◆ことばの話1185「四条畷か四條畷か」

アナウンス部OBで、現在は報道局でホームページのニュースを担当しているKさんからの質問です。
「『しじょうなわて』の『じょう』は、にんべん、要ったっけな?どうだっけ?」

大阪府に「しじょうなわて市」というところがあるのですが、この漢字表記が、「四条畷」か「四條畷」かという問題です。「条」か「條」か?うーん、どっちだっけ?
原則として人名や地名は、常用漢字の範囲内で記しています。そういう意味では「四条畷」となるはずですが、

「どうしても表外字体で書いてくれ!!」

という強い要望があった場合は、その希望に従うケースもあります。例えば、奈良県の「五條市」や兵庫県の「龍野市」は、そういったケースです。
さて、「しじょうなわて市」はどうだったでしょうか?読売テレビ報道局のニュース原稿でこの1年間(2002年5月1日から2003年5月27日まで)に使われた「四条畷」と「四條畷」を検索してみました。結果は、

四条畷・・・22件
四條畷・・・・0件


ということで、はっきりと「四条畷」ということがわかりました。読売テレビの報道局ではこの1年に、「四條畷」は1回も使われてなかったんですね。
それにしても、同じ字なのに、その自治体によって対応が違うというのは、なんかヘンな気がしませんか?これからの漢字表記はどうあるべきなのか、真剣に考えなくてはならないのではないでしょうかね。

2003/5/27

(追記)

9月3日の読売新聞にこんな記事が。
「四條畷に統一〜市要望 府が『条』を改正へ 条例案、9月議会に」
という見出しで、リード部分を読むと、
「大阪府『四条畷市』が来年四月、ほぼ半世紀ぶりに『四條畷市』として府に認知されることになった。これまで、市と国は伝統的な『條』、府は常用漢字の『条』の字を公文書に使用してきた。しかし、市の要請で、府が「条」を使用している十五の条例を改正する条例案を九月議会に提案する。可決されれば『四条畷高校』「四条畷警察」などの府の施設名も変わる。なぜ表記が混在しているのか。その歴史はちょっと謎めいている。」
としています。どう謎めいているかを書くと、全文写すことになるのでやめますが、とにかく混在する表記が統一の方向に向かうそうで、四條畷市民は、万歳!でしょうね。

2003/9/15

(追記2)

また四条畷で事件がありました。報道のTデスクから内線電話です。
「道浦さん、うちは『四条畷』『四條畷』、どっちでしたか?原稿をチェックしてみると、これまでは簡単な方の『条』を使ってるみたいなんですが。」
事情を説明しました。
「そうですか。実は警察も学校も、今は全部、画数の多い『條』を使っていて、唯一、JRの駅名だけは、看板などの表示が変えにくいということもあって、簡単な方の『条』を使った『四条畷』になっているというのが現状みたいなんですよ。」
「それじゃあ、うちもそろそろ難しい方の『四條畷』でいいんじゃないかな。」
「分りました。では、そうしましょう!」

ということで、2005年10月18日のお昼のニュースから、読売テレビ報道局でも、
「四條畷」
という表記になりました。ちなみに翌日(19日)のお昼のニュースを見ていると、他社の表記は、
朝日放送 =「四条畷」
関西テレビ=「四條畷」

でした。ちなみに同じように新字体か旧字体かということが以前、問題になった、兵庫県の「龍野市」は、「平成の大合併」で新宮町、揖保川町、御津町と合併して、2005年10月1日から、
「たつの市」
と平仮名表記の市になってしまいました・・・。

2005/10/19

(追記3)

なお、読売新聞では、2004年の3月23日から、保健所、府立高校、警察署名も、
「四条畷」→「四條畷」
に変更していたということです。

2005/10/19



◆ことばの話1184「おもしろかったしぃ」

最近の関西の「最新若者言葉」をご紹介しましょう。
どれだけ最新の若者かと言うと・・・現在5歳の、うちの長男が使っています。ね!若いでしょ、最新だし。それはこんな葉です。

「おもしろかったしィ」

語尾が「し」で終わる言葉です。昔(というのは、私が中学生の頃。1974年から1976年頃)、京都の子や、京都弁の影響を受けている京阪地区(枚方など)の子が使っていた言葉と似ています。ただちょっと当時と違うのは、「し」では終わらずに「しィ」と語尾が延びるところです。アクセントは「しィ(HL)」というふうに「ィ」で下がります。

「文句を言っている、不満気」

に聞こえて耳障りなので、親としてはこんな言葉を使うことを許すわけにはいきません。特に、関西弁に対して私よりなじみの薄い、和歌山生まれだけど北海道と福岡で中学・高校時代を過ごしたうちの妻にとっては、「許し難い」言葉(アクセント・言い回し)のようで、かなり厳しく、

