◆ことばの話800「酷暑2」

いやー、800回です。ご愛読ありがとうございます。
これまで書いてきたことは、実は、嘘八百・・・・。



「平成ことば事情394猛暑と酷暑」でもちょっと「酷暑」については「酷暑2」としたのですが。
どうも、もともとこの言葉は、名古屋地区で作られて使われ始めたようですね。最高気温が35度を越えるような暑さを指すのですが。



さて夏休みも残すところあと数日ということで、今朝(8月27日)の読売新聞・朝刊には、「夏休みの天気」と題して、7月20日から8月25日までの各地の天気と最高気温・最低気温が、全面を使って載っていました。今ごろになって1か月分の絵日記をまとめて書こうとする子供たちは喜ぶ・・・のでしょうかね。
なんとなく眺めているうちに、大阪の「最高気温が35度を越えた日=酷暑日」が何日あるか、数えてみました。なんと37日中、16日もあったのです!暑いはずや。日本一暑いのかな?と思って、ついでに京都も数えてみました。すると!なんと19日もありました。やっぱり日本一暑いのは京都どす。
ついでに和歌山はどうかなと見ると、なんと4日しかありません。しのぎやすい。
ええい、面倒くさい、全部調べちゃえ!ということで、調べてみました。各地の35度を越えた日数は、以下の通り。



0回=稚内、旭川、札幌、釧路、室蘭、函館、青森、盛岡、長崎、那覇
1回=秋田、千葉、横浜、高知、福岡
2回=仙台
3回=金沢、松山、宮崎
4回=長野、津、彦根、和歌山、山口、徳島、鹿児島
5回=水戸、静岡
6回=山形、東京、新潟、広島、松江
7回=富山、福井、佐賀、大分
8回=神戸
9回=宇都宮、鳥取、高松、熊本
11回=福島
13回=前橋
14回=奈良
16回=甲府、大阪
18回=熊谷、名古屋
19回=岐阜、京都、岡山




ということで、35度以上の最高気温になった日が一番多いのは、岐阜・京都・岡山ということになりました。大阪より上がいたのね。
あー、こんなの数えてたら、また暑くなってきたあ!!



2002/8/27


(追記)



たまたま古い読売テレビの「社報」を見ていたら、出てきました、「酷暑」。
昭和42年(1967年)9月5日号の社報、ここに、読売テレビサッカー部創成期の話が載っていました。題して「サッカー部誕生記」。そのサッカー部が
「やっと七月に入ってから練習が始まりました。週一回の練習には酷暑の中にもかかわらず、十名以上が常に参加して和気あいあいあいと練習が進められ・・・」
とあります。その後、サッカー部結成後、初の試合は、1967年7月23日、対三共製薬戦。結果は1対8の大敗だったとか。
ここでの「酷暑」はその名の通りの「酷い暑さ」を指すのでしょうが、必ずしも「最高気温が35度以上の日」を指すものではないようです。ただ、「酷暑」という言葉は以前からあったということですね。



2002/9/10


◆ことばの話799「茨木と茨城」

先日、大阪府茨木市を舞台にした事件が起きました。その際に、中国帰りのSデスク(ついこの間まで上海支局長だった)が、



「道浦さん、茨木と茨城の"読み"は、どちらがどうでしたっけ?」



と聞くのです。



「茨木も茨城も、両方とも"イバラキ"、濁りません。」
「えー!!大阪はイバラギで、関東はイバラキと思ってました!」
「えー!!大阪はイバラキで、関東はイバラギと思ってた!」




という声が同時に聞こえました。前者は中国帰りのSデスク、後者はカメラのSデスクです。



「アナウンサーはみんな、会社に入ってまず1か月以内に、この区別は覚えるよ。」



と言うと、



「うそ!アナウンサーでも"イバラギ"って濁っていってるヤツ、いるだろ?」



とカメラのSデスク。



「絶対いません!もし濁って読むやつがいたら、そいつはうちのアナウンサーじゃないね。」



と答えると、そうかなあ、おかしいなあと首をひねりながら席へ帰っていきました。
確かに一般的には茨木と茨城は、どちらかが濁ってどちらかが濁らない、と思っている人は多いのかもしれません。それになんとなく、北関東の茨城のほうは、



