◆ことばの話990「北朝鮮2」

『放送レポート2003年1月号』(メディア総合研究所)という雑誌の特集で、「拉致報道、気になる『用語』」(11ページ・12ページ)という特集がありました、その中で、この雑誌の編集部が、北朝鮮の国名の呼称をどうしているのか、またその理由について在京のテレビ局6局にアンケートを行なった結果が載っていたので、ご紹介します。



「北朝鮮についての記事やコメントの最初に、必ずと言っていいほど『朝鮮民主主義人民共和国』という正式国号がつけられる。北朝鮮だけが他国には見られない特別な扱いを受けているのは、なぜなのだろうか。
回答によれば、たんに『北朝鮮』としているのはフジテレビだけ。日本テレビは『どちらでもよい』とし、他は『北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国』と冒頭で表現している。ただしTBSは、「北朝鮮」のみにしたい意向のようだ。
●NHK ひとつのニュースの中で一回だけ『北朝鮮・朝鮮民主義人民共和国』と言いかえています。(1)『北朝鮮』が国名ではなく、地域名にすぎないこと(2)北朝鮮側が正式国名を使うよう求めていること(3)昭和46年のプレオリンピック大会の経緯―がその理由です。
●日本テレビ 質問の双方とも可としている。(1)『北朝鮮』が『朝鮮民主主義人民共和国』を指すことは十分定着している。(2)北朝鮮関連のニュースが多くなった状況に鑑み、02年10月に運用を改定した。
●TBS 最初の一回のみを『北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国』と表現し、以下は『北朝鮮』としている。正式の国号をいうのは当事国の主張があったからだ。『北朝鮮』のみにしたいという動きが起きている。
●フジテレビ 『北朝鮮』。アメリカ合衆国をアメリカ、大韓民国を韓国と略しているのと同じ理由から。
●テレビ朝日 原則として、ニュースのリード部分では『北朝鮮』、本記の冒頭で『北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国』、あとは『北朝鮮』と呼ぶ。理由は、ニュースのリードは時間が制約されているので、短くしたいということ。」
『韓国』というのは略称で当事者も使っているが、『北朝鮮』は俗称で当事者は使っていない、というのがこれまでの判断の根拠の一つ。過去に『北朝鮮』と呼んで関係者から抗議を受けたため、正式な国名を一度は入れるようにした、と認識している。
●テレビ東京 表記・・・北朝鮮。読み・・・文中一度は『北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国』と言う。1972年札幌五輪の時に呼称をめぐる問題があり、以降、右(注・上)の表記となっています。」



この雑誌が出たのは去年(2002年)の12月の半ばだったと思いますが、年明けをはさんだこの時期になって、その「北朝鮮」の呼称にメディア側にも動きが出てきました。



まず2002年12月28日の朝日新聞が3面に、2段の小さな「おことわり」を出しました。それはこんな文章でした。



「おことわり 『朝鮮民主主義人民共和国』の国名については、中国、韓国のように関係者が納得する適切な略称がないなどの理由から、『朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)』と表記してきました。しかし、北朝鮮という呼び方が定着したうえ、記事簡略化も図れることから、今後、外交記事などでは引き続き従来どおりの表記を使う場合もありますが、その他の記事では『北朝鮮』という呼称を使います。」



そして、年が明けて1月7日の毎日新聞は、メディア欄の「なぜ?どうして」で「国名表記」と題して「呼称定着で簡略化」という見出しの記事を出しました。そこには、



「毎日新聞では『朝鮮民主義人民共和国』の表記について昨年11月から新聞全ページで1カ所とし、それ以外のニュースは寄稿文などを除き『北朝鮮』としている」



と記されていました。えー、知らなかったあ。でも全紙面で1か所って、誰がチェックしているんでしょうね。チェックしきれるのでしょうか。記者が記事をデスクに出す時には、「北朝鮮」でいいんでしょうかね。



