◆ことばの話795「姫路」

このところよくニュースに出てきて、われわれ関西人が気になって気になって仕方がない地名といえば、何と言っても、



「姫路」



です。兵庫県姫路市。牛肉偽装問題のニュースで出てくる日本フードの姫路営業所の「姫路」のアクセントが気になるんです。関西の放送局のアナウンサーが呼んでいる場合はいいのですが、東京のアナウンサーはこれを必ず、



「ひめじ(HLL)」



と頭高アクセントで読みます。関西人の普通のアクセントでは、



「ひめじ(HHH)」



と、ず―っと高い音が続きます。これは標準語にはない形のアクセントなのです。そこで関西の人も、ちょっと公の場などでは第二のアクセントでしゃべります。それは、



「ひめじ(LHH)」



という平板アクセントです。関西のアナウンサーが話す「姫路」は、これです。これならまだ、同じ「平板アクセント」ということで許されるでしょう。
しかし頭高の「ひめじ(HLL)」は、やはり、「下手な関西弁ドラマを見ているような」、お尻のむずがゆさを感じざるをえません。
地元と全国(東京)でアクセントが違う地名というのは、実はずいぶんあります。大体は、「地元のアクセントは平板アクセント」です。左が地元アクセント、右が全国アクセントです。



             (地元)     (全国)

姫路(ひめじ)      HHH、LHH    HLL
名古屋(なごや)     LLH       HLL
高知(こうち)       LHH       HLL
長野(ながの)       LHH      HLL



これらはすべて、「地元が平板アクセント」で「全国が頭高アクセント」です。これと逆のパターンは珍しいと思うのですが、サッカーJリーグのジュビロのホームタウンは、
  磐田   HLL   LHH
とこれまでとは逆のケースです。
現地アクセントと全国アクセントのどちらを使用すべきなのか。現時点では「自分達の地元のニュースに関しては、地元アクセントを採用し、それ以外の地域のニュースは全国アクセントに従う」というのが、われわれの取っているやり方です。



2002/8/29



(追記)

今日(9月4日)の「ニュースプラス1」でNTVの男性アナウンサーが、京都の「舞鶴」のことを、
「まいづる(LHHH)」
と平板アクセントで読んでいました。こ、これは地元(関西)では、
「まいづる(HLLL)」
でしょう。「ひめじ」と逆のケースですね。
2002/9/4


(追記2)


先日東京行きの新幹線「のぞみ」に乗った時に、JR東海の車掌が、「名古屋」のアクセントを、
「なごや(LHH)」
と平板アクセントでしゃべっていました。
やはり地元では平板なんですね。

2005/3/25


◆ことばの話794「全箱検品」

牛肉偽装問題に絡んで、農水省は8月27日、日本フードに対して牛肉の「全箱検品」を行ないました。文字どおり「牛肉の入った全部の箱の検査」なんですが、この



「全箱検品」



は、果たしてどう読むのか?



「ぜんはこ」か「ぜんばこ」か「ぜんぱこ」か?



農水省に電話で聞いてみました。電話に出た係の男の人は、「少々お待ち下さい。」と言った後、周囲の人たちに聞きに行ったようです。しばらくして戻ってきた彼は、はっきりと
「ぜんぱこ、です。」
と答えてくれました。「ぜんぱこ、ですね。」と念を押すと、
「われわれはふだん、そういうふうに言っていますが、にほんかニッポンかと同じで、まあ、どちらでもいいのではないでしょうか。」
という答え。普通はまあ、そう答えるでしょうね。
そういう考え方がまかり通っているためか、そう言えばこの前、会見に出てきた農水省の課長は、「日本ハム」のことを、



「にほんハム」



と言っていました。「ニッポンハム」ではなくて。でもそれだと「別の会社」かもしれないよ。「ぜんぱこ」「ぜんはこ」かは、普通名詞なのでまだいいとして、会社の名前などの固有名詞はしっかり正確に読むように、われわれは農水省よりはしっかり考えてやっていおります。



