◆ことばの話1250「座礁鯨」

6月26日の朝日新聞朝刊で、ちょっと変わった言葉を見つけました。

「座礁鯨」

一瞬、「ザトウクジラ」かと思いましたが、よく見ると、違います。「ざしょうクジラ」です。

やーやーこーしーいーなあー!

まあ、漢字を見れば分るんですけど、意味は「海岸に打ち上げられたクジラ」のことだそうです。
記事の内容は、水産庁がこの「座礁鯨」を条件付きで食用などの利用を認める方針を決めた、というもの。この記事によると、2002年の国内の座礁鯨は273頭もいて、そのうち大型の鯨は41頭だそうです。これは5年前の2,4倍に増えたんだそうです。
「座礁」しても、クジラはまだ生きている場合もあるわけですから、当然、反捕鯨派からの批判も受けそう、とも書かれています。
また、座礁するクジラに関しては「病気説」もあって、食用などの利用(!?)にあたって水産庁は前提として「安全性を確認する手順」を定めるんだそうです。
世の中、知らないところでいろんなことが起きていて、それぞれにどう対応するか、いろんな人がいろんなことをしているのだな、と改めて感じたのでした。



2003/6/26



◆ことばの話1249「大葉と紫蘇」

私が所属している合唱団の先輩Yさんからの質問です。

「『大葉』と『紫蘇(しそ)』って、おんなじもんやろ。でもオレ、東京行くまで『大葉』という言い方、聞いたことなかってん。あれって方言か?」

そう言えば、今でこそ慣れましたが、「シソ」の方が私なんかも聞き慣れています。
食べ物の言葉に関しては、この人!という、NHK放送文化研究所の塩田雄大さんにメールで聞いてみると、さっそく調べてくださいました。それによると、



「しそ … 品種は青じそと赤じそに大別され・・・青じその葉は大葉と呼ばれ、 赤じそより香りが高く、・・・」(『日本食品大事典』医歯薬出版株式会社)
ということで、青じその葉を特に「大葉」と呼ぶようです。
ですが、予想に反してこの言い方が現れたのはは東京よりも大阪のほうが早かったよ
うです。

「おおば・・・青ジソの葉を束ねたものにつけられた名称。一九六一(昭和三十六)年ごろ、静岡県の、あるツマ物生産組合が、青大葉ジソの葉を摘んでオオバの名で大阪の市場に出荷した。これが好評を得て注目され、これ以来オオバは束ねた青ジソの葉の商品名になった。 東京市場でも扱うようになり、取扱量はその後急速に増加し、・・・」(『日本料理由来事典 上』同朋舎出版)
ですから、初出は大阪でも、その後、強く定着したのは東京だったようですね。




ということでした。当初は「オオバ」は商品名だったのですね。しかも「青ジソの葉っぱ」ですか。そう言われてみればそうだ。「赤ジソ」は「紫蘇(しそ)」だもんな、梅干しと一緒に漬け込んだりしてますよね。

Googleで検索してみました。(6月25日)

「大葉」= 3万2900件
「おおば」= 1万6700件
「オオバ」= 5020件
「紫蘇」= 2万0800件
「シソ」= 7万1300件
「しそ」=234万0000件
「しそ・大葉」= 3250件




一番親しまれているのは「しそ」でしょうか。234万件もあるのですから。でもこれは単に「し」と「そ」の文字を選んでる可能性もあるわけで。そういう意味では「シソ」の方が「紫蘇」を表示しているような気もします。「大葉」も相当、定着しているようですね。1961年というと私が生まれた年ですから、もう40年以上の歴史があるということで。
でも、合唱団関係者にとっては「おおば」よりも「シソ」の方がなじみがあるのではないでしょうか。ソラ、ドレミても、ドシラも、シソに、ミラレソー(笑)。



2003/6/26




◆ことばの話1248「勝負弱さ」

6月24日の読売新聞朝刊のスポーツ面に、サッカーのコンフェデレーションズ・カップで4強入りを逃した日本代表のニュースが載っていました。その見出しの文字が

「『勝負弱さ』変わらず」

「勝負強さ」は聞いたことがありますが、「勝負弱さ」というのはあまり耳にも目にもしたことがありません。辞書にも載っていません。そこでいつものように、 Google検索をしてみました。(6月24日)結果は以下の通り。

