◆ことばの話845「処置と措置」

兵庫県の神戸西署が、3月の大学院生拉致殺害事件に続いて、またもや「初動の遅れ」を指摘されました。子供が引き逃げ(当て逃げか)の通報があったにもかかわらず、通報した母親に、
「まず病院で怪我の処置をしてから・・・」
と言って、現場検証をしたのはなんと5時間半後というモタモタぶりだったのです。



さて、この場合の「処置」という言葉、似た言葉に「措置」があります。この二つの言葉の違いを辞書で調べてみると、



*「措置」
判断を下してその物事をとりはからうこと。
身を安らかにしていること。また、物事をそのままにうちすてておくこと。



*「処置」
(1)判断をくだして、その物事の取り扱い方を決めること取り計らうこと。決まりをつけること処理。処措。また、仕打ち。
傷や病気の手当てをすること。



この(2)の意味で使われたのですね。納得。
ついでにちょっと似た言葉の「処理」も引いてみました。



*「処理」
取り扱って事の始末をつけること。処置すること。

(以上すべて『日本国語大辞典』)
辞書ではあまり「措置」と「処置」の違いは明確とは言えませんね。
気になったのは「判断を下して」と「判断をくだして」、「とりはからうこと」と「取り計らうこと」と、そうほう同じ言葉を使いながら、ひらがなを使うか漢字を使うかが、統一されていません。これはおそらく「措置」と「処置」の語の解説を担当した方が違うからでしょう。もし同じ人が担当していれば、こうした類義語については、表記の統一(漢字かひらがなか)をしていたでしょうし、明確な意味の違いを打ち出していたのではないでしょうか?残念。
他の辞書を見てみましょう。いつもの『新明解国語辞典』を引きました。



*「措置」
事務上必要な手続きを含めた、ある事態への対処のしかた。(例)「予算(暫定・思い切った)措置を講じる」「異例の(寛大な・断固たる・万全の・法的)措置をとる」
*「処置」
ある判断を下して、その扱いを取り決めること。また、その扱い。(例)「適切な処置を講ずる(とる・施す)」「寛大な処置に従う」
傷(病気)などに対して手当てをすること。また、その手当て。(例)「応急処置」



やはり「処置」を使うのがこの場合の「措置」としては正しいようですね。



2002/9/30


◆ことばの話844「制作と製作」

読売テレビでは、テレビ番組だけではなくて、実は映画も作っているのをご存知でしょうか?この5年で10本。これは社員の私も「へえー、そんなに作っていたんだ!」というぐらいの本数です。
そして現在も、新たな映画を作っているところです。
タイトルは「沙羅双樹(しゃらそうじゅ)」
監督は、「萌の朱雀(もえのすざく)」で1997年のカンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞し、今、乗りに乗っている奈良県出身の女性監督・河瀬直美さんです。
先日、その映画の撮影風景を、番組でご紹介しました。
その時にインタビューに答えたこの映画のプロデューサーである読売テレビ社員S氏が映った時に、テレビ画面に出た字幕スーパーの文字が、
「制作にあたって」
となっていました。私はそれを見て、
「あれ?テレビ番組の場合は“制作”の文字を使うけど、映画は“製作”ではなかったかな?」
と思ったのですが、この映画の、大きな意味での作り手は「テレビ局」だから、映画であっても、
「制作」
の方がよいのかな?とも考えました。
さあ、どっち?
と思ってこの読売テレビのホームページの「CINEMAだいすき」のページを見たら、
「製作」
の文字が。やはり映画は「製作」ですよね。
『新明解国語辞典』で「せいさく」を引いてみました。
*「製作」
(1)道具・機会などを使って型にはまったものを(大量に)作ること。また、その道具・機械を作ること。
(2)制作
*「制作」
絵画・彫刻などの芸術作品を個人が、映画・演劇・放送番組などを何人かが協力して作り上げること

