◆ことばの話1145「こづきまわす」

4月13日の都知事選挙で、なんと308万票という記録的な得票で再選された石原慎太郎・東京都知事。その勝利宣言のインタビューの時に石原都知事の口から出た言葉に、
「国をこづきまわす」
というのがありました。最近あまり耳にしない言葉です。「こづく」に「回す」がくっついて出来た言葉でしょう。「こづく」も「こ突く」から来たのでしょう。そう考えると、「こづく」の「こ」は「こぎれい」「小きたない」「こじゃれた」というような、形容詞の頭に付く「こ」と同じ物ではないか、と思ったのです。「こづく」の場合は動詞の頭に付いていますが。
「こぎれい」については、以前(1999年12月)「ことばの話55『こぎれい』」で書きました。それを見てみると、『広辞苑』を引いて、「こ」には、
「いうにいわれない、なんとなく、の意を表わす。また、その状態を憎む意を表わす」
として例として、
「こにくい」「こぎれい」「こざっぱり」「こぎたない」「こうるさい」
が挙げられており、このほかの意味としては、
「軽んじ、あなどる意を表わす」
として、例としては、
「こせがれ」「こざかしい」「小利口」「小役人」
が挙げられている、と記しています。ああ、ニュアンスが浮かび上がってきましたね。
ここから考えると、石原都知事は国に対して、
「いわれもなく憎しみを抱いており、かつ軽んじ侮っている」
様子が伺えます。また、石原都知事が「国」に対して持っているイメージは、
「こにくく、こぎたなく、こうるさい小役人や、政治家の小せがれや小泉がいる」
といったところでしょうか。その中には、ご自分の「小せがれ」である、石原伸晃行政改革大臣も含まれているのですが。あ、それと、もちろんおわかりだと思いますが、「小泉」の「小」は「こぎたない」の「こ」ではありません。
こういうふうに感じているからこそ、きっと「国」を「小バカ」にしたような「こづきまわす」という発言が、都知事再選の記者会見の席で出てきたりするのでしょうね。

2003/4/24

(追記)

NHKで昔やっていたドラマを放送しています。鶴田浩二さん主演のガードマンの物語、「男たちの旅路」の再放送を見ました(11月15日)。懐かしいなあ。水谷豊や桃井かおり、森田健作も、まだ20代で出ていましたよね。そのあとのシリーズのようだったけど。その中で、橋爪功と思しき人が、ガードマンの会社の幹部会議の中で発言しているセリフで、
「かたっぱしから、たたきこわしている。」
「たたきこわす」が「LHLLLL」というアクセントでした。『NHK日本語アクセント辞典』で見ると、両方乗っていますが、この2番目の「た」が高いアクセントのものは、2番目に乗っています。古いアクセントということでしょうか。『新明解日本語アクセント辞典』では、「強調するときにはこのアクセント」という注釈がついていました。なつほどー。 最近あまり耳にしなくなったアクセントですが。

2003/11/16


◆ことばの話1144「クローン牛」

ニューススクランブルのSキャスターから電話です。



「道浦さん、クローンの牛は、『クローンうし』ですか?それとも『クローンぎゅう』ですか?」



「牛」は、原則、生き物として生きている時に話題になったのなら「うし」、もうお肉になって商品として出てくるような時は「ギュウ」と区別をしています。「松坂牛」「但馬牛」なども同様の対応をしています。
その旨を伝えたのですが、Sキャスターと担当ディレクターは、
「クローンぎゅう」
と読みたいそうです。
「じゃあ、日本テレビとNHKに聞いてみるわ。」
NHK放送文化研究所のSさんと、日本テレビ考査室のOさんに電話してみました。NHKのSさんとは、毎日のようにメールのやり取りをしていますが、電話で話すのは久しぶりだったので、つい「お久しぶりです」と言ってしまいましたが、そう言えば今日もさっき2通、メールのやり取りをしたばかりでした。結論から言うと、やはり最初に私が書いたとおり、
「原則、生きている牛は『ウシ』、牛肉になったら『ギュウ』ということですね。」
というお答え。日本テレビも同じ回答でした。
これについて、以前に調べたことがあるような気がしたので、検索してみると、ありました、ありました。2000年1月に書いた「ことばの話63『再クローン牛』」という話の中で、
「さいクローンうし」
という、平仮名とカタカナの記述がありました。やはり、3年前にも「クローンうし」というふうに「うし」で読んでいたのですね。
この結果を持って、今回のナレーションでも「クローンうし」と読むことになりました。

