◆ことばの話1090「チュアブル」

花粉症の季節です。私もくしゃみがとまらなかったり、目がかゆくなったりすることがあります。もっとひどい花粉症患者でこのところずーっとマスクを付けたままのタイムキーパーのHさんと話をしていると、
「私、どうしてもダメな時に飲む、チュアブルのキツイ薬を、ずっと持ち歩いているの。」
ここに出てきた「チュアブル」、最近よく耳にするのですが、本当はどういう意味なのかな?と疑問に思いました。私の理解では、
「トローチのように、丸くて真ん中に穴が空いていて、チューチュー吸うことが出来る薬」
が、「チュアブル」です。でもHさんの理解している「チュアブル」は、
「水と一緒に飲まなくてもよい、トローチのような薬」
でした。微妙に違います。
一体「チュアブル」とはどういう意味なのでしょうか?
Googleで「チュアブル」を検索すると、5590件も出てきました。「チュアブル・意味」で検索して「意味」を調べると、「チュアブル」とは
「噛むことが出来る」
という意味のようです。「アブル」は「〜できる」という意味でしょうから、そうすると「チュ」というのが「噛む」という意味かな?「噛む」は「bite(バイト)」では?和英辞典(『デイリーコンサイス』)を引いてみましょう。すると、「bite」(噛みつく)と並んで、
「chew」(よく噛む)
「gnew」(齧<かじ>る)

という単語が出ているではないですか。
そうか、「チューインガム」の「チュー」が、「チュアブル」の「チュ」だったのか!
そうだとすれば「チュアブル」と言うよりは「チューアブル」とちょっと伸ばした方が、わかりやすいような気もするんですが、いかがでしょう?
日本語で「チュウ」と言うと「齧る」なんですけどね。え?どうしてかって?だって、
「チュウ」と鳴くネズミは「齧る」でしょう?
ねえ!
2003/3/11



◆ことばの話1089「ちらし寿司とバラ寿司」

3月3日のひな祭り。関西ではこの日に、「ちらし寿司」を食べる風習があります。節分の日の「巻き寿司」といい、お寿司が好きなんですね、関西人は。でも「にぎり」でないところがミソです。
これに関して、「ニューススクランブル」のMプロデューサーが質問してきました。
「道浦さん、ひな祭りに食べるのは『ちらし寿司』ですかね?それとも『バラ寿司』ですかね?」
ああ、そう言えば、「ちらし寿司」のことを関西では「バラ寿司」とも言いますね。でも「バラ寿司」はきっと大阪弁だ、と思ったので、そのように答えると、M君は、
「ええ!?魚がバラバラっと乗っているのが『バラ寿司』で、乗っていないのが『ちらし寿司』じゃあないんですか?ずっとそう思ってきました!」
と言うではありませんか!
そうなの??
ちなみに『広辞苑』を引いても「バラ寿司」は載っていません。「ちらし寿司」は載っていますが。やはり方言なのでしょうか?
牧村史陽『大阪ことば事典』には・・・載っていました!
「バラズシ(ばら鮓)ちらし鮓。ゴモクズシ」
と出ていました。そうだ、ゴモクズシとも言いますね。
『日本国語大辞典』はどうでしょうか?
おお!さすが。載っていました。
「ばらずし(散鮨)=ちらし鮨の別称。押し鮨、握り鮨などに対し、鮨飯をばらばらにしたままなのでいう。(例)『私的生活』(1968)<後藤明生>四『妻が持参したばら寿司の弁当を食べたあと』」
辞書に載っていて、方言についての言及はありません。ということは、一概に方言とも言えないのかなあ。この用例に出てくる後藤明生さんはどこの出身なんだろうか?ネットで調べてみましょう。こういうのがすぐに見つかるので、インターネットは便利ですねえ、などと言っている間に見つかりました。
後藤明生さん。小説家。1932年〜1999年。旧朝鮮の永興(現在の北朝鮮)生まれ。福岡県立朝倉中学、同高校を経て早稲田大学露文科卒。その後、博報堂や平凡出版にも勤めていて、1991年からは大阪市内に住んでいます(それまでは千葉県在住)。近畿大学でも教鞭を執っていたし、どちらかと言うと西日本の人と、考えていいのではないでしょうか。
インターネット検索Google調査です。

