◆ことばの話720「ひき」

日本中夕方の関西ローカルニュース番組「ニューススクランブル」。打ち合わせ会議が、お昼のニュースが終わったあとで開かれます。昨日(7月10日)の会議のテーマは、近づきつつあった大型の台風6号の関連ニュースを、どのくらいの割合で扱うか、ということでした。
台風の進路や、やってくる予想時刻、規模など、伝えなくてはならない情報はもちろん盛り込みますが、それ以外にうちの番組を見てもらうためにはどういった工夫をするべきか?みんな頭をひねります。そんな中、プロデューサーがこんな意見を言いました。



「やっぱりオレは、台風が来るとワクワクするたちだから、台風の猛威の映像を見たいなあ。」

それに対して、ディレクターが、
「確かに猛威の映像は、ヒキはありますからね。」
この「ヒキ」という言葉が引っかかりました。この場合の「ヒキ」は「引(惹)きつける」の「引(惹)き」ですね。でもまったく逆の意味で、「見たらちょっと身をひいてしまう」ような内容に関しても「ヒク」という言葉は使いますね。「腰を引く(腰が引ける)」とか。この場合の「ヒク」の漢字は「引く」ですね。「惹く」ではありません。
今回の台風に関するケースの「ヒキ」は、「惹き」か「引き」か、ちょっとわかりにくい感じではあります。
「引き」を辞書で調べました。「新明解国語辞典」では、
「魚がえさをくわえて引っ張るときの手に伝わる感じ。またその力」
というのが最初に出ていました。あれ。これかな。「映像にヒキがある」というのは。「アトラクティブな」という感じかな。
釣りと同じように、じっくり待って、「ヒキ」があったら、そのあたりにあわせて、慎重に手繰り寄せる・・・といいのでしょうかね、テレビ番組も。
もっとも私は「釣り」はしないのですが。



2002/7/11


◆ことばの話719「KOREAとCOREA」

日本中を、いや世界中を熱狂させたワールドカップも終わってしまい、虚脱感に包まれている方も多いことと思います。
そんなワールドカップを振り返る企画が相次いでいます。夕方のニュース番組「ニューススクランブル」でも、今大会ベスト4と大活躍した韓国を取り上げました。
その時に韓国の表示を字幕スーパーで「COREA」と出したところ、社内外から



「KOREAではないのか?」




という指摘がありました。そうですね、英語では「KOREA」ですよね。ではなぜ「COREA」としたのか?
試合の中継で応援団の様子に注意して見ていた方はわかると思うのですが、「テーハミングック!(大韓民国!)」と大声援を送っていた韓国サポーターが持っていた



応援用の赤いマフラーには確かに「COREA」と書かれていた
のです。



つまりこれは
「英語ではなくイタリア語」なのです。



「なんで韓国がイタリア語なんだっ!」と言われても困るのですが、日本だって「FORZA JAPAN」(がんばれ日本)とイタリア語で書かれたマフラー、売ってましたしね。その方が「おしゃれ」ということなんでしょう。



歴史的には、1910年に日本が韓国を併合する以前は「COREA」と書かれることが多かったということで、それに対する復古的な趣味なのかもしれません。



このほか、



「韓国は、アルファベット順だと日本のJAPANよりKOREA(韓国)の方が後ろになってしまうので、それを嫌ってJより早いCで始まるCOREAを選んでいる」



というふうな指摘もインターネット上で見かけました。確かに正式名称を「日韓ワールドカップ」ではなく「韓日ワールドカップ」にあたる、
「KOREA / JAPAN WORLD CUP」
にすることに、あれだけ韓国がこだわったことを考えると、それも「そうなのかな。」とも思いますが、スタジアムのサポーターたちの様子を見ていると、そんなこだわりよりも、ただ「スポーティーさ、かっこよさ」を第一に考えているのではないかと感じました。



「サッカー」は世界の「共通言語」ですが、そのサッカーで使われる言語はまさに多様であり、英語だけが外国語ではないということですね。ちなみに私は今回のワールドカップで4試合を「生」観戦し、メキシコ人・イタリア人・セネガル人・ブラジル人・韓国人・ドイツ人・スウェーデン人・ケニア人・オーストラリア人・リトアニア人・ロシア人・チュニジア人と話をする機会がありました・・・日本に来る外国人の方は、みんな日本語、上手ですね。



2002/7/5

(追記)

テレビ東京のKさんから、「KORIA」というつづりもありますよ、という情報を教えてもらいました。一体どういう時に使われているのかと言うと、



「たしか南北統一チームの時に使われていた」



と言うのです。これまでに何度か南北統一チームは実現していますが、そうか、そうだったかな。全然気づきませんでした。貴重な情報をありがとうございました!



2002/7/15

(追記2)

「ビッグコミックスピリッツ・第35号」(小学館、2002・7・29発売)に掲載されている「気まぐれコンセプト」の中で、これをテーマにしたマンガが掲載されていました。吹き出しのセリフを並べてみます。



(1コマ目)韓国にて



「韓国の英語表記がKOREAだとアルファベット順でJAPANよりあとになるので、KをCにして、COREAにしよう。」



(2コマ目)日本にて



「JAPANだとCOREAより後になるので、JAPANはやめてAPANにしよう。」



「無理があるぞ。」



「無理より面子だ。」



(3コマ目)韓国にて



「COREAだとAPNより後になるのでAREAにしよう。」



「AREAでもAPANより後だぞ。」



「じゃあAEAだ。」



(4コマ目)実況アナウンサー



「開催国のギリシャにつづいてアアアが入場です。」



解説者(頭を抱えて)「アアア〜。」



アテネ・オリンピックではどうなるか、注目ですよね。



2002/8/3


(追記3)

