◆ことばの話1050「地上デジタル放送」

2002年12月18日、在京テレビ局と在阪テレビ局は揃って、「デジタル放送局」の免許を総務省に申請しました。
2003年の12月から、東京、大阪、名古屋の三大都市圏で地上波のデジタル放送が開始されます。それに向けて大きな一歩が踏み出されたわけです。
ところでその地上波でのデジタル放送のことを、少なくとも2002年の11月までは、読売テレビでは、
「地上波(ちじょうは)デジタル放送」
と呼んでいました。ところが12月に入ってから、これが
「地上デジタル放送」
と呼び方が変わったのです。「波」が落ちちゃいました。いや、放送で「波」が落ちると困るのですが。
他局を見ていても、どうも「地上デジタル放送」という言い方をしているようです。ところが新聞は相変わらず「地上波デジタル放送」と書いています。一体どっちが正しいのか?なぜ「地上波デジタル放送」から「波」が消えたのか?各局の状況を聞いてみました。



(日本テレビ)「地上デジタル」。総務省の資料に基づいている。
(TBS)「地上デジタル」。「衛星デジタル放送」では「波」が付いていないこともあり、免許申請を機に「地上デジタル放送」に統一。民放連が発行している雑誌『民間放送』2002年12月23日号でも「地上デジタルテレビ放送」「地上デジタル放送」となっている。
(フジテレビ)地上デジタル放送
(テレビ朝日)2002年12月19日付で「地上デジタル放送」で統一。以後、「地上波デジタル放送」は使わないことに決めた。理由は「電波六法」では「地上系デジタル放送」との表記しかないが、「地上系」ではなじみが薄いので、総務省では「地上デジタルテレビジョン放送」「地上デジタル放送」という表記を一貫して使っているので、それに合わせて。
(テレビ東京)総務省に倣って「地上デジタル放送」。2〜3年前は「地上波デジタル」と言っていた気がするが。
(NHK)「地上デジタル放送」
(読売テレビ)「地上デジタル」2002年12月に入ってから、それまでの「地上波デジタル」から「波」が落ちた「地上デジタル」に変更になった。が、それほど認知・徹底されていないかも。
(毎日放送)???
(朝日放送)「地上デジタル放送」。総務省からの正式名称指定に基づいて、免許申請した放送局が一斉に「波」をはずした。「衛星波放送」とは言わないので、「地上波」のほうが変だったことになるようだ。
(関西テレビ)公式文書を始め、ニュース表記など、すべて「地上デジタル」。
(テレビ大阪)???




新聞社などにも聞いてみました。
(読売)「地上波デジタル」の方が使われているが、「地上デジタル」も皆無ではない。「衛星デジタル」に対応する言葉だから「地上デジタル」でいいと判断したものかどうかはわからない。
(朝日)「地上波デジタル放送」。「波」を入れないのは、「全国地上デジタル放送推進協議会」などの固有名詞の場合が大半。社内的な取り決めというわけではなく、「地上波」という言葉が先にあった。
(毎日)基本的に「地上波デジタル放送」。データベースでは「地上デジタル放送」も検出されるが、テレビ局側の団体名などの会見の場で、相手側が「地上」を使っているため、これに引きずられているようだ。社内の用語通達などで、「地上波」使用の規定はない。
(産経)両方使っている。2000年〜2002年のデータベース検索では、「地上波デジタル放送」=132件、「地上デジタル放送」=57件。「地上波デジタル放送」の方が収まりが良い感じがするが・・・。
(日経)ずっと「地上波デジタル放送」。
(共同通信)「地上波デジタル放送」。対になる言葉は「BSデジタル」「放送衛星デジタル」とすると、理論的には「地上デジタル」だが、「地上波デジタル放送」の方が収まりがいいような気がする。
(京都新聞)「地上波デジタル放送」。共同通信の配信にならって。
(神戸新聞)「地上波デジタル放送」。2002年12月27日現在のデータベースによると、「地上波デジタル」=63件、「地上デジタル放送」=25件。両方使っているようだ。系列のサンテレビでは「地上デジタル放送」を使っていた。
(東京日刊スポーツ)「地上波デジタル放送」
(スポーツ報知)「地上波デジタル放送」
(スポニチ)「地上波デジタル放送」
(中日スポーツ)「地上波デジタル放送」




