◆ことばの話815「油断!」

今朝の事です。
いつものように4歳の子供(もうすぐ5歳)に、朝ごはん(といっても今日は、カステラとお茶に梨ですが。)を食べさせた後、保育園へ送るべく、
「ホラ早く着替えないと保育園遅れるで!お父さんと競争やな。お父さんは、もうYシャツも着て、こんなに着替えたで!」
と子供の自尊心・競争心に火をつけて、ゲーム感覚で、パジャマから服へと着替えさせようとしていた時でした。あまりに圧倒的な差をつけて子供に勝つとやる気を削ぐので、「ウサギとカメ」のウサギではないですが、ちょっと他の事をしながら着替えていると、なんと子供のほうが先に着替え終わりました。
「ほら、もう着替えたで!早いやろ!」
という子ども。それに対して
「あー、早いなあ、お父さん負けたわ。なんでやろなあ。」
とおだてて言うと、すかさず、
「そりゃあ、"油断"してたからやろ!」
そうです、ウサギも油断したから負けたんです・・・。でも今回はちょっと違うような・・・。それにしても「油断」なんて言葉、どこで覚えて来たんやろ?ほんまに意味がわかってるのかな?と思って聞いてみました。
「油断って、どういう意味?」
すると相手はこう答えました。
「"休憩"って意味やろ。」
そうか、確かにそうなのかもしれないな。辞書には、
「気をゆるして必要な注意を怠ること」(『新明解国語辞典』)
とありました。けどこれからは「気を許して休憩すること」という意味も付け加えて欲しいな。
それにしても、いつの間にやら新しい言葉を覚えていくなんて、本当に子どもは油断もスキもないなあ。



2002/9/4


◆ことばの話814「9月1日は夏休みか?」

子供たちの夏休みも終わっちゃいましたね。今年は9月1日が日曜日だったので、夏休みが一日長くて、子供たちはちょっと得した気分だったのではないでしょうか。
先日、同じ合唱団に所属している同期のI君が、こんな事を聞いてきました。
「子供が小学校の『夏休みの宿題』で、絵日記を書かなくちゃいけないんだけど、9月1日も書かなくちゃいけないんだろうか?」
「うーん、書きたければ書けばいいし、書きたくなければ書かなくていいんじゃない?」

と答えておきましたが、こんなことで悩んでいる人というのも珍しい。でもそれを聞いて、
「確かに、9月1日まで休みは続いていて、実質上の夏休みは9月1日までだけれど、二学期は9月1日から始まっていて、たまたまその初日が日曜日だっただけで、本当の夏休みは8月31日までではないか?」
というややこしい疑問が持ち上がりました。
まあ、答えはその通りですが。疑問でもなんでもないです。
1週間は日曜から始まるのか、月曜から始まるのか?という疑問とよく似ていますね。
子供にとっての正解は、
「お休みであれば、どっちでも良い」
ですし、みんなそう考えているんじゃないのかな、学校の先生でさえも。
いろんな事で悩む人がいるもんです。
もっと他に悩むことないんか?とフト思いました。まあ、人のことは言えない私ですが。



2002/9/4


◆ことばの話813「シエモンテステス」

アメリカ大リーグのストは、ギリギリのところで回避されて良かったですね。
そのギリギリの攻防をしていた8月下旬の読売新聞(8月31日朝刊)に載っていた写真に目を奪われました。それは大きな文字が書かれたプラカードを持った女性ファンの写真で、そのプラカードには、こう書かれていたのです。
「SHAME ON YOU BASEBALL」
写真のキャプションには、
「恥を知れ」
と書いてありました。命令文の形ですよね。
この「SHAME ON」という英語に関して、私はたしか中学時代に、父からこんな話を聞きました。
「おとうさんが中学校ぐらいの時、おじいちゃん(父の父)が“シエモンテステス”という言葉を教えてくれた。英語だそうだが、その時はあまり意味が分からなかった。“シエモン”というのは“五右衛門”の親戚かと思ってた。あとで“シエモン”というのは“SHAME ON”のことで“〜を恥じよ”と言うことらしいことは分かったが、“テステス”が分からなかった。さらに後になって調べてみると、“テステス”は“金玉”のことだった。つまり直訳すれば“金玉に恥じよ”ということだった。」
・・・下ネタっぽいので、あまり中学生に話すようなものではないかもしれませんが、大変印象に残っています。
その後、何十年か経つのですが、「テステス」という英単語を使ったことは一度もありません。いつだったか「本当は何という単語なのだろうか?」と思って辞書を引いてみたところ、
「testicles」
と載っていました。「テステス」とは大分違うけど、そう聞こえるのかもしれません。
最近、この言葉を投げつけたいような出来事が多いですよね。
でも女性には使えないんだよな。どうも、ジェンダー・フリーな言葉ではないようです。



2002/9/4



(追記)
さっそく、お医者様からご指摘いただきました。
「テステスは『testis』(複数形はtestes=testicle)のことです。解剖学ではtestisと習います。」
とのこと。じゃあ、やっぱり「テステス」でいいんだ。
旧制高校の学生か医学部の学生が広めたのかもしれませんねえ。
田中さん、ありがとうございました。