また、日本経済新聞も今年の元日分から「北朝鮮」の略称のみという簡略化に踏み切りましたが、特に「おことわり」のようなものは載せていません。



そして、1月9日の朝日新聞のメディア欄で、
「広がる『北朝鮮』表記単独呼称」
「報道量急増し見直し」
「表現簡素化も目的」

という、こういったメディアの流れをまとめた記事が載っていました。
それによると、1996年に産経新聞、1999年に読売新聞が「北朝鮮」単独呼称を採用。最近では上に書いたような新聞のほか、なんと知らない間に、NHKも今年1月1日、元日の午前0時半のニュースから、「北朝鮮」単独呼称を採用したそうです。NHK広報局はその理由について、
(1) 北朝鮮という呼称が普及した
(2) 拉致被害者支援法でも北朝鮮とだけ表記している
(3) 限られた時間内に簡潔に伝えるため

という3つの点を上げている、と記事に書いてあります。ただし「国交正常化をめぐる大きな節目などには正式名称を使う可能性がある」とも言っているそうです。



そして、地方新聞社などに記事の配信を行なっている共同通信も、元日出稿分から正式名称は原則として主要記事の初出だけに限っているそうです。共同通信のNさんにメールで聞いたところ、1月2日から「北朝鮮」の表記を簡略化したそうです。これまではすべての記事で初出に「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」と書いていたそうですが、これからは1面・外信面・社会面などの各面の頭に1度、正式国名が出ていれば良いということになったそうです。これは新聞社に配信する原稿に関してですね。
またメディア局から放送局に出稿する放送原稿は1月8日の正午以降、「北朝鮮」だけの簡略表記を原則、としたそうです。
朝日新聞の記事には、朝鮮総連・国際局の話として、
「『北朝鮮』は国家を表す言葉ではなく、朝鮮半島の北の部分を指す言葉だ。非常に不適切、不当な表現なので、各報道機関に正式に是正を強く求めていく」
という言葉も出ていますが、これも時代の流れなんでしょうね。



「放送レポート」にもあったように、そもそも「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」という併記は、1971年(昭和46年)に開かれた、「札幌冬期五輪(1972年)のプレオリンピック」の時に、北朝鮮側が正式な国名で呼ぶように五輪組織委員会に申し入れ、日本新聞協会でも議題となり、加盟各社は記事の初出は併記、2度目からや見出しは「北朝鮮」と書くようになったそうです。
また、1960年代までには、「北鮮」という言葉が使われ、これに対して在日朝鮮人らが「差別意識の表れだ」と反発し、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は「略称は朝鮮とすべきだ」などとマスコミ各社に申し入れた、ともあります。



「朝鮮民主主義人民共和国」を略して「朝鮮」とするのは、「略称」としては適当だと思いますが、過去の「朝鮮」と重なることや、韓国の存在などから考えて、簡単には認められないのでしょうか。いろいろな歴史があったのは確かですね。



また、今朝(1月10日)テレビ東京の用語委員の一人Eアナウンサーから電話がかかってきました。
「今日から、うち(テレビ東京)でも、『北朝鮮』単独表記を採用します」
という「おしらせ」の電話でした。



これで1月10日現在
※新聞(全国紙)は、ほぼ全部(毎日新聞だけ全紙面で1度だけ正式名称併記ですが)「北朝鮮」だけの簡略名称を採用
※放送局では「北朝鮮」だけの簡略名称を採用しているのは(ここまで把握しているところでは)、
「フジテレビ系列、日本テレビ系列、NHK、テレビ東京系列」
そして、テレビ局でまだ「併記」を貫いているのは、
「TBS系列とテレビ朝日系列」

ということになりました。



「北朝鮮」の簡略した呼び方は本当にもう一般的ですから、そんなに問題はないのではないかと思うのですが、気になるのは、この簡略化と機を同じくして最近増えている表記です。つまり、北朝鮮のことを見出しなどで
「北」
と表記することです。もちろんこの場合は、方角の「北」を指している訳ではありません。
何か意図的なものが、その背景に感じられます。
そこで、今朝(1月10日)の朝刊各紙で、見出しに北朝鮮のことを指して「北」を使っている回数を数えてみました。結果は以下の通り。「北」とカギカッコのあるものとないものは区別しましたが、共に「北朝鮮」を指しています。




