◆ことばの話1130「黙読のみ」

ボブ・ウッドワード著、伏見威蕃訳『ブッシュの戦争』(日本経済新聞社、2003,2,24)読みました。「9・11」以後の、アメリカのアフガニスタンのタリバン、アルカイダへの"報復"の内幕について書かれているのですが、現在行われているイラク戦争がなぜ引き起こされたのかを考える上でも、大変興味深い書物でした。著者のボブ・ウッドワードは、ワシントン・ポスト紙の名物記者で、あのウォーターゲート事件をスクープしてニクソン大統領退陣のきっかけを作ったことで知られます。(こう言ったら、妻は、「ウォーターゲート事件って何?」と聞いてきました・・・・もう事件から30年も経ってるし、マスコミ以外の人にとっては、そんなものなのだろうか、とちょっとガッカリ。)
その本を出社途中に電車の中で読んでいると、こんな表現が出てきました。



「大統領が国連に赴く二日前、パウエルはホワイトハウスから送られてきた"黙読のみ"、"緊急"といったスタンプがそこらじゅうに押されている、<草稿 第二一>に目を通していた。」



この"黙読のみ"の横にカタカナで振られたルビは、

「アイズ・オンリー」

と言うものでした。直訳すれば「目だけ」「目のみ」。これを見て、ハッ!としたのです。
たしか、007の映画に「ユアー・アイズ・オンリー」というのがあったのではないか!?外国映画の直訳ふうのカタカナ・タイトルは、意味がわからないことが多く、この映画のタイトルも意味がわからなかったのです。「あなたの瞳だけ」というようなラブストーリーかと思っていました。意味がよくわからないので、見てもいないのですが。
でも「ユアー・アイズ・オンリー」と「アイズ・オンリー」、似ていますよね。ということは、007の映画も、「黙読だけ」「ほかの人には見せないで(知らせないで)」というような意味の映画だったのではないか、と突如、稲妻のようにひらめいたのです。
会社にきてから、007映画に詳しいYアナウンサーに、

「007の映画で『ユアー・アイズ・オンリー』というのがあったよね。あれ、日本語だとどんな意味?」

と聞くと、即座に答えが返ってきました。

「『しんてん』です『フォー・ユアー・アイズ・オンリー』で『親展』。シーナ・イーストンが主題歌を歌ってましたよ。」

やっぱり!「黙読のみ」と「親展」はつながりますよね!
しかし、『デイリーコンサイス和英辞典』で「親展」を引いてみると、

「Confidential」「private」

しか載っていなかったんですが。でも「他人に見せるべからず」ということなんでしょうね、直訳でも。なんで「フォー」だけ落としたんだろ、邦題。
ちなみにあとで調べたら、1981年の映画でした。
そこで、さっそくレンタルビデオ屋さんへ行って借りてきました、ロジャー・ムーアのジェームズ・ボンド。Yアナウンサーの言うように最初に、

「フォー・ユア・アイズ・オンリー」

のスタンプを押すシーンが出てきました。そのあと、イギリスの情報省の大臣から司令を受ける際、ボンドが受け取る書類にも、おなじ文字が。字幕には、

「極秘」

と出ていました。極秘かあ。「親展」ではなく。納得。でも、本当にこの映画のタイトルに納得したのは、ラストのシーンまで見てからです。
もう、公開されて20年以上経つので、ネタ晴らししてもいいでしょう。
無事、任務を遂行したボンドは最後にボンドガール(ヒロイン)の女性といつものように「ラブ・アフェアー」というシーンです。ヒロインがボンドとキスをした後に、こう言います。

「今したいことわかる?月明かりで泳ぐの」

すると、ボンドは彼女のガウンを脱がそうとする。そこで彼女が一言、

「フォー・ユア・アイズ・オンリー」

と言うのです。字幕では、

「あなただけに」

と訳されていました。そうかあ、「極秘文書」という諜報文書の使命と、女性との「秘め事」がともに、「フォー・ユア・アイズ・オンリー」というシャレだったのですね。やっとわかりました。めでたし、めでたし!ちなみに日本語版字幕は菊地浩司という人でした。