「エバランギ」



という感じに訛りがでて濁っている感じがしないでもありません。
それに社内で聞いてみても、先ほどの両Sデスクのように、「どちらかが濁っている」と応える人が多かったのです。(アナウンサーは別にして。)
そこで茨城県庁と大阪の茨木市役所に電話をして、受付のおねえさんに聞いてみました。まずは関東の茨城県庁。



「はい、イバラギ県庁です。」



やったあ、やっぱり濁ってるよ。



「あのお、つかぬ事を伺いますが、茨城県の"茨城"はイバラキですか?それともイバラギですか?」
「イバラキです。濁りません。」



と意外な答え。



「あのお、失礼ですが、さっき電話に出られた時には少し濁ってらしたような・・・・。」



すると、受付のおばさんは、フフフと含み笑いをしてから、



「うーんそりゃぁ、茨城はねえ、北関東の訛りがあるから・・・。」
「そうすると、本当は正式には"イバラキ県"と濁らないけれど、普段の会話の中では"イバラギ"と濁る事も往々にしてあるということですか?」
「そうですねえ。」




やっぱりそうだったのですね。続いては大阪の茨木市役所。こちらも



「イバラキ市役所でございます。」



濁っていません。



「茨木というのは、濁りますか、濁りませんか?」
「濁りません。」
「いつもですか?」
「ハイ。」
「ふだんの、くだけた感じの時もですか?」
「はい、濁りません、イバラキです。」




こちらは毅然とした態度で、お姉さんが答えてくれました。
ということで、



「茨城、茨木は、正式にはどちらも濁らないけれど、地元では茨城県の方は濁ってイバラギと言っている人も多い」
ということが分かりました。



2002/8/30


(追記)

「日本の標準」というホームページで、「茨城」は「イバラギか?イバラキか?」というのをネット上で投票してもらってました。それによると、
イバラギ(濁る)・・・・・・・76票
イバラキ(濁らない)・・・・・45票

と、一般的には濁る人の方が多いという結果が出ていました。


2002/10/11

(追記2)

2月19日、詩人の茨木のり子さんが亡くなりました。79歳でした。大阪府出身。本名は三浦のり子。「戦後の日本を代表する女性詩人」で、この間やはり亡くなった詩人の川崎 洋さんとともに、1953年に詩誌『櫂』を創刊。この『櫂』から、谷川俊太郎、大岡 信、吉野 弘など「第二次戦後派」と呼ばれる詩人を多く輩出したとのことです。
この茨木さんの苗字は、
「いばらぎ」
と濁るというものでした。


2006/2/21


◆ことばの話798「おたまとオクラ」

もう数年前になりますが、和歌山の毒入りカレー事件が起きた時のこと。当時の警察担当のキャップT君が、こんな事を聞いてきました。



「道浦さん、このカレー鍋の中に入っていた"おたま"ですけど、"お"を取ってもいいですか?」



非常に威勢の良い、きびきびしたリポートや中継でならしていたT君にとって、死者まで出たこの事件の内容を伝える時に「おたま」という、非常に「軟弱な」イメージの名前は耐えられなかったようです。でも、「おたま」からあ「お」を取ったら、「たま」になってしまいます。辞書を引いてみると、「おたま」の正式名称は、



「おたまじゃくし」



カエルの子に形が似ている(大きさは、ずいぶん違いますが)ところからついた名前のようです。略して通称「おたま」。そうすると、正式名称に戻して「お」を取ってみると、



「たまじゃくし」



これもなんかしっくりせず、結局「おたま」で原稿を読むことになったのですが。このように、「お」が付くと女性的な優しい、柔らかい感じになるのですが、それを嫌って「お」を取ろうとしても、今さらもう取ることのできない「お」というのがあるのですね。



取ることができない「お」というと、「オクラ」。ご存知ですよね、あの野菜。20年ほど昔、初めてあのネバネバした食感を持つ野菜を食べてからしばらくの間、私は「オクラ」の「オ」は「おたま」の「お」と同じように「丁寧な"お"」だと思っていました。和名だと思っていたわけです。そしてある日、実はこの野菜はアフリカ原産で、英語で
okra



というのだと知った時には、たいそう驚きました。当然の事ながら、「オクラ」の「オ」を取ってしまうことは出来ません。「オクラホマ」から「オ」を取って「クラホマ」といえないのと同じです。



「オクラ」と言うと思い出すのは、作家の中島らもさんの行きつけの居酒屋にあるという、お気に入りメニュー「ネバネバ」です。「ネバネバ」は、「納豆とオクラと山芋を合わせた物」だそうで、大層「精が付く」のだそうです。そのまんまのネーミングですが、夏バテしている方、試してみてはいかが?



