◆ことばの話960「中澤司令」


先月、鉄道事故の救命活動中に、線路内でJRの特急にはねられて死亡した大阪市消防局の救急隊員・中澤良夫消防士(2階級特進で司令)の消防葬が、今日(12月12日)、大阪市内で営まれました。そのニュースを読むSアナウンサーから内線電話です。



「道浦さん、『中澤司令』のアクセントなんですが、コンパウンドするんですかね?それとも『中澤』と『司令』は、共に平板アクセントでいいんですかね?」



という質問です。



「うーん、どっちでも間違いとは言えないと思うけど、ボクは両方平板でコンパウンドさせずに『中澤』『司令』で良いと思うよ。」



と答えました。たしかに「中澤」という名前と「司令」という肩書きの結合の度合いが強ければ、コンパウンドしても良いとは思いますが、その場合には、



「中澤司令(LHHH・HLL)」 (Lは低く、Hは高く発音する)
と、「司令」の「司」までが高く「令」の「れ」で下がるというアクセントです。一方の両方平板アクセントで言えば、



「中澤司令(LHHH・LHH)」
と二つに切って読む感じになります。
最初のパターンの読み方を「ほかの例」で言うと、



「中澤先生(LHHH・HLLL)」
のように「先生」の部分のアクセントが、



「先生(HLLL)」
と頭高アクセントになるものです。普通はこれも、



「中澤先生(LHHH・LHHL)」



となるはずなのですが。最近、結合してコンパウンドするこのパターンの発音を、よく耳にするのですが、ものすごく「西日本ぽく」感じます。分けてキッチリ発音で、よいのではないでしょうかねえ。



最後に中澤司令のご冥福を祈ると共に、こういった事故が二度と起きない様に、強く望みます。



2002/12/12


◆ことばの話959「最高の元大統領」

ノーベル賞の授賞式では田中耕一さんと小柴昌俊さんに話題が集中していますが、その陰で(?)カーター・元アメリカ大統領(78)のノーベル平和賞受賞も、今年だったんですね。



そのカーター元大統領に関する記事が12月11日の読売新聞に載っていました。それによると、元大統領は受賞演説で、



「アメリカの力と責任は空前のものだが、最高の強さは最高の賢明さを保証しない」



と指摘したそうです。こういう事をしっかりと指摘できるというのは、さすが、ノーベル平和賞受賞者!でも翌日(12日)の毎日新聞にはこんな記事も。



『ノーベル賞委員会のベルゲ委員長は、「カーター氏は米国史上で最も印象に残る大統領にはなれないだろうが、元大統領として最高であることは間違いない。」と述べた。』



おいおいベルゲ委員長、それ、誉めてんのか、けなしてんのか、わからんやんか。



『歯にきぬを着せぬ直言ぶりに会場のカーター氏も苦笑していた。』



そりゃあそうでしょう。しかし「最高の元大統領」になるためには、まず大統領にならなきゃいけない訳ですから、これはとってもとっても大変なことだ、ということだけは、よおく分りました。



カーター元大統領、おめでとうございました!




2002/12/12


◆ことばの話958「ウィって」

朝起きたら、5歳の息子が寝ぼけた顔で質問を投げかけてきました。



「お父さん、"ウィ"って日本語にあるの?」



一体、起き抜けに何を聞いてくるのかと思ったら・・。以前(というのは半年ほど前)は



「ハロー(Hellow)の"ハ"って日本語?」



と聞いてきたことがあるので(平成ことば事情716「Hellowのハ」参照)ハハアンと思ったのですが、また質問が難しくなっている気がします。 しょうがなく「日本語の母音」について、5歳児相手に説明するハメになりました。



「あのな、日本語はな、あいうおえ、かきくけこ、ってあるやろ。その中でも大事なのは、あいうえお、やねん。このあいうえお、を"ぼいん"って言うねん。なんでかっていうと、かきくけこ、も『k(カッ)』のあとに『あ』がくっついて『か』になるし、『き』も『k(キッ)』も「い」がくっついて『き』になるからやねん。わかった?」



と話しているうちに、もう向こうへ行ってしまいました・・・。 その前日、久しぶりに幼児英会話教室に行ったからでしょうか、こういう疑問を持ったのは。それにしても、5歳児に日本語の母音について説明するのは、まさに至難の業ですなあ。
翌日、今度は二人で「百人一首」をやることになりました。ふだん、「乗り物カルタ」などは大好きで、進んでやる子なのですが、まだようやく平仮名がなんとか読める程度、「"ぬ"と"め"の区別は、まだ危ない」のですが。そんなヤツに、



「昔はな、『けふ』と書いて『きょう』と読んでんで。だからお父さんが『きょう』と読んだら、『けふ』って書いてある札を探すんやで。」



と説明しながらの百人一首は、疲れます。それも二人で。30枚ぐらい読んだところでもうギブアップとなってしまいました。
まあ、お正月までにはもうちょっと、楽しくなるかもしれません。ボチボチ行きましょう。



