◆ことばの話950「新聞のルビの現状」

昨年(2001年)秋、日本新聞協会はこれまでの常用漢字表の漢字1945字に加えて、39字の表外字も使えることにしました。それを受けて、各新聞社もこの4月までに39字プラスアルファで、使える表外字を発表しました。
戦後、漢字を制限する方向で制定された「当用漢字」は「これ以上は使ってはいけない」というものでしたが、その後1981年に制定された「常用漢字」は、制限色が弱まり、「使う際の目安」というものになっていました。とは言え、新聞などではその後も「制限」という意味合いで常用漢字を使っていたようなのですが、ワープロ・パソコンの普及は、その制限があまり意味のないことだということを明らかにしました。また、漢字制限の結果として出てきた「交ぜ書き」の弊害も指摘されるようになりました。「交ぜ書き」というのは、簡単に言うと「ら致」「ぶ然とした」といったような「ひらがなと漢字を交ぜた書き方」です。こういう書き方を進めると本来の「拉致」「憮然とした表情」といった字が読めなくなり、その漢字から読み取れていた意味がわからなくなる、という弊害が指摘されてきました。そういったこともあって、漢字規制が緩くなってきているのが昨今の状勢です。



また、今まで新聞が嫌ってきた「ルビ」の活用も目立つようになってきて、難しい漢字・熟語・言葉でも、ルビを付けて使うケースが、増えてきているように思えます。



朝日新聞大阪本社校閲部の門田(もんだ)耕作さんによると、使える漢字を増やす前の今年3月と、増やした後の今年4月の朝日新聞の紙面を比べてみたところ、



「1ページ゙に付き"1、16字"以前よりルビ付きの漢字が増えた」
そうです。それからまた半年経っていますが、門田さんは先日「1ページあたり2つくらいある。感覚的には、調査の時よりさらに増えているようだ」と話してらっしゃいました。
そこで現在、各新聞は、1日の紙面でどのくらいルビを使っているのかを、私なりに調べてみました。ルビには、漢字のすぐ横に振る「横ルビ」と、漢字の下に( )を使って読みを書く「縦ルビ」がありますが、今回見たところ、日経新聞以外は大体「横ルビ」を基本にしているようでした。
調査したのは、11月28日(木)と29日(金)の2日間の読売・朝日・毎日・産経・日経の5紙です。(いずれも大阪版です)
まずは11月28日(木)から。



  (全部) (A小説) (B人名) (C地名) (D子供面) (全部−(A十B十C十D))
読売 62 11 16 35
朝日 96 29 33 34
毎日 84 26 22 24 11
産経 73 1 15 56
日経 21 4 6 11



という結果になりました。ちなみに、各新聞の紙面数と、調査した紙面数(全面広告は調査対象外)は、



  全紙面数 − 全面広告数 =調査紙面数
読売 40 13 27
朝日 32 5 27
毎日 30 7 23
産経 32 6 26
日経 44 16 28



でした。総数で96と朝日が多いのは、韓国の大統領選挙の記事で、人名にすべてルビが付いていたからです。毎日は子供面でほとんど総ルビだった関係で総数が84と2番目に多いですが、そういった要因を除くと日経と並んで一番ルビが少ない部類です。また、連載小説は、外部の作家が書いているので、いろんな漢字をいろんなふうに読ませるためにどの小説もルビが多い傾向です。
そのあたりを勘案すると、一番右側の(全部)から(ABCD)を足したものを引いたものが、「正味のルビ付き漢字」だと思われます。具体的に、調査1面当たりのルビの数を計算してみましょう。つまり「正味のルビ付き漢字」を調査紙面数で割ってみるのです。



 : (正味のルビ付き漢字) ÷(調査紙面数) =(1面当たりのルビ付き漢字数)
読売 35 ÷ 27 =1.30
朝日 34 ÷ 27 = 1.26
毎日 11 ÷ 23 = 0.48
産経 56 ÷ 26 =2.15
日経 11 ÷ 28 = 0.39