「やめなさいっ!!」

と言っています。でも子供にとっては、保育所の友達が使っている言葉のようなので、すぐ口をついて出てくるのです。
この言葉、保育園児の間で流行っているだけかとおもったら、先日(5月14日)、JR大阪駅構内ですれ違った、女子高生3人組も使っていたので、思わず耳をそばだてました。(で、思わず、あとをつけそうになりました・・・って、それじゃ、アブナイおじさんだ!と思いとどまりました。)
彼女たちは、

「めっちゃおもしろかったし。」

というふうに使っていました。
この「し」は、なくても意味は通じますね。でも付けてる。ということは、「めっちゃおもしろかった」という自分の気持ちを話す際にも、断定することを避けているということでしょうか。自分が体験して「おもしろかった」という感想にまで、「保留の『し』」を付ける自信のなさ。友人に対する気遣い?・・・いえいえ、そうではありません。もし友人に、

「えー、そんなん、おもしろかったん?」

と反論されたら困るので、断定口調を弱めているのです。つまり、他人に気遣ったのではなく、返す刀で切られることを避けるために、婉曲な言い方にしている「自分かわいさ」の言葉使いなのです。

この女子高生のように「し」が短く言われる場合は、おそらくそういうことでしょう。しかし、"うちのおぼっちゃん"の言う「しィ」は、少し違います。婉曲なようで、語尾を伸ばして、強く自己主張しています。その分、なまいきさ・押し付けがましさは倍加しています。若いうちから、こんな思いやりのない言葉を使わせないようにいたいしィ。
あー、やだやだ!!

2003/5/26

(追記)

5月28日(水)毎日放送の「オサム」という深夜番組を見ていたら、タレントの陣内智則くん(読売テレビの「週刊トラトラタイガース」の司会でもおなじみ)が、大阪の町のおばちゃんにインタビューしていました。その中で彼が、おばちゃんの服装について、

「派手やしィ」

と言っていました。女性から始まったと思われるこの言葉、大人の男の子(若者)が使うようになっているということは、かなり広まっているということでしょうね。

2003/5/29

(追記2)

井上史雄・鑓水兼貴編著『辞典・新しい日本語』(東洋書林)の220ページに「〜ヤシ」が載っています。標準語だと「〜だし」。

「今日は雨ヤシ」という言い方では、大阪市・和歌山市の中間で中年以下の増加(岸江1996)。沖縄県高校生に分布(伊礼1998)「今日から授業やし、知らない間に休み終わってた・・・」(大阪市立大生)

と載っていました。これなのかな。ちょっと気もするしぃ。
2003/7/11

(追記3)

千葉に住む大学時代の友人からの年賀状に、
「最近うちの娘(注・たぶん小学生だと思う)が使う言葉で気になる言葉は、語尾に『しぃ』を付けることです」
とメッセージが書かれていました。 また、ちょうど年明けの1月5日の読売新聞夕刊の言葉の連載「新・日本語の現場〜番外編・上」に、この「し」が取り上げられていました。
「『し』は『復習もしたし、予習もした』というのが普通だが、『ボクは元日から、トンカツを食べたし』などと、文末の言い切りに用いる。『し』に続く文章が用意されていないのだ。(中略)文末の『し』には断定的な言い方を避ける意図もうかがえる。」
と書かれていました。

2004/2/6
(追記4)

この言葉が定着しているらしい場面に遭遇しました。2004年の9月の話です。
駅前で待ち合わせの私服女子高生3人。電車から降りてきた一人が、いきなり大きな声で、
「ここやし!」

と叫び、それに気づいた、待っていた方の2人は、
「おったし。」
この場合、語尾の「し」はなくても、
「ここや!」
「おった!」

というふうに会話も文章も成り立ちますが、なぜか「し」が尽きます。女性の言葉なのでしょうか?一体この「し」は、地域的にはまた年齢的にはどこまでひろがっているのでしょうかねえ・・・?
ココヤシって、南の島か、ここは。
2005/3/5



◆ことばの話1183「天ぷら屋」

4月2日、また、あの大阪・法善寺横丁で火事がありました。出火元は天ぷら屋さんでした。このニュースを伝える時、ストレートニュースではなく一連の動きをまとめた「ドキュメント」のナレーション原稿が、

「火元は、天ぷら屋だった」

というふうになっていました。ディレクターとデスクに確認したところ、「そのまま読んでくれ 」ということでしたから、そのまま読みました。
今までこういうふうにニュースでお店の名前(種類)を言う時は、