2002/12/12


◆ことばの話957「つましいとつつましい」

先日神戸に行ったおり、子どもの希望で路線バスに乗りました。その車内にあった、「ロト6」の広告。にこやかなSMAPの中居君の笑顔に添えられたコピーは、



「つつましく生きる幸せ」



でした。吊革につかまりながら、



「あれ?『つつましく』でよかったんだっけ?『つましく』では?そもそも『つつましく』と『つましく』の違いは?」



というのが気になりました。いつもの『新明解国語辞典』(三省堂)を引いてみると、



○「つつましい」= (1)遠慮深い。
(あやまって「つましい」と同義に用いる向きも有る。)
例、「つつましい食事」「つつましく暮らす」
(2)礼儀正しくしとやかだ。
続いて『岩波国語辞典』を引きましょう。
○「つつましい」= 遠慮深くて動作・態度が控え目だ。
▽「包む」(=表面に出ないようにする)の形容詞化に由来。
「つつましい生活」も、控え目にして目立たない生活の意で、
これを節倹につとめた「つましい生活」の意に使うのは誤用。
●「つましい」= 倹約だ。質素だ。「つましい家計」「つましく暮らす」
やっぱり「つつましい」を「つましい」と同義に用いるのは「あやまり」なんだ!ハッキリ「誤用」「あやまり」と書いてありますよ。
『三省堂国語辞典』
はどうでしょう?
○「つつましい」
(慎ましい、虔ましい)=
えんりょ深く、しとやかだ。
「つつましい態度」
●「つましい」(倹しい)= ぜいたくをせず、質素だ。「つましい暮らし」
やはり意味の使い分けが行なわれていますね。
では、『新潮現代国語辞典』はどうでしょうか。
○「つつましい」= (1)態度・振舞いが控えめである。
(2)欲求を適度におさえて控えめである。質素である。
つましい「つつましく暮らす」
(3)(古)恥ずかしく感じられる。
●「つましい」= 無駄をはぶき節約している状態である。
「つましい人」「つましい生活」
おや?「つつましい」の(2)の意味は、「つましい」と同じだぞ。
続いては新しく購入した『明鏡国語辞典』(講談社)です。
○「つつましい」= (1)控えめで、物静かであるさま。遠慮深い。
(2)ぜいたくでないさま。質素だ。つましい。
●「つましい」= 暮らしぶりが質素であるさま
おお!こちらも「つつましい」に「質素、つましい」という意味も認めています!
では『日本国語大辞典』(小学館)はどうでしょうか。
○「つつましい」= (1)他に対して心が置かれ気恥ずかしい。
気がひける感じである。 きまりが悪い。
(2)自らの挙動が重々しく控えめであるさま。
表だたないで 控えめである。思慮深い。
(3)贅沢ではない。地味で質素ある。
つましい。つづましい。
「つましい」= (1)むだづかいをしないで倹約である。つづましやかだ。
(2)生活ぶりなどが地味である。質素で控えめである。
ああ、こちらも認めています・・・。
でも、やっぱり「つつましい」と「つましい」はちゃんと区別する「慎ましい態度」が好ましいと思うのは私だけでしょうか。 「つましい生活」と「つつましい性格」。漢字で書くと「倹しい生活と慎ましい性格」ということで。



それにしても中居くんが出ているコマーシャルって、タダ券が当たって飛行機に乗ったり、牛丼が50杯タダになったり、宝くじが当たったり、才能と努力とは関係ないところで「一攫千金」というものが多いですね。彼の性格?それとも起用する側の意図? いずれにせよ、努力なしに一攫千金を狙うのは、少なくとも「つつましい態度ではない」のではないでしょうか?生活は「つましい」かもしれませんが。



2002/10/16
(完成稿2002/12/13)


◆ことばの話956「リーマン」

12月11日、日経新聞夕刊のトップ記事の見出しを見て、ちょっと驚きました。そこには、こう書いてあったのです。



「リーマン500億円出資へ
〜日商岩井・ニチメン統合発表 1年で4000人削減」



え!会社の統合で、500億円もサラリーマンの社員が金を出すのか!?しかも4000人もリストラするのか!踏んだり蹴ったりやなあ、と思ってよく記事を読んでみると・・・違いました。両者の統合で2000億円を超える資本を出資するアメリカの投資銀行の名前が、
「リーマン・ブラザーズ」
というそうなのです。昔、会社員2人のグループで「シャインズ」(社員2人だから)というのがありましたが、この「リーマン・ブラザーズ」は、サラリーマンの兄弟が創った投資銀行・・・なわけないよな。
Googleで「リーマン」を検索したら、7万700件ありましたが、「リーマン、会社員」とキーワードを2つにして検索したところ、2170件でした。
サラリーマンを略した俗語で「リーマン」と言うのは、もう廃れたのかもしれませんが、「リーマン」なる言葉に、つい昔を思い出してしまいましたとさ。おしまい。



2002/12/12

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