◆ことばの話1195「転失気」

「ズームイン!!SUPER」のキャスターで読売テレビの解説委員、辛坊治郎さんが、4月末、盲腸で入院しました。「テイモウ切開」して手術したそうですが、無事退院したあとに5月中旬に初めて会った時の話。
「もう、ビールなんか飲んで大丈夫なんですか?」
「そんなもん、退院した次の日から飲んでるがな」
「へえー。そうなんや。へーと言えば、手術のあと、ガスはすぐに出たんですか?」
「ああ、てんしきな。てんしきは、すぐ出た。」
「は?てんしき?てんしきってなんですか?」
「君でも、"てんしき"知らんかあ。広辞苑に載ってるやろ。」

おもむろに電子辞書をカバンの中から取り出した私が「てんしき」を打ち込んでみますが・・・ありません。
「載ってません。」
「そうかあ、広辞苑、載ってへんかあ。てんしきはな、『おなら』のことや」
「どこに出て来るんですか?」
「落語や。」

ああ、そう言われると、そんな話があったような。青山学院大学の落研出身の先輩Mアナにメールで、
「てんしきってなんですか?」
と問い合わせると、
「放屁のこと。」
とすぐに答えが返ってきました。落語のタイトルが「てんしき」だそうです。漢字で書くと「転失気」
Google検索で「転失気」を引いてみると、734件も出てきました。思ったよりすっと多い。一体どんな話なのか?その中から「転失気」のあらすじを記したものを読んでみると、
お、おもしろいやないの!
医者から「てんしきはあるか?」と聞かれた患者のお坊さんが、「てんしき」とは何かを知らず、小坊主に「『てんしき』とは何かを聞いて来い!」と命じ、命令された小坊主は、最後にその医者の元に行き、意味を知るのだが・・・とまあ、映画紹介だとこんな感じになるのでしょうか。「勘違い」もの、「しったかぶり」の鼻を明かす話、という感じですね。
「酢豆腐」「チリトテチン」とか「千早振る」とかも、ちょっと似たような感じでしょうか。大家さんや御隠居さんが出てきそうな話です。
そのお医者さんによると、「転失気」は中国の医書『傷寒論(しょうかんろん)』という、「後漢の張仲景の撰。晋の王叔和の補修。205年頃完成。古来、医家の聖典とされた本」に載っているそうです。
インタ―ネットで検索した「転失気」の中には、なんと学校の学級通信のタイトルで「転失気」というのがありました。ヘンなタイトル。
念のため「傷寒論」もネット検索すると、なんと3090件も出てきました。実在の医書のようです。そうすると、「転失気」も落語の中だけでなく、本当にそういう物がある、ということなのでしょうかね。
『日本国語大辞典』を引いてみると、なんと「転失気」、載っていました!
(1)屁が肛門まで来て、外に出ないで 音が内へ反転すること。
これの用例によると「屁かえり」とも言うそうです。
(2)放屁をいう、芸人仲間の語。
これの用例は、なんと1896年<三代目柳家小さん>とあって、
「サア和尚さんに転失気といふ事が分らない。」
となっています。
私の場合は、わからなかったのですぐに辛坊さんに意味を聞いたからよかったですが、あそこで、もし、
「ああ、"てんしき"ね、ハイハイ知ってますよ。」
と、尻もしないのに・・・いや知りもしないのに対応していたら、まさにこの落語と同じ結果に陥るところでした。危ないアブナイ。おそるべし、てんしき!!
「菊は、いっときの恥、知らぬは一生の恥」いやいや「聞くは、いっときの恥、知らぬは一生の恥」ということですね。(「てんしき」の話だからって、「尻」とか「菊」とか、なんかヘンな誤変換が起きるなあ、このパソコン。)
ま、いずれにせよ、聞く勇気を持ちましょう!

