◆ことばの話1010「トルコはヨーロッパか」

去年(2002年、というか先月)12月12、13日に、デンマークのコペンハーゲンで、EU=欧州連合の会議が開かれました。そこで協議されたのは、「EUの拡大」でした。現在EUに加盟しているのは15か国。ちょっと前迄の私の常識の中ではEU・・・というかECなんだけど、12か国だったのにな。青いフラッグの真ん中に12個の黄色い星がまあるく並んでいました。今はその星が15。今後どんどん拡大しそうで、来年(2004年)にはポーランド、チェコ、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタ、キプロス、スロバキア、スロベニアの10か国が加わって、25か国になります。さらに2007年にはブルガリアとルーマニアも加盟予定。星の配置はどうなるのでしょうか。
そんな中、加盟申請をしているのだけれど凍結中なのはトルコです。旧東欧、中欧の国々までEUに加わり拡大を続けているのですが、こと、トルコに関しては、いろいろ問題があるようです。
そもそもトルコはヨーロッパなのか?
この問題に関する記事が12月頃から新聞紙面をにぎわせています。
きっかけは11月、ジスカールデスタン欧州将来像協議会議長(元フランス大統領)の、
「トルコは欧州ではない。(加盟は)EUの終わりだ」
という爆弾発言です。これによって、EUの中心の一つの国であるフランスが「ヨーロッパ」を、そして「トルコ」をどう考えているのかの一端がわかりました。12月6日の日経新聞には、
「トルコ加盟問題、欧州各国そろり前向きに〜米、イラク攻撃にらみ働きかけ」
という記事が載っていました。そして12月11日の読売新聞は、
「EU首脳会談あす開幕、トルコ加盟問題焦点 米圧力、各国思惑交錯」
「加盟、『夢だけど・・・』トルコ国民『異分子』扱い懸念」

