◆ことばの話675「TAJIMA」

4月7日、ペルシャ湾から姫路港に向かっていたパナマ船籍のタンカー内で、日本人航海士が殺害された疑いが強まったものの、犯行時タンカーは公海上だったために日本側に管轄権がないというニュースが4月18日の各紙に載りました。テレビのニュースでも放送しましたが、この船の名前が、



「TAJIMA」

というローマ字表記だったのです。それで、各新聞の表記も、

(読売)TAJIMA

(朝日)TAJIMA

(毎日)TAJIMA

(産経)TAJIMA

そして地元の神戸新聞も、

(神戸)TAJIMA

となっていたのですが、日経だけは、

(日経)タジマ

カタカナ表記でした。

地方紙では京都新聞も

(京都)タジマ

とカタカナ表記でした。もしかしたら、共同通信の配信記事がカタカナだったのかもしれません。(つまり、神戸新聞は地元・姫路の事件なので取材に行って、共同の配信記事は使わなかったのかもしれません。)

英字新聞はどうでしょうか?何を言ってるんだ、当然、ローマ字表記だろ!と言われそうですが、もし「全部、大文字」で表記していれば、朝日新聞などと同じように固有名詞をそのままローマ字で表記したことになりますが、頭文字が大文字でそれ以外は小文字なら、表音文字で表したことになりますから、これは日本語なら「カタカナ表記」と同じです。4月19日付の「DAILY YOMIURI」を見てみると、

(デイリー・ヨミウリ)「Tajima」


と、頭文字だけが大文字、つまり、「カタカナ表記と同じ」と考えられる書き方でした。

それにしてもよく考えると、なぜこの船の名前はローマ字表記になってしまったのでしょうか?たとえば、「クイーンエリザベス2世号」の場合はローマ字、というか英語表記するでしょうか?「QEU」「QE2」という略号は使うかもしれませんが、フルに英語で書くとは思えません。「タイタニック号」はどうでしょう?「プリアムーリエ号」なんていうロシアの船だったら、キリル文字で表記するでしょうか?答えは否(NO)ですね。

日経(と京都新聞)を除く各紙は、なぜ今回はローマ字表記にしてしまったのか?

それはおそらく、「TAJIMA」をカタカナ表記した「タジマ」だと、日本の船のように思われてしまうから。一応「パナマ船籍」なので、「外国の船」ということをローマ字表記で示そうとしたのではないでしょうか。

でも、なんか納得できないものを感じますね。このタンカーを管理しているのは「共栄タンカー」という日本の会社ですし。

日経新聞には、この船が「パナマ船籍であることが事態を複雑にしている」と書いてありますが、ローマ字表記が使われたことにも「パナマ船籍」ということは影響を与えているような気がします。

ただ、ここで思い出すのは、新聞のラジオ・テレビ番組欄(いわゆるラ・テ欄)に出てくる出演者としてのグループ名やアーティスト名が、(番組タイトル以外は)ローマ字表記を認めていないということです。たとえば

「SMAP」

は、出演者として表記するときは、

「スマップ」

に、

「X−JAPAN」

も「X」という単体のローマ字はOKなのですが、全体としては、

「Xジャパン」

になってしまうのです。それから考えれば、当然このタンカーの表記は「タジマ」なのですが、幸か不幸か、この記事が載っているのはラ・テ欄ではありません。また、ラ・テ欄に関しては、「SMAPで良いではないか」「X−JAPANで良いではないか」という主張の方が強いと思います。

いずれにせよ、今後のことも考えると、なぜこのタンカーの表記はローマ字になったのかをしっかり検証しておく必要があるのではないでしょうか。

2002/4/22

(追記)

これに関連して・・・。商標登記が、これまでアルファベットを認めていなかったのに、今後認める方向だという記事が新聞各紙に載りました。

たとえば、これまで「KDDI」は「ケーディーディーアイ」とカタカナで登録していたのに、これからは「KDDI」で良くなるという話。

これに関してNHK放送文化研究所の原田邦博氏からメールがありました。

「もし企業が正式名称を使えと言ってきた場合に、画面上もスーパーはKDDIとするのかどうか。KDDIなら、カタカナよりも文字数が少なくて便利だが、外国語のスペルまで認めるようになると、やたら長い会社名が出てくると困るのではないか?特にタテ書きの新聞の場合は」

というような内容でした。

短いアルファベットは便利だけど、確かに長くなると、まるで外国語の放送のようになってしまうおそれは、なきにしもあらず。

あー、難しい。

2002/5/8


◆ことばの話674「では」

日本新聞協会・関西地区新聞用語懇談会の幹事長会が先日開かれました。読売テレビは、平成14年度は、順番で幹事を務めなくてはならないのです。


その席で、幹事の方からこんな意見が出ました。

「最近の(新聞社の)記者は、テレビのニュースを見て原稿を書くから、テレビのニュース原稿の悪いクセが移ってしまっている。たとえば、『外務省は・・・・・・と話していた』というような原稿の時に、『外務省では・・・・・・と話していた』と書くが、あれは『では』ではなくて『は』が正しい。『では』は、場所を示すときに使うものだ。」