2002/8/29


◆ことばの話793「日本海と東海」

日本海の名称をめぐって韓国が「待った!」をかけたことが問題になっています。



発端は8月15日の新聞紙上で、国際水路機関(IHO)という所が、「日本海」から「東海」への名称変更を強硬に主張する韓国に応じて、来年改定予定の海図「大洋と海の境界線」の最終稿から「日本海」の掲載ページを削除したことが報じられてからです。



実はその前日(8月14日)の産経新聞の名物コラム、「産経抄」で、韓国が日本の領土・竹島(韓国名・独島)とその周辺海域を国立公園に指定する方針で検討していることに関連して、韓国批判のコラムが載っており、その中でキム・ワンソプ氏の著書「親日派のための弁明」の中の一節を紹介しています。それは、



「日本がらみで韓国が我を張っている代表的な例として『日本海』を『東海』と呼び、竹島を韓国の領土と主張していること」



をあげたものです。



8月18日の読売新聞は「名称問題ヒートアップ」という見出しのもと、「日本海は歴史的に定着している」ことや、「韓国はインターネットなどでPRして『東海』を主張」、日本は「欧州古地図で巻き返し」て、27日に行われる「国連地名標準化会議」で、それを"証明"するとしていますが、決裂なら「併記も」



しかし世界的に見ても、「ドーバー海峡とカレー海峡」「ペルシャ湾とアラビア湾」など、折り合いがつかない例もある、とも書いてあります。ちなみにその記事の下に大きな広告が載っている本は、さきほど「産経抄」で取り上げていた、キム・ワンソプさんの「親日派のための弁明」(草思社)。もう30万部売れているんだそうです。これはメディアミックスか?



8月19日の「産経抄」では「日本海の名称が世界地図から消える恐れがでているという」という書き出しでこの問題を取り上げています。



「韓国の反日志向は、今にはじまったものではないが、ここにきてナショナリズム的主張を強めているのは、やはりサッカーW杯の影響だろう」



と書いてあるのですが、これはどうなのかなあ。サッカーを知らない方の言い分のように、私には聞こえますが。それはそれ、これはこれ。そして、「産経抄」は、



「『日本海』という名称は日本が自国本位で、あるいは自分勝手に命名したものではない。"日帝"や"植民地統治"とも何の関係もない。古くは十七世紀イタリアの宣教師が、1815年にはロシアの大航海者クルーゼンシュテインtが海図に『日本海』と記した。そう呼んだのは外国人で、これは歴史と由緒をもつ国際的命名だった。かりに韓国の主張がとおるとすれば、明治38(1905)年5月、東郷平八郎率いる連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を撃破したあの日本海海戦も"東海海戦"などと改称されるのか。」



と、怒ってます、怒ってます。



8月21日にも読売新聞は解説面でこの問題を取り上げています。見出しは



「波立つ『日本海』。



それによると、韓国政府は1990年頃から日本海を東海へ変えようと、国際社会に対して働きかけてきたというのです。そして、



「韓国人自身は気がつかなくてもそこには、朝鮮時代以来の朱子学の論理が色濃く影を落としている。朱子学論理では『何であるか』は『何と呼ぶか』『何と名づけるか』で規定されてしまうからだ。(中略)朱子学論理では『日本海』と名付けられてしまえば、すべて、『日本の海』となってしまう。あくまで形式論理の問題だが、韓国人の意識の中では、強い圧迫感を持つ現実となる。」



うーん、朱子学。よく分からないけれど、実はこれは日本人の持つ



「言霊信仰」



と同じではないかな。



産経新聞・校閲部長の塩原経央さんは、8月の13日から「国語に寄せる11の断想」というコラムを連載されましたが、その第8回が「現実を書き換える言葉」というタイトル。サブタイトルは「看護師というイデオロギー」でした。今年3月に法律がかわってから、「看護婦」という呼称が減って「看護師」へと変換の途上にありますが、この「看護師」という言葉は、単なる名称の変更ではなくイデオロギーであると。つまり、人の生き方、考え方の根底の変更を強いられているのだと問題提起しています。



「『看護師』というイデオロギー用語が『看護婦』という日常語に取って代わるということの恐ろしさは、単に名前が変わるのではなく、ジェンダーフリーのイデオロギーが現実世界を上書きしてしまうことになる。」



