◆ことばの話885「戦後最大級」

戦後最大級の台風21号の話を、先日書きました。
それに関連して、「週刊文春」10月17日号に連載中の「ほりいのずんずん調査336阪神は優勝しませんでした」で、こんな文章を見つけました。



「『戦後最大』という言い方はそろそろどうにかしたほうがいいんじゃないだろうか。戦後って1945年以降ってことだから、もう57年だ。明治と大正を足したくらいの時間になっている。慶応三年と昭和一年のあいだは59年だからな。昭和になったときに『御一新以来最大の台風』と言ってもいいんだけどね。でも何か変。つまりこの57年間を同質の時代だとかんがえているということだぜ。パックス・ジャパニーナだよなぁ。(中略)だからおれは『阪神が優勝して以来』というフレーズを使うことを強くおすすめしたい。(中略)だから『阪神優勝後』を『戦後』に代わるフレーズとしてぜひ、使っていただきたい。NHKのニュースで使って欲しい。(中略)NHKのアナウンサーはニュースで『多摩川のタマちゃん』と平気で言ってしまったのだから、もうこれからは何だってありだと思う。」



堀井憲一郎さん(著述業・44歳・京都市出身)が書いているのですが、確かに「戦後最大」という基準はそろそろ考え直してもいいのかな、という気はしますね。
「もはや戦後ではない」
と経済白書で宣言したのが、昭和31年(1956年)、それからだってもう46年経っているのですから。一番、妥当なのは、
「平成になってから」
ではないでしょうか?どうかな??



2002/10/12


◆ことばの話884「浜崎あゆみの『べき』」

見崎鉄『Jポップの日本語〜歌詞論』(彩流社・2002・7・20)を読んでいると、「浜崎あゆみの技法」(P250)という項に気になることが書いてありました。
以前、平成ことば事情の「229“へき”か“べし”か」「239来るべき大地震」でも書いた「べき」に関してです。浜崎あゆみの曲はあまり積極的に聞いたことがなかったので、気がつかなかったのですが、浜崎の歌詞には「べき」が多いと言うのです。



浜崎にユニークな使い方なのが<べき>である。おしゃべり口調の歌詞の中に突然古めかしい<べき>が現われる。<べき>は命題についての離しての気持ちを表すモダリティである。以下の七曲に用いられていた。
<守るべきものがある>(「And Then」)
<守るべき物のために>(「no more words」)
<ぼくには守っていくべき 君がいる>(「UNITE!」)
<愛すべきもののため>(「Dearest」)
<MARIA 愛すべき人がいて>(「M」)
<僕らの地球のあるべき姿>(「A Song is born」)
<今ココで すべき事をして>(「WHATEVER」)
(中略)あまりに自由勝手に生きている若者たちにとっては、逆に使命感のような拘束的なものに対して憧れが生じるのかもしれない。



ここで浜崎あゆみが使っている「べき」は終止形ではなく、ちゃんと連体形で使っているのでなんら問題はないと思うのですが、この本の著者・見崎鉄さんは、若者なのに<べき>などという「古めかしい言葉」を使うのはおかしい、というか非常に特徴的であり、またそれを自由勝手に生きている若者が好むのは、「拘束感」を求めている野ではないか、と結論付けています。
ちなみに見崎さんは「1965年生まれ」ということですから、若者ではないにせよ、年寄りではない30代です。
そもそもあまり聞いていない浜崎あゆみの曲ですから、これ以上のコメントはないのですが、「へーえ」という感じです。



