◆ことばの話730「明石海峡大橋南詰」
7月11日午後8時40分、神戸から淡路島にかかった明石海峡大橋をわたったところで、車10台が関係する事故が起き、3人が死亡、44人が重軽傷を負いました。この事故を報じる翌朝の新聞にこんな表現がありました。
「事故があったのは明石海峡大橋南詰で・・・。」
これを見た北海道出身のSアナウンサーが、私に声をかけてきました。
「道浦さん、この“南詰め”っていうのは標準語ですか?それとも大阪弁ですか?」
聞かれるまで気づきませんでしたが、大阪では良く言われる表現ですよね。
さっそく牧村史陽さんの「大阪ことば辞典」を引いてみると、しっかりそこには「詰め=Aヅメと濁って、ものの“きわ”の意。(例)淀屋橋の北ヅメを東に入ったら公会堂へ行けます」
と載っているではないですか。そうか、「詰め」はやっぱり大阪弁だったのか。 すこしむかし 電車のドアに、
「指づめ注意!」
というシールが貼ってあって、大阪の人は何の不思議もなかったのですが、東京やよその土地から来た人が、
「大阪はコワイ。“指づめ”なんて、ヤクザが何か失敗をして責任を取る時みたい・・・・。」
と怖がったので、その後このシールはなくなってしまった・・・・ということがありました。やっぱり大阪人は「詰める」のが好きなのかなあ。
そう言えば、「大阪寿司」はいわゆる「箱寿司」で、バッテラのようにぎっしり「詰まってる」し。「折詰」ですよね。「バッテラ」はもともとポルトガル語で「船」の意味だったそうですが。
「切腹」は江戸で「詰腹」は大阪・・・と言うことはないですかね。
うーん、こんなところで、もう「詰んだ」。
2002/7/19
(追記)
館淳一さんという方からメールをいただきました。
「『〜詰』という表現は、関東にもある。大阪だけではない。」
という主旨のお便りでした。 そうですか、関東にもありましたか。「大阪ことば事典」に載っているからといってすぐに「大阪弁」と断定してしまうのは
いけませんね。あくまであの本は、「大阪で(も)使われている言葉」を収録しているんですね。そこでもう少し考えてみました。
ほかの街でも使われているということですが、館さんのメールだと、東京の荒川にかかる船堀橋にはバス停で「橋東詰」が、
扇大橋には「扇大橋北詰」が、中川にかかる潮止橋には「潮止橋西詰」があるそうです。 そうか、「〜詰」は「橋」にあるのか。
そうすると、昔から水運が発達しているような街では「〜詰」という地名はまだまだたくさん残っているのかもしれない。特に
「八百八橋(はっぴゃくやばし)」 とも言われた「水の都・大阪」で、「〜詰」という地名が多く残っているのは、
当然のことかもしれないですね。 館さん、こんなところで、いかがでしょうか?
2002/9/13
◆ことばの話729「西湘」
朝の7月16日、台風7号の中継をNHKのお昼のニュースで見ていた時のこと。台風は近畿地方をそれて、関東に上陸するようなコースを取ったので、関東での中継を全国ネットでやっていました。それは神奈川県の茅ヶ崎漁港からの中継でした。NHKの台風中継は数年前からリポーターが顔を出さなくなったので、私はちょっと気に入らないのですが、それはさて置き、その顔を出さない男性アナウンサーが、こんな言葉を口にしました。
「セイショウ」
???ん?何?セイショウって。 あ、もしかして、「セイショウ」の「ショウ」は「湘南」の「湘」ではないか?そこから考えると「セイショウ」の「セイ」は「西」ではないのかと思い、鎌倉出身のOアナウンサーに「セイショウってどこのこと?」と聞いたところ、やっぱり思ったとおり、
「そうですね、小田原から西の方、湯河原・真鶴あたりのことで、15年ぐらい前に『西湘バイパス』というのが出来てから、地元でも『西湘』と言うようになりましたね。」
とのこと。ちなみに「東湘」「北湘」「南湘」というのは言わないそうです。
インターネットの検索エンジンGOOGLEで「西湘」を検索したところ2300件も出てきました。もうかなり広まっている地名なんですね。
でも、私がわからなかったように、関西在住の人間にとっては、市や町の名前ならともかく関東のそういった地域名は、日ごろ接することがないだけになかなか分かりにくい。
特に耳だけで聞いたときにはとってもわかりにくい。そのあたりの配慮を全国ネットの時にはして欲しいなあと思いました。
2002/7/19
◆ことばの話728「あと34日」
先日の用語懇談会の席で、休憩中に横に座っていたテレビ東京のKさんが、声をかけてきました。 「道浦さん、これ、何と読みます?」
そこには、 「W杯まであと34日」 と書かれていました。「W杯」は「ワールドカップ」でいいでしょう。問題は「34日」だな、とピンときました。要するに、
「さんじゅうよんにち」と読むか「さんじゅうよっか」と読むか。
ということなのでしょう。Kさんにそう確認すると、うなずいていらっしゃいました。この「4日」が二桁以上になったときの読み方に関しては、実は数年前に、同じ用語懇談会のメンバーのTBSのKさんからも質問を受けて答えられなかったことがあったのです。「リベンジ」とばかり考えてみました。
