◆ことばの話705「ウチら」

「ウチら陽気なかしまし娘〜!」



でおなじみの「ウチら」ですが、最近は関西だけではなく、東京で、はたまた仙台や福岡でも、女子高生などの間で「ウチら」が使われているということが、大阪大学の真田信治教授の調べでわかりました。



それは1年ほど前に聞いていたのですが、つい先日出張で東京に行って、日比谷の公園で一休みしていた時に、隣にいた20代半ばくらいのサラリーマンのグループの中の1人が、この「ウチら」を使っていました。



聞くとはなしに耳に入ってきたのですが、ついに東京の男性も「ウチら」を使うようになったのか!と感激しました。5月28日、記憶しておきましょう。



だいたい新しい言葉はまず女性が作り出して(使い出して)、それを聞いて女性と仲良くしたい男性が使い出す、というふうになっているそうです。



この話を会社に帰ってきてから、千葉出身のYアナウンサー(女性)に話すと、



「私も使ってましたよ。千葉の松戸市の中学に入学して、剣道部に入った時に使ってました。えーと、今から・・・・・・10数年前ですけど、もう使ってましたよ。」



ほぉ、そうすると関東での女性の「ウチら」の使用は、結構昔からということになりますね。0数年前か。



また、このあたりについては、また真田先生に伺いたいと思います。



2002/6/1




(追記)



真田先生にメールで伺ったところ、先生の調査は女の子に限ったそうですが、関西学院大学の陣内先生が、男の子も含めた調査をされているそうなので、また伺ってみたいと思います。


2002/7/20




(追記2)
7月24日(水)の「笑っていいとも」を見ていたら、「美男子ミュージアム」というコーナーに出てきた東京・筑波大駒場高校一年の兼元亮輔くん(15)という男の子が、
「ウチらの学校で」
「ウチらが同じ学校で」
と2度「ウチら」を使いました。(12:08頃)
アクセントは中高で「ウチら(LHL)」でした。
やっぱり東京の男の子達も「ウチら」を使うようになってきているんだ!
「ウチら陽気な、かしましむすこ」
ですな。



2002/7/25


◆ことばの話704「〜っちゃぁ、〜」

最近よく耳にするようになった言葉に、こんなものがあります。



「いいっちゃぁ、いいんだけど。」



「見るっちゃぁ、見るんだけど。」



「するっちゃぁ、するんだけど。」



というふうな「〜ちゃぁ〜。」という型です。なんか、予備校の構文研究みたい。



以前から、後輩の報道デスクM君(福井県出身)が、よくこの言い方をしていたので、もしかしたら「福井弁」か?とも思っていたのですが、先日、東京に行った時に、若いサラリーマンが口にしているのを耳にしました。方言というのではないようです。



意味はもちろん、



「いいといえば、いいのだけれど」(いいことは、いいのだけれど)



「見ることは、見るのだけど」



「することは、するんだけれど」



ということですね。それぞれ、



「それは、いいの?」
「ワールドカップは見るの?」
「仕事はよくするの?」



というふうな質問に対する答えとして出てくる言葉だと考えられます。



そういった質問に対して、全面的に120%肯定するのではなく、かといって否定するわけでもない。どちらかといえば肯定しているけれども、ちょっと条件がつく場合とか、70%くらい肯定している場合とかに、この「〜っちゃぁ〜」という言葉が出てくるように思えます。また、否定したいんだけれでも、相手との関係で即座には否定しづらい場合にも「〜っちゃぁ〜」は使われるようです。



この場合「っちゃぁ」の前後の「〜」には同じ言葉(動詞)が入ります。



これからこの「〜ちゃぁ〜」という形の言葉、よく耳にするようになるかもしれません。 え?すでに、耳にするって?



「聞くっちゃぁ聞くけど・・・・。」



2002/6/8


◆ことばの話703「チョウザメ」

和歌山県の近畿大学水産研究所で飼育されていたチョウザメが、もっと広く学生にも興味を持ってもらおうということで、東大阪市の近畿大学のキャンパスの中にある池に放流されたというニュースを、今日(5月29日)のお昼のローカルニュースで読みました。



いわゆる「ヒマネタ」系なのですが、結構「追い込み」(放送ギリギリに原稿が出来上がること)で、サッと目を通して、1度下読みをしただけで本番に臨みました。
そして、まぁちゃんと読み終えて報道のデスクに戻ったところ、みんなが