北朝鮮
「北」
「北」・北の合計
産経新聞
0回
3回
3回
6回
読売新聞
0回
2回
2回
4回
毎日新聞
5回
0回
1回
1回
朝日新聞
3回
0回
0回
0回
日経新聞
5回
0回
0回
0回

今回は朝日、日経は「北」という表記の見出しへの使用はなかったのですが、朝日新聞が「北」という表記をしたのを、先日私は目にしましたので、まだ私が見たことのないのは日経だけです。
今後の動きにも注目していきたいと思います。

2003/1/10


(追記)

1月15日の読売新聞によると、遠山敦子文部科学大臣が14日の閣議の後の記者会見で、青森県で2月に開かれる冬期アジア大会に北朝鮮がエントリーしたことを受けて、
「北鮮の選手団の参加だが、北鮮オリンピック委員会から選手団の参加申請書類が提出された」
などと、北朝鮮のことを「北鮮」と繰り返し発言、秘書官から指摘されて「北朝鮮」と言い換えたそうです。会見後、遠山文部科学大臣は、
「不適切な表現のため、訂正いたします。他意はございません。」
と書面で釈明したそうです。
「他意はない」というのは、「略称として、つい使ってしまった。差別しようとして"北鮮"と呼んだのではない」ということでしょうね。
高木正幸『差別用語の基礎知識99』(土曜美術出版販売)の164ページから170ページに、「北鮮」「南鮮」という項目が載っています。それによると、1982年刊の梅沢利彦・平野栄久・山岸宗『文学の中の被差別部落像 戦後篇』(明石書店)の中で使われた「北鮮・南鮮」という表現について批判が起こり、その結果明石書店は『朝鮮にかかわる差別表現論』という小冊子を出して、その中で「出版社としての自己批判と今後への決意」と題して自己批判を行なったということです。
また「北鮮」という表現については1982年10月と11月「朝日新聞」の「朝日歌壇」欄に、
「崔青学と いう名で届く 北鮮に 帰化せし姉の ふみ懐かしむ」
「国敗(ママ)れ 北鮮に奉仕の稲刈りに 出されし白飯の うまかりしかな」

と二度にわたってその言葉が掲載され、それに対して「在日韓国・朝鮮人生徒の教育を考える会」から抗議と話し合いが要求され、朝日側は当初「言葉に文句をつけられたら短詩型文学は成り立たない」「北鮮は地域名の略称だと思う」「表現の自由というものがある」などと回答。また、「渡鮮」という表現について、1990年10月7日付「朝日新聞」テレビ面に「9月30日付『翔ぶが如く』の紹介記事に『渡鮮に同行』とあるのは『朝鮮へ渡るのに同行』とするべきでした。『鮮』は日本が植民地支配していた時代に朝鮮を略して使った差別的な言葉で、不適切でした。おわびして訂正します。」という「おわび」が掲載されたそうです。
はっきり言って、もう40代より若い世代では「北鮮」という言葉を知っている人は、ほとんどいないでしょう。遠山文部科学大臣は63歳。その世代は昔よく使っていたから、それこそついポロっと出たのだと思われます。

2003/1/16


(追記2)

西尾秀和『差別表現の検証〜マスメディアの現場から』(講談社、2001、3)にも「北鮮」に触れたところがありました。136ページあたり。



「数年前、ある高等裁判所の裁判長が原告に対して(原告の長男の国籍を問うて)、『韓国か、それとも北鮮か』と尋ねたケースがある。また元最高裁判事(執筆当時七七歳)がエッセイの中で『北鮮』を繰り返し使ったケース、明石康国連次長(当時)のシンポジウム席上での『北鮮』発言などは新聞でも報道されていて、一般に知られているケースである。」



「高校の地学の教科書に『北鮮寒流』『東鮮暖流』の表記があり、文部省が民闘連(民族差別と戦う連絡協議会。当時)から抗議を受けたケースがある。文部大臣の諮問機関である学術審議会の学術用語分科会は、これらのことばを学術用語集から削除した(一九九一年)。(中略)二00一年一月現在、『北朝鮮寒流』『東朝鮮暖流』を新名称にする方向で検討中だという。抗議→削除から実に一0年目である。」



