◆ことばの話1115「カンパ」

報道フロアを歩いていると、撮影(カメラ)デスクのSさんが声をかけてきました。
「ウォーキング・ディクショナリーの道浦氏!ちょっと聞きたいんやけど、『カンパ』って何語?カタカナで書いてるから、外国語やろ。英語か?」
と聞いてきました。
あまりなんでもかんでも知っていると思われても困るんですが・・・辞書を引きながら歩いているだけなんです、私は。
でも言われてみるまで、「カンパ」の語源に関しては、まったく関心を持ったこともありませんでした。「コンパ」の語源には興味を持ったり、語源ではなく「コンパ」そのものに関心を持ったことはありましたが。カンパはちょっと・・・。こないだも「宝塚ファミリーランド」存続運動のカンパを求められても1口(300円)しか出さなかったし・・・。
とりあえず口からでまかせで、
「カンパの語源ですかぁ・・・まあ、社会主義的な感じのする言葉ですから、ロシア語かなんかじゃないでしょうか?」
と答えたものの、その後やっぱり気になって、『広辞苑』を引いてみました。そこには、
「カンパ」(カンパニアの略)
(1)闘争ないし活動。特に、大衆に訴えて、ある目的を達しようとする場合にいう。
(2)資金カンパの略。大衆に呼びかけて資金を募ること。また、その募金に応じること。

なーんだ、「カンパニア」の略か・・・・って、「カンパニア」って何よ!?ところが『広辞苑』に「カンパニア」は載っていないのです。これでは「カンパニア」が何語か、わかりません。次に『新明解国語辞典』を引いてみました。
「カンパ」(ロkampaniya)大衆に呼びかけてする、資金の募集運動。
お!ちゃんと載っていました。一発でわかっちゃったなあ。私の予想が見事的中し、「カンパはロシア語」でした。外来語は、時代と分野によって、どの国から入ってきたものかがわかるケースがあります。例えば「登山」「医学」用語は「ドイツ語」が多いとか、「料理」「ファッション」用語は「フランス語」が多いとか、そういったものです。「カンパ」は「労働運動用語」だと思って、その分野の用語の多い「ロシア語」と予想したのですが、当って、よかった、よかった。

2003/3/14




◆ことばの話1114「のぼる・おりる」

駅のエスカレーターの近くに書かれている表示に、ここ数年注目しています。
すなわち、「上り」「下り」なのか、「昇り」「降り」なのか。それともひらがなで「のぼり」「くだり」なのか?同じ駅でも場所によって違ったりします。統一された基準はないようです。
そんな中で、いつも見ているのに気づかなかった、「灯台下暗し」の出来事があって、先日ハッと!したのです。
地元、大阪のJR京橋駅の階段には、こう書かれていたのです。
「のぼる」「おりる」
そう、ちょっと見には、「命令形」で記されているのです!もちろん、本来の命令形ならば、「のぼれ」「おりろ」ですが、よく学校の先生が子供たちに対して、
「はい、のぼる!」
「早く集まる!」
というような形で命令(号令)をかけることがありますよね。まさにあの形が、京橋駅において(確か鶴橋駅もそうだった)示されていたのです。
♪なんでだろ〜う、なんでだろう?
この「命令形」に関しては前に書いたと思うのですが・・・・ああ!どこで書いたか思いだせない!
なんでだろう、なんでだろうー??
なぜ命令形なのか?わかった方、お知らせください。最近、疑問の提示で終わるケースが多いなあ・・・なんでだろうー、なんでだろう〜???

2003/3/18

(追記)

JR和歌山駅で、階段の表示は、
「『のぼり』は青い看板に白い『↑』という矢印だけ」
でした。日本語だけで「のぼる」「おりる」、「のぼり」「くだり」と書くより、日本語が読めない外国人にも親切な「↑」という表示方法は(もちろん看板だから音声ではないのだけど)ノン・バーバルなコミュニケーションであり,ユニバーサル/デザインにも通じるなあ、と妙に感心してしまいました。
そもそもエスカレーターであれば、上っているのか下っているのかは見ればわかるので、そこに「のぼる」「おりる」という表記は不要です。上り・下りどちらでも使える「階段」だからこそ、表示をすることで利用客の整理整頓を計るわけです。その表示は、意味が伝わりさえすれば、日本語で表記する必要はないわけですね。