「勝負強さ」=1万4000件
「勝負弱さ」= 1700件


やはり、圧倒的に「勝負強さ」が多い。9:1くらいの割合です。それでも1700件「勝負弱さ」も使われています。私の基準だと、1000件を越えるものは、そこそこ使われていると判断します。だから「勝負弱さ」は、「ない言い方」ではない、という程度でしょうか。あとは好みの問題ですね。
ついでに、「名詞形」ではなく、元の「形容詞形」を見てみると、

「勝負強い」=6950件
「勝負弱い」=1800件


で、「名詞形」よりは両者の差は縮まっています。8:2ぐらいでしょうか。
「勝負強い」にせよ「勝負強さ」にせよ、「勝負」という名詞に「強い」「強さ」という言葉がくっついて出来た言葉ですから、後半のくっついた言葉に関して、その反対語はあって当然という考えで「勝負弱い」「勝負弱さ」という言葉が出てきたのでしょう。意味はすぐに分りますし、対立概念の一方しかないと、何か不自然な感じがするのでしょうね。
今後ももっと使われることが予想されますね、「勝負弱さ」。でも、サッカーの日本代表には使って欲しくないし、使われないように強くなって欲しいものです。



2003/6/26

(追記)

2006年2月28日の「日刊ゲンダイ」のコラム「ああ・・耳ざわり目ざわり ヘンな日本語」で文筆家・翻訳家の菊谷匡祐氏が、「勝負弱さ」について取り上げています。朝日新聞が2006年2月9日に載せた、トリノ冬季オリンピック関連の記事で、
「勝負弱さ返上へ自信」
という見出しがあったが、
「日本語に『勝負強い』という言葉は昔からあるが『勝負弱い』という言い方はない」
ので違和感を抱かざるを得ない、としています。たしかに『日本国語大辞典』にも「勝負強い」は載っていますが「勝負弱い」はありません。
そこで久々にGoogle検索してみました。2006年8月17日と26日のGoogle検索では、
  (8月17日) (8月26日)
「勝負強さ」= 26万6000件 23万9000件
「勝負強い」= 12万5000件 11万6000件
「勝負弱さ」= 2万7600件 2万4400件
「勝負弱い」= 2万9800件 2万5900件
    
となっています。やはり、「勝負弱さ」「勝負弱い」ともに、3年前の10倍以上に増えていますね。
2006/8/26


◆ことばの話1247「うつくし差」

先日、地下鉄に乗った時に何気なく見ていた車内広告。タレントの優香さんの顔がうつっています。プリンターの広告かなとよく見ると、取込み用のスキャナーの広告でした。エプソンのカラリオ。そこに書かれていた文字(コピー)に目を引かれました。

「うつくし差。」

当然これは、
「美しさ」に「差」があることを示した造語、混成語ですが、なかなか上手に出来ていますね。もともとは「美しい」という形容詞を、その程度を示す名詞に変化させるために付いた接尾語「さ」に、「差」という意味の漢字をあてることで、実は他にも同じような形の造語が出来るという点で、優れた造語だと思います。今までなんで気づかなかったのか?というくらい簡単でいて効果的な造語法ではないでしょうか。これを使えば、

「おいし差」「早差」「うま差」「きれい差」「涼し差」

のように、次々新しい造語が出来ます。ただ木庭愛は、広告に使うコピーの言葉なので、最初の形容詞は、プラスのイメージのあるものに限られますね。「まず差」とか「へた差」とか「遅差」というのは使われないのではないでしょうか。
Google検索で「うつくし差」は、たったの4件。すべてこのカラリオ・スキャナーのことを書いたエプソンのものでした。他もためしに検索してみました。

「おいし差」=12件
「早差」= 14件
「うま差」= 13件
「きれい差」= 6件
「涼し差」= 0件
「まず差」= 203件
「へた差」= 0件
「遅差」= 7件