こうして見ると、産経が一番多く、ついで朝日と読売がほぼ同数、一番少ない部類が毎日と日経です。 続いて翌29日(金曜日)の新聞です。



  (全部) (A小説) (B人名) (C地名) (D子供面) (全紙面―(A十B十C十D))
読売 60 25 0 24
朝日 60 19 9 3 29
毎日 98 26 16 2 27 27
産経 48 0 6 3 39
日経 23 5 7 11

  全紙面数 − 全面広告数 =調査紙面数
読売 40 11 29
朝日 32 7 25
毎日 32 4 28
産経 32 5 27
日経 44 15 29



という結果でした。日経が2日間とも11個と群を抜いてルビが少ないですね。朝日と読売はほぼ同じ、産経は小説ではほとんどルビなしですが、その他では結構、使っています。
2日間トータルで、1面当たりのルビ付き漢字の平均個数出してみましょう。



  (合計ルビ付き漢字数) ÷(合計調査紙面数) =(1面当たりのルビ付き漢字数)
読売 59 ÷ 56 = 1.05
朝日 63 ÷ 52 = 1.21
毎日 37 ÷ 61 = 0.61
産経 95 ÷ 53 = 1.75
日経 22 ÷ 57 = 0.39



ということで、ルビを使っている方から、産経、朝日、読売、毎日、日経の順になりました。産経は日経の4倍以上ルビを使っています。 具体的にどんな漢字にルビを振って使っていたかというと(小説、人名などを除く)、



11月28日(木)




(読売)

蓮、砲兵工廠、膠着、要諦、毅然とした、荒唐無稽、悪しき、尊王攘夷、脆さ、閉塞、払拭、親戚、凋落、吃音、麻黄湯、痴呆、肺塞栓、膝痛、心筋梗塞、膵臓、膠原病、
大動脈瘤、臍帯血移植、哀しさ、溢れた、常饌、抜擢




(朝日)

隠蔽、先達、捻出、膠着、怨念、牽制、払拭、瑕疵、秘訣、睡蓮、屏風、梱包、贖罪、標榜、煽り立てる、牛糞、堆肥、凱歌、拮抗、糟糠の妻、防空壕、痴呆症、勾留、闊歩、傷痍軍人、絆



(毎日)

濫用、姪、矮小化、僅差、毅然たる態度、炭疽菌、淋しい、危惧、狭隘、乖離、水琴窟



(産経)

樽、旱魃、燐、脳梗塞、詩、破綻、適宜、牽制、捻出、眩しい、儚く、頬張って、咎められて、雪隠、掃除夫、鶯、囀り、見紛う、暫し、躊躇、馴れ初め、未だ、樟脳、爽快、充填、大晦日、清冽、湧き出て、摩訶不思議、賜物、変貌、旨味、塊、枕詞、牡蠣、
葛藤、歪み、終焉、嫉妬心、四方山話、些細、鰭、瀕した、血道、禰宜、斂葬の儀、
正寝、黙祷、払拭、頭蓋骨、埠頭




(日経)

焙煎、几帳面、奢侈、斂葬の儀、柩、正寝移柩の儀、脳腫瘍、水琴窟、幾年、故郷、
前荷
11月29日(金)は、




(読売)

溺死、脆弱、対峙する、牙城、悪性腫瘍、弾芯、炭疽菌、甦り、凛と、リンパ腫、飴釉、
茶碗、焙煎、外反母趾、斂葬の儀、柩、埴輪、祭祀、柵形、二重濠、巫女




(朝日)

艶麗、堪えて、誹謗中傷、俎上、内分泌撹乱化学物質、臍帯血、破綻企業、心筋梗塞、膠着状態、伝播、牽制、払拭、抜擢、挽回、上手く、明日、秘訣、汎モンゴル主義、哺乳類、爬虫類、齧歯類、慰憮する、進捗率、危惧する、可動堰、埴輪、柵形、巫女、蓋形



(毎日)

俎上、閉塞状況、諜報、口蹄疫、閉塞的状況、絆、頃、箸、怨んだ、倦まずたゆまず、頁、
繋ぐ、凛と、姑、側、橋頭堡、喀痰、女将、舞妓、芸妓、一見さん、禰宜、濠、埴輪、祭祀、地球(ここ)、詩