「道浦さん、ウソの情報を読んでいましたよ。」



というではありませんか!
え?一体どこを間違えたの?聞くと、



「チョウザメは、サメではありません。」



というのです。えー、でも原稿に「サメ」って書いてあったし、サメみたいじゃない、チョウザメ。サメの仲間でしょ。



「いいえ。サメじゃないのです。チョウザメ科です。ウミネコがネコじゃないのと同じように、チョウザメはサメじゃないんです。」



確かにウミネコはネコじゃないです。鳴き声がネコに似ているから、その名があるんです。鳥だもんな、ウミネコは。しかしそれはちょっとたとえが違うような気がするけど



でもなあ。知らなかったなあ、チョウザメがサメじゃなかったなんて。



もっとサカナの勉強もしなくちゃ。サカナ、サカナ、サカナー。



大阪市立自然史博物館に電話して聞いてみました。



「すみません、チョウザメってサメと言って良いのでしょうか?」



すると係りの方が即座に、



「違います。」
とキッパリ。ああ、やっぱり・・・・・。ウソの情報を伝える「手先」になってしまった……。で、もう少し詳しくお話を聞いたところ、



「チョウザメは普通のサカナと同じ硬骨魚になるんです。普通のサメは軟骨魚類なんです。」



「あのう、なんたら"綱"とか、なんとか"目"とかいう種類分けをすると、どう違うんでしょうか?」



「そうですね。チョウザメは硬骨魚綱チョウザメ目チョウザメ科、たとえば本物のサメの一種であるシュモクザメだと、軟骨魚綱メジロザメ目シュモクザメ科ですね。」



「そうすると最初の段階でもう枝別れして、まったく違うんですね?」



「そうですね。タイなんかでも本物のタイであるマダイ以外にも、なんとかダイという名前のものが多いですよね。形が似ているからそういう名前がつくことはよくあるんです。」



「ウミネコがネコじゃないようにですか。」



「いやー、それはちょっと・・・・どうかな。」



てな会話が交わされて一件落着。



また一つ、勉強になりました。



しかし、・・・・ものがチョウザメだけに、チョー落ち込みました。そのあとサメザメと泣きました・・・。



チョウザメ、いやいや興ざめですかね?



2002/5/29&6/6


◆ことばの話702「最初のきっかけ」

報道のH記者が、少し思いつめたような表情でやってきました。



「道浦さん、ちょっとよろしいですか。」



「な、なんでしょう?」



「『最初のきっかけ』という表現は、OKでしょうか?『きっかけ』に『最初』という意味があるように感じて…・。それだと『馬から落馬』のような重複表現ですよね。」



あ、なるほど。確かに「最初のきっかけ」は重複しているような感じもしますね。どうなのかな。そう思っていると、Uキャスターが横から、



「でも『最初のきっかけ』、『二度目のきっかけ』も"あり"のような気がするけど…」



と口を挟んできて、「最初のきっかけ」論議が始まりました。



辞書をひいても、「きっかけ」に「最初」と言う意味はきっちりとは記されていません。
考えること約5分。オンエアーじかんが近づいてきます。
「とりあえず、『そもそものきっかけは』というので行くというのはどうでしょうか?」



とH記者が提案。放送用の原稿は、それで行くことにしました。いい言葉ですねえ、「そもそも」。さすがに三人寄れば文殊の知恵です・・・・・って考えたのは、質問してきたH記者なんですけどね。
でも「最初のきっかけ」が、いいのかダメなのかの結論は、まだ出ません。もう少し考えましょう。



たとえば、1つのことに対してそれを始めたきっかけは、やはり1回しかないと思います。



「姉がピアノを習っていたことが、私がピアノを始めたきっかけでした。」



ということですね。これに対して、いったんそのピアノを習うことをやめて、再開することになった、その再開の「きっかけ」という使い方はOKでしょうか?



「私がピアノの練習を再開したきっかけは、学校の音楽の授業で先生からピアノを誉められたことでした。」
「再開のきっかけ」もOKではないか。なぜなら「再開」は1度しかないから。同じ理由で「再婚のきっかけ」もOKでしょう。



これに対して、継続している事柄に対して、2回も3回も「きっかけ」があるということは、認められないような気がします。つまり、



「私がサッカーを好きになったきっかけは、ペレの来日でした。そしてさらにサッカーが好きになったきっかけは、ベッケンバウアーの活躍でした。」



これはダメです。ベッケンバウアーのせいではありませんが。



ケーキにナイフを入れる場面を想像しましょう。同じ一つのケーキにナイフを入れる場合に、1回ナイフを入れた場所でナイフの動きを止めたまま、さらに深く切り進もうとする場合には、もう「さらに深く切る」という行為を始める「きっかけ」という言葉は使えません。しかし、ナイフを入れる場所を変えれば、「きっかけ」は使えるということです。



どうでしょうか?



「きかっけ」について考える「きっかけ」になれば、幸いです。



2002/6/8


◆ことばの話701「まあいん電車」

明石家さんまさんが司会をしている、他局の深夜番組を見ていた時のことです。



タレントさんの中に素人の参加者が解答者として混じってクイズをするというコーナーで、解答者がそれぞれ「これまでの人生の中でイチバン人に迷惑をかけたこと」をフリップに書いて出す、というシーンでの出来事。



20代前半と思しき、パフィーの由美ちゃんに似た素人解答者がフリップに書いた言葉は、



「まあいん電車で、前の席の人のひざに座ってしまったこと」



え?「まあいん電車」?



