◆ことばの話995「すざまじい」

1月6日、TBSの「ニュース23」を見ていたら、コメンテーターの岸井成格さんが
「すざまじい」
という言葉を使っていました。漢字で書くと「凄まじい」。スゴくコワイ感じ。
これって普通は「すさまじい」と「さ」は濁らないのですが、岸井さんのは「さ」が濁って「ざ」になっています。「すさまじい」よりももっと「すさまじい」感じがします。
これと同じ言葉を、わが読売テレビの解説委員・辛坊治郎もよく使います。ところが、手元の辞書には「すざまじい」と濁る形は載っていません。(『新明解国語辞典』『日本国語大辞典』『明鏡国語辞典』『新潮現代国語辞典』『広辞苑』)
一体どういった言葉なのか?ネットの掲示板「ことば会議室」に投稿しました。
すると、大阪大学の岡島さんからは、
「方言かどうかはわからないが、よく見るし、聞く。古くは『すさまし』だったので、どんどん濁音が勢力を伸ばしてきている。だが『すざまじい』が主流にはしばらくはならないだろう」
という意見を、また、Yeemarさん(早稲田大学)からは、
「見坊豪紀『日本語の用例採集法』に載っていることが分った。見坊氏編の『三省堂国語辞典』には『すさましい』『すさまじい』『すざまじい』の語形が載っている。現代語の『むつまじい』は「むつまし」が濁ったものだが、『むずまじい』にはなっていない。」
という意見をいただきました。『三省堂国語辞典』には載っているのか!しまったあ、と思って改めて見てみると、「すさまじい」の意味の説明の最後に、ちゃんと「すざまじい」と書いてあるではありませんか。
また、skidさん、UEJさん(=ハンドルネーム=ネット上のペンネームみたいなもの)からは「濁音化した形容詞」というテーマでいくつか例示していただきました。皆さん、ありがとうございました。
ネット検索(Google)を掛けてみると、



「すさまじい」・・・11万2000件
「すざまじい」・・・・・・1460件



と圧倒的に濁らない「すさまじい」でしたが、「すざまじい」も1460件も使われていましたから、ある程度使う人がいるということは確認できました。
2003年の現代において、正しい形は「すさまじい」だが、「すざまじい」と使う人もいる、というのが現状のようです。
濁った方が「凄まじさ」が強調される気がしますからね。



2003/1/14

(追記)

うちの脇浜アナウンサーもこの「すざまじい」を「あさイチ!」の中で使っていました。本人に聞いてみると、
「え?『すざまじい』が正しいんじゃないですか?私、前は『すさまじい』って言っていたのに、わざわざ濁って『すざまじい』って言うようにしていたのに・・・」
ということでした。



2004/3/1

(追記)

ふと思ったのですが、「ぎこちない」と「ぎごちない」、これは「ぎごちない」と濁る方が本来の形のようです。それに引きづられて「すざまじい」と濁るのではないか?と。
どうなんでしょうか?



2004/4/1



◆ことばの話994「宝恵かご行列」

1月10日、大阪のミナミで「宝恵かご行列」が行われたというニュースをお昼のニュースで読みました。「宝恵かご」と書いて「ほえかご」と読みます。十日戎の日に、芸能人や舞妓さんが乗り込んだ「かご(駕籠)」が今宮戎まで練り歩く行列です。
ニュース本番1分前にオンエアー・ディレクターが、声を掛けてきました
「道浦さん、ニュース項目、確認します。1本目がスイス社、2本目が豊郷町、3本目が、ホーケイかご・・・」
ちょ、ちょっと待った!それ、ちゃうで!
「『ほえかご』だよ!」
「あ、すみません、ホーエーかご」
「違うって!ホエかご!伸ばさないの!」
「あ、ホエかご」

本番前の緊張した雰囲気の中でそんな会話が、トークバックを通じて報道スタジオとニュースサブの間で交わされました。
確かに「宝恵かご」と書いて「ほえかご」は読みにくいかもしれないけど・・・恥ずかしくないかな、
「ホーケーかご」
それも大きな声で・・・・。
そんな駕籠(かご)には私は乗りたくないな、と思ったのでした。



