◆ことばの話1270「県内と県下」

7月9日、長崎の4歳児を殺害したのは12歳の中学1年生の男子生徒だったとわかり、少年は補導されました。その翌日、近畿地方の各教育委員会や校長会も対策に乗り出しました。そういうニュースの中で、

「県下」

という言葉が出てきました。これに関しては「平成ことば事情636『府内と府下』」で詳しく書きましたが、この場合の「県下」は、まさに「県」という行政機関が、それに所属する下部機関に対して通達を出す、というものであって、その意味では「県下」という言い方は使えるなと思いました。
それに対して、「県内」というのは、行政区画、つまり地図上の「県」の範囲内にある、という「物理的な範囲内」を示したもので、「支配下、命令系統下にある」という意味合いのある「県下」とは趣を異にしていると感じました。
県下、府下、それに都下(これは「県下」「府下」とまた違う感じ)は分りましたが、「北海道」どうなのでしょうか?「道内」という表現は耳にしますが、「道下」という言葉は寡聞にして知りません。GOOGLE検索してみました。

「道内」=21万1000件
「道下」= 1万7800件


お、結構「道下」もあるな、と思ってよく見ると、

「道下和彦」「道下小学校」「新道下大橋」「尿道下裂」


のように、北海道とは関係なさそうなものが多い。そこで「道下・北海道」をキーワードに検索してみると、2200件でした。そこでハタと気づいたのですが、「北海道下」で検索すればいいのではないか?
してみました。結果は、

「北海道下」=173件

でした。やはりごく一部では使われているけれども「道内」にはとてもかなわないようです。北海道では、よその県や府に比べて「支配下」という意識が、お役所の方に希薄だったのかもしれませんね。どうか、よろしく。

2003/7/10



◆ことばの話1269「折り込み済みか?織り込み済みか?」

6月26日の朝、というか夜中。正確には午前4時頃。会社に向かうタクシーの中で、いつものようにNHKラジオ第一放送を聞いていると、経済関係のニュースで、
「おりこまれている」
という言葉が出てきました。読んでいたのは関口さんという男のアナウンサーです。それを聞いてふと、ある考えが浮かびました。
「『おりこみずみ』って漢字で書くと『折り込み済み』かな?それとも『織り込み済み』かなあ?」
考えたことなかったな。考えれば考えるほど、どちらも正しく思えてきました。
Google検索では、
「折り込み済み」=2480件
「織り込み済み」=3520件

と「織り込み済み」のほうが1,5倍ほど多く使われています。
普通に考えると、「織り込まれている」の方が、妥当な気がしますが、新聞などのチラシは「折り込みチラシ」
ですし、それでも良いのかなあ、という気もします。
と思って新聞を読んでいると、7月10日の朝日新聞朝刊経済面、阪神が強いので景気も上向き!という記事の中に、
「金融商品好調 預金ぐんぐん 『優勝織り込み済み』」
という見出しを見つけました。これは、星野の監督の背番号77にちなんで、優勝なら利率が通常の7、7倍になる定期預金を募集して19万件、2280億円を集めた尼崎信用金庫、もし本当に阪神が優勝してしまったら、利払いが7億円かさむのですが大丈夫?という記者の心配に対して、
「優勝するものと織り込んでいたので心配ない。地域に還元することで活性化につながれば」
と話しているということでした。尼信(あましん)、エライ!
ここでは「織り込み済み」「織り込む」が使われていました。

2003/7/10




◆ことばの話1268「小芝居」

土曜の夜、いつものように「恋のからさわぎ」を見ていると、出演者の女の子が、こんな言葉を発しました。
「小芝居」
「こしばい」です。この「こ」は「こぎたない」とか「こざかしい」につく「こ」のニュアンスがあるように思えました。
Google検索したところ、「小芝居」は5600件も出てきましたが、どうやら、こういった意味での使い方ではなく、本当に「小芝居」という「芝居」の分野があるようです。そこで、キーワードを「小芝居を打つ」にしたところ、出てきたのはたったの18件でした。その18件から、どういうふうに使われているかをご紹介しましょう。

