◆ことばの話649「暑い・熱い・厚い」
この4月から、いわゆるアナウンス学校のようなところで月に3回ほど、僭越ながら「共通語」について教えています。といっても、まだ2回しか行ってないのですが。
共通語を教えるにあたって、私がポイントとしたのは、
【1】アクセント
【2】鼻濁音
【3】母音の無声化
の3点です。このうちアクセントに関しては、特に「同音異義語」のアクセントに注意するように指導しました。
その練習の中で、「暑い・熱い・厚い」の区別についてというのが出てきました。これらのアクセントは、
「暑い(LHL)」
「熱い(LHL)」
「厚い(LHH)」
で、「暑い」「熱い」は中高アクセント、「厚い」は平板アクセントです。
しかし、最近テレビを見ているとアナウンサーの中でもこのアクセントがあいまいな人をチラホラ見掛けます。特に、
「熱い戦いが続きました」
という場合の
「熱い」のアクセントが、本来「LHL」の「中高」のはずなのに、
「LHH」と平板になっているのです。
その話をして、「みなさん注意しましょうね。」と言った上で、生徒に
「暑い日に 熱い鍋を 厚い本の上に置いた」
という文章を読ませたところ、21人中6、7人が「熱い」のアクセントを「LHH」と平板で読んだのです。しかもその中の3人ほどは、何回かチェックしても、なかなか正しいアクセントに直りませんでした。その様子を見て、
「最近、若手アナウンサーが平板で"熱い(LHH)"と言っているのも、もしかしたら世の中では"熱い"は平板アクセントに変わりつつあるのではないか?」
という疑念が浮かんできました。
そんな時、
小森法孝著「日本語アクセント教室」(新水社1987年1刷、2000年10月25日4刷)という本を読んでいたら、
「厚いと暑い・・・・・・?」という項があり、
『形容詞の同音異義語というと「熱い・厚い」と「厚い」の組み合わせがありますが、困ったことに最近これに関してアクセントの混乱が見られます。「熱い(ドミド)」という起伏型の形容詞が「熱い(ドミミ)炎」「熱い戦い」「熱いまなざし」「熱く燃えて」のように平板型として発音される例が目立っているのです。(中略)おそらく最初は単なる個人の勘違いか間違いであったものがマスコミの電波に乗って思いがけず広まってしまった、一種の流行現象といった側面も大きいのではないでしょうか。』
と書かれていました。著者の小森法孝さんは、フリーアナウンサーでアクセントトレーナー(そんな名前の職業もあったのですね。)で昭和24年生まれ。文化放送、北日本放送のアナウンサーを経て、フリーになったそうです。
やっぱり、そうだったんだ!まさに「わが意を得たり」という感じです。
「熱い」思いが込み上げてきました。
「熱い」はやっぱり、中高アクセントの「LHL」でいきましょおおおお!!
2002/4/10
(追記)
「男はつらいよ、知床旅情」(1987年)という「寅さん」の映画の中で、
寅さんこと渥美清が「厚い」を中高アクセントの「あつい(LHL)」と言っていました。若き日の竹下景子がマドンナでした。