2003/4/7




◆ことばの話1129「戦車の数え方」

4月5日、米英軍は、ついにバグダッド市街へ攻め入りました。陸軍第三師団の戦車が、バグダッド市街に入ったと、この日の夕刊がトップで報じました。その見出しで、「戦車の数え方」が、新聞によって違ったのです。



(読売)6−8台
(朝日)6−8台
(毎日)6〜8両
(産経)6−8両
(日経)記述なし




ということで、読売と朝日は「台」。毎日と産経は「両」と真っ二つに割れたのです。それと余談ですが、「6から8」を示すのに、読売・朝日・産経は「6−8」「−」を使っているのに、毎日は「6〜8」「〜」を使っていました。
そして本文の中では、読売と産経は「六―八」と漢数字になっていました。また本文中では朝日新聞は「6〜8」と、毎日と同じ「〜」を使っていました。微妙な違いが各紙にあるのですね。
話を元に戻して、戦車の数え方です。『新明解国語辞典』を引いてみました。
「戦車」・・・(かぞえ方)一台、一両
なーんだ、どっちでもいいんだ。でも「台」が先にきていますね。
「車両」と言うくらいですから。「車台」となると、意味が変わってきますね。



2003/4/5



◆ことばの話1128「あえて」

2年前の4月、結納のため婚約者のいる大阪に来ていた男性が、大阪の道頓堀で若者に暴行されて死亡した事件で、この男性の両親が、男性の命日(3回忌)にあたる4月24日に、損害賠償を求める裁判を起こすことを明らかにしたというニュースを、3月12日(水)のお昼のニュースで伝えていました。その中で両親は、損害賠償を起こす日を4月24日にしたことについて、



「あえて命日を選んだものです。」



と、話していたということです。しかしこの場合に「あえて」はおかしいのではないでしょうか?「あえて」というのは、
「いろいろあるにもかかわらず、周りの反対も振り切って」
「普通は当然、そうするであろうことをしない」

というようなニュアンスがあると思います。
この場合、息子の命日に提訴するということは、誰も反対しないだろうし、誰もが「さもありなん」と納得するであろう選択肢です。それに対して「あえて」を「あえて」使う必要は、ないのではないでしょうか。
考えるに、「1年365日にある中で、わざわざその日を選んだ」「すぐに訴えればいいのに、『あえて』1か月待って、わざわざこの日(命日)を選んだ」ことを指して「あえて」としているのでしょうか。うーん、それも説得力がないとは言えませんねえ。
ニュースを読んだアナウンサーと、原稿を書いた記者に聞いたところ、
「本来なら、4月まで待つことなく、すぐにでも提訴すればいいのだが、その道を選ばずに4月24日の息子の命日まで待つ、というニュアンスが『あえて』には込められている」
と言うことでした。そう言われると「それなら『あえて』でもいいのかな。」と思ってしまいましたが、なんか引っかかります。皆さんはどうお感じでしょうか?

2003/4/5




◆ことばの話1127「侵攻と進攻」

4月5日、米英軍がついにバグダッド市街に攻め入りました。このニュースを伝えた新聞各紙夕刊の見出しをみて、あっ!と思いました。そこには各紙の立場がはっきりと出ていたからです。しかも一目でわかるような形で。
(読売)バグダッド進攻
(朝日)バグダッド侵攻
(毎日)首都に侵攻
(産経)バグダッド市内進攻
(日経)バグダッド進攻