2002/9/13


◆ことばの話812「世界一の記録を集めた本」

NHKのお昼のニュースを見ていたら、敬老の日を前に、世界最高齢、114歳の女性である鹿児島市の本郷かまとさんを赤崎市長が表敬訪問したというニュースを流していました。本郷さんは16日には115歳になるそうで、今は丸2日眠り、丸2日起きている状態で、たまに焼酎をいっぱいストレートで飲むんだそうです。スゴイ。その中でこんなコメントが。
「本郷さんは、世界一の記録を集めた本で、世界最高齢と認められ・・・。」
え?世界一の記録を集めた本?
それって、普通は、
「ギネスブック」
って言うんじゃありませんか?もちろん、「ギネスブック」は登録商標でしょうから、NHKさんとしては使いたくないのでしょうが、なんかクイズか「なぞなぞ」を出されているような気分になったのは私だけでしょうか?ほかにもそういうのをやってみましょうか?
(1)アメリカの映画製作会社が作った映画を題材としたテーマパークの日本版
(2)ネズミのキャラクターを中心にした、千葉県の舞浜にあるテーマ・パーク
(3)国のBSE対策を悪用したことが明るみに出てつぶれてしまった会社の親会社で、雪の結晶のマークを社名とした会社
(4)電鉄会社が親会社で、名古屋のチームの生え抜きだった燃える男を今年監督に据えた関西のプロ野球チーム

などなど。まあ、いくらでもできますね。答えはもう、お分かりですね。(一応書いておくと、(1)ユニバーサルスタジオ・ジャパン(2)東京ディズニーランド(3)雪印乳業(4)阪神タイガース)
最近は「国民から集めた聴取料をもとに、番組を制作し、職員の給料を支払っている公共放送局」さんも、それほど商標とか固有名詞にこだわらなくなってきているようなのに、なぜこの「世界一の記録を集めた本」にはこだわるんでしょうね。
何かこだわる基準があるんでしょうかね?
ネットのBBS「ことば会議室」の中で以前、Yeemarさんも、「NHKと商標」というスレッドで、「最近NHKは、商標名を厳しく制限することが以前に比べて減った」という主旨のことを書かれてました。しかしその例外でしょうか、2002・7・9の「首都圏ネットワーク」の中で「丈の高い七夕飾り」を作った人たちのことを伝えた滝島雅子アナウンサーが、
「世界の記録を集めたあの本への登録を申請することも考えているそうです。」
というような原稿を読んだそうです。Yeemarさんは「“あの本”とは淫靡」とも書いてらっしゃいます。「こそあど言葉」は「伏せ字」ですもんね。そういう意図のあるなしにかかわらず。昔、高校生の頃、大阪の南部の町で「スナック・あそこ」という看板を見て、「淫靡な気分」に陥ったことを思い出しました。しかし店側としてはたぶん、客が「“あそこ”行ってくるわ。」などと気軽に口にできることを意図して(奥さんを誤魔化すため?「あそこってどこなのよ!」「あそこゆうたら、あそこや。わからんのか!」と煙に巻くため?)名づけたと思われるのですが。この手のネーミングには、麻雀店=ジャンソウで「会議室」という名前の店もありました。支店は「第二会議室」



話が大分それましたが、このほか、NHKと商品名をめぐっては、「NHKニュース11」(1994―2000)のキャスターをしていた頃の松平定知アナウンサーは、ヘッドホンステレオの開発秘話か何かの特集放送をする時に、
「ヘッドホンステレオ・・・・と申し上げても多くの方はお分かりにならないでしょう。小さな声で商品名を申し上げますと、・・・・要するにウォークマンなのですけれども」
というような紹介をしていたそうです。(これもYeemarさんが「ことば会議室」でご紹介されていたものですが。)いろいろ苦労がありますね。
まあしかし、「ギネスブック」に関して言えば、ちょっと、面白かったです。楽しませてもらいました。



2002/9/5


◆ことばの話811「ネーションとステイト」

柄谷行人著「日本精神分析」(文藝芸春秋・2002・7・30)の中に収められている「言語と国家」の中に「ネーションとステート」について書かれたところがありました。
柄谷行人は『近代的なネーション=ステート(国民国家)』と書いています。すなわち、「ネーションとステートがイコールで結ばれる近代における国民国家の姿」とは、ということなのですが、そもそもネーションとステートは、どう違うのでしょうか?
周りの人に聞いても、
「ネーションは『国』で、ステートは『州』じゃないんですか?」
なんて答えが返ってきます。そうなんだけど・・・。
英語に堪能な脇浜アナウンサーに聞いたところ、すぐにインターネットの英英辞典で検索したものを見せてくれました。それによると、
nation
1)A relative large group of people organaized under a single, usually independent government ;a country
2)The government of a sovereign state
3)A people who share common customs, origins, history, and frequently language ; a nationality



