◆ことばの話825「秋っぽいと秋らしい」

9月9日月曜日。重陽の節句。菊の節句。
さわやかな秋空が広がりました。ひなたはまだ日差しが暑いですが、日陰はひんやりとして、何よりも空が高い!
秋だなあ!
男声合唱組曲「月光とピエロ」の中の「秋のピエロ」という曲の歌詞
「秋じゃ秋じゃ 秋じゃ秋じゃと 歌うなり」
を思わず口ずさんでしまいました。ピエロもこんな気持ちだったのでしょうかね。もう少し秋が深まると、同じく男声合唱組曲「月下の一群」の終曲の歌詞
「秋風の ヴィオロンの 節長き 啜り泣き」
という感じになるのでしょうが、今は心地よい秋空にさわやかな秋風!
さて、前置きが長くなってしまいましたが、こういったお天気のことを



「秋っぽい」



と表現するか、それとも、



「秋らしい」



と表現するか。「〜っぽい」と「〜らしい」の違いは何か?ということを秋空の下考えながら、駅への道を急ぎました。
「秋っぽい」と言うと「飽きっぽい」と間違いそうだし、普通は「秋らしい」を使うだろう事は容易に考え付きますが、では他のケースはどうか。
たとえば「うそっぽい」と「うそらしい」だと、「うそらしい」は形容詞としては使いにくいですね。それだったら「うそくさい」のほうが使いやすい。
「素人っぽい」と「素人らしい」ではどうでしょう?「素人っぽい」は、どちらかというとけなしているような気がしませんか?誉める場合もあるかもしれませんが。それに対して「素人らしい」は「さもありなん、よしよし」という感じが私はするのですがね。
思うに「〜らしい」はその「〜」に求められる理想の形態があってそれに近い状態であることを誉める意味で使うのに対して、「〜っぽい」は、特に「〜」に求められる理想の形態はなく、ただ単にその形態に似ているという感じ。しかも「似ている」とされたものは、必ずしも「理想のもの」「誉められるようなもの」である必要はない、といった違いがあるのではないでしょうか。
そう考えると「秋らしい」には、「理想の形態としての、望ましい"秋"」というものがあって、それに近い状態の天気をさして「秋らしい」と呼んだ方が良いような気がしますが、いかが?



2002/9/9



(追記)



ボストン在住のI先輩から、またメールが届きました。



「〜っぽい」と「〜らしい」について、同じようなことが英語の「〜ish」と「〜like」についても言えます。たとえば「childish」は「子どもっぽい」で悪い意味ですが、「childlike」は「子どもらしい」でよい意味です。多くの場合「〜ish」は好ましくない性質、「〜like」は好ましい性質について言うようです。



とのことでした。ご教示、ありがとうございました!



2002/9/24


◆ことばの話824「国防委員長」

9月17日(火)、小泉総理が日本の総理大臣として初めて、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のピョンヤンを訪れ、金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談しました。
まさに歴史的な出来事と言えるでしょう。そしてその席で、北朝鮮に拉致されたと日本政府が認識している11人についての消息(安否)が公表されました。そして大変残念なことに、そのうち6人が既に死亡、4人は生存、1人が行方不明。この他に日本政府が認識していない2人が拉致されて死亡していることが明らかにされました。
嗚呼。
なんということでしょうか。
このニュースに接した時に、私とその周辺の人たちに二つの驚きがありました。
一つは、北朝鮮(キム・ジョンイル総書記)が、北朝鮮による"拉致"を認めて、拉致された人たち11人全員の消息を明らかにしたこと。そしてもう一つの驚きは、そのうち無事なのはたったの4人だという発表でした・・・。
これまで北朝鮮は「拉致」という言葉が出ただけで「うちは拉致などしていない!不愉快だ!」と交渉の席を蹴ったり、「拉致などしていない。"行方不明者"ということなら、探してもよい」などと言っていたことから考えると、大きな前進、180度の転回といえると思います。しかしそこに待っていた結果は・・・。
「もっと早く会談が開かれていれば・・・・。」
ご家族の方の記者会見での言葉には私も目頭が熱くなり、涙をこらえるのに必死でした。
時は逆戻りできないのです。



さて、一連のニュースをテレビで見比べていて感じたこと、気付いたことをいくつか書きます。まず、各社とも以前の



「ら致」



という交ぜ書きが消えて、ルビなしの



「拉致」



という漢字2文字を字幕スーパーに使っていたことが目に付きました。
次に、午後6時半過ぎからの会見の中で小泉総理の発言です。小泉さんは、キム・ジョンイル総書記のことを



