の名字は『ちゃん』が付きやすいのではないか?」
という声が出ました。たしかに「ほりちゃん」とか「たべちゃん」とか、言いやすいですね。「山田」や「山岡」「山川」という、平仮名で言うと二文字の名字ではない(漢字では二文字ですが)でもニックネームは、
「やまちゃん」
と最初の二文字をとって(後ろの漢字一つを省略した形)呼ばれることが多いですね。
「わたなべ」なんていう人は「なべさん」とか「なべちゃん」とか、後ろの二つを取って敬称を付けることも多い。でもその場合でも「さん」が付くケースが多いのに、なぜか「あべ」は「ちゃん」が付く。そこが不思議ですねえ。
関連では、関西弁でキャンディーを指す「あめちゃん」もあります。それもなぜか「ちゃん」が付く。普通は「さん」なのに。アグネスチャンは、最近は「ちゃん」より「さん」が付くことが多いです。年齢のせいでしょうか。
全国の「あべちゃん」さん、なぜ「ちゃん付け」で呼ばれるか、ご意見お待ちしています!!

2003/7/14

(追記)

パリの世界陸上、女子マラソンで、見事銅メダルを取った千葉真子(まさこ)選手。その名字の「千葉」も「ちゃんづけ」で呼ばれがちですね。「千葉ちゃん」と。これも「阿部ちゃん」と同じ理由からでしょう。

2003/8/31

(追記2)

5年半続いた小泉純一郎・自民党総裁の後継を決める総裁選挙が、2006年9月20日に行なわれ、安倍晋三・官房長官が、第21代自民党総裁に決まりました。議員票267票、党員算定評197票、合計464票を獲得。対立候補の麻生外務大臣(議員票69票、党員算定票67票、合計136票)、谷垣財務大臣(議員票66票、党員算定票36票、合計102票)を破っての当選です。
つまり「安倍総理大臣」が今月26日にも誕生するということです。思えば故・安倍晋太郎・元外務大臣も、故・竹下 登・元総理などから
「あべちゃん」
と呼ばれていたので、たぶん安倍晋三・新総裁も「あべちゃん」と呼ばれているのでしょうね。それにしても、中曽根のあとの竹下・安倍の時代から、もう20年も経っているということですよね、息子が総理になるということは。世代が変わったんだなあ。
でも「安倍総理」って、早口で言うと、
「アイムソーリ」
に聞き間違いませんかねぇ・・・?

2006/9/20

(追記3)

9月20日の朝日新聞夕刊「こどものほんま」では、
『「○○ちん」てよばないの?』
というテーマを取り上げています。(河合真美江記者)その書き出しは、
『仕事場の男性に「あべちん」とよびかけたら、「へっ」という顔』
というもの。安倍・新総裁誕生の日の夕刊に「あべちん」を持ってくるのは意図的?・・・ではないとは思いますが、「あべちん」は馴れ馴れしいですね。
2006/9/20


◆ことばの話1284「『ちゃん』と『くん』」

長崎で12歳・中1の少年に殺害された、種元駿くん、4歳。
同じ年頃の子供を持つ私としても、他人事とは思えない事件です・・・。
この駿くんの名前につけた「敬称」ですが、新聞はすべて「ちゃん」をつけて「駿ちゃん」としています。
テレビは、TBS、フジ、テレビ朝日、NHKは「ちゃん」なのですが、日本テレビ系列(読売テレビも)のNNNだけは「くん」を使っています。ただ、日本テレビの中でも統一されていないようで、「ズームイン!SUPER」という番組では「駿ちゃん」と「ちゃん」を使っています。
また、駿くんの幼稚園の同級生達は、棺に向かって、「しゅんくーん」と呼びかけていました。
『NHKことばのハンドブック』には57ページの「敬称の扱い」の項の(2)に、
「学生や未成年者(男)には「君」を付け、学齢前の幼児には「ちゃん」を付ける。次のような場合は、小学生についても「ちゃん」を適宜使ってもよい。(1)本人が痛ましい事件に巻き込まれた場合(誘拐、交通事故など)
(2)愛らしさを特に強調したい場合。」

また116ページの「ちゃん」の項にも、同じことが記されています。
おそらくこの基準によると、「駿ちゃん」が妥当なのでしょう。ただ、なぜか私は今回の事件では「駿くん」でもいいような気がしています。語感によるものだと思いますが。なんとなく「駿」という名前には「ちゃん」より「くん」の方が似合う気がするのです。個人的な語感かもしれませんが。
駿くんの冥福を祈ります。

2003/7/26

(追記)

2004年3月26日、東京の六本木ヒルズの回転ドアに、吹田市の溝川涼くん(6歳)が頭を挟まれて死亡するという痛ましい事故がありました。涼くんはこの春、幼稚園を卒園したばかりで、4月には小学校への入学を控えていました。
その涼くんの敬称が、各社バラバラです。3月29日のものですが、坂アナウンサーの調べによると、
「涼ちゃん」=朝日放送・毎日放送・読売新聞・共同通信。
「涼くん」=読売テレビ・関西テレビ・NHK・毎日新聞・産経新聞・朝日新聞