2005/1/22

(追記2)

出張で行った山口県の新幹線・徳山駅。この駅の新大阪方面へ向かうホームへ上がるエスカレーターの表示も、
『↑』
と、JR和歌山駅と同じく「矢印のみ」でした。ユニバーサル・デザインとしては文字表記より優れていますので、今後もっと増えるかもしれませんね。でも京橋駅の「のぼる」「おりる」も、捨てがたい魅力はあるのですがね。

2005/2/6
(追記3)

伊丹空港の全日空側エスカレーターには、
「昇り専用」「降り専用」
の表示がありました。
2006/12/21
(追記4)

近鉄・丹波橋駅の表示も、JR京橋駅と同じく、
「のぼる」「おりる」
でした。2006年9月15日にチェックしました。
2007/1/10


◆ことばの話1113「希望枠」

3月もあっという間になかば。22日から選抜高校野球が始まります。
「春はセンバツから」
なんてキャッチフレーズも思い浮かんだりして、いいですね。
さて、そのセンバツ出場校の初戦の対戦相手を決める、組み合わせ抽選会が、今日(3月15日)おこなわれ、そのニュースを読みました。今年の出場校は34校。そのうちの2校(新潟・柏崎高校、島根・隠岐高校)は、以前話題になった「21世紀枠」。そしてもう1校(旭川実業高校)は「希望枠」だと原稿に書いてありました。なんじゃ?「希望枠」って?取材した記者に聞くと、
「球児の親がものすごく熱心に甲子園出場を希望して、いろいろな働きかけをした学校だそうです。」
パードゥン?ほんまかいな?
それじゃあ、何かい?
「うちの子たちは本当に本当にとっても頑張ってるんで、是非是非甲子園に出させてくださいな。お金ならなんぼでもカンパして集めますけん。何でもします、新聞だってたくさん取ります!」
というように競わせて、その中で一番熱心だったところを出したって言うの?それはおかしいやろ、と記者に問い返すと、
「いや、そういうのではなくて、一応、実業高校ということで、これまでいくら頑張ってもなかなか出られなかったので、この機会に是非ってことらしくて・・・・」
どの機会じゃい!
「・・・・実業高校とか工業高校とか、それを別枠というのはどうなのよ。出たかったら実力で出ればええんとちゃうの?実業高校がなかなか出られないからって、特別枠で出すのは、かえって差別じゃないの?別枠って、スポーツマン精神に反するんではないかい?」
「うーん、そうですねえ。」

「『希望枠』って、主催者側の『希望』で、出てもらう枠じゃあないの!?」
勝ち抜きトーナメントでない春のセンバツは、主催者側の意図が入り込みすぎて、しかもそれがミエミエなので、どうも納得できない気がします。当の高校生達は、どう感じているのでしょうかね・・・。

2003/3/15


(追記)
「希望枠」、記者が話していたのいとは、ちょっと違うようです。
『週刊文春』3月27日号のコラム「小関順二は野球が好きです」で「センバツめざす球児を傷つける曖昧ロジック」というタイトルの文章が掲載されていました。その主旨としては私と同じことを言っていますが、それによると、「希望枠」とは「補欠校の中でもっとも守備成績が優れたチーム」ということのようです。また、「神宮大会枠」(1校)というのもできたそうで、毎年秋に新チームで行なわれる初の全国大会、明治神宮大会優勝校が出た地域から1校選出するもののようです。
誤解のないように言っておきますが、選ばれた高校、選手達にはなんの罪もありません。悪くありません。選び方が悪いのではないかといっているのです。「希望枠」という名前もあまりいいとは思えませんが。
そもそも、ルールに基づいて行なうのがスポーツ。そのルールを毎年のように勝手にいろいろ動かすのはスポーツマン精神に反するのではないでしょうか。単に「大人のエゴ」と子どもたちに思われないのでしょうか。心配です。

2003/3/19



◆ことばの話1112「抱負のほどは・・・」

センバツ高校野球の組み合わせ抽選会。それを取材したテープ、ニュースで放送された以外にも、地元校の主将にインタビューした素材を、各代表校の地元の放送局に対してマイクロ回線で送る作業が行なわれていました。それを見ていると、どうやらわりと若い男性アナウンサー1人が代表して、すべての学校の主将にインタビューをしているようです。。それを聞いているとその彼はこんな質問をしました。