確かに言葉にはそういった力があります。「言霊」を信仰しなくても、実際に「言葉の力」を目の当たりにしたことは、皆さん、おありでしょう。



そして、こういった言葉の持つ力に関して、この人もそう思っていたのか、ということを確認できる出来事がありました。ようやくビデオを借りて見ることができた、宮崎駿の



「千と千尋の神隠し」



の中で、まさに「言霊信仰」的な「言葉=名前の持つ力」を信ずる"宮崎ワールドの構造"が垣間見える発言があったのです。ご存知の方も多いと思いますが、この「千と千尋の神隠し」で、主人公の女の子・千尋は、迷い込んだ不思議な世界の支配者・湯婆(ゆばあば)の元で働くことになった際に、湯婆に、



「"千尋(ちひろ)"なんて贅沢だ。おまえは今日から"千(せん)"だ!」



と、名前を奪われてしまいます。それを受けてのシーンで、主人公の千(=千尋)を助ける龍の化身の男の子・ハクの言葉に注目です。



千「ちひろ?・・・ちひろって、私の名前だわ!」



ハク「湯婆(ゆばあば)は、相手の名を奪って支配するんだ。いつもは千(せん)でいて本当の名前はしっかり隠しておくんだよ。」



千「私、もう取られかけてた。千になりかけてたもん。」



ハク「名を奪われると、帰り道がわからなくなるんだよ。私はどうしても思い出せないんだ・・・。」



韓国が「東海」という名称に拘るのと同じように、私たちもにも「日本海」という名前にこだわる権利があるのではないでしょうか。



だって、「日本海」が「東海」になっちゃったら、「太平洋側と日本海側」が「太平洋側と東海側」になっちゃって、天気予報なんか、ややこしいで。ホンマの話。 「日本海テレビ」が「東海テレビ」になったら、東海テレビが違う場所に二つできちゃって、ややこしい・・・などということも起こるかも。



8月25日の産経新聞には、27日からベルリンで10日間にわたって開かれる、第8回国連地名標準化会議(5年に1回開催)で、韓国側が「日本海」の呼称を「東海」に変えるよう求める議題を提出するのが確実、という記事が載っていました。日本側代表団は「徹底抗戦」の構えだそうですが、ここは一つ、頑張ってもらわなくちゃ。



ワールドカップの名称は「KOREA−JAPAN」で韓国が先でも、ちっとも気にならなかったけど、これはやはり「日本海」。よろしく!!



ちなみに、国際水路機関(IHO・・・IHジャーなら知ってるけど、IHOなんて初めて知った!)が「日本海」を削除した指針書「大洋と海の境界」改訂版を発表したことに対して、日本政府は撤回を求めていますが、IHO加盟国72か国の過半数が11月末の回答期限までに改訂版に賛成すれば、「日本海削除」は有効になってしまいます。



とまれ、27日から開かれるベルリンの会議のニュースには注目しましょう!



2002/8/26



(追記)



富山商船高専の金川欣二先生のホームページ「言語学のお散歩」の中に「日本海は地中海」というコラムがありました。このコラムの内容は、NHK富山放送局で2002年7月31日に放送されたそうです。どういうものかというと、世界地図をさかさまにして、日本と中国大陸・朝鮮半島あたりに注目すると、「日本海が地中海のように見えて来る」というものです。確かにそういわれれば見えないこともないような・・・。



「地形を見るとどちらにもアルプスがある。イタリアにはポー川がありと山には庄川がある。ファッションの町ミラノは加賀友禅の金沢で町民文化で栄えた町。ベニスは貿易の町で、石川には銭屋五右衛門がいた金石があって、世界と密貿易をしていたといわれる・・・」



など、日本海を地中海になぞらえると、日本海側の町がイタリアの都市のように見えてくる、というわけ。無理矢理といえば無理矢理なのですが、おもしろいですよね。



でも、なんで「地中海」は地中海というのでしょうか?日本の近くにあるから「日本海」なら「地中海」は地中の近くに、あるいは地中にあるの??



