◆ことばの話735「2ケタ安打」

スポーツ担当のYアナウンサーと話をしていた時のこと。Yアナが思い出し笑いをしながら、こんな話しをしてくれました。



「この間、私がメイン実況で野球中継だった時、新人(といってももう2年目)のSアナがサブアナで横について、いろいろデータを出してくれてたんですけど、



タイガースの選手が10本目のヒットを打った時に、Sったら、『Yさん、これでタイガースは、“ニケタ”安打です』って、言いやがったんですよ。」



わらけた?あんた?ケタケタケタ。笑えますねーって、笑っている場合じゃない。



「2ケタ安打」のことをにやけた顔して「ニケタ安打」はいただけません。最近の若者は、「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・」といった「和語での数の数え方」に接する機会が少なくなっているから、こういうことになる。もっと「かぞえ歌」を子どもの頃から教えないとだめかな。



「ニケタ」アンダと聞いて、こちらは「タマゲタ」モンダ、です。



そのS君、昨日はこんなことを話してくれました。



「いやあ、実はこの前のO部長とMさんの送別会兼K新部長の歓迎会の時まで、ボクずっと、『カンソウゲイカイ(歓送迎会)』のことを『カンゲイソウカイ(歓迎総会)』だと思っていたんですよぉ。」



おいおい、それじゃぁ、O部長とMさんが異動するのを「歓迎」していたことになるぞ。しかも「総会」とは・・・・。もう少し意味を考えた方がいいよ。



実は、これは「実話」です。



(追記)



「人を呪わば穴二つ」と申します。こんなことを聞いて笑っていたら、昨日、中央アフリカのチャドから、人類最古と見られる約700万円前の猿人の頭骨がみつかったというニュースを読んでいる時に、「頭骨」のことを「ずこつ」と読んでしまいました。正しくは「とうこつ」です。私が「そこつ」でした。申し訳のないコツで・・・。トホホ。



2002/7/12


◆ことばの話734「越えるかの勢い」

台風6号7号が連続して猛威をふるいましたが、この台風中継を見ていてこんな表現が気になりました。



「波はコンクリート製の防波堤を越えるかの勢いです」(7月10日・ニューススクランブルで)



この「越えるかの勢い」、なんかちょっと中途半端な感じ。
同じ日の別のニュースではこんな表現が。



「ここに並べてもらえるかは死活問題」(ニュースプラス1)




何が気になるのか?この二つの文章は、本来、こう言うべきではないのでしょうか?



「波はコンクリート製の防波堤を越えようかという勢いです。」



そしてもう一つは、



「ここに並べてもらえるかどうかは死活問題」



つまり、最初の方は



「越えるかの勢い」→「越えようかという勢い」



という違い。似ているが違いますね。そして二つ目は、



「並べてもらえるかは」→「並べてもらえるかどうかは」



のように、「どうか」が省略されています。新聞の見出しなどでは字数省略のために許される表現かもしれませんが、話し言葉として使うのはルール違反ではないでしょうか。



今後こんな言い方が“増えるかは”、注目しなければならないでしょう。



2002/7/19


◆ことばの話733「レイラ島」


7月18日の新聞各紙の国際面に、まったく同じ写真が載っていました。AP通信が撮ったものです。モロッコとスペインの間の地中海、ジブラルタル海峡にある無人島を占拠していたモロッコ軍を、スペインが武力排除したという記事です。この島はアフリカ大陸にあるスペインの飛び地・セウタから数キロ西で、モロッコ本土から沖合いわずか200メートルのところにある、13、5ヘクタールの無人島だそうです。



私は木曜と金曜の朝は、早朝の番組でニュースを担当していて一般紙5紙にすべて目を通すため、この記事も目に入りました。特に、スペインには関心があるので。すると、おかしなことに気づきました。早起きしない土曜日から水曜日までなら絶対に気づかなかった記事です。この島の名前は、3紙が



「レイラ島」



となっているのに、読売新聞だけが、



「ペレヒル島」



となっていたのです。原因はすぐに分かりました。



モロッコの呼び名で言うと「レイラ島」で、スペイン名では「ペレヒル島」だったのです。朝日・産経は「レイラ島(スペイン名ペレヒル島)」と丁寧に書いてあったからわかったのです。でも読売は「ペレヒル島」としか書いてないし、毎日も「レイラ島」としか書いていない。もし、読売しか読んでない人と、毎日しか読んでいない人がこの話題について話をしたとしたら、話がかみ合わないのではないでしょうか。



なぜこうなったのか?このニュースを書いた記者はどこから記事を送っているのかに注目しました。



(読売)パリ
(朝日)パリ
(毎日)カイロ
(産経)マドリード




(*日経はこの記事が載っていなかった。)



この際、記事を出した場所はあまり関係はなさそうです。トホホ。



でも、どちらの呼び名をとるかで、今回の問題でこの島がどちらに帰属すると考えているか、つまりスペインとモロッコのどちらの肩を持つかがわかるような気もします。



ちょっと注目しておきましょう。



2002/7/22


◆ことばの話732「俄然、やる気が・・・」

阪神タイガースが、4月・5月の勢いが消えて久しいのですが、序盤の貯金がモノを言って、なんとか前半戦を「貯金3」で折り返すことができました。
それを決定した勝利を挙げた翌日、台風6号がやってきました。
しかし京阪神にはそれほどの影響を及ぼさず、午後3時には太陽が顔を覗かせていました。それにもかかわらず、阪神球団は、試合の中止を決定しました。