「キム・ジョンイル国防委員長」



と呼んでいました。普通、われわれは



「キム・ジョンイル総書記」



とニュースでは読んでいるので「あれ?」と思いました。
これは推測ですが、キム・ジョンイル氏は、党の中では、



「朝鮮労働党・総書記、党政治局常務委員」



でありますが、それと同時に朝鮮民主主義人民共和国という国家の組織の中での肩書きは、



「国防委員会委員長」



なのです。(「読売スタイルブック別冊・外国人名一覧2002」による)
つまり(ちょっと国の体制が違うので"たとえ"としてはまずいかもしれませんが)小泉総理は、「自民党総裁」としてではなく「日本国の総理大臣」として、「党の総書記」ではなく「朝鮮民主主義人民共和国・国防委員会委員長」のキム・ジョンイル氏と会談したということを表したかったのではないかと考えます。



また、今回夕方6時台の各テレビ局は、皆このニュースを伝えました。特に6時半過ぎからのピョンヤンからの小泉総理の会見は、全局が中継しました。関西のテレビ局もすべて東京のキー局の中継をネットして流しました。
この時の各局の「北朝鮮の首都」の表記と、「中継」の文字表記を見比べてみました。


  <北朝鮮の首都> <中継>
(NHK) ピョンヤン 中継
(日本テレビ) 平壌(ピョンヤン) LIVE
(TBS) ピョンヤン 中継
(フジテレビ) ピョンヤン LIVE
(テレビ朝日) 平壌(ルビなし) LIVE
(ごめんなさい、テレビ東京は見逃しました。)



ということで北朝鮮の首都の表記は、カタカナで「ピョンヤン」がNHK、TBS、フジテレビの3社、漢字の「平壞壌」(ルビなし)がテレビ朝日、漢字にカタカナ・ルビ併用が日本テレビ、ということですね。
そして「中継」の表記に関しては、漢字の「中継」がNHKとTBSの2社、英語の「LIVE」という表記が、日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日の3社ということです。
だからどうした、と言われるとそれまでなんですが、各社の間に微妙な違いがあるということです。
そうそう、NHKは北朝鮮の人名に関して、これまでは「カタカナ表記のみ」だったのが、最近は「漢字との併記」になっていますね。カタカナがメインでカッコの中に漢字表記を入れるという形です。日本テレビ系列は、漢字がメインでその上にカタカナのルビを振るという形ですが。



2002/9/17


◆ことばの話823「横丁か横町か」

9月9日未明、解体工事中の大阪の「旧・中座」で火事があり旧・中座を全焼、その裏手にある「法善寺横丁」のお店も10軒ほどが全焼しました。
このニュースに関して、Sキャスターから、
「道浦さん、『法善寺よこちょう』は『横丁』ですか?それとも『横町』でしょうか?」
という質問がありました。
「そりゃあ、『横丁』だろう。」
と答えたものの、本当はあまり自信がありません。というのも、「横丁」しかないものと思い込んでいましたから。
インターネット検索Googleで調べたところ、「横丁」と「横町」については、
「横丁」 =6万3500件
「横町」= 3万1900件

と「横丁」が倍ほど使われていて優勢でした。とは言うものの「横町」も3万件以上と、かなり使われています。そして「法善寺よこちょう」も調べてみると、なんとこれが、
「法善寺横丁」=936件
「法善寺横町」=969件

と「横町」がわずかながらリード。結果は逆転してしまったのです。(9月10日調べ)
「丁」と「町」、どう違うのでしょうか?
漢和辞典『漢語林』(大修館書店)で、まず「丁」を引きました。
「丁」(1)(ア)町の略字
あ。これだ。
「丁」は「町」の略字だったのですね。どこかで聞いた気がしてました。「町」から「田」を取ったら「丁」だもんね。
で、この「法善寺よこちょう」の「看板」を見ると、
「法善寺横丁」
になってましたし、その後の報道もみんな
「法善寺横丁」
でした。ネット上とは、ちょっと違う結果でした。



2002/9/11


(追記)



の後、今日(9月13日)に同じようにインターネット検索(Google)をしてみると、
「横丁」=6万4100件
「横町」=3万2100件



と、それぞれ増えたものの逆転はしていません。しかし「法善寺よこちょう」は、



「法善寺横丁」=1030件
「法善寺横町」= 978件



逆転していました。やはり「旧・中座」の爆発炎上事故関連で「法善寺横丁」の看板が出てきたことによるのでしょうかね。



2002/9/13


(追記2)