まず「さんじゅうよんにち」ですが、これは何も問題ないでしょう。数字の「34=さんじゅうよん」に日数を表わす序数詞「○日」がついたのですから。
そして問題は「34日」を「さんじゅうよっか」と読むかどうか、ですね。
「14日」「24日」は問題なく「じゅうよっか」「にじゅうよっか」と読んでいます。これは、1か月の日付の範囲内ですから。「34日」は、それから外れてしまってます。1か月は31日までですからね。
「34」より大きな数字で見てみましょうか。「44日」「54日」「64日」「74日」「84日」「94日」「104日」・・・。全部「よっか」でもいけますね。
逆に「10日」以降の読み方を見ましょう。「11日」「12日」「13日」は「じゅういちにち」「じゅうににち」「じゅうさんにち」ですね。「じゅうついたち」「じゅうふつか」「じゅうみっか」とは言いません。「15日」以降も「ごにち」「ろくにち」・・・というふうに読んで「いつか」「むいか」とはよみません。「14日」だけが異端なのです。なぜか?
数字の読み方には「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・」という「和語系」と、「いち、に、さん、し・・・」という「漢語系」があります。基本的に「10」までは和語系でも漢語系でも言えますが、「11」以降は「和語系」は「とうあまりひとひ」「とうあまりふたひ」のように、大変面倒くさい言い回しになるため、シンプルな「漢語系」に頼らざるを得なくなっています。そんな中で「4」だけは、「漢語系」を使うと
「じゅうしにち」
になってしまう。「し」は「死」に通じる「忌み言葉」として避けられるために「和語系」の「よっつ」を用いて「じゅうよっか」としているのではないでしょうか。
そして、先ほども述べたように、「14日(じゅうよっか)」「24日(にじゅうよっか)」はカレンダーの中にも出てくるために耳慣れていますが、「34日(さんじゅうよっか)」は、カレンダーでは出てこないので、耳慣れない感じがするのではないでしょうか。
「言霊の幸(さきわ)う国・日本」ならではの原因ではないかと思うわけです。 いかが?
2002/7/17
(追記)
久々の追記です。
子どもと妻が見たいと言ったのでDVDを借りてきたのは『宇宙戦艦ヤマト』。
なーつーかーしー!!
で、見たら・・・なかなか哲学的と言うか、今のアニメとは違いますねえ。これ、「よみうりテレビ」の製作した番組だって、ご存知でした?
その中で、昔子どもの頃に、毎週聞いていたセリフがありました。それは番組の最後に男性ナレーターが、
「地球滅亡の日まで、あと○○日」
と言うセリフ。これもなーつーかーしー!第1巻を見ていたら、そのナレーターが、
「地球滅亡の日まで、あと364日(サンビャクロクジューよっか)」
と言っていました。最後は「よんにち」ではなく「よっか」でした。今から30年あまり前ですよね、この作品は。勉強になりました。
2007/11/26
◆ことばの話727「あまえた」
先日、夕方のニュース番組「ニューススクランブル」で、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドにやってきたパンダが来園2年を迎えたというほのぼのとしたニュースをお届けしました。
その際に、こんなコメントが・・・・。
「すっかりやんちゃに育ってワンパクぶりを発揮!それでも、まだまだ
甘えたなところが『メイメイ』はかわいくて仕方がないようですね。」
これを聞いて、おや?と思ったのは、
「甘えた」
という言葉でした。これは大阪弁ではないのか?さっそく牧村史陽「大阪ことば事典」(講談社学術文庫)をひいたところ、
「アマイタ(甘いた)」
という項目は載っていました。
「甘ったれ。『甘えわたる』の訛といわれるが、『甘えた子』の約訛と見るべきであろう。甘ったれの子があると
『アマイタ、ショウガイタ(生姜板)、』といって嘲笑したののである。」
国語辞典を惹いてみると「新明解」「広辞苑」「岩波国語」「新潮現代」には「甘えた」も「甘いた」も載っていません。「日本国語大辞典・第二版」にも載っていませんでした。
こうして見るとやはり「方言」なんですね。標準語だと、この文脈では
「甘えんぼう」
を使うところですね。
しかしこの「甘えた」、どこから出てきたのでしょうね。ちょっと考えたのですが、 「甘えたがり」 の「がり」が取れた形ではないかと。ほかに「〜たがり」という形で「〜をよくする人」という意味のものを考えてみると、
「行きたがり」「食べたがり」「読みたがり」「目立ちたがり」
というふうに「〜したがり」という形で耳にすることがあります。「〜したがる人」という意味です。繰り返しになりますが。
しかしこの仲間のうち、「甘えた」以外に「〜したがり」から「がり」が取れて「〜た」の形になったものは思い付きません。 うーん、ほかに何かあったかな?
