◆ことばの話1215「ビアホフ・ビヤホフ」

6月4日、サッカーの親善試合が日本各地で行われました。大阪の長居ではセレッソ大阪と中田英寿選手のいるイタリアのパルマが、埼玉では浦和レッズと小野伸二ひきるオランダのフェイエノールトが対戦、ともに2−2で引き分けました。
(今、気づいたけど、浦和レッズは、浦和市がさいたま市に変わっても、やっぱり浦和レッズなんですね、「さいたまレッズ」ではなくて。)

そして、仙台では、ベガルタ仙台がセリエAのキエボを2−1で破りました。そのキエボのストライカー、元ドイツ代表のビアホフ選手が、この試合を最後に、引退を表明しました。35歳。1メートル91センチの長身。彼の名前の表記が、新聞によって違います。



読売新聞=ビアホフ
日経新聞=ビヤホフ




「ア」か「ヤ」ということです。ほかの新聞はキエボのことはあまり取り上げてなくて、この選手の名前は出てきませんでした。残念。
耳で聞いた場合には「ア」でも「ヤ」でもあまり違いはないのですが、文字を目で見ると、なんか、違う人のようです。「音」と「文字」の間にある距離は、思いのほか大きいのかもしれません。

それと、いつも出て来る人の名前ならば、各新聞で統一と言うこともあるのでしょうが、たまにしか出てこない名前の場合は、それぞれの新聞社がいいと思った表記法を使うということなんでしょうね。

今後もこういった例があればご紹介しますね。

2003/6/12




◆ことばの話1214「いきつもどりつ」

「いきつもどりつ」

という言葉になぜか引っかかってしまいました。この「つ」です。これ、何?同じような

「○○つ△△つ」

という形の言葉は、他にも何かあるでしょうか?

「追いつ追われつ」
「差しつ差されつ」
「持ちつ持たれつ」


ぐらいかな、思い付くのは、ボキャブラリー貧弱です。すみません。
6月10日の読売新聞「本よみうり堂・子ども館」というコーナーで紹介されていた本に関する読者からの質問に、

「ドリトル先生シリーズに『オシツオサレツ』という、おしりの方にも頭のある動物が出てきましたが、どの巻だったでしょうか?」

という質問が載っていました。そう言えばそんなのもあったっけ。これも「・・・つ・・・つ」だ。ちなみにこの「オシツオサレツ」が出てくるのは、『ドリトル先生アフリカ行き』だそうで、原語では、「プッシュミプルユー(Push Me Pull You)」なんだそうです。
『日本国語大辞典』で「つ」をを引いてみました。

「つ」
(1)略。
(2)(接続助詞)(文語完了の助動詞「つ」から)動詞の連用形に付く。動作の平行・継起することを表す。前が撥音のときは「づ」となる。@(「・・・つ・・・つ」の形で)・・・たり・・・たり。(用例)太平記六「追いつ返しつ同士軍をぞしたりける」。浄瑠璃、天網島「抜けつ隠れつなされても」。「組んづほぐれつ」




ハハア、「組んづほぐれつ」も「・・・つ・・・つ」の形でしたか。
この「・・・つ・・・つ」の前半の「・・・」をA、後半をBとすると、

「AつBつ」

という形になりますが、このAとBの関係はどうなっているのでしょうか。大体、

「B=Aされる」

つまり「AとBとは逆の動作を表している」ように思えます。つまりAという動作はBというAとは逆の動作を補って始めて簡潔するような、そんなイメージが感じられました。
世の中、「持ちつ持たれつ」ということですかね。

2003/6/12




◆ことばの話1213「おうち電話」

会社への通勤途中、京阪・京橋駅構内の広告ポスターに目を奪われました。そこには、

「おうち電話」

という文字が。パナソニックの「RuRuRu」という電話です。
今や「電話」と言えば「携帯電話」のこと。大学の新入生はもちろんのこと、会社の新入社員も、下宿というか自分のマンションやアパートに架設電話を引いていない人がほとんどでしょう。連絡はケータイで、ということです。うちの会社も女性社員の増加などもあって、プライバシー保護の為に数年前から社員名簿が廃止されました。家庭の電話番号の重要性が低くなっているのかも知れません。
これまでのように「家にある電話が当然で、携帯電話が特別」な時には、「電話」と言えば「家にある架設電話」のこと、携帯電話のことは「携帯電話」と言わなければならなかったのですが、今はもう「携帯電話が当然で、家にある電話の方が特別」になってしまっているので、「電話」と言えば「携帯電話」を意味してしまいます。そこで、家にある電話のことを、
「家電(いえでん)」

