◆ことばの話690「北朝鮮の住民と北朝鮮人」

平成ことば事情638「台湾籍」でちょっと触れた「北朝鮮籍」「北朝鮮国籍」に関連した話が出てきました。
5月8日、中国・瀋陽の日本総領事館に北朝鮮の亡命希望の家族5人が入り込もうとして、中国の警察官に取り押さえられた事件。その後、この家族はとりあえず韓国に亡命することができました。
中国の警官が、勝手に日本総領事館の敷地内に入ったことについても、なんかうやむやになりそうな感じですが、それはさておき(本当はさて、と置けない問題ですが)この人たちのことをさして、各メディアは、



「北朝鮮住民」



という表現をしていました。なぜ「北朝鮮人」あるいは「北朝鮮国民」という表現をしないのか?という疑問があります。



理由として考えられるのは、「○○人」という場合には、「○○」の中に入るのは、



1.民族名



2.国名




の2つのケースです。しかもAの「国名」は「日本人」「アメリカ人」「カナダ人」のように、ほとんど国の名前を省略しないで「人」を付けています。もし「北朝鮮人」という表現について当てはめると、@の民族は、「韓国」と同じ民族=朝鮮人なので、使えない。Aの国名とするならば「北朝鮮」は、北朝鮮側に認められていない「通称」であって「略称」ではないので、やはり使えない、ということになるのではないでしょうか。同じように「北朝鮮国籍」も各新聞社では使わないようにしているようです。A新聞の東京版では先日ポロッと「北朝鮮人」という見出しが出ているのを、テレビに映った朝刊で確認しましたが、これは意図的なものではなく、「ミス」で出てしまったようです。その後この「北朝鮮住民」は「北朝鮮の脱出希望者」などと表現を変えていましたが、どの人たちを指しているかは、当初より変わっていません。



2002/6/1




(追記)



2003年7月31日、午後2時、日本テレビの速報スーパーが出ました。そこに記された文字は、「バンコクの日本大使館に北朝鮮人10人が駆け込み」でした。「北朝鮮人」という言葉を使っていました。これに対してNHKは、スーパーでは「北朝鮮脱出とみられる男女10人」
ナレーションは、「北朝鮮を脱出してきたと見られる男女10人」でした。



2003/7/31


◆ことばの話689「ババくさい」

アナウンス部で机が隣のYアナウンサーとは良く話す機会があります。
昨日も何かのおりに話していて、彼女の口からこんな言葉が。
「この服、ババくさいですか?」
意味はわかりますか?「婆くさい」=「おばあさんのような感じ」ということです。私はこの言葉は余り耳にした覚えがなく、新鮮でした。「ジジくさい」=「爺くさい」は聞いたことがあるけど、と話していると、それを聞きつけたOアナウンス部部長が、
「それは"じじむさい"とちゃうか?」
そうだ、もとは「じじむさい」だ。それがいつのまに、「ジジくさい」になってしまったんだろう。思うに「むさい」がもう一つ意味が通じにくい。そこで「むさい」の代わりに「〜の感じがする」と言う意味で「〜くさい」をくっつけて「ジジくさい」が出来、さらに「男性の" ジジ(爺)"があるなら当然"ババ(婆)"もあっていいはず。」ということで、「ババくさい」も登場してきたのではないでしょうか。「日本国語大辞典第二版」を引いてみました。



「じじむさい」
文語では「ぢぢむさし」。
1.不潔できたならしい。むさくるしい。むさい。
2.心がせまくこせついている。
3.としよりじみている。じじくさい。




3番目の意味として「じじくさい」も載っていますね。その「じじくさい」を引きました。



「じじくさい」(爺臭)
(「くさい」は接尾語)老人じみている。年寄りくさい。じじむさい。




そのとおりですね。ちなみに「ばばむさい」「ばばくさい」は見出しとして載っていませんでした。でもね、「ババ」って関西では「ウンコ」のことですから「ババくさい」は関西では別の意味になっちゃうんだよなー。千葉出身のYさん、「ババくさい」という言葉は、大阪では使わないほうがいいよ。どうしても言うならば「ばばあくさい」。うーん、それも刺激的だなあ。やっぱり、そういう言葉は口にしない方がいいね。よろしく。



2002/5/30


◆ことばの話688「H組」

いやあー、やってきましたワールドカップ。



本当に来ちゃいましたねー。思えば私がサッカーを始めた1968年は、日本がメキシコ・オリンピックで銅メダルを取った年。それから幾星霜、本当に日本でワールドカップが開催されるなんて・・・ううっ・・・・・・。すごいことです。