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*「都会モンは急に来て(気球に乗りたいと言って)乱暴だもんなー。どうするかなぁ。わかった。 と言うことで・・・」などと小芝居を打つ所がグーです。
*社長のズボンのチャックが開いています。社員のあなたは言う?言わない?
→直接は言えないけれど、社長が気付くような小芝居を打つ
*真犯人らしき男を目前にし、語り手は言動が拘束される。これは一種の緊張状態である。 同時に彼は「危険なことは何もない」という小芝居を打つ。物語は一気にクライマックスを形成する。
*「最近、【ティーダの命を狙う輩】が徘徊しているそうですから」
……小癪な小芝居を打つものだ。殺そうとしているのは自分たちであろうに。
これだから悪徳政治家というものは………
*「お疲れ様です。引きまわしてすみません……シュウさんいつも部屋に篭ったきりで出てこないでしょ?だから、こんないいお天気に外に出てもらおうと思ったんですよ。ははは、清々しい程のこの翠の風を感じて頂きたくて…こんな誘い方でもしなければシュウさん来てくれないでしょう?」シュウが口を開くよりも早くニキはちょっとした小芝居を打つ。大胆かつ繊細に少年の心を表現しきる。最後はにこやかな無邪気スマイル。そら、歯だってきらりんと煌きますがな。
*上田くん、中丸くんも出てきてニューヨークの写真に向かって背中で小芝居を打つ。背中で小芝居を打つときには上田くんはフッツーに立ってるだけなんだが、中丸くんが面白いので中丸くんの後姿に注目。
*…が、靴箱の1段段差があるところで座って待ってる遙がいた。もともと帰る気なんてさらさらなかったから、上履きも履いたまま。でも小芝居を打つために立ち上がり、じっと葉月を見上げる。
*後輩も一人はカジュアルであったが、もう一人はビジネススタイルだったので、こちらと組んで小芝居を打つことにした。私がせかせかを時計と行き先表示をにらめっこし、そこへ後輩がすみませんとばかり遅れて駆けつけ、その肩を私が叩いて一緒に改札口に入るというものである。我ながらクサい。
*桂小枝探偵が「ウルトラマン」になり、どこかから悪者を引き連れて小芝居を打つ。一見、ばかばかしいものにも見えるけど、大人が一生懸命になって、一人の子供のために動く姿は素晴らしい。
*嫌いな人下手な小芝居を打つやつ。(←うざい!)



ずいぶん用例を引っ張ってきました。これを見ていると、「小芝居」というのは、演じている本人も、「クサイいな」と薄々感じているような、そしてそれを見ている人にも「これは芝居だな」ということが分るような、そういう演技のことを指すような気がしてきました。あなたの周りにも「小芝居」を打つ人は、いませんか?

2003/7/10




◆ことばの話1267「HG」

6月19日の朝日新聞朝刊。文化欄の「ゼロサン時評」という欄で、評論家の呉智英氏が書いたコラムのタイトルが



「きたれ!HGの時代よ」



「HG」って何かしら。本文を読んでみると、
「先月に続いて毛ネタである。六月三日の朝刊によると、育毛業界がHG(ドイツ語で読んでね)の不安を煽る商法をしているので、東京都は改善指導したという。」
というふうな書き出しです。そのあともこの「HG」はたくさん出てきます。
「そもそも私にはかつらでHGを隠す人の気持ちが分らない」
「私は三十代半ばで、忍び寄るHGの侵略軍に気づいたが」
「HGと仲良くつきあうのである」
「HGはあれで結構いいところがある」

読み進んで行くうちに分ってきました。
「HGになると、パナマもソフトも良く似合う」
「ショーン・コネリーや竹中直人など、かっこいいHGの役者も多くなった」

最後に( )ないにこんな説明が。



(ドイツ語で、Hはハー、Gはゲーと読む)