「地中海」を和英・英和辞書で引いてみると、



「Mediterranian」



「medi」というのは、「〜の間」ということで、「terranean」の「terra」というのは地面、陸地、というような意味でしょうから(「地球」=「大地」のことを「テラ」と言いますよね。池宮恵子さんのマンガにも「テラへ・・・」というのが、なかったっけ。) そこから類推するに、



「陸地に囲まれた海」



というのが原語の直訳的な意味になるのではないでしょうか。陸地に囲まれた海。あれ?それって普通は、



「湖」



ではないの?まあ、「湖」は「淡水」、「海」は「塩水」という大きな違いがありますね。だから「カスピ海」「死海」なんてのも、大きな湖に見えるけど「海」ですもんね。
話がそれましたが、「陸地に囲まれた海」がなぜ「地中海」となるのか?というと、この「中」は「囲まれた」というような意味として使われているようですね。なんとなく分かりました。つまり「地中海」には「地名は含まれていない」んです。そこが「日本海」との大きな違いかな。そうすると、同じく見かけは地名が含まれていない「東海」が有利になるのかなあ。でもあきらかに「(韓国の)東の海」だもんな。日本から言えば「西海」が「正解」なんですが。方角は「どこを基準にするか?」で名称が違うので、面倒ですね。



2002/8/27




(追記2)



8月28日の読売新聞朝刊に小さな記事が。
「『日本海』名称問題など議論へ〜地名標準化会議開幕」
あ、やっぱり始まったんだ。そして、
「『韓国政府引き続き説得』福田官房長官」
27日の記者会見で福田官房長官は「歴史的に『日本海』という呼称が正しい事を韓国政府に説明し、そうなるように引き続き努力していく」と強調したそうです。また扇国土交通相は、27日の閣議で、「(外務省は)毅然とした対応をしてもらいたい」と述べたと言うことです。
そして今日(8月30日)の読売朝刊では、やはりベタ記事で、
「『日本海』名称問題専門家協議を打診」
とあります。外務省は29日の自民党外交関係合同会議で、9月に東京で日韓両政府の専門家による協議を開くよう韓国政府に求めている事を明らかにしたとのことです。協議は水路専門家を中心としたもので、日本側からは海上保安庁と外務省の水路担当や朝鮮半島担当者が出席する事を想定しているんだそうです。
「水路専門家」
という人たちがいるんですね。何事にも専門家は、いるということです。



2002/8/30




(追記3)



9月2日の産経新聞
の読者からの投稿欄に、山口市の鈴木満男さん(75)という「東アジア研究者」からの意見が載っていました。(「東アジア研究家」・・・・いろんな研究家がいるんですねえ。)それによると、



「中国では『東シナ海』のことを『東海(ドンハイ)』と呼んでいるが、韓国では『西海(ソヘ)』と呼んでいるような矛盾がある。そこで『東海』も『日本海』も、日本・中国・韓国で国内向けには好きなように呼んで良いことにし、国際的には『東アジア海』(英訳してEast Asia Sea)とすれば、三方丸く収まるのではないか。」



というご意見でした。私も基本的にはそうだと思います。
それにしても、例の会議は(国連地名標準化会議)、その後どうなっているのかねえ。全然新聞に記事が載らないのですよ。



2002/9/2



(追記4)



9月6日の産経新聞の投稿欄「談話室」に神戸市北区の豊田昌靖さんという会社役員の方の、「外務省の存在、『竹島』で示せ」という投書が載っています。その中で、豊田さんは
「韓国が『竹島』を国立公園に指定する計画を進め、『日本海』」の呼称を消そうとしている。」
と書いています。確かに「竹島」(韓国名:独島)の国立公園指定計画と「日本海」を「東海」と呼ぼうという動きは、続けさまに飛び出しましたから、関連があるのかもしれませんねぇ。



2002/9/6



(追記5)



その後、記事をどうも見逃しているようで、会議の結果が分かりませんが、久しぶりに今朝(9月12日)の産経新聞で「日本海」の記事を見つけました。見出しは、
「日本の教授が『日本海』否定」
何じゃコリャ、と思って読むと、日本の新潟大学の教授・古厩(ふるまや)忠夫さんが投稿した原稿が、9月1日付けの韓国の「朝鮮日報」に掲載されて関心を呼んでいるとのこと。その投稿の内容はというと、
「歴史的に“東海”と言ってきた韓半島の人たちは、韓日併合とともに“日本海”という呼称を嫌がるのは当然」
「“東海”も周辺国からの方角を考えると適切ではないので『緑海』という呼称を提案」
しているとのことです。つまり、第三の名称が浮上してきたわけです。

