◆ことばの話900「メーる」

このところ会社に来るときに電車を降りると必ず目にする大きな広告が、ケータイ電話会社の広告ポスターで



「メーる?」



というもの。「メール」ではなく「メーる」。「メール」は外来語の名詞ですが、「メーる」は動詞ですね。アクセントも「メール」は「LHH」と平板アクセントですが、「メーる」は「LHL」と中高アクセントになるでしょう、きっと。「メールする」をちょっと短くして「メーる」ですかね。
そう思っていると、駅の近くの銀行のショーウインドウ(で、いいんですよね)にこんなポスターが張ってありました。



地域別融資ファンド「リージョナる」



「地域」という意味の英語「REGIONAL」の最後の「る」だけを「ひらがな」にすることによって、「動詞的な名詞」にしています。



共通しているのは、語尾(最後の音)が「ル」で終わる外国語(まあ、英語ですね)を、「る」というひらがなにすることで「動詞」(のような形)にしているという点です。
これは別に珍しい方法ではなく、われわれも普段から、そして昔から使っています。
仕事を怠けて「サボタージュ」することを「サボる」とか、タクシーに乗ることを「タクる」とか、語尾が「ル」でなくても無理矢理に3拍語にして語尾を「る」にする。



最近は外国語でなくてもそういう形を応用することの一例が、「平成ことば事情892」で書いた「エンギる」のような形ですね。「演技る」は「演技」という漢語に「る」をつけています。



こう考えると、日本語は本当に柔軟にいろんな外国の言葉を飲み込んで消化していく、懐の深い言葉なんだなあ、と感じますね。いかがでしょう?




2002/10/31


◆ことばの話899「まだまだ10月ですが・・・」

またまた登場、Uアナ。
お昼のニュースを読んでいるのを見ていたら、



「さて、まだまだ10月ですが、○○神社では来年のエトの絵馬作りが始まりました。」



という原稿を読んでいました。
一緒にそのニュースを見ていたSアナと顔を見合わせて、



「まだまだ10月ゥ?」



と声を上げてしまいました。
なんかヘンでしょ、この表現。果たして、原稿にそう書いてあったのか、それともUアナがその場で“自分で作って”読んだのか?本人にあとで聞いたところ、



「原稿には『まだまだ10月も下旬ですが、・・・来年のエトの絵馬作りが始まりました』と書いてあった。」



と言うのです。彼女はその日が10月21日だったので、「中旬か下旬か?」で悩み、もし「中旬」とした場合は「『まだ』と『中旬』」となるので悩んだ結果、「下旬」を抜いて読んだら、



「まだまだ10月ですが・・・」



になったという訳。もとの原稿の「まだまだ10月も中旬ですが」なら、それほどおかしく感じません。でもなぜ「まだまだ10月」だと、おかしく感じるんでしょうね。理由をいくつか考えてみました。



(1)「まだ」を2回重ねているので、そのあとには、動詞が来ると感じるのに「10月」という短い名詞が来るから。
(2)1年における「10月」のポジションが「まだまだ」という言葉にそぐわないから。




あ、これだな。



もし「10月中旬」ならば、「最終目的地」は「10月末日」(=10月31日)なので、そこへの道のりの半ばである「中旬」は、「まだまだ」(残りの日数がある)と感じられるのですが、「中旬」を取ってしまって「10月」だけにしてしまうと、「最終目的地」は、「年末」(12月31日)になる。そうすると1年・12か月の内における「10月」のポジションは、後ろから3つ目残すところあと11,12月しかない。そう考えると「まだまだ」(残りの月がある)というよりは「もう」(残すところ、何か月も無い)というふうに感じ方が変わってしまう。だから「まだまだ10月」はおかしいのではないでしょうか。つまり、基準が変わってしまうのです。



「なんかおかしいな」とは感じてもなかなかその理由を分析するのは難しいですね。実はこの話、2週間くらい前のことなんだけど、難しいのでそのまま寝かせておいたものです。
そうこうするうちに、もうすぐ11月。今年も残すところあとわずか。でも11月は始まったばかり・・・どころかまだ始まってもいません。「まだまだ10月」です。



