◆ことばの話1045「降水確率30%」

アナウンス部のテレビで天気予報を見ていたら、一緒に見ていた後輩のSアナウンサーが話し掛けてきました。
「降水確率って、何%からが『高い』んでしょうね?」
これについて私は、自分の感覚から即答しました。
「やっぱり30%からじゃない?」
「どうしてですか?」
「野球でも3割打てば強打者じゃない。3割というのは相当な確率でしょ。それと、その日の天気が良いか悪いかによっても、確率の感じ方は変わるよね。その日やその前日が晴れていた時に、『降水確率30%』というと『高いな』と感じるけど、その日か前日が『雨』ならば、30%という確率は『低いな』『もうすぐ雨、やむな』と感じるのではないかな。」
もう一つ、思い浮かんだことがあります。
「そもそも、天気って大阪では『晴れ』ベースだから、『雨が降らない日』の方が『降る日』より少ないでしょ。その割合を例えば1週間のうち『5日、晴れ』で、『2日、雨が降る』と仮定すると、雨が降る日の期待率は、『7分の2』=『28、6%』。その期待率よりも降水確率の数字が大きければ『降水確率が高い』と感じ、それよりも降水確率が低ければ『低い』と感じるのではないかな。別に実際の具体的な『1年のうち雨の降る日がどれだけあるか』を知らなくても、そのへんは身体で覚えているのではないかな?」

ということは、雨の多い地方に住む人が、降水確率が「高い」と感じる数字は相対的に大きく、雨の少ない地方に住む人が「高い」と感じる降水確率の数字は、相対的に小さい、ということになりますね。
Sアナにはこれで納得してもらえましたが、皆さんはどうでしょうか?。

2003/2/8


◆ことばの話1044「NLP」

ふだんあまり耳にしたことのなかった「NLP」、アメリカ軍空母艦載機の夜間離着陸訓練。現在は硫黄島や神奈川県の厚木基地で行なっているものを、どこかよそに移転させる計画で、広島県の過疎の町・沖美町が候補地に挙がったと1月下旬に毎日新聞がすっぱ抜いたあと、「国際平和都市・広島のイメージを損なう」という世論が巻き起こったことを受けて、誘致していた沖美町の谷本町長が、計画を白紙撤回、辞任するという展開を見せました。
「NLP」は「ナイト・ランディング・プラクティス(Night Landing Practice)」の頭文字を取った略語。2月7日の読売新聞によると、「夜間の地上滑走路を空母の甲板に見たてて、瞬間的離着陸(タッチ・アンド・ゴー)を反復して行なう訓練のこと」だそうです。
このニュースを伝えた日本テレビ系列の広島テレビからの放送では、
「夜間離発着訓練」
と言っていた(字幕スーパーもそう出ていた)のですが、「離発着」は、おかしいですよね。日本新聞協会・新聞用語懇談会放送分科会編の『放送で気になる言葉・増補版』にも「間違い」と載っています。「発」が「離」と重なっているのです。正しい形は「離着陸」です。
各新聞の記述はどうでしょうか? 読売・産経・日経=「夜間離着陸訓練」
朝日・毎日 =「夜間発着訓練」


と、「離着陸」を使っている新聞と、「発着」を使っている新聞に分かれています。
普通、こういった外国語のアルファベット略号の日本語訳は、一つに統一されることが多いのですが、微妙なニュアンスの違いがあるのでしょうかね。よくわかりませんが。
2月5日のTBSの夜のニュースでは、「夜間離着陸訓練」と読んでいました。新聞の系列とは違う読み方ですね。

2003/2/5


◆ことばの話1043「再突入」

NHK放送文化研究所の原田邦博さんからメールをいただきました。

「空中で爆発したスペースシャトル・コロンビア号のニュースで、大気圏に『突入』とする新聞と『再突入』という新聞がありました。日本語で考えると、『再』はおかしいのですが、原語が『RE-ENTRY』でこれを訳したため『再突入』とした社もあったようです。専門用語でもかなり使われています。『再入』という言葉でもあれば良いのですが。」