これについて産経新聞は、
「『第三の名称』論は以前から日韓双方の一部の学者や文化人などの間でかたられており、基本的には『日本海』を否定する意味で韓国側の立場に身を寄せるものだ」
と書いていますが、そんな話、聞いてないよ。初めて聞きました、「緑海」。なんて読むの?「りょっかい」?「りょくかい」?「みどりうみ」?
ネットで探してみると、この古厩教授は1999年の10月26、27日にも、社団法人東海研究会(!)主催でソウル中区太平路プレスセンターで行われた「東海地名と海の名称についての国際学術セミナー」で「緑海と呼ぼう」という「突拍子もない提案」をする、という記事が「中央日報」(韓国に新聞のようです)に載っていました。
そして、このIHOの会議に関する記事は、やはり見逃していたようです。WEBの産経新聞と共同通信のニュースで探してみると、ちゃんと載っていました。簡単にその経緯を記すと



<WEB産経新聞>
8月30日「日本海呼称問題で韓国『東海』と併記要求へ」(ベルリン29日・関厚夫)
9月4日「国連地名会議事実上協議打ち切り『関係国解決を』」(ベルリン3日・関厚夫)
〜議長国のドイツ代表団のジーベルス独地名委員会議長は「日本海の呼称問題は会議の趣旨に反する」と指摘し、中国代表団は「我が国はこの問題について中立だ。本来、関係三カ国で決着すべきことだ」と話す。過去の国際協議の場で日本は劣勢だった。前回(98年)の国連地名標準化会議ではイスラエルが韓国の主張に同調し、IHOは今年「日本海」のページを削除した指針書の改訂版を発表した。(中略)その後、各国の任意の質疑応答ではバヌアツ代表団が「会議は呼称を裁定する場ではない」と主張し、日本を支持した。韓国側にとってはポイントを稼ぐことなく協議が終了した格好(後略)」
「ベルリンで開催されている第八回国連地名標準化会議で、韓国代表団は二日、日本海の名称問題について日韓両国の間で合意をみないうちは『東海』と『日本海』を併用するよう提案した。また北朝鮮代表団は『日本海』の呼称をはずすよう求めたが、会議が非公開のため具体的には不明だ。日本代表団はただちに『日本海』の呼称はすでに国際的に確立されていると反論した。同会議は呼称問題を裁定する場ではないが、韓国や北朝鮮の主張は議事録に記載される。
韓国代表団は『北朝鮮の主張は我が国に近い』としているが、日本代表団は『北朝鮮は“東海”ではなく“朝鮮海”への呼称変更を提起した』ととらえている。(中略)これまでの『東海』『日本海』に北朝鮮が主張したとされる『朝鮮海』が加わるとなると、この問題はさらにこじれそうだ。」



<WEB共同通信>
9月3日(フランクフルト2日共同)ベルリンで開催中の第8回国連地名標準化会議で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と韓国が「日本海」の呼称の「東海」への変更などを要求、日本政府は「国連の会議になじまない」と反論し、日本政府が懸念した決議案や勧告案などが出る事態は回避されたことが、2日、分かった。
9月6日「国連標準化会議が閉幕」
〜ベルリンで開かれていた第8回国連地名標準化会議が5日、閉幕した。日本政府代表団によると、会議では『日本海』の呼称をめぐり、韓国が『東海』、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が『朝鮮海』の名称を併用することなどを求めたが、同会議は特定の地名について議論する場ではないとの日本の主張が各国に受け入れられ、呼称問題関する突っ込んだ議論は行われなかった。
〜代表団長の猪俣・駐韓公使は会議後、邦人記者団と会見し、『日本の立場への理解が得られた』と今回の会議を評価。日本政府として『日本海以外の名称を使う考えはない』と述べ、二国間協議で粘り強く韓国側に理解を求めて行く考えを強調した。一方北朝鮮とは『二国間でという話にはなっていない』と述べ、呼称問題については、日朝国交正常化交渉の行方なども見定めた上で、慎重に対処する考えを示した。(中略)日韓双方の一部知識人の間では『緑海』『蒼海』『オリエント海』『極東海』など第三の名称にしてはどうかとの意見も聞かれるが、韓国では『第三の名称を言い出した方が負け』との声が強い。