また、こんなことも書いてあります。



「編集者についていえば、たとえば『北鮮』とか『鮮人』ということばは"使わない方がいい"という『答え』を知っているが、『なぜ使ってはいけないのか』の"なぜ"については知らない、あるいは考えない人が意外に多い。」もって他山の石とすべし。

2003/1/16




◆ことばの話989「パスティーシュ」

この正月休み、今年は結構長くて8日間あったのですが、なんと本は1冊しか読めませんでした。20冊くらい読むつもりだったのですが、休みの時に本を読もうとすると、すぐに瞼が重くなるのです・・・。
で、その唯一読んだ本というのが、清水義範の『はじめてわかる国語』(講談社、2002,12,16)でした。絵は西原理恵子さんが描いています。その中で「悩ましきかな漢字」という項目があって、(85ページから)そこに私も関わった、日本新聞協会が2001年秋に決定した「表外字39字の採用」に関した記述がありました。朝日新聞の校閲の記者が清水さんの元を訪れて、常用漢字表以外の漢字を採用することに対しての感想を清水さんに求めてきた、というのです。それを読んで、
「もしかして、この朝日の校閲記者というのは、Fさんのことかな?」
と思って「どうですか?」とメールを送ったところ、果たせるかな「そうです。」という答えが返ってきました。あの清水義範のエッセイに知り合いが出ている、というのは、 何かウキウキして楽しいものです。
その本を読んでいたら、隣から妻が、
「何を読んでいるの?」
と聞いてきます。
「清水義範だよ」
と答えると、小首をかしげています。知らないんだ。
「パスティーシュの名手だよ」
と続けると、妻曰く、
「お酒の本なの?」
でえい、なんで酒の本になるんだあっ!!と思ってよく考えると、たしかに
「パスティー酒の銘酒」
と聞こえなくはない。
「違うよ、お酒じゃないよ」
と答えたものの、
「じゃあ、パスティーシュって何?何語?」
と聞かれてちょっと弱りました。
「うーん、パロディみたいな感じ。たぶんフランス語」
と答えながら本に目を移すと、目の前に清水義範の文章で
「私のパスティーシュ(文体模倣)という作風が生まれている。」
と書いてありました。助かった。
「ほら、『金鯱(きんこ)の夢』とか書いててさ、もし徳川家康が名古屋に幕府を開いて、名古屋弁が標準語になっていたら、という話」
と、さらに言葉を続けると、
「キンコ?」
と言うので、先手を打って、
「ショベルカーで丸ごと盗んでいく四角くて固くてお金を保管しておくものとちゃうで。」
と言うと、こう聞いてきました。
「じゃあ、キンコって、禁固刑?」
・・・うまい!禁固刑10年!と言いそうになりました。
こうして今年のお正月は、ほのぼのとした感じで三が日が終わったのでした。

2003/1/9


◆ことばの話988「マクドとマック」

ハンバーガーの「マクドナルド」のことを、
関東では「マック」、関西では「マクド」
と言うことは、よく知られていますよね。新聞の一般紙の見出しなどでも、東京では「マック」を使うのに対して、関西では「マクド」を使っています。しかし、記事が東京で書かれたものをそのまま載せる場合には、いろいろと悩むことがあるのだなあ、とうかがわせる記事を見つけました。
2002年12月期の決算で29年ぶりに当期赤字に転落した日本マクドナルドの、これからの活性化に関する1月9日・朝日新聞大阪版の経済欄の記事です。
「あさイチ」という番組のため、木曜と金曜は朝3時に起きて、3時半には近くのコンビニで朝刊3紙を買い、会社へ向かうタクシーの中で読むのですが、そこで購入する新聞は、
「13版」
です。普通、会社など都市部で読めるのは、13版よりも新しい情報が載っている(締め切りの遅い)「14版」なんですが、朝3時半、大阪の衛星都市・枚方近辺のコンビニでは「13版」しか置いてないのです。その「13版」のマクドナルド関連の記事の見出しは、
「変身なるか"巨人"マック」
でした。しかし会社に着いてから読んだ「14版」の見出しは、こう変わっていたのです。
「マクドナルド 再生へ荒療治」
つまり見出しは「マック」から「マクドナルド」に変わっていたのです。変わっていたのは、一番大きなその見出しだけで、あとの見出しと記事の本記は、一字一句、変わっていませんでした。
13版から14版で、なぜ見出しが変わったのでしょうか。
考えるに、この記事自体は東京で書かれて大阪に配信(?)されたのでしょう。そして送られてきた記事には13版に載っていたように「マック」という見出しが付いていた。
13版は大阪以外の近隣の県にも配送されますから、大阪風の「マクド」に変えるのは、ためらわれた。もしくは手を加える時間がなかった。しかし最終の14版は、大阪市内に配るもの。そこで東京風の「マック」をそのまま使うことはためらわれた。しかし、本文中にも「マック」という言葉は
「マック生き残り」
「マックじゃないみたい」
「マックがどう変身できるか」