2003/4/24



◆ことばの話1143「バイ☆グラ2」

もう数年前から街中(なか)の電柱などで見かける張り紙に、「バイ☆グラ」というのがありますロケに向かう途中の車中からこの張り紙を眺めていて、むくむくと疑問が湧いてきた。
「なんで"バイアグラ"と書かずに"バイ☆グラ"なんだろうか?」
この疑問をスタッフにぶつけた所、
「バイアグラは処方箋がないと売れないんですけど、医者に行って買うのは恥ずかしい、という人を狙っているんじゃないですか?」
という答え。なるほど。でも「バイ☆グラ」というふうに「ア」の部分を「☆」にする理由にはならないのではないかなあ・・・などと考えていた時に、ハタと気付きました。
「そうか、売っているのは"バイアグラ"じゃないんだ! あくまでも"バイ☆グラ"なんだ!」
張り紙をよく見てみると、ご丁寧に「本物!」とも書いてあります。これを見ればたいていの人は「本物のバイアグラ」だと思うことでしょう。そして「バイアグラ」だと思って買った人が「これはバイアグラではない!話が違うじゃないか!」と文句を言っても「誰がバイアグラを売ってると言いましたか?ウチで扱っているのは、"バイ☆グラ"ですよ」と言い逃れるつもりなのでしょうかね。
また、可能性としては、法律で販売者として許可を受けていないが本物のバイアグラを売っている業者が、司法当局の手入れを受けた場合に「いえ、ウチが売っているのは"バイアグラ"ではなく"バイ☆グラ"です」と言い逃れるため、とも考えられますが、相手がお役人よりは一般人の方が、こういったウラの仕事はしやすいのではないかとも思います。ともあれ、なにかありますぞ、あの「☆」には。
バイアグラという商品は新しく開発されたモノだが、この張り紙商法の手口は、典型的・伝統的な詐欺の手口のように思います。目くらましに会わないよう、ご注意、ご注意。



「なんか、これ読んだことがあるなあ。」
と思った方は、記憶力が抜群です。そうです、3年前にこれとほとんど同じことを「ことばの話103バイ☆グラ」に書きました。今回はその「追記」みたいなもの。ここからは新しい内容です。
2003年3月27日の日本経済新聞に、こんな記事が載っていました。
「『バイ○○○』輸入します〜未承認薬伏せ字広告も違法〜ネット掲載、容疑の男逮捕」
内容は、バイアグラについて「国内で未承認の100ミリグラム錠剤を伏せ字で表記、輸入代行するとの広告をインターネット上に掲載した」
として、兵庫県尼崎市の33歳の男が逮捕されたというもの。ホームページには、
「バイ○○○」「製造元ファイ○ー製薬」
などの伏せ字がありましたが、警視庁の生活環境課では、
「伏せ字でもバイアグラと分かる広告」
と判断。医薬品の違法な伏せ字広告の摘発は全国初だということです。
字は伏せることが出来ても、薬事、いや「悪事」は伏せられなかった、ということですね。

2003/4/24
(追記)

2006年9月14日の産経新聞朝刊に、
「偽バイアグラ密輸 代行業者を逮捕」
という見出しの小さな記事が載っていました。本文を読むと、
「『バイアグラ』など性的不能治療薬の偽者役10万錠が密輸・販売された薬事法違反事件で・・・」
とありました。やっぱり偽物もあるんだ!皆さんお気を付けください!
2006/9/14


◆ことばの話1142「SARS」

中国で去年11月に発生したあと、香港で爆発的に流行って病気、
「SARS(重症急性呼吸器症候群)」
4月3日のお昼ニュース(ニュースダッシュ)から、日本テレビ系列はこれを、
「新型の肺炎、サーズ」
と呼ぶようになりました。それまでは「SARS」と書いてそのまま「エスエーアールエス」とアルファベット読みしていました。私も、翌4月4日の「あさイチ!」で、
「きのうの昼からサーズと呼ぶようにしました」
と、ひとこと説明しました。まだほかの局で「サーズ」と呼んでいるところはないようです。
新聞の表記を、4月4日の朝刊で見ると、
朝日、産経、日経=SARSのあとに「サーズ」という読み付き
読売、毎日=「サーズ」という呼び方の表記なし