ということで、国連地名標準化会議ではなんとか韓国などの言い分の「東海」も「緑海」も土俵に上げずに済みました。それにしても、第三の名称として、「緑海」のほかに「蒼海」「オリエント海」「極東海」などという名前も考えられていたとは驚きです。
その後週刊誌でも、この話題が取り上げられました。
2002・9・19号の『週刊文春』では、
「『日本海』を『東海』と呼べというのか『天声人語』」

と、「天声人語」の主張を攻撃しています。
また9月26日号の『週刊新潮』では、
「『日本海』改称で脅迫されている新潟大教授」

という記事で、新潟大学の古厩教授のところに、脅迫の電話やメールが70件ほど来ている、という内容が、また帝京大学の高山正之教授による「変見自在」というコラムでは、
「日本海に手を出すな」
というタイトルで、
「今度だけは大方の日本人は笑ってはいない。」
「この前のサッカーW杯の審判抱き込みと同じにうまくいくと思っているのだろうが、そうはいかない。」

などと書かれています。
そしてとどめは、9月21日の読売新聞でした。
「日本海の名称白紙化案撤回〜IHO加盟国の反対受け」
なんじゃそりゃ。白紙化が白紙撤回?
一応よかったよかったということなのですが、記事の内容は以下のとおり。
「海図の国際的なガイドラインを定める国際水路機関(IHO)が、『日本海』の名称を白紙化する改定案を示していた問題で、IHOは20日までに、改定案自体を撤回すると、加盟各国に通知した。」
「加盟各国からも『白紙の意味が分からない』『このような不十分な改定案を示すのはおかしい』などの意見が出たため、撤回に踏み切ったとみられる。」



結局、白紙撤回。11月の期限を待つまでもなく、一応の決着を見たわけですが、これをきっかけに国境とか領土とか国家とか、そんなことにも少しは目を向けようと思った方も多いことでしょう。
それにしても、一番ホッとしているのは、日本海テレビと東海テレビではないでしょうか。



2002/10/3



(追記6)



2月20日の新聞に、ソウルの在韓日本大使館がインターネットの広報資料(韓国語)で「東海(トンヘ)」
の表記を使っていたという記事が出ました。これを受けてさっそく2月21日の産経新聞『産経抄』がこの問題を取り上げ、
「韓国は反日・愛国運動として『東海』を主張し、官庁機関やマスコミもそう先導してきた。その反日キャンペーンを、こともあろうに日本大使館が広報で”支援”したのである。あいた口がふさがらぬとはこのことか。(中略)この重大な責任はきちんととってもらいたい」
と記しています。忘れた頃にこの「東海」問題は、また湧き上がってきますね・・・。
2004/2/26



(追記7)



な、なんと!おととしに書いた「追記6」がアップされていないことに気づきました!まあ、いいんだけど。追記6と追記7、一挙、同時掲載です。
本棚から、ちょうど4年前の『ダ・カーポ』(2002年2月2日号)が出てきました。特集は「教えて!天皇家のホント」。その中に「お名前をめぐるエトセトラ」として、
「『千と千尋―――』と、天皇家の呼称」
というページがありました。そこには、『天皇がわかれば日本がわかる』(ちくま新書)という本の著者・斎川 眞さんという人が、こうコメントしています。
「湯婆婆は名前を奪うことで相手を支配しますが、そもそも名前を与えるとは、名付ける対象を”自分の秩序に組み込むこと”です。その意味で、天皇は姓の授与者として最高位にある存在です。」
そして、歴史をひもとくと、謀反を起こそうとした人物が罰として名前を変えられてしまう=名を貶められてしまった例がかなり出てくるとして、”貶名”のケースの代表的なものとして、758年(天平宝子元年)7月、「橘奈良麻呂の変」という内乱を企てた一味は、孝謙天皇の命令で、姓や名を変えられて、
「黄文王(キブムオウ)」→「多夫礼(タブレ=気がくるっているもの、乱心者の意味)」
「道祖王(フナドオウ)」→「麻度比(マドヒ=迷い者)」
「賀茂角足(カモノツノタリ)」→「乃呂志(ノロシ=愚鈍)」
となってしまったということです。特に「黄文王」と「道祖王」は皇族でしたが、「王」の称号も外されてしまいました。
「ことのは」「ことだま」信仰と「名前」は深く結びついていたのですね。