と3回も出てきます。ここで見出しだけ関西風の「マクド」を使うのもためらわれる。そこで、間を取って「マクドナルド」という省略されていない形を使ったのではないでしょうか?ためらってばっかりやな、この文章。
それにしても「マック」と言うと、
「コンピューターのマッキントッシュ(アップルコンピューター)の愛称・略称のマック」
と区別が付かなくて、ややこしくないのかな、東京の人は。

2003/1/9


(追記)

1月4日放送の「恋のから騒ぎスペシャル」で、オーストラリア人に「マクドナルド」のことをなんと言うか聞いていましたが、そのオーストラリア人女性が答えたのは、
「マケッ」
でした。ちなみに北海道と愛知出身女性は「マック」でした。

2003/1/14



◆ことばの話987「建設資材と建築資材」

(去年の話になってしまいましたが)12月11日に、姫路でクレーンが傾き、電線を切断するという事故がありました。そのニュースの中で、
「建築資材」
という言葉が出てきました。あれ?普通は「建設資材」って言わないかい?それで問題点が明らかになったのですが、「建設」と「建築」の違いは一体何なんでしょうか?
素人考えでは、「建築」は家やビルなどの「建物」を建てること、「建設」はそういったものも含める広義の概念ですが、普通は「建物以外」の橋だとか道路だとかトンネルだとか、そういうものを作ること、というような感じがします。「建設」は「土木」に近い感じがしますね。
『明鏡国語辞典』(大修館書店)によると、



「建築」=建物・橋などをつくること。また、建てられたもの。
「木造建築」「建築物」「建築家」
「建設」=(1)建物などをつくること。「ビルを建設する」「建設業」
(2)組織・機構などを新たに作ること「新国家を建設する」




うーん、もう一つその差が出ていない感じ。橋も「建築」なのか。久々に『新明解』(三省堂)、行ってみますか。



「建築」=(1)建物や橋を造ること(技術)。(法的には、増築・改築・移築をも含む)
「建築確認」「建築許可」「建築工事」「建築士」「建築施工」「建築費」
「建築物」(=建物の字音語的表現)「建築法規」
(2)造られた建物。「純日本建築」「西洋建築」「注文建築」「ゴシック建築」




けっこう、例がいっぱい載っていて嬉しいですね。でもこちらも「橋」は「建築」ですねえ。そして「建設」は、
「建設」=(1)今まで無かった所に新しい物事や状態を作ること。「(新)都市建設」・・・反対語は「破壊」
(2)(学説などを)新たに打ち立てること。




こちらの「建設」は、幅広く抽象的な表現にしていますね。
ここはまた『日本国語大辞典』(小学館)でしめましょう。
「建築」=土、木材、金属、石などで家屋、橋梁などを建て築くこと。また、そのようにして建てたもの。作事。普請。
「建設」=あらたにつくり設けること。新しく建物や組織を作りあげること。建造。
(用例は省略)




あら。意外とすっきりしたものですね。
『新明解』と同じく、「建設」の方が抽象的で広義の概念と考えられているようです。
さあ、それで私が知りたかったのは、「建設資材」か「建築資材」かということですが、ネット上ではどちらがたくさん使われているかを見てみましょう。(Google検索)

建築資材= 2万4400件
建設資材= 3万9200件
土木資材=
6140件
道路資材=
511件
橋梁資材=
18件

ということで、ネット上では「建設資材」の方が、「建築資材」よりも1,6倍使われていることが分かりました。
道理で「建築資材」は聞きなれなかったわけです。と言っても2万件以上も使われているわけですから、状況に応じて「建設資材」と「建築資材」を使い分ければいいわけです。
私は、「建物・家屋」には「建築資材」を使いましょう。でもビルの場合は「建設資材」が似合うと思うな。いかが?