2003/1/10


◆ことばの話993「火ぶたを切って落とす」

1月10日、恒例の西宮戎神社の「福男選び」が今年も行われました。これは、正門から本殿までの200メートルの参道を、開門と同時に飛び出して駆け抜け、一番に本殿にたどり着いた人がその年の「福男」となるというもの。関西の「足に覚えのある」男達が毎年、その年の「一番福」を求めて競います。
実は去年から、読売テレビの新人記者も参加、リポートしています。その様子を撮ったVTRにナレーションを付ける仕事が回ってきました。
その原稿の中に、
「戦いの火ぶたが切って落とされた」
という一文がありました。あれ?ちょっと待てよ。たしかこれって、誤用じゃなかったっけ?新聞協会の「放送で気になる言葉」に載ってた気がすると思い、手元の冊子を開いてみると、やはり載っていました。71ページに、



「『火ぶたを切る』は試合など戦いを始めるときに、今でも好んで使われる表現だ。鉄砲が火縄銃のころ、戦争を始める直前に火縄銃の火皿のふたを開けた。これが『火ぶたを切る』のいわれだそうだ。『切って落とす』は『幕を切って落とす』との混同らしいが、『火ぶた』の場合『落とす』必要はないことになる。」



やっぱりそうか。元は、「幕」が「切って落とされて」いたのですね。



インターネットでGoogle検索してみました。



「火ぶたが切って落とされた」= 466件
「幕が切って落とされた」= 1980件
「火ぶたが切られた」= 25件




「火ぶた」は、「切られた」よりも「切って落とされた」の方が圧倒的に使われていますね。
『広辞苑』の第五版では、「ひぶた(火蓋)」は、
「火縄銃の火皿の火口をおおうふた。火門蓋。雨覆い。」
とあって、「火ぶたを切る」は、
「火ぶたを開けて、発火の用意をする。発砲する。転じて、戦闘行為を開始する。戦端を開く。火蓋を切って落とす。」
と書いてありました。あ!項目立てこそしていないものの、最後に「火蓋を切って落とす」と書いてあるではないですか!
ということは『広辞苑』は、「見出しに立てるほど使われてはいないが、たとえ誤用であっても、かなり世情に広まっている言葉」として「火蓋を切って落とす」を認識していることになりますね。
「幕を切る」も見ておきましょう。
「(1)(切り幕を開けることから)事を始める。また、初めて公開する。『幕を切って落す』とも。(2)幕を閉じる。終りにする。また、席をはずす。」
まったく逆の意味で二つ並んで載っていました。言葉って不思議ですねえ。



他の辞書はどうでしょうか。
『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』『新潮現代国語辞典』は揃って、
「火ぶたを切る」
の形しか載せていません。「火ぶたを切って落とす」は載っていませんでした。
『日本国語大辞典』も「火ぶたを切る」しか載っていませんでした。ただ、「火ぶた」は、もう一つ違うものの意味が載っていました。
「(2)火災の時、閉鎖して内部の延焼を防ぐ窓ぶた」
そういうものも「火ぶた」と呼ぶそうです。鉄砲だけじゃなかったんですね。



それにしても、「福男選び」だけで、「福女選び」はないのかな。バーゲン会場での女性のすごさを見ていると、結構、見ごたえのある戦いになると思うのですが。
今宮戎神社では「福娘」が、笹(無料)に縁起物(有料)を付けてくれますが。これも「福息子」はありません。ジャニーズ系の「福息子」が笹に縁起物を付けてくれるのなら、女性に人気が出ると思うのですがね。
「福男選び」も国際大会にすると、もっともっと、今以上に盛り上がったりして。いかが?
あ、結局原稿は、目をつぶって原稿どおり、
「戦いの火ぶたが切って落とされた」
と読んじゃいました。やっぱり語呂がいいものねえ・・・。