(産経)

専攻、詩、撹乱、倦怠感、急遽、破綻、手榴弾、遥かな、界隈、一蹴する、呪縛、歪曲、緻密、諜報機関、炭疽菌、口蹄疫、諜報活動、鰭、最後通牒、煩雑、逆鱗、冤罪、肋骨、些細、苛まれ、干支、孵化、斂葬の儀、柩前祭、柩、霊柩、霊代、埴輪、柵形、須恵器、
梱包、覚醒剤、造出




(日経)

対峙、翻弄、斂葬の儀、緞帳、噺、鉄釉、茶碗 といった漢字がルビ付きで使われていました。小説などでは難しい漢字や人名にはほとんどルビが振ってありましたが、唯一気になったのは、産経新聞連載の「ナポレオンの夜」(藤本ひとみ)の中にたびたび出てくる、



「麾下」

という言葉。これ、ルビがないのですが、常用漢字なのでしょうか?「さしまねく」という字のようです。(当初、読みは「なびく」かと思っていましたが、早稲田大学の飯間浩明氏のご指摘で、間違いに気付きましたありがとうございました。)です。読みは「きか」ですが。あと、「ルビなし」で「おや?読めるのかな?」と思ったのは、 神髄、麩、酸辛湯、曾我廻家八十吉、曾我廻家寛太郎、脱臼、親鸞(以上、産28)、脇窯(読29)霊代安置の儀(読29、みたましろあんちのぎ)温州みかん、爪楊枝、旧槌橋家(以上、産29)※数字は日付 といったところ。また「交ぜ書き」の使用状況は、
(読売)えん戦、黙とう、痴ほう、公然わいせつ罪(28)内分泌かく乱物質、さい配(29)



(朝日)<なし>
(毎日)心筋こうそく(28)、破たん、はぐくんできた、殺そ剤(29)
(産経)骨粗しょう症(28)
(日経)<なし>




※数字は日付



(毎日の「はぐくんできた」は、全然交ぜ書きではなく、単に漢字ではなく「ひらがなで書いている」というだけですね。すみません。) 特に「痴呆」「撹乱」「梗塞」「破綻」は各社で判断が分かれているようですね。
漢字をルビ付きで推進している産経新聞でも「骨粗鬆症」の「鬆」の字は、さすがにひらがなにしていたのが目を引きました。この2日間で目にした交ぜ書きは、意外と少ないなというのが感想です。
そうこうしているうちに、本屋さんが『日本語学』の2002年12月号を配達してくれました。その特集が「文字・表記の現在と課題」。タイムリーですなあ。その中で、朝日新聞社・用語幹事補佐の福田亮さんが、「変わる新聞の表記ルール〜漢字表の字種追加と運用を巡って」と題して、新聞での漢字使用の変遷について10ページにわたってわかりやすく書いてらっしゃいます。私もチラッと出てきますので、ご一読を。 とまあ、またそうこうしているうちに、12月3日から静岡県三島市で続いている「立てこもり事件」、12月4日の夕刊の時間になってもまだろう城は続いています。あ、「ろう城」が交ぜ書きだ。その各紙の記事を見ていると、「膠着状態」が各紙で漢字・ルビ付きか、交ぜ書きか、分かれています。(記事のルビは、すべて横ルビです。)



(読売)膠(こう)着状態
(朝日)・・・・・・(膠着という言葉は使わず)
(毎日)こう着状態
(産経)膠着(こうちゃく)状態
(日経)こう着状態




ということで、
読売と産経が「ルビ付き」(ただし読売は膠着の「膠」だけにルビ)、毎日と日経が「交ぜ書き」、朝日は「言い換え」と対応が分かれていました。
読売は、11月28日の社説で出てきた「膠着状態」には「こうちゃく」とルビを振っていたのですが、今回は「膠」だけに「こう」というルビを振っていました。特に熟語単位で振るというようなルールはないのではないでしょうか。
ルビ付きで「膠着」を使った読売ですが、見出しでは「篭城」は「ろう城」と「交ぜ書き」でした。他社は、「立てこもり」を見出しに使って「ろう城」は避けていました。