2003/1/9



◆ことばの話986「チョウか?まちか?」

滋賀県の豊郷町(トヨサトチョウ)で小学校の校舎を建て替えるかどうかで、町長を筆頭とする町側と一部住民のグループが対立、裁判沙汰にまでなり、年末年始でネタ枯れのテレビや新聞紙面を賑わせています。
このニュースを読む機会がこのところ大変多いのですが、その際、
「町側」
をなんと読むのか、大変悩んでいます。というのも私を含む読売テレビのアナウンサーと記者は、
「チョウガワ」
と読むことにしているのです。ところが、このニュースが全国ネットで流れる場合、リード部分を読む東京のキー局のアナウンサーは、
「まちがわ」
と読むことが多い・・・というよりほとんどすべて「まちがわ」と読んでいるからです。なんか、一体感に欠けるような。
なぜ「チョウガワ」と読むか。理由を考えると、

(1) 豊郷町(チョウ)なので、それを省略した形で「チョウ」と読む。
(2)「まち」と読むと、固有名詞ではなくて一般名詞としての「町」「街」、つまり「人が住んでいる集落としての"まち"」のイメージになってしまうが、ここで言いたいのは、行政機関としての「町」なので「チョウ」


という2点かと思います。(1)に関しては、
「では、もしこれが『とよさとまち』という町名なら『まちがわ』と言うのか?」
という問題が出てきます。その場合は「『まちがわ』と言う」という人と「それでも『チョウがわ』と言う」という人に分かれるでしょう。でももし「とよさとまち」という町名でもその町の議会は、まちがいなく、「まちぎかい」ではなく「チョウぎかい」と言うでしょうから、やはり<(2)に関連してくるのですが>行政機関と町名(地域の名称としての町)とは区別する意味でも「チョウ」と「まち」は読み分ける必要があるのではないか、と考えるわけです。
これは「市」の場合は起きない問題ですが、「村」の場合は「むら」か「ソン」かという同じ問題が起こりえます。沖縄県には「○○村」と書いて「○○ソン」と読む「村」がたくさんありますが、その沖縄では、
「村では」
というのを、「むらでは」ではなくて、
「ソンでは」
と言うと、沖縄に詳しいWアナウンサーが教えてくれました。私などの「常識」だと「むらでは」と読んでしまいそうですが、"ソン"なこともあるのです。また、「ソン」で思い出したのは、1970年代初頭に「アサー!!」で一世を風靡した漫画家の故・谷岡ヤスジさんの漫画でウシが出てくるもの。ここでも「ソン」という言葉がカタカナで使われていたように思います。GOOGLEで「谷岡ヤスジ・ソン」で検索したら185件出てきました。
私と同じく新聞協会用語懇談会の委員をしている日本テレビのTアナウンサーにこの件についてメールで質問したところ、
「当然、『まち』でしょう。『チョウ』なんて書き言葉的だし、耳で聞いても分らない。私は『まち』で読んでいます。」
という答えが返ってきました。たしかに「チョウ」を単独で耳で聞いて「町」という漢字を思い浮かべるのは難しいかも知れないし、あまりなじみがないかも知れません。でも「蝶」や「腸」と間違う人もいないでしょう
やはり「行政機関」の「町」を「まち」と読むと、一般名詞的集落の「まち」と「まちがわれる」のではないか・・・・と思います。だから、この問題で大揺れとなっているのは「まち」ですが、一部住民と対立しているのは「チョウ」だと、私は固く思うのです。
ちなみにニュースで私が確認できた各局の「町側」の読みと、メールで確認した各局の読みは、