2003/1/10


◆ことばの話992「イノキ・ボンバイエ」

昨年の大晦日、NHKの紅白歌合戦を相手に民放で気を吐いた番組と言えば、「日本テレビのラーメン特番」、では残念ながらなくて、TBSの
「イノキ・ボンバイエ」
でした。ボブ・サップというユニークで強いレスラーが登場して人気なんですね。
私はプロレスは詳しくないのですが、そんな私でもなんとなく「見たいな」と思いました。(実際見ると、何かもう一つ分らなかったのですが)
「見たい」と思った原因の一つは、その番組タイトルの「イノキ・ボンバイエ」の「ボンバイエ」に、何か分らないけれど魅力を感じたのです。
「ボンバイエってどういう意味やろ?」
と思っていたら、今日のお昼のニュースで、大変よく似た名称のニュースが登場しました。
滋賀県の長浜市で毎年この時期に行われるイベントでその名前は、
「盆梅展」
これは「ボンバイテン」と読みます。ね!似てるでしょ!?
あっちはイノキで、こっちはウメノキ。ねッねッ!



さて。
「ボンバイエ」の意味をどうしても知りたくなりました。
スポーツ担当(プロレスは担当していない)Oアナウンサーに聞くと、
「さあ?『ボンバー・イエイ』って言ってるからじゃないですか?英語かな?」
という答え。心もとないので、(趣味で)プロレスに詳しい報道のMプロデューサーに聞いたところ、
「ブラジル語じゃないですかね?もともとは、ボクシングのモハメッド・アリが『アリ・ボンバイエ』というふうに使っていたのだけれども、1976年の、猪木との異種格闘技のあとに、イノキにこの名前をプレゼントしたんですよ。意味は『エイエイオー!』とか、そんな意味じゃないですか?猪木のテーマソングも『INOKI BOM―BA−YE』ですよ。」
とのこと。大分、真実に近づいた感じ。
インターネットの件策エンジンGOOGLEで検索したところ、



「イノキボンバイエ」・・・・・853件
「猪木ボンバイエ」・・・・・・3980件
「ボンバイエ」・・・・・・1万8100件
「アリボンバイエ」・・・・・・・25件



という結果でした。その中から信頼の置けそうなホームページをいくつか覗いてみて分ったことは、Mプロデューサーの話とほぼ同じでした。ただ語源は違いました。
もともとこれは「リンガラ語」で「Boma ye」と書き、意味は直訳すると、
「彼を殺せ」
意訳すると、「やっつけろ」「彼を倒せ」というような意味なんだそうです。で、この「リンガラ語」というのは一体どこで話されている言語かというと、アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)の北部と首都キンシャサ周辺、コンゴ共和国の北部、アンゴラ北部、中央アフリカ共和国の南部で使われている言葉だそうです。
勉強になりますね。
いずれにせよ、これで「ボンバイエ」と「盆梅展」は、100%関係ないことがわかり、ひと安心ですね。
イーチ、ニーイ、サーン!ファ〜・・・安心。



2003/1/10


(追記)

リュック・ベッソン監督の「ヤマカシ」という映画をビデオで見ました。「マヤカシ」でも「ヤカマシ」でもなく、「ヤマカシ」です。漢字では書かないで下さい。この「ヤマカシ」って、「リンガラ語」なんですって。意味は「超人」だそうです。 映画はとてもおもしろかったですよ。



2003/2/13
(追記2)

猪木関連で。「トリビアの泉」でやっていたのですが、「1・2・3、ダァーッ」というのは、な、なんと商標登録されているそうです。

2004/3/25


◆ことばの話991「うれしいでした」

年賀状を見ていたら、妻がこう聞いてきました。
「ねえ、『うれしいでした』って三重弁?」
「なんで?」
「ホラ、三重のおばさんがここに書いてるじゃない。前に(三重に住んでいる)おばあちゃんも『うれしいでした』って使っていたから。ちょっと違和感があって、どこの言葉かと思って・・・。」