ばら寿司・・・・・1040件
バラ寿司・・・・・・817件
ばら鮨・・・・・・・・8件
バラ鮨・・・・・・・・5件


五目寿司・・・・・・1370件
五目鮨・・・・・・・・29件
五目ずし・・・・・・666件
ごもく寿司・・・・・・15件
ごもくずし・・・・・・43件
ごもく鮨・・・・・・・0件


ちらし寿司・・・2万1800件
チラシ寿司・・・・・3220件
ちらし鮨・・・・・・・233件
チラシ鮨・・・・・・・・12件


うーん、どれもよく使われています。使用頻度で順位をつけると、
(1) ちらし寿司(2)チラシ寿司(3)五目寿司(4)ばら寿司(5)バラ寿司
表記にとらわれずに、3種類でそれぞれ合計すると、
ちらし寿司(系統)=2万5265件
五目寿司(系統)= 2123件
ばら寿司(系統)= 1870件


という結果でした。
ばら寿司は、果たして方言なのでしょうか?だとしたら、どのあたりで使われているのでしょうか?今後も調査を進めます。情報をお待ちしています!

2003/3/11

(追記)

東京の小駒勝美さんという方からメールをいただきました。それによると、
「関東地方には『ばらちらし』なるものがあります。神楽坂の『二葉』というお寿司屋さんの『ばらちらし』が有名です。『生ものを使わない関西の「ちらし」に対して、生の魚介類にあらかじめ下味を付けてしゃりに合わせた東京の「ばらちらし」は、この店が広めたといわれる』とあります。関東の寿司屋の『ちらしずし』の多くは生の魚介類を寿司飯の上にのせただけのもので、寿司飯と具は合わせていません。ただし家庭では、でんぶや干瓢(カンピョウ)などを寿司飯と合わせた『ちらし寿司』も作られています。関西の『ちらし寿司』(=バラ寿司)は後者のようなものではないでしょうか。だから『バラ寿司』という呼び方が可能なのではないでしょうか。しかし、関東の寿司屋のちらし寿司は、混ぜてありませんから『バラ寿司』とは呼べないと思います。」
小駒さん、ありがとうございました。神楽坂の二葉のホームページのURLまで載せてくれて。見てみると、「ばらちらし」なるものには、「鶏そぼろ」が使われて、これが独特のおいしさになっているそうです。「おひなさん」はもう終わったけど、今度東京に行った時には、この「ばらちらし」、食べてみなくてはなりますまい!

2003/4/5

(追記2)

東京出張で新橋の「福助」という寿司屋に入ったところ、
「ばらちらし」
というのがありました。見た目は関西の「ちらし寿司」と同じでした。2000円。結局食べたのは「海鮮寿司」だったのですが。今度、「ばらちらし」も食べてみようっと。
2003/12/16

(追記3)

2004年2月26日の読売新聞夕刊(大阪版)「食!味な関西」は、「ばらずしVSちらしずし」という願ってもいない特集でした。(文・西田朋子)

『アナゴ、ちりめんじゃこ、レンコン……。具だくさんの酢飯に、金糸卵の鮮やかな黄色が映える。もうすぐ三月三日の「ひな祭り」。この日に欠かせないすしを、どう呼んでいますか?「ちらしずし」、それとも「ばらずし」。』