<チョウ>
<まち>
(在阪局) 朝日放送※1
読売テレビ
関西テレビ
朝日放送※2
NHK
毎日放送※3
(東京キー局) TBS フジテレビ
日本テレビ
NHK
テレビ朝日
テレビ東京
(その他) 静岡放送

でした。テレビ大阪は「このニュースは出てこないので読んだことがない」ということでした。滋賀県の話ですからね。
NHKは「各地方では、『町、村』を『チョウ、ソン』と読む場合もある」ということでしたが、今回に限ってニュースを見ていると、東京も大阪も「まちがわ」と言っています。
フジテレビはリードで「まちがわ」と読み、本文の読みを担当した関西テレビは「チョウがわ」と読んでいましたの。一種の「ねじれ」ですね。ちなみに日本テレビと読売テレビも、このところそういった感じになっています。(今日は読売テレビ、朝日放送ともに関西ローカルのニュースだったので、そういった「ねじれ」はありませんでしたが。)
※1は、朝日放送のアナウンス部内で調べてもらった実態結果です。ただ「行政区分上の読み方に合わせる」という意見もあったそうです。※2は同じく朝日放送の1月7日昼ニュース、全国ネットで現地から中継した記者が「まちがわ」と言っていたということです。
※3の毎日放送は、後で出てきますが、「まち」「チョウ」以外の読み方も使っていました。



それにしても、こうしてみると、ほとんどの局は「まちがわ」ですねえ。
しかし、「まち」というと「その町の住民」を含むように思います。ということは「国対町」という場合は「まち」もOKのケースがあるかもしれません。



1月7日のTBS「キャッチアイ」では、
「町長側」
としていました。確かにそうですが、「町長側」じゃない「町側」もあると思うのですが、その場合はどうするんでしょうかね。
同じく1月7日、同じ系列の毎日放送・夕方ニュース「VOICE」では、最初スタジオ部分で男性キャスターが、
「行政側」
という言い方をしていました。これはうまい!まさにそうなのです。「行政側」ということが言いたくて「チョウ」と言っているのですから。しかし、その後のVTRの中と、もう一度スタジオに降りてきた時の女性キャスターは、
「まち(町)と住民グループが」
「住民グループとまち(町)の対立は」

と「まち」を使っていました。
同じ日の朝日放送の夕方ニュース「ゆう」では、
「町長の主張」
という字幕スーパーが使われていました。TBSの「キャッチアイ」と同じ手法ですね。
各局、「町側」という二通りの読み方のある言葉を、微妙に避けているようにも思われました。嗚呼、「チョウ」が問題だけに、「チョウ」ムズカシイ・・・。

2003/1/9


(追記)

こう書いて社内の関係各所に流したところ、さっそく反響がありました。Sキャスターからです。
「今日(1月9日)の昼ニュースでは、リード部分(日本テレビが読む部分)は『一部住民と町長が対立』と『町長』を使い、うち(読売テレビ)が読む本記部分は『町側(チョウがわ)』とする折衷案を使いました。」
とのことでした。

2003/1/9


(追記2)

NHK放送文化研究所の原田さんから、
「『町』を『チョウ』と読むか『まち』と読むかに関しては、感じ方に東西差があるのではないですか。東の人は『まち』と読んでも地域名と行政機関の両方を想起するのでは?」
というメールをいただきました。たしかに、読売テレビのアナウンス部内でも、東京出身の2人からは、
「『町側』は『まちがわ』と読みたい衝動にかられます。」
という意見が出ました。もし、感じ方にそのような「東西差」がとするならば、それは、
「行政機関としての『町』と、住民が住む地域としての『町』を同じように『まち』と呼ぶ人は、行政機関としての『町』と同じ側にいて一体感・仲間意識を持っている人で、行政側の『町』と住む地域の『町』を区別して呼ぶ人は、行政と対立関係の状態にある人ではないか?」
という考え方が浮かんできました。
必ずしもそうとは言えないかもしれませんが、「お上」に対する意識の差に東西で大きな差があるのはよく指摘されるところですから、
「当たらずとも遠からず」
というところでしょうか?ご意見お待ちしています。

2003/1/10


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