たしかにその年賀状には、
「うれしいでした」
と書かれていましたし、以前、祖母が「うれしいでした」を使うのを耳にしたこともありました。しかし、私はそんなに気にしていなかったのですが、言われてみれば普通は、
「うれしかったです。」
と形容詞を過去形に活用した後に「です」をつけますよね。
では、この「うれしいでした」は一体何なのか?方言なのか?
そもそも「うれしいです」という言い方も「正しい言い方ではない」とどこかで読んだことがあります。「うれしい」を丁寧に言う形は、正しくは、
「うれしゅうございます。」
これを過去形にしたら、
「うれしゅうございました」
と、ウ音便を使うのが正しい、という内容だったと思います。
そこでこの疑問をインターネットの掲示板「ことば会議室」に投稿しました。すぐに、いくつかの書き込みがありました。
「『うれしいでした』というのは鹿児島の『からいも共通語』として有名ですね。『新方言辞典稿(1996)』に伊豆は『あついでした』鹿児島は『ないでした』と載っている」
と、大阪大学の岡島先生からの書き込みです。やはり方言のようですね。
「からいも共通語(標準語とも)」とは、地元の人は標準語と思っているけどアクセントが違ったりする方言のこと、だそうです。
また、NHK放送文化研究所の塩田さんからは、
「井上史雄さんの『日本語ウォッチング』(岩波新書1998)の154ページ〜157ページに『デスの進出』としてこんなことが書いてあります。『デスの使い方は、さまざまな方面に広がりつづけている。鹿児島ではデスの拡大用法が地元の新聞の投書欄で話題になった。転勤してきた人が、『暑いでした』などの表現が作文などでも使われるのはおかしいと指摘したが、地元の人から『おかしいはずはない、全国で通じるはずだ』などと激しい反論があったという。かつての全国約六○○校の中学生のことばの調査では、『暑いでした』は、九州では父母も中学生も『使う』が多かった。これもデスの進出を示す。』」
塩田さんありがとうございます。さらに塩田さんは、見坊豪紀『ことばのくずかご』(筑摩書房1979)のコピーもファックスしてくれました。そこには、
「『あついでした』は『行かず東京弁』だとも言えるかもしれませんね。」
というメモ書きと共に
「<九州>(1)こんな東教鞭がある(69・10)この人は九州の人だなとすぐわかりますのは、電話などをかけてくるときに『あのですね(笑)あしたですね、それでですね』の「ですね」で必ず使いますね。これが"行かず東京弁"の典型だと思うんです。何か、東京弁らしくするために「ですね」が極端にはいるんですね。(「言語生活」69年9月号座談会『心のふるさと九州弁』伊馬春部)」
という部分が鉛筆で囲まれていました。「行かず東京弁」というのは、「東京に行ったことがない人が、東京弁だと思って使う東京弁」ということでしょうか。その意味ではたしかに「からいも共通語」と似ているのかもしれません。
インターネットのGoogle検索では「うれしいでした」はなんと373件ヒットしました。やっぱり使う人がいるんだ!ついでに「うれしいでした・鹿児島」で検索すると1件しかありませんでしたが。
以上のようなことから、「うれしいでした」という言い方はやはり方言のようです。しかし、ある地域独自の、と言うよりは「対標準語」という意識の中で、各地で別々に形成されたものが、たまたま似たような形になってしまったものと考えられます。おそらく、全国分布はバラバラなのではないでしょうか。これを読んで
「私は『うれしいでした』と言う!」
という方、是非ご連絡ください!


2003/1/9


(追記)



子供が借りてきた『とっとこハム太郎』のビデオを見ていると、そこに出て来るサブキャラクターの「しゅっぱつ君」の口調が、



「見るです。行くです。工夫をしているです。」



というものでした。それで思い出したのですが、アニメの『サザエさん』のタラちゃん



「行くです。見るです。」



としゃべっていたように思います。つまりこの「です」は、方言かもしれませんがそれと同時に「幼児語」でもあるということですね。改めて言うまでもありませんか。念のため。



2003/1/16

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