2002/12/4




(追記)



今朝(12月5日)の朝刊で気付いた交ぜ書きは、
「失そう」(毎日)
「閉そく感」(毎日)。
それぞれ、「モンゴル選手ら失そう」「閉そく感打破求めて投票」と、割と大きな、太い文字の見出しで使われていました。見出しで使うと目立ちますねえ。
逆に今朝、意図的に表外字を使っていたのは朝日のコラムニスト(外部筆者なんでしょうか、内部筆者なんでしょうか?)船橋洋一氏の「日本@世界」というコラムで、船橋さんは「○然」という熟語をいくつも使って、その意味の違いで持ってコラムの筆を転がしていましたが、まあ、ことごとく表外字で、ルビ付きでした。どんな字かというと、
毅然、俄然、茫然、慄然、憮然、悄然
一応読めます。その他にもルビなしで
平然、釈然、当然、暗然、憤然、悠然、超然、冷然
ここまで来るとご立派!ちゃんと「韻を踏んでいる」ようなものですね。そのほか、
恫喝、凋落、守、綾
という漢字もルビ付きで出てました。このコーナー、無茶苦茶ルビ多いです。内容に目が行かなくてこんな所ばかり見ているのも、いかがなものかと。
そのほか、旧字体という問題もありますが、これはまた、次の機会に。


2002/12/5


◆ことばの話949「はやて」

12月1日、東北新幹線「はやて」が開業しました。関西にいると、東北はすごく遠いところというイメージがありますし、もし行くなら「飛行機で」と考えるからでしょうか、あまり盛り上がっていないのですが、たまに出張などで東京駅に行くと、ずいぶん前から看板を出して
「12月1日 はやて開業」
と宣伝をしていたので、力が入っているのだな、と思いました。
その「はやて」、当然「疾風」という意味だと思うのですが、そういう意味の「はやて」のアクセント、NHKアクセント辞典では、
「はやて(LHH)」(Lは低く、Hは高く)
しか載っていません。
これに関して今年の夏頃に、NHK放送文化研究所の原田邦博研究員から
「アクセントどうしてますか?」
というメールが来ました。
「新幹線は、ひかり、あさま、こだま、つばさ、なすの、やまびこなどが平板アクセント。頭高は、あさひくらいでしょうか。いずれも元のアクセントをとどめています。そこからの類推だと"はやて(LHH)"と平板になるのでは?月光仮面も"はやて(LHH)"のように現われて、"はやて(LHH)"のように去って行くんだし。」
とのことでした。それに対して私は、
「疾風の意味の"はやて"は平板アクセントしか載っていないけど、この固有名詞としての"はやて"は頭高アクセントの"はやて(HLL)"でいいんじゃないですか?」
という返事を送りました。念のためJR東日本の広報に電話して、「現場ではどう呼んでいるか」を聞いてみました。その答えは、
「とくにアクセントのことまで決まりはないと思うが、現場では"はやて('HLL)"と頭高アクセントで呼んでいる。平板の"はやて(LHH)"というのは聞いたことがない。」
というものだったので、その旨も原田さんに伝えました。それからしばらくして、原田さんから、
「NHKも、JRの要望を入れて、頭高アクセントの"はやて(HLL)"と呼ぶことにしました。」
という連絡がありました。
そんなことを思い出しながら、「はやて」の開業風景のニュースを見ていたのでした。
あ、もちろん、放送各社「はやて(HLL)」と言っていました。



(追伸)



先日、原田さんが東北新幹線「なすの」に乗った時に、車内アナウンスは、「なすの(HLL)」
頭高アクセントでしゃべっていたそうです。テープ音声は「なすの号」と「号」が付いていたので、中高アクセントになっていて、テープの声の「なすの」のアクセントは確認できなかったそうです。また、英語のアクセントは英語らしく頭高だったということです。原田さん、丁寧なリポートをありがとうございました!
2002/12/5 (追記) 『プロジェクトX』のビデオを見ていたら、レンタル中のほかのビデオの宣伝が後ろの方についていました。その中に、潜水艇「しんかい6500」についてのものがありました。あ、「しんかい6500」か!これも、普通名詞の「深海」ならば、「しんかい(LHHH)」と平板アクセントですが、この乗り物の名前としては、
「しんかい(HLLL)」
と頭高アクセントですね。「はやて」と同じだ。乗り物に関してはこういった傾向があるのかもしれません。



