◆ことばの話840「カブる」

木・金曜に担当している「あさイチ!」という番組の中で、メイン司会の中元綾子アナウンサーが、出演者の一人、芸能デスクの石川敏男さんとのトークの中で、



「石川さんと私が言うのが、カブっちゃったんですよね。」



と言いました。また、私もニュース原稿に関してのスタッフとの会話の中で、



「リクルート事件でリクルート社の元会長の・・・というところが、リクルートがカブるから、リクルート社を省略したんだよね。」



と言いました。
この「カブる」というのは、「重なる」という意味ですが、テレビ業界ではよく使います。最近では一般的にも使われているようです。読売新聞夕刊(関西版)に連載されている「ことばのこばこ」の7月2日の欄に、武庫川女子大学の教授の佐竹秀雄先生が、その名もずばり「カブル」というタイトルで書いてらっしゃいます。



『「誕生日プレゼントのケーキ、かぶっちゃった。」これはケーキにかぶりついたという意味ではない。誕生日に招かれてケーキをもっていったら、ほかにもケーキをもってきた人がいて、ケーキが重なったという意味。カブルは「重なる」という意味。少し前はダブルが使われていたところ。近年、このようなカブルの使い方を耳にするが、国語辞書にはまだ載っていない。(中略)右の「重なる」意味はテレビ業界の用語が一般に広がったためと思われる。』



さすが、佐竹先生、若者の言葉にも敏感に反応してらっしゃいますね。われわれ、テレビ業界の中にいるとそれが「フツウの言葉」のように感じてしまって、他の人がそういう“辞書にも載っていない用法”として使っていても、それが新しい使い方だとは、なかなか気付かないものです。
ちょっと意識して使うようにしますね、「カブる」。



あ、決して西武のカブレラ選手のように、筋肉ムキムキになることではありませんよ、「カブる」って。



2002/9/22



(追記)



「週刊文春」の10月17日号38ページに、「少女マンガに主題歌傑作選、なぜか『時代劇』大流行」という記事がありました。その中で、井上雄彦さんのマンガ『バガボンド』(講談社「週刊モーニング」連載)担当編集者の佐渡島庸平さんという人の発言が載っていました。
「読者層は十五歳から四十歳代だが、これまでの井上さんの読者とはそんなに被(かぶ)ってない。原作となった吉川英治さんの『宮本武蔵』も、井上さんの漫画もいつの時代に出ても必ず受ける普遍的な面白さがある。」
この発言の中に「被る」が出ています。雑誌編集者もマスコミなので、この用法での「カブる」を使うのでしょうね。



2002/10/12


◆ことばの話839「タマちゃん」

8月に多摩川に登場して人気をさらったアゴヒゲアザラシのタマちゃん。多摩川で最初に見つかったので、
「タマちゃん」



と名づけられたのですが、NHKのニュースでも



「タマちゃんと見られるアザラシ」



という、ニュース原稿では珍しい表現(○○ちゃん)が出てきました。
その後も、横浜方面に「南下」して、いろんな川に登場、その度に多くの人たちが一目、タマちゃんを見ようと繰り出しましたが、今度は宮城県歌津町(うたつちょう)の伊里前川(いさとまえがわ)でもアザラシの赤ちゃんが見つかり、こちらは町名を取って、
「ウタちゃん」
と呼ばれています。川の名前を取って
「イサちゃん」
とはならなかったようです。
10年ぐらい前に、ゴマフアザラシが主人公のマンガで、
「ゴマちゃん」
というのがありましたね。



それにしても、よくそんなにアザラシは日本近海にいて、出てくるのなあと感心します。今朝(9月23日)の産経新聞の「NEWS WATCH」という特集で「タマちゃん」のことを取り上げていました。その記事では、



「国立科学博物館によると、記録の残っている昭和31年以降、11例のアゴヒゲアザラシの漂着が確認されている」



そうで、平均すると、4年に1頭くらい漂着していることになるのだそうです。
それにしても、
「タマ」
と言えばこれまで、マンガ「サザエさん」を引き合いに出すまでもなく、
「ネコの名前の代名詞」
でしたが、これからは、
「アザラシの名前」
として定着して、小さい子どもなんかは「タマちゃん」というのは「アザラシのこと」と思い込むかもしれません。
そう言えば、妻の祖母の名前は
「タマ」
さんでした。



(追伸)
そうこうしているうちに、今度は新宿の街に「タヌキ」が出てきて、
「タヌちゃん」
だって。・・・・・そのままやないか。
道行く人は、
「(見つかったのが)アルタ前だから、アルちゃん」
「歌舞伎町の近くだから、カブちゃん」