9月27日の産経新聞夕刊の「風」というコラムのタイトルが「『横丁』か『横町』か」でした。まったく同じタイトル。別にパクったとか、それほどのものではない(こちらが)ので良いのですが。たまたま一緒のタイトル。同じことを考える人は多いということです。そのコラムには、夕刊で藤島桓夫さんの
『月の法善寺横町』
を紹介したところ、多くの読者から
『横町は間違いで、横丁が正しいのではないか?』
という指摘をもらったということで、それにまつわる話が載っています。
この曲に関しては「横町」が正解なのだそうですが、作品を企画した東芝レコード(現・東芝EMI)の制作ディレクター、風祭清隆さん(81)によると、当初の題名は「名残の法善寺横町」。それが「名残は後ろ向きな響きだ」として、誰にでも愛される「月」に変更。さらに風祭さんが「横町」は不自然と指摘したところ、作詞家の十二村(とにむら)哲さんが、
「『横丁』では範囲が限定されてしまう。『横町』にすると、あの界隈全体の人たちに愛してもらえるし、街の発展にもなるだろ」
と強く主張して、結局は風祭さんが折れて「横町」になったと言うのです。
いろいろな背景があるものなのですねぇ。



2002/9/30


◆ことばの話822「電池アクセント」

教えているアナウンス学校でのこと。読みの練習をする原稿の中に
「携帯電話の電池が・・・」
というくだりがありました。この「電池」を私は、
「でんち(LHH)」
と平板アクセントで読んでいたのですが、生徒の読みを聞いていると、
「でんち(HLL)」
と頭高アクセントで読む者が結構いるようなのです。両方のアクセントが載っているだろうと思ってNHKアクセント辞典を見てみると、なんと
「でんち(HLL)」
しか載っていません。20人ほどいる生徒に挙手で「どちらのアクセントで読むか」聞いてみたところ、6:4で「頭高アクセントで読む」人のほうが多かったのです。関西弁でも
「でんち(HLL)」
頭高アクセントなので、その影響もあるのかな?と思い、「まあ、頭高で読もう」と決めて読み進めていくのですが、今度は逆に、つい平板アクセントで読む生徒が続出。
どうした者かと思っていると、生徒の一人が、
「先生、ここ、ここ。平板も載っています。」
というではないですか。彼女が持っていたのは1998年に出た三省堂の「明解アクセント辞典」で、そこにはたしかに、
「新しいアクセント」として「平板のでんち」が載っていた
のでした。ただ、「明解アクセント辞典」は、その後2001年に「新明解アクセント辞典」と改称して最新版が出ているので、その新しい「新明解アクセント辞典」も引いてみると、なんとなんと、そこからは「平板のでんち」が消えているではありませんか!
これはどうしたことか。いったんは新しいアクセントとして認めた「平板のでんち」は、たった3年の間に消えてしまって採用されなくなったのでしょうか?これが本当の「電池切れ」?不思議なことがあるものです。
でも現状から言えば「平板のでんち」も認めて採用して欲しいなあ、というのが私の希望です。



2002/9/6


◆ことばの話821「ドタキャン」

このところ芸能ワイドショーでずーっと取り上げられている、和泉元彌さんと能楽協会の争い。その能楽協会の理事会が9月4日に開かれ、そのあとの記者会見に出てきた能楽協会の片山九郎右衛門理事(72)が、元彌さんを問題視する理由についてこう語っていました。



「公演の遅刻やドタキャンを繰り返したこと」



え?ドタキャン?いえいえ、ドタキャンを彼がしていなかったということではなくて、72歳の、しかも「能楽協会」という伝統芸能を守るところの重鎮である片山理事が「ドタキャン」という言葉を使ったことに驚いたのです。
そもそも片山理事は「ドタキャン」の意味をご存知なんでしょうか?そんなことは、したことがないから、知らないのではないかとさえ思われますが・・・。
この言葉、もちろん皆さんはご存知だとお思いますが、意味は、



「土壇場でキャンセルすること」



それを略して「ドタキャン」です。たしか『広辞苑』の第五版改訂の時に採用されて話題になりましたよね。あれがもう4年前(1998年)か。
どう考えても伝統芸能とドタキャンはそぐわないと思うのだけれどなあ。
ドタバタ劇はキャンセルして欲しいと思っているのは私だけではありますまい。



2002/9/5

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