2002/10/12


◆ことばの話883「大断幕」

北朝鮮から一時帰国した拉致被害者5人が、ふるさとの福井と新潟に向けて出発しました。その地元では、「おかえりなさい」という横断幕を掲げて歓迎の準備をしていました。
その様子を見ていて、ふと、ある考えが浮かびました。
「横断幕というのは大体、大きな物が多いので、もしかしたら、『大断幕』だと思っている人がいるのではないか?」
向かいの席のHアナは、
「そんなわけないじゃないですか」
と言っていましたが、インターネットの検索エンジンGoogleで「大断幕」を調べてみると、なんと37件!出てきました。やっぱりね。いるんだ、そういう人。この結果をHアナに告げると、
「えー!!?そんなアホな・・・・・じゃあ『大団幕』と書いてる人もいるんじゃないですか?」
と言うのでまた検索。
「大団幕」=21件
少し数は減りましたが、いました。
さらに、「大断幕」「大団幕」があるのなら、小さめの横断幕のことを「小断幕」「小団幕」というのもあるのではないか?と思い、これも検索してみると、
「小断幕」=3件
「小団幕」=0件
「小団幕」はなかったけど、「小断幕」はありましたねえ。意味はというと、「小さい断幕」として使われていました。
ついでにもう少し調べてみました。
「断幕」=1020件
「団幕」=112件
なぜ「大断幕」などという表記が出てきてしまったのでしょうか?
まず、「横断幕」の省略形としての「断幕」というのは考えられなくもないので、それが定着したところに、「大・小」の形容がついて「大断幕」が出てきたのではないか?ということと、もう一つは、若い人が活字を読まなくなったため「横断幕」という字を見なくなって、耳から「オーダンマク」という音だけを知り、それに自分勝手に漢字を当てるので、
「大断幕」
というような表記が誕生したのではないかと考えます。漢字のつくりが
「横断・幕」
から、
「大・断幕」
というふうに区切りが変わってしまった。ここでは本来の意味の「横断する幕」というのが分らなくなっています。「大断幕」と書く人は、「断幕」とはいったいどういう物だと思っているのでしょうかね?
「横」があるなら「縦」もあるのでは?と、
「縦断幕」
という言葉を検索したところ、なんと26件ありました。みな、「縦の幕」の意味で書いています。しかし『インターネット大辞林』にも『日本国語大辞典』にも「縦断幕」は載っていませんでした。普通は、そういう幕のことを、
「垂れ幕」
と言いますよね。「横」と「縦」は必ずしも「ペア」であるわけではないのですね。
同じ「ダンマク」という「音」の言葉には、
「弾幕」
がありました。『新明解国語辞典』では、
「『煙幕』になぞらえた語。(例)弾幕が張られる(=たくさんの弾丸がいっせいに飛んでくる。<破裂する。)」
という意味が出ていました。Googleでは1万5500件、出ていました。ご参考までに。

2002/10/17
(追記)

11月10日読売新聞朝刊の「追悼」の欄に、9月27日に肝不全のため91歳で亡くなった、日本サッカー協会最高顧問の藤田静夫さんに関する追悼記事が出ていました。その中で、
「地元出身の釜本邦茂さん(58)(現日本協会常務理事)が1964年の天皇杯全日本選手権に出場した際、友の会が「頑張れ釜本」の横断幕を掲げた。これが日本サッカー界初の応援幕といわれている」
という記述がありました。藤田さんに黙祷。。。


2002/11/10
(追記2)

2006年6月2日の読売新聞の「日めくり」で、
「ダンマク」
という言葉を取り上げていました。「横断幕」の略称として「ダンマク」は5、6年前から若い人を中心によく使われるようになったそうです。
「段幕」「弾幕」
という表記も見かけるそうですが、「段幕」は歌舞伎の幕、「弾幕」は軍事用語だとのこと。サッカーの応援用の「ダンマク」を作るデザイン・制作会社「染太郎」には、ワールドカップを控えて注文が殺到しているそうです。Google検索では(6月2日)、
「ダンマク」= 8万7100件
「横断幕」= 79万7000件
「大断幕」= 54件
「断幕」= 2万1900件
「団幕」= 1270件
「段幕」= 2万4000件
「弾幕」= 55万3000件
でした。
2006/6/2