2003/6/1



◆ことばの話1194「SARS3」

その後の「SARS」の読み方に関して、テレビ・ラジオで視聴したことなどを書きます。
5月15日のニュース。横浜で行う予定だったサッカー大会の中止を決定したことに関して、中田宏横浜市長と、日本サッカー協会の前会長・岡野俊一郎氏が、発言の中で、
「サーズ」
と言っていました。濁ってます。また、5月30日の夜のニュースで、坂口厚生労働大臣が、
「サース」
濁らずに言っていました。5月27日にNHK放送文化研究所の塩田さんからもらったメールには、
「厚生労働大臣は『サース』って言ってるんですよねえ。」
とありましたから、坂口大臣は一貫して「サース」と濁っていないようです。この人、どこの出身だっけ?・・・東海地区の比例選出で三重県立大学の大学院出身の今年69歳か。
また、塩田さんは5月6日にくれたメールで、こうも記してくれています。
「韓国(朝鮮日報HP)では「SARS(サース)」という方式(=カタカナ部分はハングル表記)、北朝鮮(朝鮮中央放送)は、スーパーは「サース」、アナウンサーの発音も「サース」だった」
ということです会唖概のチェックまで、(敬意を表して)ご苦労様です!韓国・北朝鮮の人の発音で濁音は出しにくい、というようなことが、もしかしたらあるのかもしれません。日本だと、年配の人などに、
「デパート」を「デバート」(半濁音を濁音で言う)
「(野球の)バント」を「バンド」(清音を濁音で言う)
「スムーズ」を「スムース」(濁音を清音で言う)
というような、外来語に関する「濁る・濁らない」
で、一般に使われているのとは違う言い方をする人がいますね。坂口大臣の「サース」もそういった誤差の範囲と考えても良いのかもしれませんが、担当部門の大臣だからね、影響力はそのへんのおじさんとは違うので、難しい(これを「むつかしい」と濁らずに言う人もいますね。方言のようですが。)問題ですね。
2003/6/1


(追記)

6月3日のNHKのお昼のニュースにインタビューで出ていた坂口厚生労働大臣は、「SARS」を「サーズ」と濁って発音していたように聞こえました。これまでは「サース」と濁っていなかったのですが。
2003/6/9


(追記2)

5月19日に、大阪市のホームページを見たところ、
「SARS(サーズ)について(重傷急性呼吸症候群)」
と書いてありました。また、東京外国語大学のホームページには、かなり詳しくSARSに関しての学生(主に留学生でしょう)への注意点が書いてありました。



2003/6/13

(追記3)

2004年9月9日、午前0時のNHKニュースで、SARS関連のニュースを読んでいた男性アナウンサーは、「SARS」を、
「サース」
と濁らずに読んでいました。私が耳にしただけ2度も。
「あれ?NHKはいつから濁らないようになったんだ?」
と思って、翌日、NHKの知り合いに聞くと、
「原稿には『SARS』とローマ字でしか書いてなかった。読み間違いではないか」
とのことでした。ローマ字表記の言葉が増える中で、読み方がわからない言葉は、今後もっともっと増えることでしょう。「ローマ字にも読み方のルビを振る」ことを徹底する必要があるのではないでしょうか。まあ、「SARS」ぐらいは、ちゃんと読んでもらわないと困りますが・・・。



2004/9/11



◆ことばの話1193「新婚はいつまでか?」

毎週教えに行っているアナウンス学校に、去年の教え子が来ていました。彼女からの質問です。
「『新婚』って言うのは、一体いつまでなんですか?」
「なんで?結婚したの?」
「そうじゃないんです。最近『新婚3年目』とかいう言い方をよく耳にするんですけど、私は新婚は1年までだと思うんですよ。3年も経って『新婚』はおかしいと思って・・・」

ずいぶん憤慨しています。妬いているのかな?
「うーん、普通はまあ、1年だろうねえ。でも2年目ぐらいまではまだ、言う人もあるかなあ。3年はちょっとねえ。」
そう答えたあと、メールで質問を二十数人に出しました。
「あなたは『新婚』というのは、何年何か月までだと思いますか?」
ぞくぞくと答えが返ってきました。
それによると、