というものでした。以前この「再突入」に関して同じような指摘を受けたような気がするのですが、すっかりそのまま流してしまっていました。確かにそう言われると、「再突入」はちょっと引っかかります。
後輩のSアナに「どう思う?」と聞いたところ「僕は気になりません年ねえ」ということ。そこで、
「ではなぜ、物理的には『再』ではないのに『再突入』と言っても気にならないのか?」について考えてみました。
思うに、スペースシャトルとその乗組員は、「地球にいることがもともとあるべき状態」であって、宇宙には「たまたまちょっと出かけている特別な状態」な訳です。だから、地球への「帰還」に関しては「戻ってくる」というニュアンスが非常に強いわけです。それに対して、大気圏への「突入」という言葉は、「突き進む、入っていく」という前向きの言葉で、「戻って来る」という後ろ向きのベクトルのニュアンスをまったく感じさせません。それで、「再びあるべき状態に戻って来る」というニュアンスを付加するためについ「再」を付けて「再突入」としてしまうのではないでしょうか。
また、最初に宇宙に向かう時に、大気圏から脱出した状態も(ベクトルを考えなければ)「大気圏と宇宙空間の境目」を通っているわけですから、ベクトルの向きは逆でも「また大気圏と宇宙との境目を通る」という意識も働いているのかもしれませんね。それが「再」を付けさせる心理的状態なのではないでしょうか。

2003/2/9


◆ことばの話1042「押し貸し」

2月5日の「ニューススクランブル」で最近の違法金融の実態を紹介していました。
その一つが、
「押し貸し」
と呼ばれる耳新しいものでした。
これは、消費者金融などで金を借りたことのある人で、きっちり返済をしている人のデータを手に入れて、その人の銀行口座に勝手にお金を送りつけた上で、数日経ってから「口座に振り込んだ金を、利息つけて返せ!」と迫る、まったくもって腹立たしい、違法なやり方を言います。これまで「押し売り」というのは聞いたことはありますが、「押し貸し」というのは、少し前に初めて聞きました。しかし、まさにその方法は「押し貸し」の名にふさわしい(?)非道なものです。貸借契約書も何もなく、勝手に金を振り込んできただけなのですから、こちらから何か払う義務はないのですが、律義な人は相手の勢いに押されて法外な利息まで付けて金を払ってしまうみたいなのです。
Google検索で「押し貸し」を引いてみると、573件引っかかりました。そこそこ使われ出しているけど、まだまだ新しい言葉のようです。
できればこんな言葉がはびこりませんように。(もちろん、こんな行為も。)

2003/2/6


◆ことばの話1041「日本海と東海2」

(旧聞になりますが、かきかけたまま、たなざらしにしておいたら、新しい動きも加わってきたので、お許しを・・)
「平成ことば事情793」で長々と書いた「日本海と東海」に関連する話題、その後も出ていました。
2002年10月1日の産経新聞22面「オピニオン面」で連載していた、地名研究家の楠原佑介さんの「地名に誇りを」の2回目で、「日本海の呼称に関して韓国が『東海』と主張していること」について、楠原さんは次のように答えています。