記事内容には、
「EUは1999年のヘルシンキ首脳会議で、トルコを加盟候補国と認めたが、そ"真意"には疑問符がついた。ジスカールデスタン氏の発言はEUの一定の指導層の本音だ」
と書いてあります。トルコがEU加盟に意欲を示したのは1960年代で、87年には正式に加盟を申請しましたが、冷戦終結後に加盟に動き出したポーランドなどに次々と先を越されています。
なぜか?
イスラム教徒が大勢を占め、国土がアジアにも広がるトルコは、結局、欧州の「異分子」として拒否されている、ということのようです。EUは「キリスト教国」の集合体ですから「イスラム教」とは相容れないこと、またトルコの領土の97%が、ボスポラス海峡を挟んでアジア側である(ヨーロッパ側は3%しかない)事もその原因の一つでしょう。
EUの精神的支柱をキリスト教精神に置くよう、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世も発言しています。でも歴史に目を移すと、欧州を恐怖に陥れたオスマントルコ帝国のスレイマン一世(在位1520年〜66年)がローマ皇帝を自任していたそうです。 そんな中、トルコのEU加盟を積極的に後押ししている国があります。それはEU加盟国ではない「アメリカ」です。アメリカは今イラクと戦争直前の状態。臨戦状態。そこで、イラクの隣国・トルコに、アメリカ軍の前線基地を置くことは、アメリカにとって対イラク戦略で欠かせないという状況があるのです。12月12日の読売新聞には、
「トルコ加盟 米大統領『支持』」
とありました。
12月12、13日にコペンハーゲンで開かれたEUの会議を踏まえて、12月17日の読売新聞の解説面では、
「拡大EUと米」
というタイトルでこのあたりの事情を解説していました。サブタイトルは、
「欧州再統一の中『独脅威論』薄れたが、新加盟国の親米姿勢、意思決定に影響も」
です。記事の中には、
「ブッシュ米大統領は、対イラク攻撃で協力を求めなければならないトルコのEU加盟交渉開始時期を早めるよう、EU議長国デンマークのラスムセン首相に二度、電話を入れた。EU内親米派の英国、イタリア、スペイン、ギリシャが米国の意向を受け独仏提案の『(条件付きでの)2005年7月開始』でまとまりかけていたところに、揺さ振りをかけた。複数の参加首脳は『ここは欧州の意思決定の場だ』と言葉を荒らげたが、それは米国の干渉に対するいらだちを示している」
そして今年に入ってからの記事では1月12日の読売新聞
「版図広げるEU」
という大きなタイトルの下に、
「ルーツどこに?」「入りたい理由は?」「本当に『一体』?」「トルコで岐路?」
という小見出しが並びます。その中の「トルコで岐路?」を見ると、
「元来欧州には、ギリシャ・ローマの古典文化の伝統、中世一千年を通じ一神教的文化圏を作ったキリスト教、ゲルマン的精神―という共通の意識がある。地理学的には、ウラル山脈からボスポラス海峡をつなぐ線が欧州の東限とされる。東方からの外敵侵入はドイツの東境で、アラビア人の侵入はピレネー山脈で防いだことから、西欧だけを欧州の本体とする考え方もある中で、歴史的に対峙したイスラム国家の包含は、従来のEU拡大とは次元が異なり、根幹にかかわる大問題だ。(中略)民族や文化が自己主張を始めれば、EUに内在している問題が火を噴きだすことにもなりかねない。」
いやあ、よくまとまっていてわかりやすいですね。解説部の坂井伸行さんの記事です。
そして1月14日の読売新聞。なんか読売新聞ばっかりですが、他の新聞も見ているのですが、読売が一番このトルコの問題に目を向けているということですかね。
この解説面で今度は解説部の鈴木雅明さんによる記事。
「トルコ〜『クルド独立』や『EU加盟』抱え、対イラクで米とイスラム間に揺れる」
という見出しでした。本文は、
「今月初め、トルコの有力紙ミリエットは、トルコ軍が国境を越え、イラク北部の要衝に配置されたと報じた。(中略)トルコが最優先課題としているのは、戦争の国内への政治的悪影響を最小限に押さえることであり、そのひとつは少数民族クルド人の問題だ。(中略)それは当然、イラク人をはじめとするアラブ世界の警戒心を刺激する。かつてアラブの地を支配したオスマン帝国の復活は許せないのだ。(中略)だが、国家的悲願である欧州連合(EU)加盟を近い将来実現するには、対イラク戦争で米国を支援するしかない。米国だけが、支援と引き換えに、トルコの加盟に難色を示すEUに政治的圧力をかけてくれるからだ。トルコにとって、支援のサジ加減が非常に微妙で難しい。(下線は道浦)
そしてようやく朝日新聞の登場です。朝日新聞コラムニストの船橋洋一さんの「日本@世界」というコラムで、
「結節点・トルコの『戦略的深み』」
というタイトルです。
それによると、忘れやすいのですが世界地図を見ると判るように、トルコはイラクの隣国なんですね。だから、アメリカがイラク攻撃を始めると、イラク北部にいるクルド人が、ドッドッと難民として押し寄せてきてしまう。また、同じ日の朝日新聞の海外面では
「トルコしたたか」
「米とは協調路線 平和外交も展開」

という見出しで、トルコは隣国イラクと貿易を行なっていて、戦争が始まるとそれも途絶えてしまうと、トルコも困るわけです。先日の「NHKスペシャル・ユーラシア21世紀の潮流」でも、イラクに物資を運ぶトルコのトラックの様子が放送されていました。
船橋洋一さんは、
「冷戦後、同盟国として一緒に冷戦を闘った西欧諸国は、敵方だった東欧諸国の加盟を次々認めたが、トルコは依然お預け状態だ。西欧がトルコの加盟をためらう真の理由は、イスラムもさることながらトルコの将来の大国化への恐怖なのではないか。トルコは『大きすぎる』のである。トルコの人口はドイツに次ぎ第2位。しかも国民の平均年齢は24,25歳と若い。軍隊は60万人。NATOでは米国に次ぐ軍事大国だ。それにトルコ国内の人口とほぼ同じトルコ系が中央アジアを中心に人種的、言語的、歴史的後背地を形作る。
バルカン、コーカサス、中東に接し、三つの海に臨む欧州とアジアの結節点である。このような強みは各地のもめ事を巻き込まれる危険があるため弱みにもなりうる。」