おわかりですよね。
朝日と毎日が「侵攻」という字を使っているのに対して、読売・産経・日経は「進攻」の字を使っているのです。ともに読んだら「しんこう」で区別はないのですが、「侵」と「進」では、明らかに意味が違います。意味というか、
「どちらの立場に立っているのか」
が違います。「侵す」「侵される」、「進む」「進まれる」。「進まれ」はちょっと変か。でも片方(米英軍)が「進む」と、片方(イラク)は「侵される」ということですよね。この前「平成ことば事情1107」で書いた「空爆と空襲」と、よく似た話です。
ちなみに読売テレビ・日本テレビ系列は
「進攻」
の二文字を使っています。
(おまけ)
空爆をしている「米陸軍101空挺師団」の表記も各紙違います。
(読売)米陸軍第一0一空挺(くうてい)師団
(朝日)第101空挺(くうてい)師団
(毎日)陸軍第101空てい師団
(産経)第一0一空挺師団
(日経)米第一0一空てい師団

ということで、「空挺」という漢字を使っているのが3紙。うち2紙(読売・朝日)は横ルビを振っています。産経はルビなし。「空てい」と「挺」の字を使わない交ぜ書きにしているのは毎日と日経です。
それと「101」とアラビア数字を使っているのが朝日と毎日、漢数字で「一0一」としているのが読売、産経、日経です。
微妙な違いがいろいろあるもんですね。

2003/4/5


◆ことばの話1126「米中央軍か、米中東軍か」

イラク戦争、短期で終わると言っていたのに、もう2週間。誰も予想なんて出来ないのです、やはり・・・。さて早朝の番組「あさイチ!」で、各紙朝刊を「チェック」していた時の話。イラクで戦争を遂行しているのは、「米中央軍」(司令官は、トミー・フランクス陸軍大将)ですが、なぜか毎日新聞だけ
「米中東軍」
と書いてあるではありませんか!もしかしたら、誤植か?と思って、前日の新聞なども見てみましたが、どれもみな「中東軍」と書いてあるのです。どうやらこれは、意図的に、
「中央軍ではなく中東軍」
という表記にしているようです。
毎日新聞に電話して聞いてみました。すると係の人が出てきて、丁寧に答えてくれました。
「うーん、それねえ・・・実は以前は『中東軍』と言ってたんですよねえ、アメリカの方も。それが1年ぐらい前かなあ・・・『中央軍』って変わったんですよ。」
「9・11のあとのタリバンを攻撃した頃は、もう『中央軍』になってたんじゃないですか?『ブッシュの戦争』という本には、そう出てくるんですけど。」
「ああ、その頃にはもう、ね。2年くらい前かな。」
「それは、『MIDEAST』が『CENTRAL』に変わったということですか。」
「そうそう、そういうことなんです。でも、前から『中東軍』なので、その方がわかりやすいんじゃないか、ということで、うちは『中東軍』のまま変えてないんですけどねえ。」

というふうな答えでした。毎日新聞の知り合いにもメールで聞いてみたところ、返事がきました。それによると、
「調べてみたところ、毎日新聞では湾岸戦争の頃から一貫して『中東軍』と表記しています。外信部によると、『英語の直訳より読者にわかりやすいように実際に配置されている地名にちなんで表記している』のだそうです。」
いうことのようで、今後も変える予定はないようです。
確かに、何紙もの新聞を読んでいるという読者はそう多くはないので、
「ホントウは『中央軍』なのか?それとも『中東軍』なのか??」
というふうに読者が戸惑うことは少ないのかも知れません。でも、「中東軍」にしなくても、
「中東に配備されている『中央軍』」
という表現でもでも十分に理解できると思うのですけどね。
「米中央軍」の動きとともに、毎日新聞の「米中東軍」の今後の動向にも注目です。
2003/4/5

(追記)
注目ですと言いながらあんまり注目していなかったんですが、1年半以上経った2004年11月20日のNHKお昼のニュースでは、
「米中央軍」
の「スミス副司令官」というのが出てきました。NHKは「中央軍」派ですね。

2003/11/11