などと呼ぶようになってきたのですが、それが広告で使う場合は、ちょっと丁寧なかわいらしい呼び方で呼ぼうとして、

「おうち電話」

という呼び名が出てきた、というわけではないでしょうか。
Google検索で「家電」を引くと、98万4000件も出てきてしまいました。そうか、これだと「家電(かでん)」と読んでしまう。そこで「家電、いえでん」で検索したところ、52件出てきました。
そして「おうち電話」は、まだ20件。これから広がるかもしれない表現です。でもまだ今は、検索してもそれほどたくさんは、「でんわ」。



2003/6/11


◆ことばの話1212「横撮り」

ケータイも今やカメラ付きが当たり前の時代になりました。もう、ケータイは電話とは言えませんね。持ち運びが可能な情報伝達ツールといった方が、より正確な表現に思えます。
さて、そのケータイのコマーシャル。三菱電機のものでしたが、キャッチコピーは、

「ヨコどりケータイ始まる」

でした。最初テレビをちゃんと見ずに音だけ聞いていたら、

「横取りケータイ始まる」

と聞こえて、

「なんだ、ケーターは人が先に注文しておいたのを横取りする制度が始まったのか、世も末だな。」

と思っていたら、そうではなくて、カメラ付きケータイが撮影の時に画面が横になるという意味での

「横撮り」


だったのです。「横取り」と音は同じですが、意味は全然違います。Googleで「横撮り」を検索すると、251件ありました。まだ、それほど広がっていない言葉のようですね。内容はやはり「ケーターのカメラ」に関するものが多いようです。
「横」があるのなら、「縦」もあるだろう。そう考えるのが普通ですよね。それで「縦撮り」も検索してみたところ、なんと「横撮り」を上回る376件もありました。横と縦がセットで出てきている例も多いようでしたが。
ケータイ電話のカメラという新しい商品が出てきたことに伴って、新しい言葉も生まれてくるものなのでしょうね。(もちろん、カメラの世界では縦撮り・横撮りという言い方は以前からあったのかも知れませんが。)
昔からある言葉の「横取り」は、Googleで4万4500件ありました。今のところ「横撮り」が251件と、圧倒的に「『よこどり』と言えば『横取り』」ですが、もしかしたら「横取り」の意味が「横撮り」に「横取り」される日も近いのかもしれませんね。

2003/6/9





◆ことばの話1211「サブリメント」


Sアナウンサーが話し掛けてきました。

「道浦さん、サプリメントですか?それともサブリメントですか?」
「??そりゃあサプリメントに決まってるやろ。"供給"の意味に"supply"からの派生語じゃないの?サブリメントなんて、そんな佐分利信じゃあるまいし。」
「え?どっちPU?BU?」
「PU。なんで?」
「犬のオーディションの特集の原稿が、BUになっていたんですよ。サブリメントに。道浦さん、読みましたか?その原稿?」
「読んだ!・・・ような気がします。だいぶ前に。今日、放送?」
「そうなんです。で、原稿を確認していたら、BUになっていたので。」
「大丈夫。PUと読んだよ。」


と言いながら、少し不安になったので、Google検索で「PU」と「BU」のどっちが多いか調べてみました。結果は、

「サプリメント(PU)」=24万6000件
「サブリメント(BU)」= 945件


で、「PU」の「サプリメント」の圧勝!そりゃそうだよな。でも「BU」と言ってる人が945人もいるなんて・・・。パーセンテージでは0,38%。日本の人口を1億2000万人として、0、38%を掛けると・・・45万6000人が、「サブリメント」と「BU」の発音で間違っている計算になります。(そんな計算、意味ないか。)
『三省堂国語辞典』を引いてもちゃんと「サプリメント」で載っていてホッとしました。
それにしてもなぜ、かなり多くの人が「サブリメント」などと間違ってしまうのでしょうか?考えました。おそらく、この「サプリメント」という言葉の意味が「栄養補助食品」といった感じなので、この「補助」という言葉を勝手に「サブ」という言葉に置き換えて考えているのではないか?と思いました。根拠はありませんが。
もう一つ考えられるのは、方言でなまってしまって半濁音を濁音にしてしまうケースです。でも、インターネット上で文字でしっかり濁音にしているので、「補助=サブ」説の方が説得力があるように思うのですが、いかがでしょうか?
2003/6/6