八百屋→青果店
魚屋→鮮魚店
花屋→生花店、フラワーショップ
クリーニング屋→クリーニング店
カラオケボックス→カラオケ店
うどん屋→うどん店
そば屋→そば店


というふうな「言い換え」がニュースでは行われてきました。それにのっとって言えば、この場合は当然、
「天ぷら屋→天ぷら店」
となるべき所でしょう。しかしこれまでも、
「『うどん店』『そば店』というのは、おかしいのではないか?」
という声が内部であったのは事実です。ただ、「うどん屋」「そば屋」という表現は一般にはみんな言っている言い方ではありますが(それに「さん」を付けて呼ぶこともありますが)、テレビニュースで伝える場合には、やや俗っぽ過ぎるのではないか、ということと、「○○屋」という呼び方自体に、ややその職業の人をさげすんでいるような響きがあると感じる人もいることから、「○○店」という言い換えが行われてきたわけです。確かに「○○屋」という呼び方は、そういう風な使い方もされる言葉ではあります。すべてではありませんが。

また、「○○屋」と言う場合にその「○○」という「物」を売っている店と、「○○」という「サービス」を提供している店がありますが、このうち「サービス」を提供している店を「屋」というふうに呼ぶのは、いけないのではないかという論議もありました。つまり「魚屋」は、まさに「魚」を売っていますが、「居酒屋」は「居酒」を売っているわけではなく、酒や食べ物を提供するという「サービス」を売っているという違いです。ここには、

「その『店』を指して『屋』と呼んでいるのか、その『職業』を指して『屋』と呼んでいるのか」

という違いがあり、「職業」をさして「屋」とは呼ばないということですね。
その基準で言うと、この「天ぷら屋」は「天ぷら」そのものを売っているのではなくて、「天ぷらを揚げて供する」という「サービス」を指しているので、「天ぷら屋」とは呼ばない方が妥当かもしれません。

しかし、「火事の火元」ということで考えれば、職業を指して「天ぷら屋」と呼んでいるのではなく、明らかにその「店舗」=「場所」を指しているだけですから、一般的名称である「屋」を付けた「天ぷら屋」と呼んでもよさそうです。

この問題は、「読売テレビ放送用語ガイドライン」第6章「職業についての表現」の「実践用語メモ(6)」の<○○屋か○○店か>(P90〜91)や、「平成ことば事情347豆腐屋と魚屋と運送屋」に、私も書きましたが、本当に奥が深い問題ですね。マニュアルで簡単に処理できそうにはありません。ケース・バイ・ケースです。

2003/5/26



◆ことばの話1182「かきいれ時」

新聞を読んでいたHアナウンサーが「ん?」という顔をして話しかけてきました。

「道浦さん、これって誤字ですよね。」

と言いながら示した読売新聞の見出しには、

「書き入れ時に大打撃」

という(ような。ちょっと、はっきりしたことは忘れました)文字が。新型肺炎SARSの影響でゴールデンウイークを控えた旅行業界が打撃を受けているという記事でした。
その「書き入れ時」という表記についてです。Hアナいわく、

「お客さんを『掻き入れる』んだから『掻き入れ時』が正しいのではないか。」

ということです。

「うーん、確かにそうだなあ。でも、新聞の見出しでこれだけ大きく出てるんだから、まさか間違っていないんじゃない?もしかすると大福帳に書くから『書き入れ時』が正しかったりして・・・・。」

などと言いながら辞書を引くと、なんと!その「もしかすると」だったのです。そう、

「書き入れ時」が正しい!!

つまり、『新明解国語辞典』によると、

「書き入れ時」=「(もうかるので)忙しく働かねばならない時」

そして、「書き入れ」とは、二つ目の意味で、

「(帳簿に書き入れるのに忙しいことから)確実に売れることが期待されること」

とありました。『新潮現代国語辞典』を引いても、二つ目の意味で、

「書き入れ」=「『書き入れ時』の略」

とありまして、その「書き入れ時」は、

「書き入れ時」=「商売の忙しい時。もうけをあてにする時期。もうかる時。」

とあります。漢字はともに「書き入れ時」です。「掻き入れ時」ではありませんでした。
ふーん、やっぱり思い込みというか、知らないことは世の中にたくさんあるんだなあ、とHアナと話しながら感心したことでした。
それから数日後、同じ読売新聞の「日めくり」という言葉のミニ・コラムに、この「かきいれどき」が取り上げられていました(5月8日)。短いので全文掲げます。それによると、

「新型肺炎が旅行業界の書き入れ時を直撃――本誌夕刊のこんな記事に対し、『書き入れ時は誤植では』『正しくは掻き入れ時ではないか』という電話が殺到した。商品が次々と売れて、利益を帳簿に書き入れることの多い時が『書き入れ時』。そこから最も利益のあがる時期をいうようになった。NHK放送文化研究所がインターネットで実施している『国語力テスト』でも正解率は17%と最低で、『掻き入れ』の答えが多かった。もうけを掻き集めるというわけではないのだが。」