というご意見でした。

はあ、なるほど。言われて初めて気づきました。「では」は場所を示す。それはそうですね。

「庭では、パーティーが開かれていた」


「会社では、仕事をしている」

「日本では、畳の家が減っている」

すべて場所を示す「では」です。

でも本当に、場所を示すときにしか「では」は使えないのでしょうか?
「その仕事をうちでは3人でやっています」

というふうな「では」も言いますよね。もちろん「うちは3人でやっています。」とも言いますが。

「外務省では・・・・・・と話している」という時の「では」は、「話している」主体、つまり「主語」を示す「では」ですね。その主語を「外務省は」とキッチリ「は」で決め付ける時に、「その主語である外務省とは何?」と問われると、はっきり答えられません。外務省の広報官でしょうか?それとも外務大臣でしょうか?それならそうとハッキリ書けばよいのですが、そうは書いていません。わかっていても「書けない」時もあるでしょう。

「外務省の誰それは、こう話していた」
いうのなら「は」がふさわしいような気がしますが、もう少し漠然としたもの、組織が主語のときは、「では」でも良いのではないか?と感じました。

この「では」について『日本国語大辞典』を引いてみました。すると、

【1】「打ち消しの意を含む接続助詞『で』に、係助詞『は』の付いたもの。・・・・・・なくては。

【2】断定の助動詞の連用形『で』に、係助詞『は』の付いたもの。・・・・・・であっては。・・・・・・だと。じゃ(ぁ)。

といったものが載っていますが、これはどうも様子がおかしい。場所を表したり主語を表したりという意味がない。そこで、「で」と「は」に分けて考えると、場所を表すというのはやはり「で」の役割のように思います。「で」を引きました。

「(助詞ニとテが接合してつづまったもの)」

とまず書いてあります。「で」は「にて」だったのか。道理で場所を表すのに、

「3階会議室にて

と言いますよね。少し堅苦しい言い方で。それを口語で言うと

「3階会議室

となる訳ですね。納得。こうも書いてあります。

「(『で』は)平安時代以後用いられ、室町時代『にて』にとって代わった。主に体言に付く。」

そうですか、室町時代にね。

その「で」がどういう風に使われているか。何種類かの意味が書かれています。(「 」の例文は、すべてではなく一部を載せました。)

【1】動作の行われる所・時・場合を示す。・・・・・・において。「家の中で遊ぶ」

【2】手段・方法・道具・材料を示す。「錦を紙で封じて」

【3】理由・原因を示す。「かぜで休む」「火事ですべてを失う」

【4】事を起こした所を示す。「組合で決めた事」「君の方で答えてくれ」

【5】身分・資格を表す。・・・・・・として。「母で言たはよいが妻で言たらば」



【6】事情・状態を表す。「一文なしで」



【7】期限・範囲を表す。「野球は九人で一チームだ」



【8】配分の基準を表す。「一時間で四キロ歩く」



いっぱい、意味がありますね。



この中で「外務省では」の「では」の「で」に近いのは、【4】事を起こした所を示す「で」ではないでしょうか。例文の「組合で決めた事」「君の方で答えてくれ」は、「外務省では」とよく似た使い方ができそうです。たとえば「組合ではこう話しています。」「君の方では一応納得していた」というふうに。



この場合の「では」は、主語の範囲が少し広い、単数ではない主語=組織の場合には、使えるのではないだろうか、というのが私の答えです。上のCの例文で言うと「組合」「君の方」が、単数ではない主語=組織です。(「君の方」は単数とも取れますし、複数ともとれます。)もちろん、主語の内容(=主語を構成している構成要素)が複数であっても「は」を使えますが、その場合は、主語を構成している構成要素が、その問題に付いては「一つにまとまっている」という印象を与えます。



つまり、



「外務省は、そう話しています。」



と言えば、その件に関して外務省は一枚岩で、揺るぎない感じがします。 「外務省では、そう話しています。」 と言うと、一枚岩かどうかは確認は取れないが、確かに外務省の一部であるところの部署・あるいは構成員の内の幾人かはそう話している、というふうに受け取れるのではないでしょうか。



読売テレビでは、そのように考えています。



2002/4/22


◆ことばの話673「非正規」

(書こう書こうと思っている間に1か月近く経ってしまいました・・・・・・時が経つのは早いなあ・・・・・・)



3月26日の日経新聞夕刊
「非正規って何?」という記事が生活家庭欄に出ていました。見出しはこのほか、「呼称巡り異論続出」「『従』の印象、実態に合わず」と出ています。