「できたのにねえ・・・・。」



なんて声が聞こえてきましたが、一旦、甲子園球場に行ってから空振りで戻ってきたアナウンサーに聞くと、



「もう、最初からやる気はなかったようですよ。」



「そうなの?負けても前半は"勝率5割"確保できるんやろ?」



「ええ、でも負けてオールスター入りと言うのは・・・ねえ。」



「そうですよ。もう昨日勝った時点から、台風が来るのもわかっていたし、はなっから今日はやる気なかったんじゃないですか。」



「そうかあ。つまり、"やらない気、満々"ってわけ。」



「昨日勝って、"俄然、やる気がなくなった"んじゃないですか?」



この会話、なんかヘン。



やらない気、満々」と「俄然、やる気がなくなった」。
「満々」と言えば、「やる気」に決まってるし、「俄然、やる気が・・・・」とくれば
当然「出てきた」あるいは「高まった」というふうに前向きな述語が後ろに来ると相場は・・・決まってない・・・・ことはなく、決まっていますよね。



こういったあるパターンの言葉を、特に述語部分でひっくり返すと、とても奇妙な面白さが出てくるのも確かですね。「お笑い」のパターンの一つに、決まりきったパターンにはまっているように見せてどんでん返しをする、ということがありますが、まさにこれなんかそういった例ではないでしょうか。



しかし、こういったことばかり言っていると、それがまた「定番化」して、面白くも何ともなくなってしまうんですよね。言葉って、ほんとに難しい・・・・。



2002/7/12


◆ことばの話731「ギャル」

北大阪の夏と言えば「天神祭」。そのクライマックス「船渡御」は7月25日に行われます。もうすぐです。その前に大阪天満宮周辺ではおみこしが練り歩いたりしますが、その見越しの中に「ギャルみこし」というものがあります。今から20年ぐらい前(1981年)に始まったもので、主催は天神橋筋商店街。
名物としてもうすっかり定着しています。特に選考過程である体力測定や面接の様子は
よくニュースでも取り上げられました。



そのギャルみこし、これまで25歳だった年齢制限を28歳までに引き上げたのだそうです。(産経新聞2002年7月11日夕刊)と言うのも応募者の中から「ぜひ、参加したいので、年齢制限をもう少しあげて欲しい」という声があったからだそうです。(産経の記事の見出しは「ギャルっていくつ?」)



今年応募したのは16歳から28歳までの258人。これは去年と同数。その中から79人を選びこのうち26歳から28歳は7人。28歳は3人ということです。選ばれた28歳の女性は「自分がギャルか、と言われれば微妙」と答えたそうですが「30歳ぐらいの人でも気持ちが若い人は多く、そのくらいの年齢だったら参加できるのでは」とも答えているそうです。これに対して主催の天神橋筋商店街側は「(ギャルの)ギリギリの年齢」と話しているそうです。



この「ギャル」と言う言葉は「現代用語の基礎知識」(自由国民社)には1979年に初めて採用されたそうですから、それからも23年。その年にオギャアーと生まれた子がまさにいま「ギャル」ですね、女の子ならば。


以前、「中年」とは何歳から何歳までか?(平成ことば事情266、340)とか、おじいさんは何歳か?(平成ことば事情400)などについても書きましたが。今回は「ギャルは何歳までか?」と言うことで、社内で25人に聞きました。(きりの良い数字でしょ)その結果、


*17歳まで=1人( 4%)
*18歳まで=3人( 12%)
*19歳まで=6人( 24%)
*20歳まで=1人( 4%)
*21歳まで=1人( 4%)
*22歳まで=7人( 28%)
*23歳まで=1人( 4%)
*24歳まで=3人( 12%)
*25歳まで=2人( 8%)




という結果でした。サンプルは少ないけれど、「ギャル」のピークはと「22歳まで」(28%)と「19歳まで」(24%)に来ていて、「ギャル」の範囲は「17歳から25歳まで」となっています。「ギャル年齢」を平均すると、21,0歳ということになりました。これまで天神橋筋商店街が考えていたものとほぼ一致します。



「平成ことば事情340『中年2』」で、日本言語研究所が出している「日本語教育新聞」2001年5月1日号に「年齢の言葉」のアンケートが特集されているのが載っていました。(自分で書いたのですが。)そのアンケートは全国に14歳から75歳の男女517人に聞いていますが、その中に「ギャル」は何歳かというのも載っていました。それによると、「ギャル」は「16歳〜20歳」となっていました。私の25人調査よりは、少し若いですね。



思えば「ギャル年齢」は「現代用語の基礎知識」に載った1979年以降、低下の一途をたどっていたように思うのですが、その後、「コギャル」「マゴギャル」という言葉=概念が出来たことによって「ギャル」の低年齢化に一応の「歯止め」がかかり、その後「おじん」がやるような競馬・パチンコといったギャンブルや、居酒屋で「プハーッ」とジョッキのビールをグビグビ飲んだり、鼻の穴からタバコの煙を出すといったような「おじんギャル」が出現、その対比として「おばんギャル」なる言葉と概念が出来たことによって、年齢の高い方へも、一部シフトしたのではないでしょうか。ちなみに「おばんギャル」は「アバンギャルド」のダジャレ的な要素も含まれているような気がしますが。



もうひとつの問題は、「28歳の女性が『ギャル』と呼ばれてうれしいのか?」ということです。これは人によって違うとは思いますが、28でギャルと呼ばれてうれしい女性は、ちょっと・・・とも思いますが。ただこれは「人による」ので、あまり断言するのは避けましょう。呼ばれたい人も呼ばれたくない人もいる、ということで。



いずれにせよ、今年も「ギャルみこし」は、7月23日午後零時半から、重さ200キロもあるみこしを担いで天神橋筋商店街を約4キロにわたり練り歩きます。ガンバレ!ワッショイ!!



2002/7/20

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