「あれは『日本海』で当然なんです。どこかの新聞で韓国の学者の方が、いくつかの論点を挙げて『日本海』じゃ、かくかくしかじかで間違っているんだという論を展開していました。そのなかの一つに、ヨーロッパのいろんな古地図を調べてみたら、今『日本海』という呼称を使っている海域を、必ずしも『日本海』というふうには呼んでいない。日本の太平洋側の海に『日本海』という記名をしている地図もある。それから、今の日本海の朝鮮半島寄りには、『朝鮮海』という記入がある。だから、『日本海』という呼称は確定していなかった。それを勝手に確定したのは日本だというんですね。これは間違いです。なぜなら、ある時代までの地図には視点というものがありまして、ヨーロッパからアジア大陸を越えて極東を見た場合、朝鮮半島あるいは沿海州寄りの海面は、コリアの先にある海だからコリアン・シー。つまり『朝鮮海』です。また、アメリカ大陸側から太平洋を越えて東アジアを見た場合に、日本の手前の海を日本の沿海だという意味で、ジャパン・シー、『日本海』とネーミングするのも当たり前です。それはそれぞれの視点でいろんなネーミングを、立場立場、個人個人、あるいは国々のそのときどきの状況で使い分けてきた。」
楠原さんの話はまだ続くのですが、要約すると、
「各国が勝手な名前を付けると海難救助の場合とか、軍事上の情報を得る場合も困るので、1921年にできた国際水路局(現在の国際水路機関=IHO)によって海図上の名前の統一が図られたという経緯がある」
というのです。なるほどねえ。

また、2002年10月17日の日経新聞夕刊1面の「あすへの話題」に、京都国立博物館館長の興膳宏さん「東は東か?」というタイトルのコラムを書いてらっしゃいました。

「日本海の呼称をめぐって、日本と韓国の間で論争が起こっている。朝鮮半島からすれば、日本海は東にあたるから『東海』と呼ぶ。しかし、中国では東シナ海のことを自国の東にある海だから『東海』と称する。二つの『東海』の存在は人を混乱させるが、要するに、どこを基準にするかが出発点になっている。」

という書き出しで始まります。そうなんですよね、東とか西とか、基準がどこによるかで変わってくるので、そういった名称も国際間では問題と言えば問題なんですよね。国内であれば、何の問題もないんですけど。興膳さんはこのコラムをこのようにまとめています。

「『隣家の東は我が家の西』丸い地球をどこまでも東に進めば、やがて『極西』のヨーロッパに行き着くはずなのだが。」

ごもっとも。
それからさらに時間が経った11月14日の日経新聞に、また「日本海」問題が小さな記事ですが載っていました。共同通信の配信記事です。見出しは、
「ワシントン条約会議でも議論に〜『日本海』呼称問題」
で、記事は、
「日本と韓国の間で呼称が論争になっている『日本海』の問題が、チリで開催中の絶滅の恐れがある野生生物問題を扱うワシントン条約締結国会議でも議論になり、十二日、日本側がこの問題に関して特別に発言を求める一幕があった。発端は八日に条約事務局が各国に配布した文書。『(海の国際的呼称の指針を決める)国際水路機関(IHO)などの韓国に基づき、関連文書の中では、日本海を『東海/日本海』と併記する』と通知した。関係者によると、日本が会議に提出した文書に『日本海』の記述があったことに韓国側が反発したという」
全文、載せちゃいました。まだ火種はくすぶっています。

その後長い間、原稿をたなざらしに放っておきました。足掛け2年(実質3か月)。
『日本の歴史』(1997年初版、2002年16刷)という、網野善彦さんの上・中・下3巻の岩波新書を買ってきて、さて読もうとした第一章「原始の列島と人類社会」の口絵として載っている白黒写真が、中国大陸から見た日本の地図、「環日本海諸国図」。富山県が建設省(当時)国土地理院長の承認を得て作成した地図です。
これで見ると、真ん中にドーンと鎮座する「日本海」が湖のように見えます。また日本列島は、大陸の一番端に弓形の橋梁のように見えるのです。この地図を見ると、「日本海」と呼ぶのは、ちょっとはばかられるような気になります。ちょっと弱気。
そして「列島の形成」(6〜7ページ)というところに、
「北部は津軽海峡、西部は朝鮮海峡によって、四国・九州をふくむ本州島がまず大陸から離れ、巨大な内陸湖はいわゆる日本海になる」
と記してあります。なんかこの文章を読んでいるだけで、日本の地形がグニューっと動いているコンピューター・グラフィックスを思い浮かべてしまいますね。
また、注意書きとして、
「海に『日本』という国名を冠したこの名称は、決して適切ではなく、将来、再検討される必要があると考えるが、当面、便宜上この名称を用いる。」
つまり1997年の時点で網野さんは、「日本海という名称は適当ではない」と考えていたようです。そういう考え方は、新潟大学の古厩(ふるうま)忠男教授だけではなかったのですね。