2006/2/20



(追記8)



新聞のスクラップを整理していたら、2006年4月27日付けの朝日新聞が出てきました。見出しは、
「韓国で『日本海』表記ダメ〜パイク氏の作品 国立美術館撤去」
と言うことで、韓国人現代美術家の故・ナムジュン・パイク(白南準)氏(2006年1月死去)の、昔の地図をモチーフにした作品「古地図II」に、「日本海」という表記が載っていることがわかり、韓国が主張する「東海」と異なるために不適切だという観客の指摘を受けて、4月25日にこの作品を撤去したというニュースです。
この作品はフランス語で「日本海」と記されたアジアの古地図に、パイク氏が筆を加えて作品化したものだそうです。パイク氏の遺族は、
「昔の地図を使っただけ。(パイク氏は)政治的な人ではありません」
と語ったということです。

2006/12/11



◆ことばの話792「アブ・ニダル」

1970〜80年代に20か国以上で100件近いテロ事件を起こし、「最後の大物テロリスト」と呼ばれた、パレスチナ過激派指導者の「アブ・ニダル」が死亡したというニュースが新聞に載りました。本名は「サブリ・バンナ」だそうですが。8月22日付け読売新聞によると、「アブ・ニダル」の関与したと見られる主なテロ事件には、



1985年 ローマ、ウィーン両空港で無差別銃撃テロ、138人死傷
1986年 カラチの空港でパンナム機をハイジャック、20人死亡。
イスタンブールのユダヤ教寺院を襲撃、ユダヤ教と22人を殺害。
1988年 ギリシャで遊覧船を襲撃、死傷者107人




などがあります。私などは「ああ、名前は知っている」程度ですが、1990年以降に入社した若い人に聞くと、「誰ですか、それ?」という反応でした。
それでその「アブ・ニダル」死亡を報じた各紙の、「アブ・ニダル」の「敬称(?)」が二手に分かれていたのです。



アブ・ニダル氏=朝日・毎日・日経
アブ・ニダル容疑者=読売・産経



要は、「氏か容疑者か」ということですが、これ、一般人で考えると天と地ほど違いますよね。
こういった国際手配されるような容疑者(テロリストに多いようですが)の場合は、新聞報道などで、その名前の後ろに「容疑者」がつかないケースもあるようです。最近で言えば、「9・11、ニューヨークテロ」の「ビンラーディン」はほとんどの新聞は「ビンラーディン氏」
と「氏」を付けていました。中には「呼び捨て」の新聞もありましたが。
確実な証拠を握っていないために「容疑者」とは呼べないのでしょうかね?
読売新聞のアブ・ニダル死亡特集記事の最後は、このように締めくくられています。



「ただ、世界を震撼させ、アラブ諸国を流浪してきたテロリストも、今やどの国にとっても利用価値がなくなったことだけは確かなようだ。」(カイロ・平野真一記者)



2002/8/25


◆ことばの話791「兄弟校」

夏の甲子園、以前ほど見ていないとは言え、やはり少し気にはなります。(これを書いているのは8月16日です)
どうやら奈良の智弁と和歌山智弁が対戦することになったようですね。
さっそくNHK放送文化研究所の原田さんからメールが来ました。
「こういうのは、“兄弟校対決”なんでしょうかね?それとも“姉妹校対決”なんでしょうか?」
うーん、「兄弟校」のような気がするけどなあ。どちらも同じ「系列」の学校なんですよね。もし、違う「系列」だったり全く関係ない学校同士が「仲良くしましょうね」という場合は「姉妹校」かもしれないけど。
そこで、その対決が決まった日の夕刊と翌日の朝刊で、どういう表現をしているかに注目しました。
その結果は、
(朝日)兄弟校
(読売)姉妹校対決
(毎日)兄弟校・智弁学園
(産経)“兄弟対決”(見出し)兄弟校対決