さて、32カ国が参加する本大会。その予選リーグで日本が戦う相手はベルギー、ロシア、チュニジアの3か国。このグループ名は



「H組」



です。これをどう読むか。おわかりですか。「エッチ」か「エイチ」か。



おそらく「エイチ」でしょう。しかし日本では一般的に「H」は「エッチ」と言いますね。でも、「セックスをする」を婉曲に言う若者語では「Hする」は「エッチする」であって、「エイチする」とは言いません。



「エイチ」と言う方が原音には近いのでしょうが、「エイチ」は二重母音です。日本語的ではありません。そこで「エッチ」という発音法になったのでしょう。しかしそこに「Hする」の「エッチ」のイメージが付いたために、それとはまったく意味の違う「H」の場合には「エッチ」という発音が避けられて「エイチ」という原音に近い発音が選択されるようになってきているのではないでしょうか。



「H(エッチ)」という言葉が生まれて、今年でたしか50年と聞いたことがあります。



「H」の歴史に思いを馳せています・・・いや、「H組」での日本チームの健闘を祈りましょう!



2002/5/30


◆ことばの話687「亡命」

5月8日、中国の瀋陽にある日本総領事館に、北朝鮮の住民と見られる5人が亡命しようと駆け込み、それを中国の警官が阻止しようとした際に、総領事館敷地内に入り込んだという事件が起きました。



言うまでもなく、大使館や領事館の敷地内は日本の主権の下に日本の法律が適用される、いわゆる「治外法権」です。そこに中国の武装した警察官が勝手に入り込むことは、国際ルール上、認められるものではありません。



日韓ワールドカップを目前にして、ややこしい事件が起きたものです。



さて、このニュースで出てきた「亡命」という言葉に関して、後輩のOアナウンサーから疑問の声が上がりました。



「なんで"亡命"って、"命を亡くす"って漢字を書くんでしょうね?」



さっそく調べてみました。「日本国語大辞典」を引いてみると、



「亡命」=(「命」は名、名籍の意)



【1】戸籍を抜けて逃亡すること。逐電。また、その人。



【2】宗教、思想、政治的意見の相違により、自国で迫害を受けた場合、または受ける危険がある場合それを避けて他国に逃れること。



とありました。



「命」は戸籍のことだったんですね。



しかも@の意味の用例としては、「続日本紀」でも使われているぐらい、古くから使われている言葉だったんです。



今回のケースはAの意味でしょうが、共産国などから西側の国に"亡命"するケースはよく耳にしましたが、その逆は寡聞にして知りません。



2002/5/10



(追記)



この5人は、日本時間の5月23日午前4時前に、韓国への亡命を果たしました。希望の行き先はアメリカだったそうですが、とりあえず、北朝鮮に強制送還されなかったのは、よかったな、と思います。幼い女の子もいましたからね。



2002/5/23


◆ことばの話686「高貴な香り」

バラの花がきれいです。



大阪中之島のバラ園のニュースをお昼のニュースでやっていました。
その時に、バラの花の香りをさして、



「高貴な香りが漂っていました」



という表現が出てきました。そのニュースを見ていた同僚と顔を見合わせて、



「高貴な香りって、どんな香りだ???」



という疑問が出ました。



それを考えるにあたって、まず「高貴な花の香りは、高貴な香りではないか?」と思い、「高貴な花」



を思い浮かべました。それと同時に、「高貴な花」の条件について考えました。



【1】リンと立って咲いている。群生しない。



【2】小さな「草花」ではない。ある程度の背の高さと、花の大きさを持っている。



【3】樹木に咲く花ではない。



【4】花の色は、現職系のくっきりとした単色あるいはそれに準じるもので、パステルカラーなどではない。



【5】買うと値段が高い。



うん?それは「高貴な花」ではなく「高価な花」だって?「高貴な花」は高い物なんですよ。



というような条件に当てはまる花として思い浮かぶのは、



*バラ



*ユリ



*ラン



*ハナショウブ



*スイセン



といったところでしょうか。逆に「高貴な花ではない」花は、



*アサガオ



*ヒマワリ



*タンポポ



*フリージア



*ツバキ



*スイートピー



*シクラメン



などなど。特に理由はありません、思い浮かんだ順ですから。



しかし、「高貴な花」だからと言って「高貴な香り」がするとは限りません。



結局、「高貴な香り」の正体は、わからず終いでした。トホホ。



2002/5/23