などと、また勝手なことを言っていました。
ちょっとお遊び。日本のいろんな川にアザラシが登場したらどうなるか。まずは大阪。「淀川」に出たらやっぱり「ヨドちゃん」でしょうな。京都の「鴨川」だと「カモちゃん」かも。問題は、うちの会社の目の前の「第二寝屋川」に出没した場合にはどうなるか。「ネヤちゃん」なのか、それとも「ダイちゃん」なのか?もしかすると「第二ネヤちゃん」かも。一頭しかいなくても「第二」。
九州の「球磨川」に出たら「クマちゃん」。アザラシなのに。四国・「四万十川」だと「シマちゃん」。ちょっといろっぽかったりして。イワシタシマちゃん。極道のアザラシたち。山形県は「最上川」だと「モガちゃん」。オスでも「モガちゃん」。モボ・モガ。「富士川」だと「フジちゃん」。子どもが「富士山」と言おうとして言えなかったみたいな、かわいい感じもしますね、フジちゃん。「利根川」は「トネちゃん」。「鬼怒川」だったら「キヌちゃん」。漢字だと恐いけど、カタカナだとやさしい。「安部川」だと「アベちゃん」。副官房長官か。
「阿武隈川」だと「アブちゃん」。少しアブナイ感じ。アブノーマル。「芥川」(大阪府)だと「アクちゃん」。いいのかな、そんな名前。問題あったりしないかな。「悪ちゃん」。ありましたね、そんなのも。「瀞峡」だと「ドロちゃん」。宮本輝の小説みたい。大阪・堺の「大和川」だと「ヤマちゃん」。「ヤマさん」でもいいかも。「天竜川」だと「テンちゃん」・・・・・・。
各地方建設局河川課の皆さんは、あらかじめアザラシの名前を考えて準備していた方がよいかもしれません。それにしても日本中、アザラシだらけになってしまいますね。日本アザラシ化計画。ああ、アホラシか。
海外に飛び出してフランスの「ジロンド川」に出てきたら、「ジロちゃん」。アフリカの「キンバリー川」(あるのかな?)に出てきたら「キンちゃん」。ええい、ドーンとやってみようって、コント55号じゃないんだから。55号と言えば、カブレラは56本打つのかな?
そうそう、ロシアに「ドン川」というのもあったな「静かなるドン」の。ここに出てきたら「ドンちゃん」。見物人やマスコミのカメラが殺到して大騒ぎ。これが本当の「ドンチャン騒ぎ」・・・・・きりがないからこの辺にしときます。失礼しました。



2002/9/25




(追記)



12月3日発表の「日本新語・流行語大賞」で、「タマちゃん」がなんと、見事、流行語大賞に輝きました。でもこれって、流行語かなあ。



2002/12/4


◆ことばの話838「紙齢」

明治時代以降の新聞の中で使われていることばを分析している、立教大学非常勤講師(現代新聞論)小林弘忠さんが書いた「ニュース記事に見る日本語の近代化」(日本エディタースクール出版部、2002・6・28)という本を読んでいると、98ページに



「紙齢」



という言葉が出てきました。初めて見た言葉です。



部数をほこっていた仮名読新聞は13年12月に終刊し、東京絵入新聞も22年3月に終わりをつげる。他の小新聞の有喜世新聞(11年1月―16年1月)や、いろは新聞(12年12月―17年10月)なども長い紙齢を保てなかった。
(本文の数字は漢数字、年号は明治、下線は道浦。)



文脈から読むと



「その新聞を発行している歴史・年齢、命脈」



のことのようです。しかも「紙齢100年」というふうに「○年」で表すのではなく、「紙齢5000号」というふうに「発行号数」で紙齢は表すもののようです。
Googleで検索したところ、133件引っかかりました。(9月18日。それから3日経って、9月21日の夜に引くと151件と増えていました。)



しかし、『広辞苑・第五版』には載っていません。
『日本国語大辞典・第二版』には「雑誌の“年齢”」である、



「誌齢」



は載っていますが、新聞の年齢である「紙齢」は載っていません。



『平成ことば事情826「カイサツ」』で見た、「改刷」のような「業界用語、専門用語」なんでしょうね。ただ、インターネット検索で151件引っかかるということは、少しは使われている業界用語ということでしょうが、それはインターネット上では「お札印刷業界」よりも「新聞業界」の方がより接触が多い、ということも表しているのかもしれません。



ところで、「紙の年齢・寿命」のことは何というのでしょう?これも「紙齢」なのでしょうかね?
あ、今、気付きましたが、引用したこの文章の中に、



「終刊」



という言葉もありますね。これは「発刊」「創刊」の反対語になるのではないでしょうか。あまり目にしたことがありません。新聞・雑誌関係者は目にしたくない言葉かも知れません。「週刊」はよく目にしますが。お、「終刊」は『新明解国語辞典』に載っていました。「紙齢」よりは専門用語度が低いのでしょう(一般的な言葉だということ。)反対語は「創刊」です。



Googleで検索したら、「終刊」は3900件ありました(9月21日)。



2002/9/21


◆ことばの話837「カツオが活発な」

夜勤の時はお昼まで家にいます。
で、各局のお昼のニュース見比べていた時のこと。M局の女性アナウンサーが天気予報でこんなことを言ってました。



「カツオが活発な秋雨前線が・・・」



へ?
カツオが活発な???
漁業関係のニュースだっけ?海流の具合でカツオがたくさんとれるのかな?