(未婚男)
(未婚女)
(既婚男)
(既婚女)
(計)
<半 年>
<1年以内>
<1年未満>
<1年>
<2年>
<3年ぐらい>


ということで、やはり「1年」という答えが圧倒的でしたね。「新婚ホヤホヤ」は「3か月」までという答えも。中には、
「結婚10年を過ぎたけど、うちは新婚ほやほやと同じ。だってあまり家に帰らないから。」という答えもありました。誰がそう言ったのかは、コワくて口が裂けても言えません。
思うに、男性はあまり「新婚」に対するあこがれや期待が女性ほどないので、短くなると。また未婚女性は、「結婚」に対する期待や憧れなどはあるが、その後のこと(新婚生活)にまでまだ頭が働かないので、割と冷静に男性と同じように考えているのではないか。逆に既婚女性で幸せな人は、少しでも長く「新婚」の「甘い生活」を伸ばしたいという願望があって、それで「新婚」を長く考えるのではないか?と思いました。
メールで聞いた以外では、妻の会社の同僚で結婚3年目くらいの人は、
「新婚は10年まで」
と答えたそうですから、これはまさにこのパターンなのでしょう。主観では、何年でも許されます。
『新明解国語辞典』で「新婚」を引いてみると、「結婚したばかりであること。」とあまりにもそっけない。
テレビ番組の「新婚さんいらっしゃい」の応募基準も、確か「結婚半年以内」だったような。ネットで「出場者募集」のページを覗いてみると応募資格は・・・なんと、
「挙式後半年以上たったご夫婦」
とあるではありませんか!「半年以内」ではなく、「半年以上」なんです!ふーむ、そう言えば時々「新婚」とは思もえない夫婦が出てる時もあるなあ。挙式してなかったのに何十年か経って披露宴やった人とかもいるし。この番組は「新婚」の基準にはできまへんな。
結局「新婚」というのは当事者にとっては「気持ちの問題」で、客観的には「1年ぐらいまで」ということなんでしょうね。
そう言えば、コメの「新米」というのも1年間は有効らしいですよ。「新米記者」とか「新米教師」もそうですかね。「新人」「新入社員」も、せいぜい1年(あるいはそれ以下)であることから考えても、やはり「新婚は1年以内」というあたりが妥当な気がするのですが、いかが?



2003/5/29




◆ことばの話1192「切り込むと切れ込む」

毎日新聞の火曜日のメディア欄に「校閲インサイド〜読めば読むほど」というコラムがあります。毎週スクラップして愛読しています。今度6月に本になるそうです。その5月13日の「校閲インサイド」のタイトルは、『「切り込む」「切れ込む」』でした。
それによると、サッカー中継でアナウンサーが、
「ゴール前に切れ込んでシュート!」
と実況する場面を耳にすることがあるが、この「切れ込む」と似た言葉に、
「切り込む」
があると。これまでは「切り込む」の方が多かった。毎日新聞のデータベースでは、過去10年で、
「切り込む」:「切れ込む」=10:1
といった割合で「切り込む」が多かった。ところが、サッカーなどのスポーツに限るとその割合は1:1になる。「切れ込む」の4分の1は、日韓ワールドカップが開催された去年の紙面に登場しているそうです。この記事を書いた新野信記者は、
「『切り込む』は単に深く入り込むという動作を表すのに対し、『切れ込む』は、ある方向(ゴール名素)へ向かって深く入り込むという『方向性』を表しているように思う」
と書いています。
なるほどねえ、ふだん何気なく使っていますが、そう言われればそうですね。
私の感覚では「切り込む」は直線的、平面的な感じがするのに対して、「切れ込む」は、もう少し曲線的というか立体的で複雑さがあるような感じがします。
相手の中に突撃するのは「切り込み(斬り込み)隊長」であって、「切れ込み隊長」ではありえませんね。「切り込み」は「刀の切っ先」のような感じがするのに対して、「切れ込み」は「包丁でえぐるような感じ」を憶えます。
また、「切り込み」は入れるのに対して、「切れ込み」は既に入っているような気もします。
一字違いで微妙なニュアンスの違いがあるものなのですね。
なお、5月12日午前零時過ぎの、朝日放送のスポーツニュースでやっていた近鉄戦の原稿に、
「この日の切り込み隊長は」
というのがありました。よく使われる表現ですが、「切り込み隊長」はやはり「切り込み」でなくてはなりません。「切れ込み隊長」とは言いませんね、どんなに切れ込んでいても。
お、「切れ込み」というと、レースクイーンのハイレグを思い出したゾ。あれは「切れ込み」であって「切り込み」ではないですよね。え?「切れ込み」ではなく「食い込み」?いやそうではなくてデザインの話をしているんですよ。はい。