また、思い付いたら書きますね。
2002/7/11
◆ことばの話726「フルハムとフラム」
サッカー日本代表で、今回のワールドカップで2得点を挙げた稲本潤一選手がイングランド・プレミアリーグのチームに移籍することが決まりました。
(稲本選手は先月末、同じイングランドのアーセナルを退団していました。)そのチーム名が、新聞やテレビによって違うのです。一般紙の表記は以下のとおり。
(読売)フラム (朝日)フラム (毎日)フラム (産経)フラム (日経)フラム
各紙「フラム」で統一されています。問題はスポーツ紙です。
(スポーツ報知) フルハム (日刊スポーツ) フルハム (スポーツニッポン)フルハム (サンケイスポーツ)フラム
(デイリースポーツ)フラム
という具合に、きっぱり半分に分かれているのです。そしてテレビ各社はと言うと、
(NHK)
フラム (日本テレビ)フラム (TBS) フルハム (フジテレビ)フルハム (テレビ朝日)フラム (テレビ東京)フラハム→フラム
こちらも真っ二つに割れています。TbSの方は、最近ロンドンから帰ってきた特派員に聞いたところ、
「FULHAMは日本人の耳にはフラムと聞こえるが、現地でフラムと言ったら通じない。フルハムなら通じる。」 とのこと。
一方、読売テレビからNNNロンドン支局に行っているK記者にメールで問い合わせてみると、
「こちらではガイドブックの表記を含めて『フルハム』。現地イギリス人の発音を正確に言うと
『フラーム』。 『ラ』は 『L』の音で『フ』にアクセントがある。『フルハム』では通じない。こちらで、(日本語のわかる)外国人に「フラムかフルハムか」と聞いてみたところ、人によってまちまちだった。」
ということでした。 また共同通信は、
(共同通信)フラム(但し、2〜3年前の古い記事の中にはフルハムを用いたものもある)
ということで、サッカー専門誌の「サッカーマガジン」(ベースボールマガジン社)は、
(サッカーマガジン)フルハム
となっています。
ここでインターネットの検索エンジン・Googleで検索してみました。単純に「フルハム」と「フラム」ではなく、もう少し関連の言葉も入れて、「フルハム、イングランド、サッカー」「フラム、イングランド、サッカー」で検索してみたのです。すると、
「フルハム、イングランド、サッカー」=1300件 「フラム、イングランド、サッカー」=295件 と、「フルハム」の方が4倍以上多いことがわかりました。
ついでに同じGoogleの英和辞書で「fulham」を引いてみたところ、「フラム」と 書いてありました。
しょせん、外国語をカタカナ表記することには無理があるとはいえ、実際にカタカナで書かれた「フラム」と「フルハム」ではまったく別のチームのようです。「目から入った外国語(フルハム)」か「耳から入った外国語(フラム)」なのか。この選択を今、迫られている(?)のではないでしょうか。
2002/7/19
(追記)
NHK放送文化研究所の原田邦博さんから、短いメールが届きました。
「専門チャンネル(注・おそらくサッカーのでしょう)を見ていたら、 『フルアム』になっていました。」
というものです。 うーむ、「フルアム」!混乱に拍車をかけるような、この専門チャンネルの表記ですねー。まいった。
2002/8/25
(追記2)
11年ぶりの追記です。
イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドの香川選手が、今年初ゴールか?と期待された試合で、4対1でマンUが勝った「相手のチーム」の名前ですが、2013年1月27日深夜の日本テレビの「GOING」というニュース&スポーツニュースでは、
「フルアム」
と表記していました。専門チャンネルで使われたものが10年たって地上波のニュースでも使われるようになったのですね。
2013/1/27
| |