ということで、3月29日のお昼の「ニュースダッシュ」で日本テレビは「涼くん」としていたのですが、読売テレビは「涼ちゃん」としたため、ちょっと番組の中での整合性がありませんでした。その後、日本テレビに合わせて読売テレビも「涼くん」としましたが。
NHKのハンドブックを参考にすると、
「小学生からは『くん』」
ですが、
「痛ましい事件の場合は『ちゃん』でもよい」
となっているので、今回はどちらでもいいのですが、
「幼稚園を卒園して、小学校入学が目前」
という微妙な境目のところなので、各社、判断が分かれたようです。

2004/3/29


◆ことばの話1283「サル痘と猿痘」

「サル痘」
という耳慣れない病気を、私が新聞で初めて目にしたのは、6月の10日でした。その病気を記した表記が日経新聞と読売新聞で違いました。(6月10日)つまり、
日経新聞・夕刊は「猿痘」、
読売新聞・夕刊は「サル痘」。

だったのです。さらに翌日、このニュースを伝えた日本テレビ
「サル痘」(6月11日)
と分かれました。他の新聞は?というと、その後この感染症に関するニュースがピタッと載らなくなったので、分りませんでした。
それから約1か月。7月に入ると、またこの感染症に関する記事が出ました。
7月3日、産経新聞・夕刊は「サル痘」
7月4日、読売新聞・朝刊は「サル痘」

産経も「サル痘」とカタカナで「サル」と記していました。そして、1か月前には「猿」という漢字を使っていた日経新聞も、7月4日の朝刊では、
7月4日、日経新聞・朝刊は「サル痘」
と、カタカナで「サル」という表記にかわりました。これで漢字の「猿」を使うところはなくなりました。(朝日毎日の記事はなぜか、目に付かなかったのです。)
この感染症も、拡がらないで欲しいです。
で、「サル痘」って、どんな病気でしたっけ?

2003/7/14


(追記)

書き忘れていましたが、この「サル痘」、天然痘に似た症状が現れるウイルス性の感染症で、英語では「モンキーポックス」と言うそうです(6月10日の日経新聞夕刊による)。

2003/7/31

(追記2)

アメリカの人気ドラマ「ER \〜緊急救命室」のビデオを借りてみていたら、その回(第1話「災害〜CHAOS THEORY」)は、患者の一人が「天然痘」に似た症状で死亡したことから病院が封鎖され、結局は「サル痘」の突然変異による変種が広がったという話でした。当初「天然痘ではないか?」とも疑われたりしていましたが、2週間の病院封鎖で事なきを得た、という設定でした。

2004/10/9



◆ことばの話1282「意志と意思」

7月3日のお昼のニュースで、大阪府の枚方市役所が、民法の規定を満たしていない17歳の男性の婚姻届を受理してしまったことがわかったというニュースがありました。一旦受理したものは、この若者達が取り下げない限り「有効」なんだそうで、ニュース原稿と字幕スーパーでは、
「この男性は『取り下げる意志はない』と話しています。」
と出ました。が、この際の「いし」は「意志」でいいんでしょうか?それとも「意思」なんでしょうか?
辞書(『広辞苑』)を引くと、「意思表示」などの場合、また法律用語では「意思」を使うことが多いということです。という事は、間違い?この男性は、
「強い『意志』を持って、『取り下げる「意思」はない』」
ということですね。
原稿を書いた若手のW記者は最初、
「『意志』でいいんじゃないですか?」
と言っていたのですが、この辞書の記述を見せながら話すと、
「分りました。やはりこの場合は『意思』ですね」
と納得してくれました。夕方のニュースでは、字幕は「意思」と出ました。

2003/7/3


◆ことばの話1281「面と向かって」

毎週教えに行っているアナウンス学校の学生が、また「ネタ」を持ってきてくれました。これではこちらが教えを乞うているようです。
「最近はみんなメールでやり取りをするでしょう。だからかもしれませんが、友達がこんなことを言ってたんです。『こないだ、友達に電話で面と向かって言ってやった』。これって、電話でですから、会ってないわけだし、それなのに『面と向かって』なんて、おかしくありませんか?」
おかしいです。
それに電話は一応相手とリアルタイムに会話しているから、時差のあるメール交換に比べると「面と向かって」という感覚を、若い人は持っているのかもしれませんね。でも「面」は向かってないんだけどな。
但し!これからは「電話で面と向かって」が間違いではなくなってくるかもしれません。というのは、「テレビ電話」の性能がもっと上がって、もっと普及すれば、電話と言えば顔と顔を合わせてしゃべるのが当たり前になるかもしれません。それなら「面と向かって電話で言ってやった」は、おかしくないでしょう。
あとは「生で面と向かうのか、テレビ電話で面と向かうのか」という違いだけです。厳密に言うと、面と向かってないのですがね。
技術の進歩と言葉は、かように密接な関係にあるのですね。

2003/7/11