2秒後に意味が分かりました。「カツオ」じゃあなかったんです。もうお分かりですね。正解は、
「活動が活発な秋雨前線が」
でした。



「カツオ」と「カツドー」。



私の耳が悪かったのです。でもそういう風に間違われてしまう原因が、そこになかったのか?というと、少しはあるように思います。



おそらく彼女の発音は、「カツドー」の最後の「ドー」の長音符号「−」の伸ばし方が、十分ではなかったのではないか。そして、「ド」が「オ」に聞こえたのは、子音の「d」の音がしっかり出ていなかったからです。



ニュースの最後に出てくる天気予報だからといって「もう終わった終わった」という風に力を抜かないようにしなければなりません。次回の意味も込めて。
さあ、今日もお昼のニュースを読みに行ってくるゾ。
それにしても「活動」が活発な「カツオ」が出てきたらどうしようか?



2002/9/20


◆ことばの話836「緑寿」

日本百貨店協会は、還暦や古希など長寿を祝う行事として、66歳を祝う行事として



「緑寿(ろくじゅ)」



というのを新設し普及活動を始めるという記事が、9月17日の読売新聞に掲載されていました。
なんで「緑」で66歳なのか?というと、



「66」で「緑緑(ろくろく)」の語呂合わせ



だそうで、環境保護をイメージさせる「緑」を使ったそうです。当然「高齢者の需要の掘り起こし」というのが狙いなのは言うまでもありません。
「平成ことば事情414・皇寿」で、長寿の区切りの呼び名について書きました。
「茶寿」が108歳、「皇寿」が111歳、これらは漢字を漢数字に分解して、足し算をした数字でしたが、今回の「緑寿」は、「緑」という漢字の読みの「音」にひっかけたものということで、 これまでのものとはちょっと成り立ちが違いますね。




ただ、77歳(喜寿)、88歳(米寿)、99歳(白寿)、と、いわゆる「ゾロ目」の年齢にお祝いがあるのに、「66」にはお祝いがない、と言うところに目をつけた百貨店業界は、「抜け目がない」と言えるでしょう。



高齢者人口が増えている現在、66歳の人はなんぼでもいるでしょうから、今後、「母の日」や「父の日」のように「緑寿」のお祝いにプレゼントを贈る習慣も、66年も経てば定着するかも??




2002/9/23
(追記)

近くのデパートに行ったら、エレベーターの中に、日本百貨店協会のポスターが張ってありました。還暦から始まって、ここで書いた緑寿のほかにも、古希、喜寿、米寿など、長寿のお祝いがいろいろ載っていました。その中にこれまで見たことがなかった「寿」として、100歳のお祝いが、
「上寿(じょうじゅ)」
として載っていました。たしかに「99歳」の「白寿」があるのに「100歳」ちょうどがないのはなぜかなあ、と思っていましたが、あるのですね。
ネット検索(GOOGLE)してみると「上寿」だけのキーワード検索だと「上寿司」もひっかかってしまい数万件ヒットしたので、キーワードを増やして「上寿・100歳」で検索したところ、245件でした(1月15日)。その中で、福島中央テレビの「ちょっと便利帳」に、「満99歳・数え100歳」「上寿」とすると載っていました。
「長寿の畏敬を三つに分け、六十歳を下寿、八十歳を中寿、百歳を上寿とする考え方。上寿を百二十歳、中寿を百歳とする考え方も。」 とのことです。また別のサイトでは、100歳のお祝いとして、
「百賀(ひゃくが)祝い」
「百寿(ひゃくじゅ・ももじゅ)祝い」
「紀寿(きじゅ)祝い」

というのも載っていました。「紀寿」は「一世紀」ということのようです。
基本的にこれらのお祝いは「数え年」でやるようですが、「還暦」は「数え年」でいうと「61歳」なのですが、どちらかというと「満60歳」のイメージが強いですね。それにつられて、そのほかのお祝いも「満年齢」でしているような気がします。うちの両親も去年「満70歳」になったので「古希」の祝いをしました。「数え」だと「71歳」なのですが。
いずれにせよ、「なんで日本百貨店協会が長寿のお祝いのポスターを?」ということに関して言うと、
「高齢化社会に伴い、長寿祝いで需要喚起」
ということでしょうが、少子高齢化社会においては、当然ターゲットとして高齢者が選ばれているということでしょう。なお、「平成ことば事情414 皇寿」も、併せてお読みください。

2006/1/15=昔の「成人の日」