という返事が返ってきました。
思うに、総務省が「地上デジタル放送」と「波」の付かない表現をしているので、免許をもらう立場のテレビ局はそれに倣ったのではないか、また、免許とは無関係の新聞は、今までどおり「地上波デジタル放送」と「波」をつけて表記しているのではないでしょうか。
「免許交付の2002年12月に入ってから」、テレビ局が「地上デジタル放送」と「波」を取ったのが、どうもその証拠に思えるのですが。
思うに(またか)、「地上デジタル放送」は「よそいき」の表現、「地上波デジタル放送」は今まで着慣れた「普段着」の表現なのかもしれません。
総務省のホームページを見てみると、既に2001年7月17日に一般放送事業者、日本放送協会、総務省、各地域(32)の地上デジタル放送推進協議会は「全国地上デジタル放送推進協議会」というのを設立していました。ここの名称にも「波」は付いていません。
そして、



「もっと楽しく、もっと便利に。すべてのテレビジョン放送がデジタル化されます〜
地上デジタルテレビジョン、放送スタート!」




というポスターの図案が載っていました。これも「波」はついていません。
2003年2月13日現在、Googleで検索しました。



「地上波デジタル放送」=6730件
「地上デジタル放送」 =5010件




まだ、「波」が付いた方がわずかに優勢というところでしょうか。
2月9日からは、いよいよ「地上デジタル放送」に向けて、「アナアナ変更」(これも以前は「アナアナ変換」と言っていた)が始まりました。今後もこの動向は注目です。




*「平成ことば事情318『空中波テレビ』も参照してください。

2003/2/14


(追記)

2003年6月5日の産経新聞では、
「地上デジタル放送」
という表現を使っていました。私が目にした新聞では、一番早く「地上波デジタル放送」から「波」を取った表現を使った例です。



2003/6/13



◆ことばの話1049「詐欺盗」

Wアナウンサーから内線電話です。
「道浦さん、サギトウって、アクセントはどうなんでしょう?」
「?何?サギトウって?」

サギソウ(鷺草)なら知っているけど。
「なんか、相手を騙してキャッシュカードの番号などを聞き出してお金を盗む手口のことだそうです。」
ふーん、それを指して「詐欺盗」と言うのか。知らなかった。初めて耳にする言葉です。でも、
「金庫盗」
という言葉があるから。これは「キンコトウ(LHHHH)」と平板アクセントだから、「サギトウ」も「LHHH」と平板じゃないの?と答えておきましたが。
その翌日、今度は新聞に、
「自動車盗」
という見出しが躍っていました。おそらくこれは警察用語なのではないでしょうかね。
そして今朝(2月13日)の読売朝刊には、
「ピッキキング盗」
の文字が。なんでも「盗」を付ければいいのか?
よく見ると「盗」の前の言葉の構成が違います。
「自動車盗」「金庫盗」は「盗む対象物+『盗』」で構成されている複合語ですが、「詐欺盗」「ピッキング盗」は「盗みの手口+『盗』」です。前者はわかりやすいが、後者は、ちょっとわかりにくいかもしれませんね。
いずれにせよ、字で見ればすぐに分りますが、音で聞くと非常にわかりにくい言葉であることは間違いありません。