と書いています。EU加盟がなかなか叶わないトルコの状況がよく分かりますね。
「NHKスペシャル」では、トルコのことを「衝突の危険性を秘めた『文明の活断層』」と表現していました。
また、アメリカのイラク攻撃に関しては、イラクのフセイン大統領も、
「『米国の侵略を食い止められるのは近隣諸国だ』と語り、トルコ関与に期待を表明」
(朝日新聞1月17日)したそうです。
そんな中EUは「EU大統領制」に前向きに取り組んでいるという記事が、1月16日の朝日・毎日・日経、そして1月17日の読売に載っていました。日々、動いているのが今のEUと言えそうです。
最後に、1月14日の日経新聞夕刊のコラム「あすへの話題」で、作家の村松友視さんが書いた「老人の居眠り」という短いエッセイから。
「イスタンブールはアジアの入り口でありヨーロッパの入り口でもあって、また、アジアの出口でありヨーロッパの出口でもあるという、まことに不思議な街だ。ガラエア橋のあるヨーロッパ側から連絡船でボスポラス海峡を渡り、ものの十分余りでアジア側に着く。西洋から東洋へわたるのが十分余りということに、意表を突かれる思いが生じた。」



このエッセイは、たった十分の連絡船に乗ったまま、居眠りをして行ったり来たりしている老人の様子を見かけた村松さんの感慨が綴られていました。そうなのか。イスタンブールは行ったことがないので、一度行ってみたいです。
今後も、「アジアでもない、ヨーロッパでもないトルコ」の動きに注目です。
ああ、なんかイソップか何かの物語での「こうもり」を思い出してしまったな。

2003/1/21


(追記)

「アジアでもないヨーロッパでもない」という意味で「あっ!」と思ったのは、既に上でも触れたこの間の「NHKスペシャル」。タイトル部分のCGでした。ユーラシア大陸の地図の上に、「EUROPE」という文字が左から、「ASIA」という文字が右から出て来て、この二つが真ん中でくっついて、
「EURASIA」
となったのです。そうだったのかユーラシア!という感じでまさに「目からウロコ」でした。まさにヨーロッパであってヨーロッパでない、アジアであってアジアでないというのが「トルコ」なのでしょう。
その後も注目していたトルコ。「週刊朝日」の2003年1月31日号、船橋洋一さんが「世界ブリーフィング」(連載634回)というコラムで、
「トルコとアルメニアの歴史的和解への動きがそれでも市民レベルで始まった」
ということを書いています。これによると、オスマン・トルコ帝国が1915年に、アルメニア人大量殺害事件を起こしたそうなのですが、それに関して、
「EU(欧州連合)も、トルコはこの事件を『ジェノサイド』(民族虐殺)と認知すべきだとの基本的立場である。それに対してトルコ国内からは、EUがトルコのEU加盟に水を差そうとしてことさら過去の古傷をつつこうとしているのではないか、との疑念が表明される。もし、EUがそのような思惑でトルコの歴史問題を使おうとすれば、それはトルコの改革を後退させるだろうし、トルコとの共存を難しくするだろう。」
と船橋さんは書いています。
また、同じく船橋さんの1月23日の朝日新聞のコラム「日本@世界」では、
「オリーブオイルとシシケバブ」
というタイトルで、ボスポラス海峡界隈を取材しながらトルコの問題について書いています。それによると、
「トルコには二つの文化があるのです。イスタンブールのように西欧化されたオリーブオイル文化と東や南の方の中東へとつながるシシケバブ文化と。」(船橋さんの案内をしてくれたビジネスマンのアテシュ・スングル氏の言葉)
「トルコは西はバルカン、北はコーカサス、南と東は中東である。国際紛争の煮え立ったるつぼのど真ん中である。(中略)イスラムと軍の関係のありようは、トルコのEU(欧州連合)加盟の行方にも影響を及ぼすだろう。イスラムが出過ぎても、EUはトルコ加盟にしかめっ面をするだろう。」
「トルコがこの地域で果たしている安定的役割をEUはもっと評価してしかるべきだ。」
「トルコを拒絶した場合、EUの方が失うものが大きいのではないか。NATO(北大西洋条約機構)の枢要国トルコの西欧不信は深まるだろうし、・・・(中略)EUからはじかれれば、トルコは米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶだろう。(中略)確かにEUはより深くヨーロッパ的になるのかも知れないが、そのような自らの殻にこもった欧州は地域超大国ではあってもグローバルパワーとしては未成熟に終わるだろう。」
「トルコがEUに加盟し、政教分離のイスラム社会の民主国家として世界でしかるべき役割を果たせば、それはアジア太平洋のイスラム社会の経済発展とイスラム社会の非イスラム社会との共存のあり方にも重要な示唆を与える。」
なるほど、トルコのEU加盟は、世界的に見ても大きな意義を持つものなのですね。グローバルな視野とは何かについても、もう一度考える時期に来ているのかもしれません