但し「早差」は、囲碁や将棋の「はやざし」の意味で使われていました。また「まず差」は「まず、差・・・」という文章のものを拾ってしまいました。「遅差」は、どうも専門用語で「進遅差」とか「最遅差」という時計業界の言葉があるようで、それをピックアップしたみたいですね。
「おいし差」「早差」「うま差」は、既にコピーとして使っている企業があるようでした。といっても数は少ないけど。なかなか「うま差」のあるコピーですよね。今後、増えるかもしれないな、と思いました。



2003/6/26



◆ことばの話1246「いけすかない」

唐突ですが、「いけ好かない」の「いけ」って何?
「いけしゃあしゃあと」「いけずうずうしい」など、「いけ」が頭に付く言葉ってありますよね。何か、後ろにくる言葉を強調しているようには思えるのだけれど。
『新明解国語辞典』「いけ」を引いたところ、



「いけ」(接頭)憎むべき相手の行動を見るにつけ憎悪の念を増す意を表す。(例)「いけしゃあしゃあ(=憎らしいほど厚かましい様子)」「いけ(=憎らしいほど)ずうずうしい」「いけ好かない(=感じが悪くて、見るのもいやだ)」「いけぞんざい(=お話にならないほど、丁寧でない様子だ)」



と、結構詳しくありました。そうか、「憎悪」の気持ちが「いけ」にはこもっているのですね。『岩波国語辞典』によると、



「いけ」=好ましくないという意味で使う、強めの語。「いけしゃあしゃあ」「いけすかない」「いけずうずうしい」「いけぞんざい」



割とシンプルです。
『新潮現代国語辞典』はどうでしょうか。



「いけ」(接頭)(「生(イ)け」の意か)(1)形容詞・名詞などの意味を誇張・強調するために付ける語。「いけずるい(ヘボン)」「いけ年を仕(ツカマッ)ても兎角人真似はやめられぬもの(浮雲)」「いけすかない・いけずうずうしい」(2)動詞の上に付け「荒っぽく」「無遠慮に」の意味をそえる語。「いけふざける(ヘボン)」



へぇー、これはこれは。明治時代の「ヘボン」とか「浮雲」では、今は使わないような「いけ」の用法が、現実に使われていたのですねぇ。しかも「いけ」は「生け」から来ているかもしれないとのこと。面白いですね。
こうなったら、『日本国語大辞典』も引いてみましょう。



「いけ」(接頭)近世語。多く好ましくない意味を含む名詞、形容詞、形容動詞などの上に付いて、卑しめ、非難する気持ちを表わす。(イ)名詞、形容動詞の上に付く場合。「いけ癖」「いけぞんざい」「いけ年」「いけ不器用」「いけ面倒」など。(ロ)形容詞の上に付く場合。「いけあたじけない」「いけあつかましい」「いけしつこい」「いけずうずうしい」など。(ハ)副詞、形容詞句、動詞、動詞句などの上に付く場合。「いけしゃあしゃあ」「いけずうずうと」など。



用例は省略して「語誌」を見ます。

<語誌>(1)接頭語「いき」の変化したものか。また、「生ける」の連用形「いけ」かとか、「余計」の変化したものかなどといわれるが、語源については未詳。(2)近世前期の上方には、用例は少なく、ほとんどが「いけ年寄」のように名詞に冠して用いられている。その後、用法を広げ、近世後期の江戸語では、(1)形容動詞、(2)形容詞、(3)動詞、(4)副詞、さらには(5)形容動詞句、形容詞句の上に付けて用いられるようになる。今日もいう「いけしゃあしゃあ」「いけぞんざい」なども江戸語以来の用法である。



ふーん、確かにちょっと古い、伝統のある東京っぽい表現のように観じますね、私なんぞは。ちょっと気取って使ってみてもいいかな、と。向田邦子なんかに出てきそうな感じ。しかし、この言葉が、まだ生きているのはちょっと嬉しいですね。せいぜい使おうっと。でも憎々しい時に使うということですから、あまりいい場面では出てこないのですね。

関西弁の「いけず」(=意地悪、の意味)の「いけ」は、関係ないのだろうか??

この話の中に出て来る、「いけ面倒」について、「こんな言葉、知ってる?」とHアナウンサーに聞いたところ、

「うちの子が剣道やっていて、『小手、面、胴』と練習するんですが、似てますよね、『行け、面!胴!』って感じで。」

・・・はあ、そうですか。



2003/6/26