と分かれているようです。



その4月4日、さっそくNHK放送文化研究所の塩田さんからメールが届きました。
「サーズと呼ぶようになったんですか?」
そのとおり、早いですねえ、チェックが。NHKさんの実状も聞いてみると、
「WHOは『サーズ』と言っているようだが、厚生労働省は言っていないらしいこと。SARSは現時点では『症候群』で原因特定されていないが、ウイルスが特定されれば病名が付けられるだろうから、その時点で名前が付くと予測していること。そして、ほかに『サーズ』と呼ばれる医療用語があるらしいことから『サーズ』とは言っていない」
とのこと。え!ほかに「サーズ」という名前の病気があるんですか?と驚いてメールを打ち返すと、関連のホームページを教えててくださいました。それによると、
「SIRS(Systemic Inframatory Responce Syndrome)全身性炎症反応症候群」
という病気が「サーズ」と呼ばれているそうです。確かに、それだと同じ呼び方です。
しかし、滋賀医大に勤務する友人に聞いたところ、
「滋賀医大では『サーズ』言っている」
そうです。その後も各局のニュースを注意して聞いていたところ、
4月7日、テレビ朝日は「SARS(エスエーアールエス)」と言っていましたが、4月21日のお昼のニュースでは「サーズ」と言っていました。
また、4月17日朝4時のNHKラジオ第一放送のアナウンサーが「SARSウイルス」を「サーズウイルス」と言っていました。原因特定によって、ウイルスの名前には「サーズ」を解禁したでしょうかね。どうもWHOが最初の症候群の段階では「エスエイアールエス」と言っていたのに、「SARSウイルス」と命名した際に、「サーズバイラス(ウイルス)」と言ったらしいので、それが根拠のようですが、その後NHKテレビで「サーズ」と言っているのは聞きません。
また、テレビ東京も、4月17日の「ワールドビジネス・サテライト」で「サーズ」と呼んでいました。放送では「サーズ」という呼び名は徐々に広がっています。SARS本体の方も、一向におさまる気配がありません。早くおさまって欲しいです。
SARS本体の方も、一向におさまる気配がありません。早くおさまって欲しいです。

2003/4/24


(追記)



4月24日の新聞各紙の見出しと本文を見てみると、



  (見出し) (本文)
(読売) 新型肺炎 新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)
(朝日) SARS死者 重症急性呼吸器症候群(SARS)
(毎日) SARS 重症急性呼吸症器候群(SARS)
(産経) SARS 新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)
(日経)
SARS対策
新型肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)
となっていて、3週間ほど前の4月4日の時点で「サーズ」という読み方をつけていた朝日新聞と産経新聞ですが、4月24日の紙面では「サーズ」という表記が消えていました。
見出しでは、読売だけが「SARS」というアルファベット表記をしていません。また、朝日と毎日は「新型肺炎」という表現を採用していません。各社、微妙な違いがあるようです。

2003/4/24




◆ことばの話1141「朝日新聞の中国人名」

3月14日、中国全人代は、江沢民氏に代わる国家主席に、
胡錦涛(こきんとう)総書記
が選ばれました。さて、この中国の人の名前の呼び方ですが、原則、日本での漢字の読み方では、
「こきんとう」
と読みます。韓国・北朝鮮の場合は、現地読みをしますね。金正日を「キムジョンイル」と読みます。「きんせいにち」とは読みません。韓国の金大中前大統領も、昔は「きんだいちゅう」と言っていましたが、ここ10年くらいで「キムデジュン」になりました。これは相互に現地読みを採用したことによります。
しかし、中国に対しては、お互いにそれぞれの国の読み方で勝手に読んでいます。
が、ここに来てマスコミの中でもちょっと動きが出てきました。
朝日新聞が、中国人の漢字の名前に中国の現地での読み方をカタカナのルビで振るようになったのです。2月18日の紙面では、胡錦涛総書記の名前の横に、
「フーチンタオ」
というルビを振りました。その後も中国の要人の名前が出る記事には、現地読みのルビが振られています。胡錦涛氏が総書記になった時に、英字新聞などでは、
「フー・イズ・フー?(フーって誰?)」
という駄洒落の見出しが出たりしたと聞きましたが、「胡」の現地読み=英語読みが「フー」ということが分からなければ、この駄洒落は笑えません。「コ」と読んでいる日本人には分からないのです。そういう意味では、中国人の名前も現地読み、あるいは英語読みを採用するのも一つの見識かと思います。
この件に関しては、去年12月5日付の朝日新聞の紙面審議会の報告で、日本IBM会長で紙面審議会委員の北城恪太郎委員が、
「中国人の名前も漢字読みではなく、現地読みをすべきではないか」
とした発言が載っています。そのあたりの影響を受けて、徐々に変えていこうということかも知れません。昔、韓国の人名も漢字読みしていた頃は、
「もし、韓国と北朝鮮のサッカーの試合を中継することになったりしたら、選手名を言うのが大変だろうなあ。」
などと言っていましたが、今は何の違和感もなく韓国選手の名前をフルネームで呼んで中継・実況していることを考えると、中国の人名の現地読みも、定着するのは早いかもしれませんね。

2003/4/19