2003/1/23



◆ことばの話1009「HD」

1月10日の読売新聞に、「りそなホールディングス」の勝田泰久社長が載っていました。「キーワード2003」というインタビュー記事です。「りそな」グループは、大和銀行グループとあさひ銀行グループが一緒になって作った銀行です。その記事で勝田社長は、

「りそなで考え、行動する、が今年のキーワードです。」

と話しています。ところがその「りそな」とは一体どういう意味なのか、どこにも書いてありません。聞き手の立石知義さんという人は、意味を知っているようですが、少なくとも私は知りません。勝田社長が説明しなかったのでしょうか?それとも勝田社長が説明したにもかかわらず、記事のスペースの都合で省略したのでしょうか?いずれにせよ、不親切な記事です。
しょうがないので、駅前の大和銀行のATMコーナーに行って、「りそな銀行」の「りそな」の意味が書かれていそうなパンフレットをもらってきました。そのパンフレットによると、

『「りそな」は、ラテン語で「共鳴する、響きわたる」という意味であり、お客様との信頼関係をもとに共に響きあい、共鳴しあうことで、さらに絆を強固なものにしていきたいという思いをこの言葉に込めました。』

とあります。そうだったのか。こんな、自分達だけがわかる言葉を用いて、その説明をしないようなインタビューに答えていて、果たして「本当にお客様と共鳴するができる」と思っているのでしょうか。
そもそも「リージョナル」なんて言葉を使った頃から「本気ではない」のが見えているような気がしてたんです。以前書いたけど。カタカナはだめだと言ったら今度はひらがな表記。でも、もともとラテン語って、ラテン語ならラテン語らしくカタカナ表記した方がいいのでは?



とにもかくにも、この3月1日から、大和銀行とあさひ銀行は分割・合併して「りそな銀行」と「埼玉りそな銀行」として新たにスタートするそうです。
あれ?「あさひ銀行」って、もともと「協和銀行」と「埼玉銀行」がくっついてできたんじゃなかったっけ。とすると、「埼玉りそな銀行」っていうのは、もとの「埼玉銀行」というわけかな?あさひ銀行の埼玉県内の支店が「埼玉りそな銀行」になるみたいです。なんでや。協和と埼玉の合併が失敗だったということですね。大和とあさひの埼玉以外の支店が「りそな銀行」。になります。駅前の大和銀行では、まだ3月1日まで1か月以上あるのに、もう「りそな銀行」の看板の準備が行なわれ、「選挙公示前の選挙事務所」みたいに「りそな」の看板に白い布が掛けられていました。

「埼玉銀行→協和埼玉銀行→あさひ銀行→埼玉りそな銀行」

哀しいよぉ。



ところで気になったのはその勝田社長の肩書きとして顔写真の横に記された会社の名前の表記です。そこにはこう書いてあったのです。

「りそなHD」

この「HD」というのは「ホールディングス」の略なんでしょうが、

「HOLDINGS」

というのは一つの単語ですから、そこから2つだけ略号としてアルファベットを取る時は何か法則のようなものがあるのでしょうか?たとえば、

「ホームページ(HOME PAGE)」を「HP」、
「ハンディキャップ(HANDY CAP)」を「HC」、
「ハードディスク(HARD DISC)」を「HD」、


という略し方は納得が行きます。

また、「テレビジョン(TELEVISION)」を「TV」とするのは、「テレ・ビジョン」、「遠くを見る(ことができる)」ということで、もともとは2語だったからまだ分かるのですが、「ホールディングス」を略して「HD」とするのは、もう一つ納得できません。

どなたか、英語の略し方について詳しい方、やさしく教えてください!