そうこうしている間に、また日にちが経ち、2月2日午前零時(2月1日24時)のNHKテレビのニュースを見ていると、こんなことを言っていました。
「日本海のことを『日本と韓国の間の水域』と、26日の『ニューヨーク・タイムズ』が表現した」
というのです。例の「『東海』と呼べ」という韓国側の主張に配慮したからだそうです。
困るよねえ、ニューヨークタイムズも。ゴジラ松井がそっち行くんだから、日本側に配慮してくれてもよさそうなものなのに。まあ、それは冗談にしても、この問題はまだまだ尾を引きそうですね。

と、2月3日に書いたら、2月6日(木曜日)発売の『週刊文春』(2月13日号)の51ページ、「海外」のコーナーにこの件が出ていました。

「世界地図から『日本海』を消そうと画策を続ける韓国のワル足掻き」

というタイトル。『ニューヨーク・タイムズ』が「日本海」の代わりに「日本と韓国の間の水域」という表現を使ったことについて書いてあります。
その記事によると、ニューヨークでは韓国総領事館のバックアップもあって在米韓国人達の間で『ニューヨーク・タイムズ』に対する投稿や電話などによる読者キャンペーンを展開中だそうで、在米韓国人学者から「日本海」という表記に対して訂正を要求する手紙を受けた『UAトゥデー』はその抗議に回答して、今後は地図には「東海」を併記し、記事には「東海あるいは韓国海ともいわれる」という文章を挿入することを約束した、とも書かれています。
そして韓国国内では、昨年秋から再有力紙「朝鮮日報」が主催する「あ!東海」展が開催され、「奪われた海・東海を取り戻そう」と主張し、子供たちの学習の場になっている、とのこと。子どもに思想教育はいかがなものかと思いますが。でも「歴史教育」って思想教育だもんなあ。でも「あ!東海」展って、俳優の「阿藤 海」さんが出ているのかとおもいました。「あ」が1個足りないんじゃない?

いずれにせよ、すでに生活に馴染んでいる日本での「日本海」という呼称に関して、韓国では「東海」という呼称が生活の中に溶け込んでいるのかどうか、ということが 明らかではありません。イデオロギー闘争としての呼称を巡る争いは「不毛」ではないでしょうか。

2003/2/8

(追記)

お久しぶりです。2004年2月20日の産経新聞にこんな記事が載っていました(黒田勝弘記者)。ソウルの在韓日本大使館がインターネットの広報資料(韓国語)で、
「東海(トンヘ)」
の表記を使っていたというのです。大使館の高野紀元大使は「ホームページ作成を委託している韓国業者の翻訳文を十分に点検しなかったのが原因。まことに申し訳ない。」と話しているとのこと。問題の箇所は、「北西太平洋(東海および黄海)」や、新潟県の資料で「西に東海をながめ・・・」など、昨年までの資料6か所で「日本海」が「東海」になっていたそうです。 これを受けて、さっそく2月21日の産経新聞『産経抄』がこの問題を取り上げ、
「韓国は反日・愛国運動として『東海』を主張し、官庁機関やマスコミもそう先導してきた。その反日キャンペーンを、こともあろうに日本大使館が広報で"支援"したのである。あいた口がふさがらぬとはこのことか。(中略)この重大な責任はきちんととってもらいたい」 と記しています。忘れた頃にこの「東海」問題は、また湧き上がってきますね・・・。

2004/2/26