という書き出しで、「ちらしずし」と「ばらずし」の違いについて、こう書いてありました。

『一般的な料理事典によると、具を酢飯の上に載せるタイプを「ちらしずし」、酢飯の中に混ぜ込むタイプを「ばらずし」「混ぜずし」と呼ぶようだ。伝承料理研究家の奥村彪生さんは解説する。「昔は酢飯に味付けした具を混ぜ合わせて小半時、重しをして味をなじませてから、木じゃくしで起こし、ばらして食べた。それで『起こしずし』とか『ばらずし』、具を混ぜるから『混ぜずし』と言いました。だから、もとは『ばらずし』なんです」 その原型は江戸時代の料理書などに見られるが、明治以降、重しをする手間を省くようになり、現在は、季節の野菜や魚介類をたくみに取り入れた庶民の味として、全国各地に伝承されている。』

とのことです。なーるーほーどー。具を上にちらすのが「ちらしずし」、具を混ぜるのが「ばらずし」なんだ。でもそれだと、既に上に書いたのと逆になるなあ。関西と関東で違うのかなあ?うーん、難しい・・。もう少し読み進むと、岡山の「ばらずし」が有名だと書いてあります。そして、

「一方のちらしずし。関西では、家庭で作るものをばらずし、プロのすし屋が作るものをちらしずしと呼んでいることが多い。関東では、ばらずしという言葉をほとんど使わないという。」

とも書いてありました。「ちらしずし」が東で、「ばらずし」が西かあ。さらに伝統料理研究家の奥村さんは、

「酢飯の上に魚の切り身を並べる『生ちらし』は近代に入って、江戸前のすし屋さんが考えたものです。すしのおいしさは本来、押したり、混ぜたりして出るものなんですが……」。

そして読者からの声として、ネットのサイトには、「ばらずし」派は、小豆島出身で大阪府富田林市在住の主婦(70)、神戸市北区(71)と兵庫県西宮市の主婦(48)の方。そして「ちらしずし」派は、大阪府門真市の主婦(39)、京都府宇治市の主婦(48)、京都府亀岡市の中学2年生(14)から応援メッセージが載っていました。「たまたまかもしれませんが、「ばらずし」派の方が年齢が高いような感じですね、ここだけ見ると。

2004/3/5

(追記4)

3月初めに放送された日本テレビのヒューマンドキュメント・ドラマ「冬のひまわり」。DVD録画しておいたものを、今頃見ました。主演は沢口靖子と吉田栄作。特に、事故で体が不自由になる夫役の吉田栄作の熱演が目立ちました。その吉田栄作の実家の愛媛に里帰りしたシーンで、母親役の藤田弓子が、
「はーい、ばら寿司(ずし)だよ」
と言うシーンがありました。これは舞台が愛媛だからでしょうか。愛媛は「ばら寿司」なのかな、自宅で食べるのは。

2004/4/5



◆ことばの話1088「星野阪神」

阪神タイガース、絶好調!!
なんと球団新記録のオープン戦、開幕7連勝です!!
こんなに勝たなくても本番にとっておけばいいのに・・・・と思っている方も多いのではないでしょうか?
さて、その星野監督率いる2年目の阪神タイガース、監督の名前を冠して、
「星野阪神」
というふうによく呼ばれます。もちろん野村前監督の時は「野村阪神」でした。
こういうふうに間匿名がチームの名前の上に冠として乗るようになったのは、「長嶋巨人」からですかねえ。その前も「川上巨人」「王巨人」「上田阪急」なんかがありましたっけ?
ところでこの「星野阪神」のアクセントが問題になっています。(読売テレビアナウンス部内で)
(A)「ほしの・はんしん(LHH・HLLL)」
(B)「ほしの・はんしん(HLL・HLLL)」