それは、もしかして、



「満員電車」



のこと??



おお、これは単に「漢字を知らない」レベルの話ではなく、大変ゆゆしき問題だ!と私は考えるのです。



以前、担当している番組「ニューススクランブル」で「雰囲気」のことを



「ふいんき」



だと思っている若者が結構いるという話を取材しました。



これは「ふんいき」と「ふいんき」の違いが、耳から聞いただけではわからずに、「ふいんき」と聞こえてしまい、その後「文字(漢字)」で「雰囲気」という文字も確認しないまま育ってしまったことによるものです。



人間は子どもの時に、言葉を「音声言語」として耳から覚えますが、それを文字を学んだ後に、目から文字として知識に「定着」させます。



しかし、読書や文字を書く習慣が薄れている現在は、その「定着」させる過程を経ずに社会に出てしまっているのではないか。その現われとして、「まあいん電車」などと表記する人が出てきてしまうのではないか、と考えます。



これはゆゆしき問題です。放置しておくと、日本語そのものが崩れきってしまうのではないでしょうか。



話し言葉の教育も大切ですが、文字を書いたり漢字を書いて覚える訓練も、「ゆとりの教育」の中で、十二分にやって欲しいと思うのは、私だけではないはずです。



「まあ、いんじゃない?」
などと言わないで下さいね。



2002/5/23



(追伸)



耳から聞いたままでなんとなく意味が分かったようなわからないような…・の状態で間違って覚えてしまった例。この「まあいん電車」の話をしていたら、制作会社のNさんから、



「うちの会社でもそういうのありますよ。半年くらい前に入社してきた新人なんですけど、テープの編集で、今『ノンリニア編集』が入ってきてるじゃないですか。あれを、そいつはずっと半年間、『のんびり屋編集』だと思ってたと言うことが、ついこの間、判明したんです。」




デジタル編集なので、テープを巻き戻さなくてもすぐに「何分何秒」の地点を出すことが出来る「ノンリニア編集」は、ビデオテープの頭出しをしたり巻き戻さなきゃいけないこれまでの編集機よりもずっと早く編集作業ができる「はず」なんですが、まだ導入された台数が少なかったり、エディターが習熟していなかったりすることもあって、意外と編集に時間がかかっている現状を、その新人さんは見ていたんでしょうね。それで、



「ノンリニア」→「のんびり屋」




と思い込んだんでしょう。自分で意味の分からない言葉は、自分が知っている良く似た「音」の単語に引き付けて理解する傾向が、ここからも読み取れそうです。



エディターがそんなにのんびりしているようには見えなかったからこそ、ちょっと皮肉を込めて編集機のことを「のんびり屋」と読んだのかもしれませんね。結構気に入りました、この「のんびり屋編集」



編集マンがどの映像をつなごうか迷っていると、かってに機械が編集してしまうせっかちな「いらち編集」なーてのも、あったりして……・。(ないです、念のため。)



2002/5/24



(追記2)



「まあいん電車」が気になっているのは私だけでなく、ほかにも気になっている人がいました!清水義範著『はじめてわかる国語』(講談社2002、12、16)の134ページに、新仮名遣いの問題点がいくつか書かれています。その中にこんな記述が。



「今後、発音が変わっていったらどうするのか、という問題がある。日本中の人が『満員』を『マーイン』と発音するようになったら(あるテレビ局のアナウンサーがニュースで『マーイン』と言っていたぞ)『まあいん』と書くのが正しいってことにするのか。」




作家の清水義範さんも「まあいん」を耳にされていたのですね。それは名古屋弁なので「まあいん」になったのでしょうかね?それとも東京のアナウンサーがそう言っていたのでしょうかね?気になるところです。



2003/1/10



(追記3)



上に書いた清水義範の本の123〜124ページにも「まあいん」が出ていました。清水さんは名古屋に住む弟さんの学習塾で小学生の作文教室をやっているそうなのですが、その小学生の文章に出てきたそうなのです。
「それからこれは、名古屋だからこその間違いなのかもしれないが、まだ漢字を知らないのでそれを仮名で書く際の、こんな間違いがあった。読んで、思わず笑いましたが。
『ところが、来た電車はまあいんだった』
満員が、まあいんになっている。しかしこれは、書いた子だけのせいではない。名古屋の人って、確かに、満員をまあいん、に近い発音でしゃべっている。
『電車がまあいんだで、乗れーせんがや』
なんて。」




ということで、もしかしたら、「名古屋」固有の問題なのかもしれません。「まあいん」。



2003/1/17

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