9月7日(土)、ソウルで1990年以来12年ぶりに、韓国対北朝鮮のサッカー南北親善試合が行われました。今年7月からの北朝鮮の宥和政策の一環なんでしょうか。試合は、仲良く0−0の引き分けだったのですが、その際にスタジアム周辺では、「ブルーのTシャツ」が1万枚販売されたそうです。このTシャツは、「統一」を目指す両国「サポーター」たちの手によるもので、その胸に書かれた文字は、
「ONE COREA」
でした。これも「K」ではなく「C」だったのです。どうも「はやり」のようですねえ


◆ことばの話718「コイバナ」

後輩の入社3年目Mアナウンサーと話していたら、彼女の口からこんな言葉が出てきました。



「コイバナ」



何、それ?と聞くと、



「これまでの恋愛歴、“恋の話”のことですよ。」



とのこと。ああ、略してるのね。「恋(の)はな(し)」。でも略したときに連結語として連濁していますね。「コイハナ」ではなく「コイバナ」。「濃い花」かと思った。「ベニバナ」というステーキ・レストランがロスアンジェルス(ロサンゼルス)にあったな。包丁さばきを見せるとこ。
一体どういうところからこの「コイバナ」という言葉が出てきたのかな?と聞くと、



「たぶん、ごきげんようじゃないですか?」



とまた訳の分からないことを言います。
「何それ?」



「小堺一機がやってるテレビ番組ですよ。ゲストに何のテーマの話をしてもらうかを、大きなサイコロに書かれた6つのテーマから、サイコロの目によって決めるんです。その中の一つにこのコイバナがあるんですよ。」



ああ、それなら見たことある。他局だけれど。なんだかそんなものがあったような気もしますね。しかしそれが日常会話にも出てくるほど、メジャーというか一般的なんでしょうか、若者にとっては。(嗚呼、もう若者ではないのね。当然だけど。中年です。)



「そうですね、普通に使いますね。」



知らない間に、世の中は動いているのですね、こんなところでも。
この4字略語、「グレフル・ピングレ」と同じような発想ですね。



2002/7/5


◆ことばの話717「白いペレ」

トルシエのあとのサッカー日本代表の監督に、ジーコの名前があがっています。このジーコの選手時代の「あだな」(ジーコが既にあだななのですが)と言うか呼ばれ方として、



「白いペレ」



というものがありました。「ニュースプラス1」で、そういったことを放送していました。その素材を使って朝の「あさイチ!」のスポーツコーナーでも紹介していたのですが、途中でプロデューサーから「白いペレはやめよう」という意見が出ました。理由は「白いペレ」というのは当然その背後に「黒いペレ」という言葉が隠れているから、というものです。ペレはペレであり、ジーコはジーコだということから言えば、確かに「白いペレ」はジーコにとってもペレにとっても失礼な感じがします。たとえば日本人で(アジア人で)、ペレのようなスタイルの選手が出てきた時に、



「黄色いペレ」



ともし呼ばれたとしたら、その選手は、いい気はしないでしょうし。
それと「白いペレ」と言う場合に、そう呼ばれたジーコ選手は、



「ペレに匹敵するものの、ペレ未満」



の扱いです。サッカーの王様「ペレ」に匹敵するとされるだけで光栄だと思うべきなのでしょうか。しかし、やはり、失礼です。
昔、ボクシングの辰吉丈一郎選手が名前を売り出してきた頃に、その脅威のパンチ力から、当時世界最強のボクサー、マイク・タイソンにたとえられて、



「浪速のタイソン」



と呼ばれた時期がありました。しかし辰吉本人が、



「オレは辰吉丈一郎であって、タイソン二世でもタイソンでもない」



として、この呼び方を拒否したことがありましたが、これも少し似た感じのことがありますね。
今回のワールドカップで、「中津江村」とともに話題を振りまいた、カメルーン代表のエースストライカー・エムボマ選手も、Jリーグのガンバ大阪に所属していた時に、



「なにわの黒ヒョウ」



と呼ばれましたが、これはどうでしょうか。



「褐色の弾丸」



と呼ばれた、カナダのベン・ジョンソン選手もいました。
皮膚の色をその選手のニックネームに関すること自体がすべてダメとは思いませんが、慎重な配慮が必要でしょうね。



2002/7/4


◆ことばの話716「Hellowのハ」

この4月から、4歳の息子が週に1回、幼児英語学校に通ってます。結構楽しいみたいで、英語らしき歌を口ずさんでいたりします。



"Hellow Hellow It is so nice to say"



なんて曲を歌っています。



そんな息子が、ある日質問してきました。(まあ、"質問"は毎日のようにしてくるのですが。)



「おとうさん、"Hellow"の"ハ"って、日本語?」



うーーーん、痛いところを突いてきますな。あなどれん。これは難しい質問ですよ、
4歳児に納得が行くように答えるのは。



「Hellow」を英語で歌ったとしたら、日本語の「ハ」と同じようではあるかもしれないけど違う発音だろうし、「同じ発音」だとしても「Hellow」は英語だから、やはり、



「Hellow」の「ハ」は日本語ではない



というのが、正解なんでしょうね。



でも、彼が「Hellow」と言うときの発音の仕方として、日本語の「ハ」とは違うと認識したとしたら、いったいどうやって発音するんだろうか?そもそも違いがわるんだろうか?



いろんな疑問がこちらの頭の中にグルグルと渦巻いた状態で、とりあえず、



「うーん、違うね。」



と答えたら、



「ふーん」 と言うなり、また「Hellow Hellow・・・・」と歌いながら、向こうに行ってしまいました・・・・・。



4歳児って、気まぐれ。



2002/6/8

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