あー、これだと映画もテレビ番組も「制作」でいいのかなあ。「製作」の(2)の意味が「制作」なら、区別はないようですねえ。難しい〜。



2002/9/20


◆ことばの話843「目線とまなざし」

お昼のニュース担当のSアナウンサーから内線電話です。



「道浦さん、“目線”って、使っちゃ、ダメでしたっけ?もう解禁でしたっけ?」



「文脈は?どういう使い方?」



「山下清画伯の展覧会なんですけどね。『自然や風景をやさしい目線で、生涯描き続けた』という文です。」



「ふーむ、“視線”と置き換えてもな。“目線”が“目の高さ”の意味なら、“子どもの目線で”とかは許容範囲だろうけど。この場合は、“目の高さ”ではないし、“視線”のように凝視した感じでもないし、あえて言うならば『やさしいまなざしで見つめ、生涯描き続けた』と“まなざし”を使ったらどうだろうか。同じ意味でも“目線”だと軽い感じがするけど“まなざし”は、“まなこ(眼)がさす(差す)”わけでしょ。“おもざし”なんて言葉もあるな。和語で柔らかい感じがするよね。芸術を紹介するには“目線”より、よっぽど良いよね。」



「なるほど。」




この会話の後に、向かいの席のHアナウンサーに「どう思う?」と、このことについて話しました。



「そう言えば、『ゆれるまなざし』なんて歌もあったよな。新井満だっけ。」



新井満さんは、シンガーソングライターで電通勤務で、その後芥川賞も取ったという、スゴイ人でしたよね。



「そうそう、化粧品のコマーシャルソングにも使われてましたよね。化粧品のコマーシャルと言えば、『燃えろ!いい女』の世良公則とツイスト。♪燃えろ〜いいおんな〜って。」
「『引き金』てのもあったね。」
「知ってる?ふとがね金太(ふとがね・きんた)っていたやろ?」
「だれですか?それ?」




アナウンス部女性アルバイトのNさんも口を突っ込んできます。



「ツイストのドラマー。知らんかあ?」
「知りませんよ。だって、ツイストって私が生まれる前に解散してますもの。」
「さよかー。」




話がまたまた脱線しました。私が言いたかったのは、「ゆれるまなざし」のように歌詞にも使われるぐらい「まなざし」という言葉には含みがあるけれども、「目線」にはそれがない。「ゆれる目線」
では、歌詞になりませんよね。
これからは「まなざし」、使いましょう!!



2002/9/26


◆ことばの話842「琳派」

JR環状線に乗っていると、電車内に催し物の広告が中吊りでぶら下がっていました。
その中で、大阪駅構内にある画廊での展覧会のお知らせが目に留まりました。
「琳派RINPA」
という文字。おそらく尾形光琳の一派の作品群の展示会なんでしょう。
『新明解国語辞典』では、風邪をひいたら腫れる「リンパ」しか載っていませんでしたが、さすがに『日本国語大辞典』には載っていました。
「琳派」=「こうりんは(光琳派)」に同じ。
空見出しでした。
「光琳派」=江戸時代の絵画の一流派。本阿弥光悦にはじまり俵屋宗達を経て尾形光琳によって大成された画風。色彩は濃厚、鮮麗で金銀泥をたくみに用いた装飾的な華麗さを特色とする。琳派。
そうでしたか、では「風神雷神」(俵屋宗達)も「琳派」になるんですね。
それで私は、尾形光琳に興味があるのではなく、「琳派」のように「派」を「パ」と半濁音で読むケースは、このほかにどういう時があるだろうか?「バ」と濁らないのだろうか?という疑問を持ったのです。
今原稿を書いていてさっそく見つかりましたね。「一派」は「イッパ」と半濁音です。
半濁音や濁音になるのは、その前が「ん」の「撥音(撥ねる音)」になった場合でしょう。けれども、鳥を数える場合の、
「一羽、二羽、三羽」
の「三羽」は、「羽(わ)」の前が撥音の「ん」にもかかわらず、「サンバ」で「バ」と濁音になります。で、これが「六羽」になると、「促音(詰まる音)」の次なので「パ」と半濁音になります。
NHKアクセント辞典の後ろの方の付録に、こういった助数詞の読み方が250語ほど一覧になっていますので、見てみましょう。直前が「ん」になるのは、わかりやすいのは「3(サン)」ですので、「3」のあとの助数詞の読み方が濁るか濁らないかをチェックしましょう。(但し、もともとその助数詞が濁る場合は除きます。3型、3学期のようなケースです。)
*は半濁音