つまり、つなげてコンパウンドする(A)か、それとも二つに切って発音する(B)かということですね。
私は実は、「星野監督の」「阪神タイガース」という意味を表わすために、(B)のように二つに切って発音するのですが、最近はどうやら繋げてコンパウンドする(A)の人が増えているようです。
そもそもコンパウンドするのは、二つの言葉がくっついて出来た複合語が、一つの言葉として認められるということですから、その言葉(複合語)の使用頻度が増えればコンパウンドしていくものです。だから、「星野阪神」という言葉をよく使うスポーツ関係の人は、コンパウンドする人(A)が多いでしょうし、あまり馴染んでいない人は二つの語に分けて発音するでしょう。
特に後ろに来ている「阪神」は、もともと「頭高アクセント」なので、A,Bどちらの場合でも「阪神(HLLL)」と、アクセントは変わらないし、もしも前にくっつく名前が「平板アクセント」ならば、コンパウンドしてもしなくても同じアクセントになるので、こういった問題は起きないのですが、前に付く言葉が「頭高アクセント」や「中高アクセント」の場合に、コンパウンドするしないで、聞いた感じがずいぶん異なってくるので、こういった問題が起きるのです。
まあ、阪神の話題が増えるにしたがって、コンパウンドする(A)の言い方をする人が増えることは間違いないと思われます。何と言っても
「阪神タイガース」
というチーム名だって、「阪神(HLLL)」と「タイガース(HLLLL)」という、二つの頭高アクセントの言葉がくっついて、今や何の不思議もなくコンパウンドして、
「阪神タイガース(LHHH・HLLLL)」
と呼んいるんですからね。(大阪弁だと「HHH・HLLLL」となりますが。「LLL・HLLLL」ではないという意味では同じです。)

2003/3/11

(追記)

視聴記録。7月23日のNHK衛星放送テレビでの番組宣伝で、男性アナウンサーが、
「星野阪神」(HLL・HLLL)
と区切って読んでいました。

2003/8/18


◆ことばの話1087「修繕のアクセント」

3月10日、国会中継をラジオで聞いていた時のこと、リゾートホテルがたったの1万0500円で市町村に払い下げられている問題について質問を受けた坂口厚生労働大臣が、

「修繕(HLLL)」

という頭高アクセントで答えていたので「おや?」っと思いました。
そして、お昼のニュース。滋賀県豊郷町の町長リコールが成立、町長が失職したことを受けて、長野県の田中康夫知事がインタビューに答えて言った言葉の中に、やはり、

「修繕(HLLL)」

がありました。本来「修繕」のアクセントは「修繕(しゅうぜん=LHHH)」の平板アクセントしかありません。それがなぜ、頭高アクセントになってしまっているのか?

一つ目に考えられるのは、頭高アクセントの方がインパクトがあるから。よく政治家は頭高アクセントを使います。それの流れではないでしょうか。

もう一つ考えられるのは、同じような意味の言葉である「修理(HLL)」が頭高アクセントなので、それに引かれる形でつい頭高アクセントで「修繕(HLLL)」となってしまったのではないか?ということです。

実際のところは、どうなんでしょうね。

2003/3/10



◆ことばの話1086「金券チケット」

先日のニュースの原稿の中に、

「金券チケット」

という言葉が出てきました。それを聞いてこう思いました。

「金券の『券』と『チケット』が重なっているのではないか?」


確かにそうですよね、誰が見たって重なっています。Google検索したところ、

「金券チケット」・・・・・・1120件
「金券」・・・・・・・11万2000件
「チケット」・・・・310万0000件


でした。1120件ということで、まだ「金券チケット」という言葉は一般的とは言えないでしょう。が、1000件を越えて使われているのも事実です。
思うに「チケット金融」という言葉がありますが、その時に使われるのがこの「金券チケット。」もちろん、たんに「金券」で良いのですが、そうすると「チケット金融」という言葉との「文字(字面)上の共通点」がなくなってしまうのです。
そこであえて「チケット」をくっつけて「金券チケット」としているのではないか?と思いますが、いかが??

ちなみに「チケット金融」をGoogle検索すると、233件。まだそれほど広がっていないようなので、少し安心しました。(平成ことば事情1067「石ころと虫けら」をご参照ください。)

2003/2/28


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