最近は日本でもいわゆる「終身雇用制度」が崩れて、「正社員」以外に派遣社員だとか、パートだとか、契約社員だとか、同じように仕事をしていてもその雇用形態がみんな違う、というふうなことが"当たり前"になってきていることを受けて、では「正社員」ではない人たちをさして「非正規」と呼ぶのはいかがなものか?というふうな論議が起こっているというのです。記事のリード部分には、こう書かれています。



「パートや派遣、契約といった形態で働く人は非正規社員と総称される。正社員として働く人が職場の主流だった時代についた名前だ。だが、今や女性に限れば働く人の半数近くが非正規社員。・・・・・・言語学的に『非』には否定的な意味も含んでおり、その呼称に疑問の声が上がっている。」



というのです。「言語学的に」などといわれると、食指が動く訳ですね。私としては。



確かに雇用形態は、はっきりとはわからないぐらい、多様化の様相を見せています。



4月27日の読売新聞経済欄に連載中の「雇用レボリューションV人材登用新時代2」の見出しが、



「非正社員採用しコスト減」



ここでは「非正社員」という言葉が使われています。記事の中ではこの2月に出た厚生労働省の「パートタイム労働研究会」の報告内容、「正社員、非正社員にかかわらず、働きに見合った処遇にすることへの労使合意形成が必要」との中間報告公表についても記してあります。



あらためて、「確実に雇用を取り巻く状況は変わってきている」と実感しました。



2002/4/27


◆ことばの話672「グスマオ」

東ティモールの大統領選挙が行われ、シャナナ・グスマン氏が当選しました。



このニュースに関して、新聞各紙は



「グスマン氏」



と報じているのですが、朝日新聞だけは、



「グスマオ氏」



と書いているのです。「ン」か「オ」か。おそらく現地の発音は「その中間」の日本語にはない発音なんでしょうが、文字(カタカナ)で書くと音を固定してしまうことになって「まったく違う人だ」との印象を受けます。



例えば、NYのテロ事件の首謀者と目される



「ウサマ・ビンラディン氏」



「オサマ・ビンラーディン氏」



と記す新聞もあります。あ、これも朝日か。朝日新聞は外来語の表記に関しては独自路線ですね。



その朝日新聞の4月18日の社説「グスマオ氏圧勝に願い」を読むと、東ティモールの憲法は、地元のテトゥン語とポルトガル語を公用語に、英語とインドネシア語を実用語と規定し、議会第一党のフレティリンは「ポルトガル語最優先」を貫こうとしているそうです。



大変ですねえ。「実用語」という言葉は初めて見ました。



まだ、「ン」か「オ」かと言っているだけの日本は幸せなのかも知れません。でも、東ティモールの方が、たくさんの言語、たくさんの民族がいるだけに多様性では、日本よりも上回っているのかもしれません。いい意味でも悪い意味でも。



最近は日本も多民族国家になりつつありますが、世界的に見れば、多民族国家の方が主流、普通なんでしょうね、きっと。



そういう意味では、文字どおり「国際化」は進んできているのですね。



でも「グスマオ」って・・・・・・怪傑「ハリマオ」みたい・・・・・・。



2002/4/19



(追記)



まったくの余談ですが、NHKのまっとうなニュースアナウンサーの男性が、「東ティモール」を 「東チモール」



って読んでました。昔は「チモール」だったんですね、きっと。



2002/4/30




(追記2)



アジア歴訪中の小泉総理が、グスマン(グスマオ)大統領と握手していました。それを見て始めて東ティモールが身近に感じられました。



2002/5/2


◆ことばの話671「冷麺と冷やし中華」

今日、食堂に行くと外のショウケースのところに



「冷麺はじめました」



と書いてあったので、初物好きの私はさっそくそれを頼もうと麺のカウンターに向かいました。そこで、



「冷麺くださーい!」



と言いながら、そこに書いてあったメニューを見ると



「冷やし中華」



と書いてあるではないですか!し、しまった、冷麺にすべきか、冷やし中華にすべきか、迷うなー。と思いながら、



「表のショウケースには冷麺と書いてあって、ここには冷やし中華って書いてあるんだけど、違うものですか?」



と聞くと、食堂のおばちゃんは、笑いながら、



「同じです。」



やっぱりね。



私の経験から言うと、関西では中華料理屋やそば屋で出てくるものも、焼き肉屋でデザート的に出てくるものも、全部ひっくるめて「冷麺」と呼ぶのに対して、関東では、そば屋や中華料理屋で出しているのは「冷やし中華」、焼き肉屋で出てくる韓国風のゴムのような麺は「冷麺」と区別しているようなのです。



盛岡で有名なのも韓国風の「冷麺」ですし、関西以外では区別しているのかもしれません。 また、このワープロソフト(ワード)も、「冷やし中華」は一発で変換できますが、「冷麺」は「零面」となったりします。 というより、関西には「冷やし中華」というものは、もともとなかったのではないか?とも思いますが、これは調べてみなくては。



シーズンはこれからですものね。



2002/4/30

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