◆ことばの話855「茶・プリン」

出張で熱海の近くの湯河原に行った帰りに、熱海駅でおみやげを買いました。
静岡名物のお茶の味のするプリン。その名もズバリ、
「茶・プリン」
緑の、抹茶を思わせるシンプルなパッケージです。
家に帰ってから気になったのが、この「茶」と「プリン」の間にある「・」です。「茶」と「プリン」を分けようとして書いてあるのかな。でもこの「・」を意識して読むと、
「チャ、プリン」
となりますよね。そうすると、耳には、
「チャップリン」
と聞こえるのです。ほれ、声に出して読んでみてください、「茶・プリン」。
あの喜劇王チャールズ・チャップリンをイメージして、わざと「・」を付けたのか?それにしてはパッケージには、それらしいものは何も描かれていない、シンプルそのものです。
うーん、静岡とチャップリンの関係やいかに?
ご存知の方、教えてください!!



2002/9/30


◆ことばの話854「集乳」

週末に生協に買い物に行ったら、こんな言葉に出会いました。
「集乳」
おそらく「しゅうにゅう」と読むんでしょうね。私は「しゅうにゅう」と聞くと「収入」を思い浮かべてしまいますが。酪農家にとっては「集乳」が「収入」につながると。どんな文脈で出てきたかと言うと、



「集乳したその日にパック詰め〜サツラク北海道牛乳」



というものでした。サツラクというのは「札幌酪農」の略なんでしょう、きっと。
「集乳」の意味は。文字どおり「乳牛から牛乳を集めること」でしょうね。『広辞苑』には載っていません。『日本国語大辞典』には・・・さすがですねえ、載っています。



「乳牛等の飼育者から乳を集めること。特に、牛乳を集めること」



あ!乳を搾って集めることではなかったんだ。そのあと酪農家から集めることなのか。用例も載っていました。



「山びこ学校」訪問記(1951)臼井吉見「中野好夫氏『かれらはオート三輪車を買い込んで、街道に沿って集乳しつつ山形市まで運ぶことなども考えているようです。』



なるほどー。
いつものように「集乳」をGoogleで検索すると、1570件も出てきました。しかしその中には、ずいぶん中国語のホームページもあるようなのです。中国のページでは、人間の哺乳、などのページに「集乳」と言う言葉も出ているようで、牛は関係なさそうです。中国語と日本語では、漢字は同じでも意味が微妙に違うのでしょう。
でも、生協で見つけた上の言葉は、逆に言うと
「集乳したその日にパック詰めしていない牛乳もたくさんある」
ということを示しているということですね。
そうだったのか。



2002/9/30


◆ことばの話853「非議員か?民間か?」

9月30日、小泉改造内閣が発表されました。17人の閣僚のうち6人が変わったのですが、その中に国会議員ではない大臣が3人含まれています。川口順子(よりこ)外務大臣、遠山敦子文部科学大臣、そして竹中平蔵・経済財政担当兼金融担当大臣の3人です。この人たちは3人とも留任なのですが。こういった「国会議員ではない大臣」のことを、新聞の「新しい内閣の顔ぶれ」の表ではどういうふうに表記しているか。昔はどの新聞も、
「民間」
と表記していましたが、最近は官僚出身の大臣もいて、必ずしも「民間」という表記がふさわしくないケースも出てきました。そこで最近は、
「非議員」
という表記をする新聞も出てきた、ということを以前(2001・6・13)、「平成ことば事情329非議員」でも書きました。
さて、今回の小泉改造内閣ではどういう表記を見せているか、チェックしました。結果は以下の通り。
(読売)民間
(毎日)民間
(朝日)非議員
(日経)非議員
(産経)表記なし

ということで、まっぷたつに分かれました。こういう時は大体、
「読売・産経(日経)」対「朝日・毎日」
に分かれることが多いのですが、今回は、ちょっと組み合わせが違いますね。また、産経は「民間か非議員か」という表記をしていませんでした。もう、そういった事は重要ではない、という意思表示なのでしょうか?
それにしても、こんなところばかり気になるなんていうのは、国の進む方向を考える上では、まったくプラスになっていないような気が、ちょびっと、してきました・・・。



2002/10/1


◆ことばの話852「口磨き」

歯磨き粉のコマーシャルを見ていたら、
「口磨き」
という言葉を使っていました。最近の「歯磨き粉」は「歯」を磨くだけではなく、口臭を防いだり、歯周病(ししゅうびょう)予防といった効果を併せ持つということをアピールするために、「口磨き」という言葉を作り出して、目新しい感じを出そうとしていると思うのですが、辞書にも「歯磨き」はあっても「口磨き」は載っていません。
おそらく、この言葉は定着しないのではないでしょうか。
なぜ、そう思うか。
「口○○○」(「くち・まるまるまる」。「四角・丸丸丸」ではない)という形のほかの言葉(主に名詞)には、「口」との接触による「不潔感」や「口腔内」の口ではなく「唇」を連想してしまうイメージがあるように感じられます。
辞書で「口○○○」の言葉を見てみましょう。