2002/02/03


◆ことばの話948「コンテンツ産業」

夜勤の帰り、タクシーの中でNHKの午前3時のラジオニュースを聞いていました。
その中で、
「コンテンツ産業」
「コンテンツ市場」

という言葉が出てきました。「コンテンツ」とは直訳すれば「内容」「中身」ということでしょうが、ここ数年、よく耳にするようになりました。それを聞いて思ったのは、 「昔はこういうのを、"ソフト産業"と言ったよな。」 そうなんです、私など一般的の者にとっては、
「コンテンツなどと気取って言わずに、今までどおりソフトと言って欲しい!」
のです。数年前にテレビのデジタル化に関する研修会があって、チンプンカンプンだった時にただ一つ、わかったのは、そういうことだったのです。
矢野直明著「インターネット術語集U〜サイバーリテラシーを身につけるために〜」(岩波新書2002・11・20)の第1章に、コンピューター会社はバージョンアップを繰り返すことで売り上げを増やしている、というようなことを書いてありますが、言葉自体も、それと同じ傾向があるのではないでしょうか。
つまり、同じ内容のことを別の言葉で言うことによって、あたかも新しい違う内容であるかのように見せる。「言葉の厚化粧」どころか、「整形手術」とでも言うべきことが平然と行われていて、多くの人がコロッと騙されてしまうと思うのです。
言葉も素顔が一番ですよね。(なんてことを書くと、女性陣からは総スカンを食うかもしれませんが。)



(追伸)



平成ことば事情944「カタカナ語と外来語」もお読みください。



2002/12/3


◆ことばの話947「月命日」

3年前、東京都文京区で、若山春名ちゃんが殺害された事件で、殺人などの罪に問われて東京高裁で懲役15年の判決を受けた山田みつ子被告に対して、春名ちゃんの両親が慰謝料など1億3700万円の損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は12月4日、総額6100万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。このうち1970万円については、春名ちゃんの「月命日」にあたる毎月22日に約8万円ずつ、20年間支払いつづけるよう命じました。遺族側が分割払いで賠償を求めた「定期金賠償」の判決が出るのは異例だそうです。(たしか、少年に息子を殺された武るり子さんも、毎月7万円づつの賠償金を少年が払うようにしていたと思いますが。)
それを伝えた新聞各紙12月4日夕刊の見出しは、



(読売)月命日ごと8万円、20年払え
(朝日)賠償「命日払い」命令
(毎日)月命日ごとに分割賠償
(産経)20年間「月命日」に賠償
(日経)被告に「月命日」賠償命令



と読売と毎日が「月命日」を「 」なしで使い、産経と日経は「 」でくくって「月命日」を使ったのに対して、朝日は「命日払い」と、「月命日」は使いませんでした。
さてその、「月命日」。一般的には、例えば「菅原道真の月命日」といえば天神さんの縁日が開かれる25日とか、「弘法大師の月命日」は21日だとか、ふだんよく使われますね。ところが、



『広辞苑』『明鏡国語辞典』『新潮現代国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『岩波国語辞典』には「月命日」は載っていません。『日本国語大辞典』にも載っていませんでした。お手上げです。 『明鏡国語辞典』によると「命日」は、



「故人の死んだ日に当たる、毎月または毎年のその日。忌日(きにち)」



とあります。そして用例として「祥月(しょうつき)命日」というのが載っていました。「祥月命日」を引いてみると、



「一周忌以後にめぐってくる、故人の死去した月日と同じ月日。忌辰(きしん)」



とありました。
整理すると、いわゆる「月命日」は1年に12回あります。そして「祥月命日」というのは年に1回しかありません。そして、単に「命日」と言った場合は、年に1回しかないと私などは思っていましたが、そういう考え方とは別に、いわゆる「月命日」を単純に「命日」と呼ぶこともあるということなのです、辞書上は。
それにしてもなぜ辞書は「月命日」を載せていないのでしょうね。
インターネット検索Googleでの使用状況は、