2003/2/13



◆ことばの話1048「きしゅへん」

森若アナウンサーのサイト「u.t.a.t.a.n.e.日記」の最新、2月13日の分を読んでいると、最近、携帯電話の機種を変更したということが書いてありました。カメラ付きだそうです。ふふん、オレなんかもう3か月前からカメラ付きだもんね・・・そんなことはどうでも良いのですが、そのエッセイのタイトルは、
「きしゅへん」
でした。ふーん、「機種変更」のことを若者は「きしゅへん」と言うのか。単純な略語ですね。インターネットの検索エンジンGoogleで「機種変」で検索してみたところ、
8270件
もありました。
「機種変更」という元の形では、4万8000件、カタカナでの「キシュヘン」が25件、そして森若アナウンサーのように、ひらがなでの「きしゅへん」は27件でした。
つまり、ふだんの会話の「話し言葉」では「機種変更」のことを、「機種変」という漢字を意識した上での略語がよく使われているということ、ただしそれを文字で書く場合には、まだ音声だけの「キシュヘン」とは書かないことが伺えます。カタカナで「キシュヘン」と書くと、ドイツ語みたいでちょっとヘン。ひらがなの「きしゅへん」だと、関西弁ぽく見えます。
「かわへん、つかわへん、きしゅへん。」

2003/2/14



◆ことばの話1047「空中はどこまで?」

スペースシャトルコロンビア号の空中爆発。ショックでした。2月1日、日本のテレビ誕生50年(といってもNHKの、ということですが)の日が終わろうとしている時間帯に入ってきたこのニュース、「まさか」と思いました。
「大気圏突入後」に「空中爆発」したということですが、それを聞いて、ふと疑問が。



「空中爆発というけれど、『空中』って、一体どこまでを指すのだろうか?大気圏の中までか?宇宙空間は『空中』じゃないよな。『空気』があるところが『空中』?いや、『空中』にある気体だから『空気』?一体どっち??」



また『日本国語大辞典』を引いてみました。
「くうちゅう(空中)=(古くは「くうぢゅう」とも)大空のうち。なかぞら。空気中。そら」
じゃあ、空気は?
「くうき(空気)=(1)地球の大気の下層部を構成する無色、透明の気体。酸素と窒素を約一対四の割合で主成分とする混合気体で、少量のアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスや炭酸ガスなどを含む。(以下略)(2)あたりの気分や状態。また、ある生活の場の環境や習慣を表わす。雰囲気。」
たはりこれは(1)の方だと思いますが、「地球の大気の下層部」とあります。つまり「大気圏」よりも下の方が「空気」がある場所。まあ、私たちが住んでいるところですね。
私たちが住んでいるところでも「高地は空気が薄い」事は、高橋尚子選手でなくても知っていますよね。つまり、空気は上に行けば行くほど薄くなって、宇宙空間には空気はない、という小学生でも知っている話に行き着くのです。
地球の地面は、高いところでも8000メートルから9000メートル、つまり地面(海抜0メートル)から8〜9キロしかないわけです。今回のシャトル爆発のあった場所は高度61キロメートルといいますから、メートルにすると1000をかけて、61万メートル。エベレストの7倍ぐらいの高さのところです。そのあたりには、大変薄いけれども空気があって、空気のあるところは「空中」と言って良いのでしょう。大気圏に入れば「空中」です。爆発って空気がないとしないのかな?そんなこともなかろう。太陽は、空気がないところで燃えているのだし。なんか、もう一度、中学の理科をやり直した方が良いような感じになってきました(シュン・・・)。

2003/2/13



◆ことばの話1046「やや高い」

「平成ことば事情1045『降水確率30%』」の続きです。またSアナウンサーが聞いてきます。
「じゃあ、『降水確率はやや高いでしょう』というコメントですけど、『やや低いでしょう』とは言いませんよね、『低いでしょう』は言っても。この『やや』は、なぜ『高い』にしか付かないんでしょうか?」
また、思い付きで即答しました。
「うーん、降水確率の場合、やはり気になるのは『雨が降るかどうか』だから、『降る確率』が少しでも高いと気になる。だから『高い』の方は少しくらい高くても『やや』と付けて注意を促すんじゃない?確率が低い時は『気にしない』ので、別に少しくらい低くても関係ないから『やや』は付かないのじゃない?」
これを受けてSアナウンサーも、
「なるほど、そう言えば、気温の時は『やや高い』『やや低い』両方使いますよね。気温は高くても低くても気になるということか。」
また、解決!
解決の確率は「やや高い」ですね!

2003/2/8


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