「口当たり」「口きき」「口開け」「口入れ」「口写し」「口移し」「口うるさい」
「口惜しい」「口堅い」「口軽」「口汚ない」「口切り」「口癖」「口車」「口喧嘩」「口小言」「口答え」「口コミ」「口ごもる」「口さがない」「口先」「口寂しい」「口触り」
「口しのぎ」「口三味線」「口上手」「口過ぎ」「口ずさむ」「口すすぐ」「口ずっぱく」
「口添え」「口出し」「口達者」「口茶」「口付き」「口付け」「口伝え」「口づて」「口止め」「口直し」「口の端」「口走る」「口八丁」「口幅ったい」「口早」「口火」「口髭」
「唇(くちびる)」「口封じ」「口ふさぎ」「口不調法」「口振り」「口下手」「口減らし」「口まかせ」「口紅」「口任せ」「口まね」「口まめ」「口元」「口やかましい」「口約束」「口調」「口汚し」「口寄せ」
  以上『三省堂国語辞典』から「口○○○」の形のものを抜書きしました。
必ずしも「口○○○」が「不潔感がある」とは言えないようですね。私は「口移し」を連想していたようです。「口」には身体の器官としての「口」のほかに「人数」と言う意味の「口」もあるようですね。申し込みが「一口」とか「二口」とかいうのも「一人分」「二人分」ということですからね。また「口」には、
*「言葉・弁舌」(口添え、口出し、口達者、口やかましい、口下手、口約束、口早、口封じ、口止め、口伝え、口づて、口まね、口不調法、口幅ったい、口振り、口まね、口コミなど)
*「舌」(味覚に関すること:口汚し、口寂しい、口触り)
*「口の周辺」(口髭)

といった意味もあるようです。「口」=「唇」だけを指すのではありませんね。



ではなぜ「口磨き」が、私の語感では、もう一つ受け入れられないのか?
それは、耳で聞いた音が「靴磨き」に似ていて、「口」なのに「靴」を連想して、口ので靴を磨くような感じがするからではないでしょう。
そして、確かに言葉では「歯磨き」と言っていますが、この場合の「歯」は、
「歯を含む口腔内全般」
だということは、これまでの経験上みんな知っています。もし「歯磨き粉」と「口磨き粉」を売っていたら、おそらく慣れ親しんだ「歯磨き粉」の方が売れることでしょう。
あ、「口」が過ぎましたかな。



2002/9/27


◆ことばの話851「時分時」

朝の番組の中で、いしいお好み焼きのお店を紹介していました。お店の名前は、
「時分時」
こう書いて、
「じぶんどき」
と読みます。「じぶんじ」じゃあないですよ。海苔の「山本山」みたい。上から読んでも山本山、下から読んでも山本山。懐かしいコマーシャルですね。
この「時分時」、大阪弁なんだそうで、『大阪ことば事典』(牧村史陽)を引いてみました。



「時分時」=食事の時間帯。(例)ジブンドキにおじゃましまして。



ああ、なるほど。聞いたことがあります。「食事の時分」というのの「食事」を省略したような感じかな。なんとなく奥床しい感じがして良い言葉ですね。大阪弁でしたか。共通語かと思ってた。
『日本国語大辞典』を引いてみました。
あ。載ってる。



「時分時」=ちょうどよい時分。特に食事の時刻をいう。めしどき。時分。



用例としては、歌舞伎の『五大力恋緘』(1793)『三人吉三廓初買』(1860)からのもののほか、夏目漱石『吾輩は猫である』(1905−06)から、
「時分どきだのにちっとも気が付きませんで」
という用例が出ています。また山本周五郎の「よじょう」(1952)からは、
「忙しいげな人の足音や呼び声などが、いかにも旅館のじぶんどきらしく、賑やかに聞こえて来た」
ふーむ。そうすると、大阪弁ということではなく、共通語ですよね。しかし今はあまり使われなくなっている言葉。半分、死語でしょうか。
でも、良い言葉だから、私は使ってみたいと思います。
お、そろそろ「じぶんどき」なので、失礼・・・。



2002/9/30



(追記)



これを書いた直後の去年の10月4日に、早稲田大学の飯間浩明さんから感想のメールを頂いておりました。すみません、ほったらかしで・・・。
それによると、山口瞳と向田邦子も「時分時」を使っているということで、その用例を紹介してくださいました。



「私は、時分時(じぶんどき)になればカツ丼(どん)でもテン丼でも取ってやればいいと思う。ところが、女房のほうは、そうはいかない。あれこれと神経を張りめぐらすことになる。」(山口瞳『礼儀作法入門』新調文庫P83)
「知人のところでおしゃべりをしているうちに時分時になり、引きとめられるままに食事をご馳走になった。近所に新しく出来た中華料理店の「中華風幕の内」が傑作だから出前を頼んだというのである」(向田邦子『無名仮名名簿』文春文庫P142)



最初に「時分時」は大阪弁と書きましたが、上方起源の言葉かも知れませんが「大阪弁」とするのはどうかなあ、という気がします。
これを書いた当時、テレビ東京のKさんも「よい言葉ですよね。流行らせましょう!」とおっしゃってました。
いま、半年ぶりに追記を書いているのは、「あさリラ」という番組をこの4月から担当している大田アナウンサーが、出演者の菅井きんさんたちとのお食事会で、この冒頭に出てきた「時分時」というお店に行くと聞きつけたからです。何でも、無茶苦茶おいしくて、めちゃくちゃ流行っていて、予約もなかなかできないぐらいなんだそうです。毎日が「時分時」?



2003/4/28

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