ユーモアたっぷりにこんな文章を書いて入る呉智英さん、その顔写真を見ると、紛れもないHGでした。
実はこの「HG」、ドイツ語読みではなく、そのまま英語読みして、
「エイチ・ジー」
という呼び名で、ドイツ語読みと同じような使い方をしている人を知っています。まあ、この場合はある特定の人のことを、ニックネームとして「エイチ・ジー」と呼んでいたのですが、同じような考えをする人は世の中にたくさんいるのだなあと、改めて感じたのでした。
私は呉さんが「HG」なる言葉を使っているのを知ったのは、この日の朝日新聞が初めてだったのですが、その後ご購入した『VOW』という本の中にも「呉さんのいうHG」というフレーズが出てきたので、おそらく呉さんは周囲の人に対して、ずいぶん昔からこの「HG」という言葉を使っていたのではないかと思われます。
Google検索で、
「HG ハゲ」=685件
「HG はげ」=498件

でした。
2003/7/10


(追記)

上に書いた『VOW』は『VOW15』(宝島社2003、7、16)の276ページでした。そこに掲載されている投稿写真は、山下柚実さんという人が書いた「イケメン時代」という新聞コラムで、「経済を語るにもイケメンでなければならない時代だ」と書かれていて、それに対して、投稿者の「愛知県/歯・24歳・男」が「イヤ、それは違うと思うのだが・・・。」とコメントを付け、さらに編集者サイドが付けたコメントが、

「軍事を語るのは、まだHG(ドイツ語読み(C)呉智英)でもいい時代だしな。」

と書いています。出たばかりの本だし、もしかしたら、このコメントをした人も朝日新聞の呉さんのコラムを読んだのかもしれません。

2003/7/11




◆ことばの話1266「数の数え方」

平成ことば事情1230「8敗〜数の数え方」の続きです。その後も数の数え方・読み方に関してTVウォッチしたものを書きます。



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5月28日(木)NHK福井浩アナ。午前零時のニュース:
「八匹(ハッピキ)のネコ」。
6月28日(土)日本テレビのお昼のニュースの現地リポート:
「台北101(イチゼロイチ)」というビル。高さ508メートル世界一のノッポビルになる予定。施工は日本の熊谷組JV。来年10月完成予定。
6月21日(土)NHK工藤三郎アナ、ドーム巨人阪神戦で:
「この放送は、9時30分(サンジュッブンHLLLLL=頭高アクセント)までお送りします。」「10点(ジッテン)」。
6月25日(水)NHK有働アナウンサー、スポーツコーナーで:
「11、5ゲーム差」(ジューイチテン・ゴ、ゲームさ)
「ゲーム差は1、5(イチテンゴ)となりました。」

男性アナウンサー「2(トゥー)ランホームラン」。「ツーラン」ではなく。
6月27日(金)YTV・清水アナ:「8分間(ハップンカン)」。本人は「ハチフンカンン」というつもりだったという。つい・・・。Sキャスターによると、清水アナは「『8キロ』を『ハッキロ』とオンエアーで言っていた」とも。あれ?これはもう書いたみたい。
6月30日(月)NHK森田美由紀アナウンサー:「120円(ヒャク・二ジューエン、LH・HLLLL)」。同じくNHK、お天気の高田斉さん:「30度(サンジュード、HLLLL=頭高アクセント)」
7月1日(火)skyA、大阪ドームの近鉄―ダイエー中継:実況のABC岩本アナウンサー
「8点目(ハッテンメ)が入りました。」
7月3日NHK衛星放送・葛西アナウンサー:JR真岡駅の駅舎の建替えのナレーション「平成九年(くねん)」
7月3日テレビ朝日:角澤照治アナウンサー:『ニュースステーション』
「五本(ゴホン:HLL)の集中打」。頭高アクセントで。
7月6日(日)午前2時前のNHKラジオ、宇田川清江アナ:
気温の「30度(サンジュード・HLLLL)」と頭高アクセントで。



うーん、きりがないな。また続きがあるかもしれません。

2003/7/10