◆ことばの話882「加工前の原石」

10月のとある金曜日、大阪の百貨店で、620カラットという世界でもっとも大きなダイヤモンドの原石の展示会が開かれたというニュースを読みました。グラムでいうと、なんと125グラム!1カラット以上のダイヤは、買わないことにしているので・・・・買えないので、えげつなく大きなダイヤを見ても「へえー、スゴイねえ」としか思えない男の私。しかし、その原稿の中の、
「加工前の原石としては世界最大」
というフレーズには引っ掛かりを感じました。というのは、
「原石はすべて加工前ではないのか?」
という疑問を持ったのです。だって加工したものは、もう「原石」とは呼ばないでしょう?だからもっと素直に、
「原石としては世界最大」
と言えばいいのではないか。そんな疑問を持ちながらも、時間がなかったので原稿どおり読んでニュースの本番が終わりました。
本番後、後輩のUアナに「こんな原稿があったんだよ」と話をしたところ、彼女は「その原稿がなぜそうなったのか」ということを調べてくれて、内線電話をかけてきました。
「道浦さん、わかりました。実はあのダイヤモンド、加工されてない原石では世界一大きいんです。」
「ん?それじゃ、最初の原稿と同じじゃない。」
「いや、そうじゃなくて、原石としては7番目なんです。」
「と言うと?」
「他のもっと大きい原石は、みーんな加工されてしまったんです。だから、現存するダイヤモンドの原石としては、世界最大なんです。」

ははあ、そういう事か。つまり、「歴代7位」だけど、「現役ではトップ」と。だから、
「世界最大の原石」
と言うと、ちょっと語弊があるわけね。Uアナのおかげで謎が解けました。(たまには誉めねば。)
「世界一」とか「世界最大」とかいう「冠」「勲章」がつくとみんな注目するから、なんとかしてそんな「冠」をかぶせたくなるんだけど、「ウソ」をつかずに「冠」をかぶせるには、いろいろ制限が必要だということですね。
なかなか難しいモンドヤイダ。



2002/10/18


◆ことばの話881「プロ」

保育所に通う5歳の息子を、妻が迎えに行った帰りのことです。子どもが、
「お外のレストランで、夕ごはん、食べて帰りたいなぁー。」
そういつもいつも外で食べて帰るわけにも行かず、また、その日はちゃんと炊飯器のタイマーをセットしてきてあった妻は、
「今日は、ダメ。おうちに、ちゃんとごはんの準備してきたから。」
と言うと、息子が、
「えー。レストランがいい!だってレストランのごはんはおいしいもん!」
と駄々をこねたました。そこで妻は、
「ええ!それじゃぁおかあさんのごはんは、おいしくないの?ひどいー!!」
と少し大袈裟に悲しんでみせました。すると子どもは慌てた様子で、
「ちゃうねん、ちゃうねん。おかあさんのごはんがおいしくないことないねん。でもな、お外のレストランの人はプロやからな、だからおいしいねん。おかあさんはプロとちゃうやろ。だから、そういうことやねん。」
「プロ」という言葉、最近気に入っているようで、生意気な使い方をするのです。
先日も、ヘンなアクセントでニュースを読んでいるアナウンサーを見て、私が、
「なってないなー。アクセント違うで。」
などと独り言を言っているのを見ていた息子は、
「この人、じょうずと違うの?」
と聞いてきました。
「そうやね、あんまり上手とちゃうね。」
と答えると、しばらく考え込んでいた彼は、
「お父さんは、プロ?」
と攻め込んできました。
「ギャフン」
という言葉はこういう時に使うのでしょう。
「そうやで、お父さんはプロやで。」
と答えておきましたが、内心、冷や汗ものでした。子どもの前でめったなことを言うものではありませんね。。。。(汗)



2002/10/12



(追伸)



きのうはテレビで明石家さんまさんを見て、
「この人、プロ?」
と指差してました。テレビで良かった・・・・。



2002/10/16