やはり、「兄弟校」が主流のようですが、なぜか読売新聞は「姉妹校」。どういう文脈か見てみると、智弁和歌山の高島監督のコメントをフォローした言葉として出て来てますね。
「田林は調子がよかった。四球も厳しいコースをついた(結果だ)から。(智弁学園との姉妹校対決が決まり)えらいことになった。みなさんは喜ぶが、やるほうは大変」



監督が言ったのかどうかは分かりませんが、「姉妹校」。
ちなみに智弁学園(奈良)も智弁和歌山も共学校なんだそうです。



2002/8/16




(追記)
読売新聞はその翌日も「姉妹校対決」でした。試合は智弁和歌山が勝ち、そのまま決勝戦まで進んだものの、惜しくも21日の決勝で高知の明徳義塾高校に7対2で敗れて準優勝でした。なぜ読売新聞だけ「姉妹」だったのか?今、読売新聞の方に問い合わせているところです。




2002/8/22



(追記2)
読売新聞大阪本社の知り合いに聞いたところ、
「早版では“兄弟校”という原稿もあったが、運動部の記者が智弁側に問い合わせたところ、“姉妹校で”という回答があり、それで“姉妹校”表記になった」
ということでした。そうすると、智弁側はなぜ、“兄弟校”ではなく“姉妹校”といったのでしょうね?



2002/8/25



(追記3)
実際のところはどうだったのか。智弁和歌山と奈良、両方の学校に電話して確認しました。結果から言うと、
「両校とも、“兄弟校”と言っている」
というお答えでした。一体、読売新聞の運動部の記者が問い合わせた“学校側”というのは、どんな人だったんでしょうかね?
また、智弁和歌山のホームページで、今回の甲子園大会の報告を載せたページがあるんですが、そこには理事長さんが応援している写真の横にこんなクレジットが載っていました。
「智弁学園理事長であり、奈良校の学校長です。和歌山校の学校長は長男がしています。だから兄弟校対決であり、親子対決なんです。」



なるほど。“親子対決”でもあったのか。奥が深い・・・。



2002/8/26

(追記4)

読売新聞の知り合いが、さらにいろいろ調べてくれました。運動部の担当デスクと話をしてくれたようです。それによると、当初は「兄弟校」が一般認識としてそれで何本か出稿していたようですが、例の準々決勝の前触れを和歌山支局が夕刊社会面に掲載した時に「姉妹校」になっており、運動部は地方部と話し合い「統一する」ことになったそうです。どちらに統一するかで和歌山支局が「智弁和歌山校」に取材したところ、「姉妹校を使用している」という回答を学校側(回答者氏名は運動部デスクは知らず)から得たために当該運動部デスクは「姉妹校で行く」という結論に達したそうです。
一体「姉妹校で」と答えた「智弁和歌山」の人は誰なのかは、わからず「しまい」です。
(私が聞いたのは、和歌山校の方は受付の女の人ですが、その女性は「教頭先生、姉妹校か兄弟校かどっちですか?」と聞いている声が受話器から漏れていましたから、回答者は教頭先生だと思うのですが。)

2002/9/24


(追記5)

2005年7月6日の朝日新聞夕刊に、
「『兄弟校対決』困った』
という見出しが。記事を読むと、高校野球大阪大会の1回戦で、同じ後者で学ぶ1,2年生と3年生が対戦することになったとのこと。少子化に伴う府立高校の再編で昨年春発足した、東大阪市の「かわち野高校」と、その前身校で3年生が通う「盾津高校」が当たることになったとのこと。去年は連合チームで参加したが、今年は別々のチームで臨んだら、1回戦で当たってしまったというわけ。お互いにまあ、おんなじチームのようなものだし、手の内を知り尽くしているので「やりづらい」とのこと。
1、2年生チーム対3年生チー、ムという紅白戦みたいな(でも学校は違うんだけど)になって、まさに学年が違うので、「兄弟対決」なんですよね。
智弁の時のような「系列校」ではなく。同じ学校から枝割れした学校でも「兄弟校」と言うんですね。
注目の試合は、7月10日に行われるということです。

2005/7/6