3階(サンガイ)
3貫(サンガン)
3貫目(サンガンメ)
3斤(サンギン)
3軒(サンゲン)
3尺(サンジャク)
3足(サンゾク)
3派(サンパ)*
3波(サンパ)*
3杯(サンバイ)
3敗(サンパイ)*
3拍(サンパク)*
3泊(サンパク)*
3箱(サンバコ、ミハコ)
3発(サンパツ)*
3班(サンパン)*
3犯(サンパン)*
3版(サンパン)*
3匹(サンビキ)
3俵(サンビョウ)
3票(サンビョウ)
3分(サンプン)*
3編(サンペン)*
3遍(サンベン)
3歩(サンポ)*
3本(サンボン)
3羽(サンバ)

(参考・散発、散髪)
ということで、約250語のうち濁音になるのは15語、半濁音になるものが12語でした。
「行」別に見ると、



カ行=濁音5語
サ行=濁音2語
ハ行=濁音8語、半濁音12語
タ行は一つもありませんでした。



ということはこのアクセント辞典の付録について言うならば、撥音「ん」の後に半濁音になるのは「ハ行だけ」(つまり『パ(PA)』)ということになります。
これは当たり前か。
「ハ行」の濁音と半濁音の比率は、
濁音8:半濁音12
2対3、意外にも「濁音より半濁音の方が1、5倍多い」ということですね。
ちょっと、すっきりしました。



2002/9/21
(追記)

2008年10月下旬、東京・上野の国立博物館で開かれていた「大琳派展」を見に行ってきました!
いやあ、なかなか盛況で。最近、屏風とか見るのが好きなんです、金箔張ったやつとか。今回、「琳派」と呼ばれる人たちの作品を一堂に見ることができて、ちょっと「琳派」のはじっこをかじることができました。
2008/11/10


◆ことばの話841「単純ミスです(笑)」

外部の制作会社の、会ったことも電話で話したこともない、メールで連絡を1、2度しか交わしたことがない新人ディレクターに、業務連絡のメールを送りました。



「8月28日の『××』の録音の担当が、MアナウンサーからHアナウンサーに変更になりましたので、よろしくお願いします。」
すると向こうから返事のメールが来ました。
「9月28日の件、承知しました。」
あれ?1か月間違ってるぞ。8月のことなのに。まだ新人なので勘違いしてると困るな。念のため確認のメールを送ろうと思い
「9月28日ではなく、8月28日ですよ。大丈夫でしょうか?」
と書いて送ったところ、返って来たメールにはこんな文章が。 「すみません、単純ミスです(笑)」このメールに私はムカッときました。
そりゃあ、単純ミスかもしれないが、こっちは心配して(それも新人だと聞くから)確認のメールを出しているのに、エキスキューズするような「単純ミスです」という答え。しかも、それを誤魔化すかのような、
(笑)
という文字!誰が笑って誤魔化して良いと言ったー!!茶化すんじゃぁなーい!
この(笑)はどんな笑いなのでしょうか。照れ笑い?
でもこちらとしては、
「そんな単純ミスに目くじら立てて言うことないじゃん、ハハハ(笑)」

というふうに受け取れてしまい、パソコンをさわるようになってからこれまでに受け取った
何万通というメールの中で、一番ムカツいたメールとなりました。



自分の失敗の言い訳を、笑って誤魔化す傾向は、若者の間に広がっているのではないでしょうか?
つい先日も、こんな言動を目撃しました。夕刻、家の近くの花屋さんで閉店の準備をしていた二人の店員が、花を生けてあったバケツの水を溝に流そうとしていた時に、若い方の女性店員が流した水が、間違ってもう一人の店員足にかかってしまったのです。その時に
若い方の店員は、
「ごめんなさい、濡れましたか?大丈夫ですか?」とでも言うのかと思ったら、しばらく(2,3秒)黙って、水をかけてしまった店員の方を見たあと、おもむろに、
「・・・わざとちゃいますよ(※「違います」の意味の大阪弁)。」

と言ったのです。
他人事ながら、私は、
「まず謝らんかいっ!!」

と心の中で叫んだのでした。そんな人の売っている花を、あなたは買おうと思いますか?



2002/9/20

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