2003/5/30




◆ことばの話1191「ヌーブラ」

今年の夏の女性のファッションは、背中が大きくあいたカットソーの服が流行るそうです。そういう記事が5月15日の産経新聞に載っていました。
背中が大きくあいて背中を見せることになると、女性の場合、ブラジャーの紐が見えてしまうので邪魔になります。ということで、登場したのが、(タイトルに書いた)
「ヌーブラ」
というものだそうです。これは、紐は一切なくバストに直接貼り付けるようなもので、洗濯にも100回くらい耐えられるんだそうです。
へえー、「ヌーブラ」ねえ。なんか「ノーブラ」みたい。
記事には写真も載っていて、マネキンがその「ヌーブラ」を貼りつけた様子が写っていました。なんか、湿布薬みたいな感じです。はがしても100回も洗濯に耐えるのか。でも、男の目から見ると、なんかちょっとへんな感じ。
こんな言葉(商品)は最先端だろうから、誰も知らないのかな?と思って、Googleで「ヌーブラ」検索すると、3710件も出てきました(5月22日しらべ)。意外にもう、女性の皆さんには「常識」だったのかもしれませんねえ。
というのもこのニュースを「あさイチ!」の朝刊チェックのコーナーでお伝えしたあと、Nアナウンサーや気象予報士のYさんに、
「『ヌーブラ』というのを知ってる?」
と聞いてみると、2人とも「知っている」とのこと!Nアナウンサーにいたっては、
「なんか、そのメーカーから送ってきました!」
と言うではないですか。
「うそ!?じゃあ、会社に置いてあるの?」
「まだ、包みを解(ほど)いてないのでそのまま置いてありますよ。」
「じゃあ、実物、見せて!」
「いいですよ」

という会話がありました。え?で、その「ヌーブラ」、見たのかって?まだなんです。Nさんって、すぐ忘れるんだもん・・・。彼女はそのまま、早めの夏休みを取って、アメリカに行ってしまいました、とさ。 

2003/5/30


(追記)

大修館書店の『月刊言語』2003年7月号に連載されている、「亀井肇の新語・世相語・流行語28」に「ヌーブラ」が取り上げられていました。それによると、
「肩紐も背中のバンドもないブラジャー。つまりバストに直接貼り付けるブラジャーである。」
として、内側の強力な粘着面で、激しい運動をしても外れる心配はないこと、洗っても乾くと接着効果は元に戻ること、アメリカで2002年末に発売されて、日本でも2003年2月から販売されているとのこと。20代〜50代の女性が購入しているそうです。

2003/6/19


(追記2)

8月12日、毎日新聞夕刊「03夏写〜かんさい経済」という写真コラムが「ヌーブラ」を取り上げています。見出しは、

「肌色 露出が闊歩 張り付くブラ」

記事によると、

「1着1万2000円と『下着』にしては高い。それでも、輸入代理店の『ゴールドフラッグ』(東大阪)は『3月の輸入開始以来、全国で売り切れ続出』」

だそうです。

高島屋の大阪店は、7月末までの4カ月で3250着が売れた
、そうです。女性の「美」に賭ける気持ちとお金は、やっぱりスゴイですう。

2003/8/14