2003/1/14

(追記)

アナウンス部でHアナやK部長と話していて、こういった略し方には、例えば「国の名前」があるのではないかという話になりました。

「日本=JAPAN→JPN」

のように、母音のアルファベットを省いて、子音のアルファベットだけで略語とする方法です。でもそれよりは、最初の3文字で、

「JAP」

とした方が、発音上も適当かと思うのですが。もちろん「JAP」が蔑称だということは、この際、考えなければ、ですけど。
そのやり方だと、「ホールディングス」の略も「HD」ではなくて、
「HOL」とか「HL」
になるのかな。やっぱり「HD」の方が落ち着きがいいのかな。悩むところです。
2003/1/23


◆ことばの話1008「判と版」

「ニュース・スクランブル」の坂キャスターが質問してきました。

「道浦さん、コピーの紙の大きさで、これはなんて言いますか?」

といいながら示されたのは、「B5版」の白い紙。また、人を試すようなことを・・・・。でも慣れてるから大丈夫。間違ったって恐くないもん!とばかりに、

「B5版(ビー・ゴハン)」

と答えると、

「ハンですか・・・。『ばん』と濁らないですか?」
「濁らないねえ。"版"の大きさでしょ。"版"は助数詞だから、連濁しない。」

と答えて辞書を引いたら、なんと

「ビーゴばん」
濁って載っているじゃあ、あーりませんか!

「うーん、助数詞というより、もう『B5版』で固有名詞的になってるというわけかなあ。」
などと苦しい言い訳をしていると、坂キャスターはさらに、

「それともう一つ、その『ばん』の漢字、『タブロイドばん』で引くと"版"ではなくて"判"になっているんですよ。」

うっそー!「タブロイドばん」は「タブロイド版」でしょう!

と思って辞書を引いてみると、「タブロイド版」と書いてあるものと「タブロイド判」と書いてあるものがありました。 (タブロイド判)
明鏡国語辞典、新潮現代国語辞典、岩波国語辞典、広辞苑、

(タブロイド版)
三省堂国語辞典、日本国語大辞典、デイリーコンサイス和英辞典




そして「新明解国語辞典」には「タブロイド判」も「タブロイド版」も見出しにありませんでした。
これは一体どういう事なのでしょうか?
GOOGLEで検索したところ(12月25日)、
タブロイド版=3690件
タブロイド判=1310件


でした。年が明けて1月。今日(1月20日)も検索してみましょう。
タブロイド版=3690件
タブロイド判=1270件

おや。1か月間で「版」はまったく変わらず、「判」は40件ほど減っていました。 思うに、そもそも紙のサイズには「菊判(きくばん)」のように「和紙」のサイズで「判」が使われていたのですが、その後「洋紙」が増えるにつれて、「版」が使われるようになってきたのではないでしょうか。

小学校の時(私が)のテスト用紙は、
「わらばんし(わら半紙)」
に先生が「ガリ版」を切って印刷したものだったでしょ!?習字は「はんし(半紙)」に清書して提出しました。これは「判」とは関係ないか。
「タブロイドばん」
に関しては、

「タブロイド判の大きさの紙に印刷したものが、タブロイド版」

ということではないでしょうか??

2003/1/17


◆ことばの話1007「エアーのチケット」

制作会社の若い男性ディレクターからアナウンス部に電話がかかってきました。

「○○アナウンサーはいらっしゃいますか?」
「今、席を外していますが・・・。」
「そうですか・・・実は来週の出張のエアーのチケットの件で・・・」




What?
なんじゃそりゃ?「空気の券」って?と思いましたが、一瞬考えて意味が分りました。

「エアーのチケット」=「飛行機のチケット」

しかも「エアー」が頭高アクセントの「エアー(HLL)」ではなく、「エアー(LHH)」と平板アクセントだったので、理解するのに1秒はかかってしまいました。(Lは低く、Hは高く発音します。)



たしかに航空業界や旅行会社では「エアーのチケット」という言い方はするかもしれませんが、普通はそんな言い方、せんやろ。と思いましたが、まあ、意味は通じたから、よしとするか。でもこれこそ「意味の一方通行のカタカナ語」の典型ですよね。この言葉を
使うのを、あまりオススメはしません。
Googleで検索してみました。
「エアーのチケット」・・・・・・・191件
「飛行機のチケット」・・・・1万1800件




ほーら、「エアーのチケット」なんて、191件しか使われてないじゃないか。「飛行機のチケット」は1万件以上だぜ!みんなが分かる言葉を使えよな。
もうちょっと違う表現も調べてみました。