ということでした。そうだったのか。正解率17%とは!間違ってもしょうがないかな、というところでしょうか。

でも、次の「書き入れ時」には、間違わずに書ける自信がありますよ。

2003/5/26
(追記)

2006年冬、「ノロ・ウイルス」が猛威を振るっています。その原因として
「カキ」
が「槍玉」に挙げられています。でも本当は、カキによる感染は、現在はほとんどないのです。でもなんとなく避けている人が多いので、カキの生産者は、カキが市場に出なくなって悲鳴を上げているというニュースを、12月21日の日本テレビの夕方の「ニュース・リアルタイム」で放送していました。そのニュースの画面右肩の字幕スーパーは、
「カキ入れ時に風評被害」
「書き入れ時」「カキ」をかけているのですね。なるほど。
2006/12/21



◆ことばの話1181「甘釘」

街で見かけた面白い文字、変わった言葉などを、最近はケータイメールで 会社のパソコンに送っています。そういった言葉の一つで、なんと去年の年末にパソコンに送ったまま、眠っていた言葉があります。
「甘釘」
です。「あまくぎ」と読むのでしょうかね。2002年の12月7日に、家の近くのパチンコ屋さんの前で見かけたのぼりに、この文字がありました。「甘釘フェアー」とか何とか、そんな感じだったと思います。
私は、最近はほとんどパチンコをやらないので、初めて知った言葉なのですが、パチンコファン(?)にとっては常識なのでしょうかね?
いつものようにgoogleで数調べ。
おお!2620軒・・・いやいや2620件も出てきたぞ!
ちょっと内容を覗いてみると、
「甘釘台」「甘釘回りっぱなし」「超甘釘」「甘釘イベント情報」「全台甘釘調整」「激甘釘」
などといった言葉が踊っています。おそらく、パチンコ玉が入りやすい、よくクルクルパネル(?)が回る、そういったパチンコ台(の釘調整)のことを「甘釘」と呼ぶのでしょうね。
でもよく考えたら、「全台、甘釘調整していたら、パチンコ屋さんはもうからない」ことになってしまいます。ということは「全台甘釘」はありえない。1、2台は「辛釘」があるのかな?またgoogle検索で「辛釘」を調べたら・・・おお!8件だけあったぞ!
「辛釘調整」「激辛釘」「辛釘台」
など。数はごっつい少ないです。うーん、でもきっと、「全台甘釘」なんて前代未聞だし、甘い釘ばっかりってそんなに世の中甘くない。また、「全台甘釘」なんて広告を許しておくほど、世の中甘くないということでしょうか、niftyのパチンコのページ(@nifty:777@nifty)を見ると、
「パチンコ店のチラシ、DMが激変!『超甘釘』などがNG」
と題して、この「甘釘」広告の自粛に関する記事が出ていました。

「『超甘釘』『時速○○枚』などの過激表現が影を潜め、単純に新台入替のお知らせのみになったりしているケースが多いのだ。これは全日遊連が各件の組合に関する自粛を要請したことに端を発している。」
「(風営法などの)法律に抵触するおそれのある広告宣伝を慎むことを求めた」


「全台甘釘」のような広告をしてしまうということは、そうやってお客さんを呼び込まなくてはならないほど、今パチンコ業界も厳しい状況だということの表われなのかもしれませんね。でも、実はこのniftyの記事、(恐らく)去年の7月29日の日付があるんですけど。私が見たのは12月。それ以降は目にしない気はしますが、実態はどうなんでしょうね?

(追記)

それを気にして、同じパチンコ屋さんの前を通ったら、なんとあの時と同じのぼりが1本だけ、まだ残っていたではありませんか!そこには、
「甘釘イベント開催中」
とありました。全然自粛してへんやん・・・。お店の方は、結構はやっているようでした。

2003/5/26

(追記2)

読者の方からメールを頂きました。パチンコ店関係のお仕事をされている方です。それによると、
「全台甘釘は、ありえなくもないと思います。例えば、競合店から客を奪うために赤字覚悟で全台超甘釘にし、競合店が潰れるまで甘釘続行、その店が一時的に赤字を出しても同じチェーンの他店舗が利益を生んでいるので、グループ全体では黒字となる、という営業戦略かもしれません。チェーンで何店舗も展開しているホール企業は多くありますからね。
ホール業界最大手のDという会社は、全国に150店舗ほどチェーン展開しています。
また、集客を図るために一時的に赤字覚悟で全台甘釘にし、別の時期に釘を辛くして回収、月や四半期など一定期間のトータルではもうけが出るようにする、という営業方法かもしれません。」

ということです。なるほど、確かに一日だけ「全台甘釘」にして店が損をしても、トータルで取り戻す、ということは十分考えられますね。貴重なご意見どうもありがとうございました!

2003/7/2

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