「月命日」=2930件
「命日」=5万9800件
「祥月命日」=1720件




でした。西と東での使用状況はどうかと思って、「月命日・東日本」「月命日・西日本」と2つのキーワードで検索したところ、



「月命日・東日本」=18件
「月命日・西日本」=38件




あまり有意な数字とは思えませんでした。



2002/12/4



(追記)



朝日新聞の福田亮さん
からメールをいただきました。
「月命日は確かに新しい言葉のようだ。この言葉が普及してきた背景は、なかなか興味深い。」
そして、朝日新聞のデータベースで「月命日」の出現回数を調べたところ、以下の通りだったそうです。


  新聞、
週刊朝日、AERA
新聞のみ
2002 15
01   15
00   12
1999   11
98   13
97  
96  
95  
94  
93  
92  
91  
90  
89  
88  
87  
86  
85  
84  



1988年以降収録紙面数が増えているので、単純に比較は出来ないのですが、それを考慮しても「月命日」は近年に使われるようになったものだと、福田さんは考えてらっしゃるようです。このデータは東京本社版を調べたものですが、1989年以降にデータベースに収録されるようになった大阪本社版と、東京本社版で「月命日」の出現回数を比べてみたところ、



東京出稿=42件
大阪出稿=45件




だったそうです。



2002/12/10



(追記2)



2003年1月17日。阪神大震災から8年の日の日経新聞夕刊の社会面に、こんな見出しが。
「月命日は『カレーの日』
本文を読むと、
「毎月十七日は『カレーの日』。震災で二児を亡くした兵庫県芦屋市の会社員、米津勝之さん(42)方では、家族みんなで囲むはずだった食卓への断ち難い思いとともに月命日が巡ってくる。」
という記事で「月命日」が出てきました。
震災当日に「カレー」をみんなで食べる予定だったそうなんです・・・。
やはり「月命日」という言葉には、いろいろな思いが込められていますね。



2003/1/20


◆ことばの話946「芦原温泉」

みなさーん、お待たせしました、皆様に癒しと憩いを提供するシミケンでーす。
(シミケンに関しては、平成ことば事情879「黒ブタとうずら」、同じく、890「山椒って・・・」をご参照ください。)
アナウンス部の部旅行幹事になったシミケンは、部会の席で、行き先の候補を発表しました。その場で、旅行会社とのやり取りが明らかになりました。



「いやー、旅行会社の人に"福井のアシハラ温泉の宿なんですけど"と言うと、向こうの人に、"アワラ温泉です"って言われちゃいました。なんせ僕、"ウラ覚え"だったもんで・・・。」
キミキミ、芦原温泉の読み方だけでなく「うろ覚え」という言葉も「うろ覚え」じゃないか。ウラじゃなくて表の読み方、知っといてよね。



「ほー、三国(みくに)温泉かあ。」
「ミクニ?さんごく温泉じゃあないんですよね」
「サンゴク?山賊じゃあるまいし。福井県三国町だよね。行ったよなあ、ナホトカ号の重油流出事故の時に取材で。」
「そうですか。」
「そうですかって、もしかしておまえ、ナホトカ号の事故、知らないの?」
「いえ、お名前だけは・・・。」
そのシミケン、やはり「グルメ探偵」のロケで、また驚いています。
「え!オリーブの実??オリーブ・オイルではなくて、オリーブの実なんですか?オリーブって、オリーブ・オイルだけじゃなかったんですかあ。」
・・・すみません、また何を言ってるかわからないんですけど。
どうやら彼は「オリーブ・オイル」が「オリーブの実」から取れることを知らなかったようです。しょうがねぇなあ。
そんなシミケンに、先輩のSアナが、
「おまえ、エトを全部言えるか?」
「エート・・・」