2002/8/29


◆ことばの話797「残存」

福井大学の岡島昭浩さんのインターネットの掲示板「ことば会議室」で、Yeemarさんがこんな書き込みをしていました。



「今朝(8月26日)のNHKの番組で『アルカイダの残存勢力によるテロの疑い』という原稿の『残存』を、住田功一アナと高橋美鈴アナは『ざんそん』と濁らず読み、末田正雄アナは『ざんぞん』と濁って読んでいた。同じNHKの同じ番組の中でも"個性"が出るのか。」



というような内容でした。これを読んで私は、



「え?『残存』に、濁らない『ざんそん』なんて読み方があったの?」



と驚きました。ずーっと、『ざんぞん』と濁って読んできたので、疑いもしなかったからです。手近な辞書をいくつか引いてみたところ、見出しは、



「ざんそん」



と濁らないものの方が多いようなのです。(中には『ざんぞん』とも、と書いてあるのもありますが。)
そこで、いつものように社内で手当たり次第、25人に、『残存』と書いた紙を見せては、



「これ、なんて読む?」



と聞いて回りました。結果は、25人中25人、つまり全員が



「ざんぞん」



と濁りました。濁らない「ざんそん」と答えた人は一人もいませんでした。
でも辞書の見出しには「ざんそん」という濁らない方が出てるんだよね。
実態は「濁る方が圧倒的に優勢」だと思います。つまり、「ざんそん」は「ざんぞん」の勢力の前に屈した「残存勢力」ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?



2002/8/26



(追記)



知り合いの他局のアナウンサーや元アナウンサーの人たちにもメールで「残存をどう読むか?」について聞いてみました。その結果は、



「ざんぞん」(濁る)・・・・・34人
(内訳:読売テレビ5、朝日放送1、関西テレビ1、日本海テレビ5、静岡放送10、毎日放送12)



「ざんそん」(濁らない)・・・8人
(内訳:読売テレビ1、TBS1、テレビ朝日1、テレビ東京1、日本海テレビ1、静岡放送3)




でした。



2002/8/31


◆ことばの話796「アナウンス」

最近気になったアクセントに、「アナウンス」があります。もちろん、われわれは



「アナウンス(LHHLL)」(Lは低く、Hは高く発音)



というアクセントで「アナウンス」しているのですが、7月16日NHKと民放の両方で、



「アナウンス(HLLLL)」



という頭高アクセントで「アナウンス」しているのを聞いたからです。
ちょうど台風がやってきていたときです。最初は午前10時21分、NHKの男性アナウンサーが東京駅からの中継で、



「運転見合わせがアナウンス(HLLLL)されますと・・・・」



という文脈で、頭高アクセントを使い、その後11時34分、日本テレビの町亜聖記者(元アナウンサー)が新宿駅からの中継で、



「駅ではアナウンス(HLLLL)されています。」



と、やはり頭高アクセントで話していました。おかしいよねー、日本語の「アナウンス」としては。
「NHKアクセント辞典」では、



「アナウンス(LHHLL、LHLLL)」



の二つのアクセントが載っていましたが、「アナウンス(HLLLL)」は載っていません。では、この頭高アクセントの「アナウンス」は英語のアクセントに近いのか?ということで、英和辞典を引くと、「アナウンス(LHLLL)」(Hを強く)というアクセントでした。



最近気になるもう一つのアクセントは、「エアウェイ」です。やはりNHKの女性アナウンサーがラジオで「スカイマーク・エアウェイ」の「エアウェイ」を、
「HLLLL」
と、やはり頭高アクセントで読んでいたのです。これは英語っぽい感じでした。私は



「エアウェイ(LHHHL)」



という中高アクセントではないか、と思ったのですが。しかしその後、経営不振のニュースが伝えられた、



「USエアウェイ」



に関しては、



「ユーエス・エアウェイ(LHHH・HLLLL)」



と「エアウェイ」は「HLLLL」の頭高アクセントでもなんら問題なく感じたのです。なんでやろか?外来語アクセントは、かようにむずかしい・・・・。



2002/8/29

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