あ、この場合はこの3番かな。「同じしきたりと出自、歴史、数多くの言葉を共有する人々=国民性、国籍、国民、国家 」
という感じでしょうか。(私の和訳は怪しいな。あんまり信用しないでください。)2番は「自治州の政府」かな。
一方のステートはと言うと、
state
1)The supreme public power within a sovereign political entity
The sphere of supreme civil power within a given polity : matters of state
A specific mode of government ; the social state
A body politic, especially one constituting a nation : the state of Eastern Europe
One of the more or less internally autonomous territorial and political unites composing a federation under a sovereign government




むーずーかーしいー!!でもネーションとは並んでいる単語がちょっと違いますよね。柄谷行人がいう「ステート」は5番あたりかな。
「主権を持った政府の下で国家を構成する、多かれ少なかれ国内の自治的・地域的な政治的な単位」
嗚呼、絶望的な英語力。ごめんなさい、誰かちゃんと訳して教えて下さい。これはつまりアメリカの「州」のようなもののことですかね。
4番、行ってみよう。
「一つの政治形態。特にnationを構成しているもの:(例)東ヨーロッパの国」
nationが出てきたので、なんか訳せなくて。
うーん。そうだ。国語辞典にはこの違いは載っていないだろうか?
『日本国語大辞典』を引くと・・・あったあった!



ネーション(「ネイション」)・・・(1)国民
(2)国家
そして(1)には、福沢諭吉の「文明論之概略」(1875)の用例を載せています。



「嘗て余が説に、日本には政府ありて国民(ネーション)なしと云いいしも是の謂なり」



また(2)には、棚橋一郎・鈴木誠一「舶来語便覧」(1912)から、



「ネーション 国民又国家Nation(英)又は団体、多数、許多の義」



というのを引いています。
あまり十分な説明とは言えません。ステートは、どうか。



ステート・・・国、国家。また、州。勝屋英造「外来語辞典」(1914)「ステートState(英)国。州。国家。」



うーん、期待外れだった・・・。
しょうがない、もう一度、柄谷行人の著作に戻ってみるか。その中からヒントになるような文章を書き抜いてみよう。
「ナショナリズム的文学があったり反ナショナリズム的文学があると考えられていて、近代文学あるいはエクリチュール(文字表現)そのものがネーションを形成したのだという視点がなかったのです。『日本近代文学の起源』を書いた時、私は、ナショナリズムに関する議論にほとんどふれませんでした。しかし、ある意味では、それはすべてネーションの問題だったのです。」



「西欧といっても、イタリア、イギリス、フランス、あるいはドイツなどを除いて、多くの地域では、自国語で書くというようなことは、19世紀後半に起こった。それは、日本で言文一致運動があったのとほぼ同じ時期です。したがって、日本で起こったこの問題は、近代の国民国家形成において、例外なしにあてはまることなのです。」



「『帝国』は、多数国家、多民族国家を包摂するものです。したがって、それは一部族や都市国家とは異質な原理をもっていなければならない。」


うーむ、やはりこの2つめのブロックの「国民国家」が、柄谷行人の言う
「ネーション=ステート」
のようですね。(最初でもちょっと触れていますが。)
そして「ネーション」とは「民族」とか「部族」とか、やはり上の英文の3番のような意味かな。
「同じ伝統を持つ人たちのある一定の大きさを持つグループ」
とでも言いましょうか。そして「ステート」は、割と単純に、
「枠組みとしての国家」
という意味ではないでしょうか。
皆さんはこの違いについてどう思われますか?
今回は「言葉の問題」と言うよりかは「政治学」の話になってしまったみたいですね。


2002/9/5

(追伸)

今回は、ボストン在住のI先輩がきっと「道浦クン、それは実はこうなんだよ・・・」とメールでいろいろ教えて下さると見た!今のうちに書いておきます。
うーむ、やはりこの2つめのブロックの「国民国家」が、柄谷行人の言う
「ネーション=ステート」
のようですね。(最初でもちょっと触れていますが。)
そして「ネーション」とは「民族」とか「部族」とか、やはり上の英文の3番のような意味かな。
「同じ伝統を持つ人たちのある一定の大きさを持つグループ」
とでも言いましょうか。そして「ステート」は、割と単純に、
「枠組みとしての国家」
という意味ではないでしょうか。
皆さんはこの違いについてどう思われますか?
今回は「言葉の問題」と言うよりかは「政治学」の話になってしまったみたいですね。

2002/9/5



(追記2)

2004年2月6日の朝日新聞の記事。プエルトリコで、「国」の姿の考え方をめぐって、英語かスペイン語かという公用語論議が起こっているというものでした。その中で、プエルトリコの人民民主党アルサモラ上院議員が、
「プエルトリコはNATION(民族を単位とした国。独立しているとは限らない)だが、STATE(国際法で独立を認められる政治のまとまりとしての国)ではない。これこそ経済のグローバル化の中で、世界が模索する『国のかたち』ではないか。我々はそれを50年以上実践してきているのだ。」
と発言していました。
参考になります。


2004/2/11