2002/10/30


◆ことばの話898「何歳ですか?」

土曜日の夜に放送している日本テレビの『恋のから騒ぎ』の期首スペシャルで、恒例の外国人特集をやっていました。テーマは、登場する外国人女性たちが、「日本人の男性の態度でいやだと思っていること」。色々語っている中で、「一番いやなこと」は、



「必ず、年齢を聞くこと」



をあげていました。いろんな国の人たちが皆、口をそろえて、
「なぜ年齢を聞くのか分らない」
と言っていましたが、確かに女性に年齢を聞くのは、原則タブーでしょうね。そんなことはみんな分っていると思うのですが、それにもかかわらず、外国人女性に年齢を聞いてしまいます。そういう傾向がない、とは言えないでしょう。日本人よりも気軽に聞けてしまうからかもしれませんが、それ以外に考えられる原因としては、



1.外国人は、外見からは年齢が推測できないから。



2.相手の年齢によって言葉遣いを変えて、敬語を使うかどうかを考えているため



だからではないでしょうか?
最近は上下関係の意識が薄れ、敬語が使われなくなってきているとはいえ、その基礎のところの意識に「年齢を気にする」気持ちが残っているのは、実はそんなことが原因なのかもしれないなあと、番組を見ながら思ったのでした。



2002/10/12


◆ことばの話897「竹脇無我の“事務所”」

10月22日の夜、家でテレビを見ていたら、元気な森繁久弥が出ていたので、つい見入っていました。新聞のテレビ欄で確認すると、
「おやじのヒゲ4」
という番組でした。出演者がみんな若い!のでおそらくずいぶん前に作られたドラマだと思います。いつ頃作られたのかなあ、なんて思いながら見ていました。
その中で、森繁の息子役の竹脇無我が演じる弁護士が、出勤前に父・森繁と話すシーン。



森繁「おまえ、朝飯、食って行かんのか。」
竹脇「また、事務所でパンでもかじるよ。」



この「事務所」のアクセントが、「平板アクセント」だったのです。つまり「じむしょ(LHL)」ではなくて、「じむしょ(LHH)」



最近は若い人を中心に特に東京の人は「事務所」を平板アクセントで言いますし、「交差点」「2次会」「同窓会」「幹事会」といった言葉も、中高アクセントから平板アクセントに変わっていますが、そもそもいつ頃から変わり始めたのかを知る上で、この竹脇無我さんの平板アクセントの「事務所」は、いい手がかりになると思って、よけいにこのドラマがいつ作られたのか知りたくなりました。
こういう時はやはりインターネット!ということで、検索エンジンGoogleで「おやじのヒゲ4・森繁久弥」と2つのキーワードを入れてキーを 押すと、1秒もせずに答えが出てきました。



「1987年10月22日、TBS系で放送」



そうか、今から“ちょうど”15年前か。その頃には竹脇さんぐらいの年齢(当時40代半ばか)の人が、平板の「事務所」を使っていてそれほど不思議はなかったのでしょうから、起源はそれより古い、ということになりますね。
大変参考になりました。



(追伸)



この話を20代後半のアナウンス部のアルバイト女性にしたところ、
「タケワキムガって誰ですか?」
と言われてしましました・・・。
余談ですが、竹脇無我のお父さんはNHKのアナウンサーだったんですよね。



2002/10/24



(追記)



竹脇無我さん、調べてみると生年月日は、昭和19年(1944年)2月17日生まれでしたので、1987年には43歳でした。今は58歳ですか。
一応、確認のため。



2002/10/30


◆ことばの話896「ウソつきました」

同僚のHアナ、が外部のスタジオの録音から帰ってきて一言。



「ネタあげましょうか。」



喜んで、いただきます。



「スタジオで若い女性ディレクターが、番組に必要なCDを予約していたミュージックショップに電話して、『今日CDを取りに行くけど、お店は夜9時まででしたよね?』と聞いていたんです。ところが、9時までだというのは彼女の覚え違いで、実際は10時までだったようなんです。それを聞いた彼女は何と言ったと思います?こう言ったんです。『すみません、ウソつきました、10時までですよね。』って。これって、ヘンな言い回しだと思いませんか?」