「それで、抱負のほどは・・・」



えーっ?「抱負のほど」?それも言うなら「自信のほど」やろ?と思って、さらにそのテープを見ていると、途中でもう少しベテランの男性アナにインタビュアー代わったようです。そのベテランアナは、別の学校の主将に対して、ちゃんと、
「自信のほどは?」
と聞いていたので、ホッとしました。
なぜ「抱負のほど」はおかしくて、「自信のほど」ならよいのか?考えてみました。
答えはすぐに出ました。
「自信」というのは、「ある」「ない」、あるいは「大きい」「小さい」ということで、「量」で表わすことが出来ます。だから「ほど」という言葉で「程度」を表わせるので、誰に対しても「自信のほどは?」と聞くことが出来る。それに対して「抱負」というのは、それぞれの人にとってすべて違う、具体的に述べなくてはならないものなので、「量」で表わすことが出来ない。だから「ほど」という「程度」を聞く言葉を使って「抱負のほどは?」と聞くことはできないのではないでしょうか。
まあしかし、おそらくその若手アナウンサーの質問部分はカットされて、主将の答えだけが放送では使われるでしょうから、オンエアー上は、なんら問題はないのでしょうがね。

2003/3/21



◆ことばの話1111「カピカピ」

午後3時。お茶の時間。アナウンス部の部屋に、到来もののカステラがありました。前日、長崎国際テレビのHさんがいらっしゃった時に、おみやげでいただいたものです。
「あ、カステラがある!」
と目ざとく見つけたYアナが叫びます。
「じゃあ、食べようか」
とHアナ。しかし次の瞬間、Yアナが絶望的な声で、
「あ〜!ダメだあ、これもうカピカピ!」
おこぼれがあるかと期待していた私は、
「え?なんで冷蔵庫に入れてあったのに、しかも昨日もらったばかりなのに、もうカビが生えているの?」
と思ってガッカリしたのですが、よく聞いてみると、彼女が発した言葉は、
「カビカビ(KABI・KABI)」ではなく、「カピカピ(KAPI・KAPI)」
だったのです。つまり、カステラを切ったあとに、外気にさらしてあったので、カステラの表面が固くなっていたのです。それを指してYアナは「カピカピ」と言ったのです。
私はこの擬態語を初めて耳にしたように思ったので、Hアナに、
「『カピカピ』ってどういう状態を指して言うの?」
と聞きました。Hアナは、
「うーん、もともとは湿気を含んでいるものが、乾いてしまって干からびている様子を指す時に使いますかねえ。」
と解説してくれました。なんとなくイメージできました。と同時に、なぜかまことに具体的な例が頭に浮かびました。口にするのはちょっと恥ずかしいので、Hアナに小声で聞いてみました。
「それって、夢精したあとのブリーフの状態にも使う?」
「ウーン・・・使えますねえ。」
少し顔を赤らめたように見えたHアナは、しかし、私が挙げた使い方を認めたのでした。
そうか、そういう状態に使うのか。じゃあ、カステラには使って欲しくないな。
あとで国語辞典を引いてみると『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『広辞苑』『日本国語大辞典』『新潮現代国語辞典』『明鏡国語辞典』には「カピカピ」は載っていませんでした。どちらかというと、漫画の中から生まれてきた擬態語ではないでしょうか?
インターネットのGoogleで「カピカピ」を検索しました。すると、なんと3910件も出てきました。想像以上に使われている言葉なのですね。どういった使われかというと、
「のどがカピカピする」「鼻がカピカピ」「人差し指が、カピカピしている」「制服がカピカピ」「頬がカピカピ」「ズボンのお尻がカピカピ」「口元がカピカピ」「カルタの札に汁が付着して乾いてカピカピになった」「カピカピに目が乾く」
といったもの。ひらがなの「かぴかぴ」は260件、「カピカピ・乾く」という二つのキーワードで検索したら、156件でした。
2年目の若いSアナウンサーに、
「カピカピって言葉、使う?」
と聞くと、彼は即座に、
「全然使います!」
と答えたのでした・・・・。「全然使う」のかよ。頭、カピカピしてない?
ところで、カピカピしたものを擦ると、ピカピカするのかな。
(2003、3、15)

2003/3/15

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