などとは言わずに、急に表情がフリーズしたシミケン。



「この前、惜しいところまでは行ったんですが・・・・」
「惜しいところってなんだよ!・・・・じゃあ、還暦は何歳か知ってるか?」
「え?還暦?・・(と言って考えるフリをして時間を稼ぎながら、手はパソコンのインターネット検索で"かんれき"を検索しようとしている)」
「検索するんじゃないよ!」
「(ドキッ!!)あ・・え・・55歳・・じゃないですよね。あ、55歳は定年退職ですか。」
「(うちのは60歳定年です。)おまえは55歳でいいよ。でも還暦は55歳じゃないよ。」
「うーん・・・。」
「じゃあ、スポーツ・アナのシミケン君、甲子園球場は、なんの年に出来た?」
「え・・・・。」
「じゃあ、UアナやWアナの生まれた年(注・昭和41年)は、何の年?」
「・・・・・さあ・・・・」
「ホラ、八百屋お七だよ。」
「??????」
「道浦さん、それは無理でしょう。」
「そうかい?」
「じゃあ、米寿は何歳?」
「あ、それは知ってますよ。88歳ですよね。八十八で"米"という字で。」
「知ってるじゃん。じゃあ、古稀は?」
「コ・・・キ・・・」
「じゃあ、喜寿は?」
「キジュ・・・キュージュー・・・90歳?」
「・・・・・白寿は?」
「あ、それは知っています・・聞いたことはあります。」
「じゃあ何歳?」
「・・・さあ・・・そこまでは・・・。」

きっと彼は長生きすると思います。



(追伸)



この物語に登場する人物は、実在の人物とは、一切関係・・・あります。が、ちょっと脚色しています。フィクションではなく、ハクションです。
あ、それと、この話があった2時間後、また「エトは全部言えるか?」と聞かれたシミケン。「もちろん言えますよ!」と胸を張ったあと、今度は小さなささやくような声で、
「ネ、ウシ、トラ、ウ、タツ、ミ、ウマ、ヒツジ、サル、イヌ、イ!」
そして大きな声で、



「ほら、言えたでしょう!完璧です。」 「おいおい、何か抜けてるよ。」
「え?・・・ネ、ウシ、トラ、ウ、タツ・・・・・・あれ?」

折り曲げた指が、なぜか小指だけが立っています。(※)
「トリが抜けてるよ。」
「あ・・・。」

「地鶏」も知らんかったし、「トリ」と相性が悪いのかな。シミケンはあわてて、「シミケン・マル秘ノート」のもとに駆け寄り、そこに記した「エト」と見比べながら確認をしています。



「お、偉いな、ちゃんと分らなかったことはノートに記しているんだ。」
「もちろんですよ。毎日一歩ずつ前進するんですから。」




おお、けなげじゃ。頑張れよ。道は長いぞ。
でも、みんなキミの一挙手一投足に癒されています。
頑張れ!!シミケン! ※



ふつう片手で指を折って物を数える時は、1=親指、2=人差し指、3=中指、4=薬指、5=小指の順に折って行ったら、今度は6=小指、7=薬指、8=中指・・・という順に指を伸ばして行き、「10」で最初の「パー」の状態になりますよね。すると「11」で最初の「1」と同じ状態、つまり親指を折って残りの4本の指が立った状態になるはずです。しかるにシミケンは、エトの12の動物を11までしか言えなかった時に、なぜか「小指が1本だけ立った状態だった」のです。おかしいと思って、あとで、「おまえ、片手で物を数える時にはどうする?」と聞いてみると、なんと彼は、1=人差し指、2=人差し指と中指、3=人差し指と中指と薬指、4=親指以外の4本の指を立てて行き、「5」では「パーの状態」になったのです。そして「6」はどうするか見ていると、今度は親指から折って行くではありませんか!そうすると、確かに「11」の時には、「小指が1本だけ立った状態」になるのです。それにしても、奇妙なヤツ! (参考)




*「還暦」など、年齢の異称に関しては、「平成ことば事情414『皇寿』」をお読みください。
*甲子園が出来たのは、甲子(キノエネ)の年。だから「甲子園」。
*UアナとWアナは1966年生まれで、「丙午(ひのえうま)」。



2002/12/4