確かにヘンですね。彼女は別に「ウソをついた」わけではなく、単に覚え違い、思い違いで、閉店時間を9時だと思っていたけれども、本当の閉店時間は10時だった、というだけなんですから。「閉店時間が9時」というのは「事実とは異なる」事ですが、少なくともこの場合の彼女にとって「ウソ」ではなかったはずです。「誤まり」ではあったけれども。



「事実と違う=ウソ」



というのは、あまりにも短絡的です。「ウソ」は、相手を欺くという意図があって初めて「ウソ」たりえます。この場合は「ウソつきました」と言ったことが「ウソ」なのではないでしょうか。
でも10年以上も前から、これと同じような言い回しをよく使う女性が、わがアナウンス部にも一人います。ね、Uさん!オンエアーで情報を伝えた後に、



「すみません、ウソです」



と言ったのは彼女ぐらいか。あ、でもよく考えると、入社3年目のMアナ。彼女も言い間違いをした時に、時々、



「ウソです。」




と言うなぁ。若い女性が使う言葉なのだろうか。
「言霊信仰」で、



「今、言ったことは、ぜーんぶ帳消し!」



という意識でも働いているのでしょうかね?いや、それよりも自分が間違ったことを認めたくないという意識がどこかに働いているのではないか?そんな気もしてきました。
それにしても不思議な言い回しですね。



2002/10/22

(追記)

最近・・・と言っても1か月ぐらい前の2003年4月21日の夜10時半頃に見た、キンチョーのコマーシャル。花の香がする芳香剤の宣伝で、登場する2人の女性がテーブルを挟んで、フランス語で何かしゃべっています。「いい香りね」とか何とか。最後にその商品がアップになった時に、少し太い声の女性ナレーターがその商品名を言った後に、
「フランスから」
と言うのですが、そのすぐ後に、
「うそ。キンチョーから」
と言うのです。コマーシャルでウソついてええんかい!と突っ込むのも忘れて、
「そうか、この『・・・・ウソ、○○○』という言い方は、コマーシャルにも取り上げられるぐらい“今”的なのだな。」
と納得してしまいました。
「フランスをイメージして、日本のキンチョーが作った商品」
ということもよくわかりました。このCM、おそらくその「トンデレラ、シンデレラ」とか、ああいったコマーシャルを作ったところが作ったんではないでしょうか。遊びの精神に溢れていますよね。

2003/6/1

(追記2)

夜勤でニュース担当の時、原稿の下読みをしていると、ニュースの項目表とQシートの項目が違います。どうなってるの?とオンエアー・ディレクターに聞くと、彼はあわてて、
「それは、ウソです。こっちでした。」
と言って新しい項目表を持ってきてくれたのです。その「ウソです」というのは、別に悪意を持って「ウソ」を付いたのではなく、たまたま項目が変更になってしまったので、古いものが置いてあったというだけなのですが、それを訂正しようとする時に、彼は「ウソです」という言葉を使ったのでした。女性だけでなく、男性も使うのですね、この「ウソ」は。「間違いました」とか「それは古い分です。新しいのはこちらです。」と言うべきところではないのかなあ。

2004/10/9


(追記3)

この「ウソつきました」「ウソです」とともに、若者、あるいは「気持ちは若者」のおじさん・おばさんが使う言葉に、
「一瞬」
があります。「ちょっと」という言葉を強調してより婉曲の度合いを強めたものだと、私は分析していますが、当然、「一瞬いいですか?」と言って持っていったハサミが、一瞬で返ってきたためしはありません。これは「ことばの話133」で書きましたが、ソレを書いてから5年、最近この「一瞬」が、さらに広がっているように感じます。
2004/2/14