「飛行機の券」・・・・・・・・・・178件
「航空券」・・・・・・・・・42万5000件
「エアーチケット」・・・・・・1万7000件
「エアチケット」・・・・・・・1万7400件




あ、やっぱり「航空券」が圧倒的に使われていますね。
でも「の」が入らない「エアーチケット」「エアチケット」というのも1万件以上使われています。意外でした。航空券に次ぐ使用頻度。
飛行機によく乗るWアナに、

「ねえ、ねえ、飛行機のチケットのことを"エアーチケット"って言う?」
と聞いたところ、
「言いますね。エアーチケット。乗る飛行機のことは"キャリア"って言いますよ。どこのキャリア使ってるの?とか。」



ひえ〜!白沼に。・・・もとい、知らぬ間に、そんなことになっているとは!

「キャリア」は「キャリアウーマン」の「キャリア(経歴)」と、「保菌者」の「キャリア」ぐらいしか、ふだんは使わないぞ。飛行機は飛行機だろうが。(余談ですが、保菌者のキャリアウーマンは、「キャリアキャリアウーマン」でしょうか?)

でも、一番よく使われている「航空券」を使うのが誤解を招かなくていいんじゃないかな。「航空券」と聞いて分からない人はいないでしょうから、今後は「航空券」を使うことをオススメします。

2003/1/16


◆ことばの話1006「呉汁」

朝(1月15日)、車の中でラジオを聞いていると、身体に良い食べ物の話をしていました。その中で、女性料理家の方が口にした料理は、

「ゴジル」

というものでした。ゴジル?ゴジラなら知っているんですけど、ほら、ヤンキースに行った。ゴジル、漢字で書くと「呉汁」らしいです。アクセントは「LHH」と平板。
話を聞いていると、大豆をすりつぶしたものを「ゴ」といい、それに味噌を加えておつゆにしたものを「ゴジル」と言うんだそうです。
なんか、中国伝来のような名前ですね、「呉汁」。
会社に着いてから辞書を引いてみました。
『新明解国語辞典』。ご、じ、るっと。あ、あった!
「ごじる(呉汁)」=「水に浸けて柔らかくしたダイズをつぶして入れた味噌汁」
ラジオで話していた通りです。ついでに「ご」も引いてみよう。
「ご」=「ダイズを水に浸して細かくひいたもの。豆腐の材料。また、染め物などに使う。(表記)『豆汁、豆油』は義訓」

『明鏡国語辞典』も引いてみましょう。
「ごじる(呉汁、豆汁)」=「水に浸して柔らかくした大豆をすり鉢ですりつぶし、出し汁でのばして味噌汁をつけた汁。火にかけて青菜などを加える。」
ちょっとこっちの方が豪華な感じ。と言っても青菜を加えただけですが。「ご」は、載っていませんでした。

『新潮現代国語辞典』は、
「ごじる」=「水に浸して柔らかにしたダイズをひいて入れた味噌汁」
「ご(豆汁、豆油、豆乳)」=「ダイズの生の豆、又は水にひたしたものをつぶした流動体。豆腐の原料などにする。」


さてさて『日本国語大辞典』ではどうでしょう?
「ご(豆汁・豆油)」
=「大豆を水にひたしてやわらかくし、すりつぶした汁。豆腐の原料や染物または油絵の彩料になる。」


日葡辞書にも載っているようですね。また、方言では「ごお」とも言うようです。ああ、「ごお」なら、なんか耳にしたことあります!
「ごじる」はどうかな?
「ごじる(呉汁・豆汁)」
=「(1)汁ものの一種。ご(豆汁)をそのまま、または漉(こ)して入れた味噌汁。
(2)染色定着剤の一つ。友禅、描き更紗染のような手芸的染色の色止めに用いるもの。」




(1)の例として、徳川夢声の「夢声戦争日記」昭和18年(1943年)9月8日の分が記されています。

「妙な味噌汁だから、これはなんだと訊ねたら、静枝はゴジルだと答えた。ゴジルとは始めて聞いたというと、ナンダ、ソンナコトシラナイノと軽べつされた。大豆をつぶして汁に入れたのだというが」

徳川夢声さんも知らなかったんダ。
ちょっとホッとしましたね。

2003/1/20


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