◆ことばの話600「勝負服」

鈴木宗男議員を巡る外務省内部の疑惑調査の結果が、3月4日午前、川口順子(よりこ)外務大臣から発表されました。そのことを伝えるニュース。日本テレビ・外務省担当のN記者が中継で、こんなことを言っていました。



「川口大臣は自ら"勝負服"と言う赤いスーツに身を包み・・・。」



「勝負服」って、よく女性がデートや合コンで、相手の男性を手に入れるためにビシッとおしゃれを決めたりする服だと認識していましたが、こんなところで、大人の政治家が使う言葉だとは思ってもいませんでした。



そこで一応辞書を引きましたが、三省堂国語辞典、広辞苑には載っていません。若者言葉か流行語の一種だろうからたぶん載っていないだろうと思いながら、日本国語大辞典も引いてみました。すると、なんと載っているではないですか!



「勝負服」



競馬で、競走時に騎手が着用する服。騎乗する馬の持ち主によって登録された色によって仕立てられたもの。



なんと!競馬にうとい私は全く知りませんでしたが、従来の「勝負服」は競馬の用語だったのです。日本国語大辞典には、その意味しか載っていません。しかし、今使われている「勝負服」は、競馬用語から出たとは思えません。男性を「ゲットする」ことが出来るかどうかは女の「勝負」。そのために着用する服はいわば「武器」に相当するもの。そういう意味でいうとこの新しい意味の「勝負服」は、「戦闘服」という意味あいがあるのではないでしょうか。そう思って、今度は「戦闘服」を辞書で引いてみました。新明解国語辞典には「戦闘帽」しか載っていませんでしたが、日本国語大辞典では、ちゃんと見出しを立てて載っていました。



「戦闘服」



戦闘用に着用する服。



と簡単ですが記してあり、司馬遼太郎さんの「殉死」から用例もあげてありました。



N記者が創作したのか川口大臣が口にされたのかはわかりませんが、今回のように外務省の内部調査発表という場に対して「闘い」というイメージを持っていたことから「勝負服」という言葉が使われたのでしょうが、この言葉から連想するのは、やはり「合コン」。



ここは「戦闘服」を使ったほうがよかったのではないでしょうか。



ちなみにこのN記者は女性ですが、リポートや中継の時にはいつもビシッとメイクを決め、スーツも決まっていて、常に「勝負服」を着用しているようだと評判です。良い人ですよ、1回しか会ったことないけど。

2002/3/4

(追記)

早稲田大学の飯間さんからさっそくメールが届き、飯間さんがこれまでに集めていた「勝負服」の実例・用例を提供して頂きましたので、こちらでご紹介します。
まずは、向田邦子『無名仮名人名簿』(1980年発表・文春文庫1983、8、25・p210)
「出掛けようとしたら鍵がない。テレビの台本を書く時に着用する勝負服と称する労働着を脱ぎ捨て、一張羅のスーツに着替え、顔にも白い粉などパタパタとはたいて、いざ出陣、という段になって、ドアの鍵が見当たらないのである。」
『無名仮名人名簿』は、昔読みましたが、気づかなかったなあ。そして、土屋賢二『棚から哲学』(2000、2、20・文藝春秋、p237)から、
「わたしは自分の美意識を疑って成功した。昔、岡山県でのびのびとした美意識を培ってきたわたしは、上京して非難の洗礼を受けた。ここそと思って着る勝負服が行く先々で厳しい批判を浴びたのだ。」
飯間さんによると、「勝負服」というのは1999年頃の流行語と認識していたので、土屋氏はその流れで使ったかもしれない、ということです。
飯間さんが「勝負服」を競馬用語だと知ったのは、週刊朝日2000、11、24号のp107、綱島理友の「なんでかなの研究192」の記事だそうです。
「というコトで早速JRA(日本中央競馬会)に聞いてみるコトにした。
勝負服ですか。あれはですね、馬主さんのモノなんですね。馬主さんが作って、それをジョッキーが着用します。』
どうやらあの乗馬服は、正式には勝負服というらしい。」 ということでした。飯間さん、資料のご提供ありがとうございました。

2002/3/17

(追記2)

『週刊文春』(2003年6月5日号)の「Catch Up」という写真コーナーで、
「構造改革特区の意外な切り札」「これが鴻池大臣の『勝負ネクタイ』だ」
という見出しの記事が載っていました。川口順子大臣に「勝負服」に対向して、と言うわけでもないでしょうが、鴻池大臣、「勝負ネクタイ」と来ました。柄は・・・結構独特の物でしたよ。

2003/6/6

(追記3)

飯間さんから「勝負服」を使っている作家として指摘のあった向田邦子さんの、『眠る盃』というエッセイ集の中に、その名もズバリ「勝負服」というエッセイがありました。
「私は仕事をする時は勝負服を着用する。(中略)私の勝負服は地味である。無地のセーターか、プリントなら単純な焦々しないもの、何よりの条件は着心地のよさと肩のつくりである。冬ならセーターだが、軽くて肩や袖口に負担のならないもの。大きな衿は急いでペンを動かすとき、揺れるので嫌。袖口のボタンも駄目。体につかず離れずでなくてはならない。」
とありました。『眠る盃』は1979年10月、講談社から出ていますが、「勝負服」の初出は「ぷりんと」という雑誌で1977年10月でした。

2004/2/11

(追記4)

2007年5月5日の日刊スポーツに、ビーチバレー・ジャパンツアーの記事が載っていました。その見出しが、
「きょう準決勝女豹ペアとセクシー対決、勝負水着で挑む」
として、
「勝負水着」
という言葉が出ていました。記事によると、
「浦田、鈴木の女豹ペアが準決勝で浅尾組と対戦することになった。ヒョウ柄水着を温存、披露の機会が失われるところだったが、浦田は『これを着たら勝てるというふうにしていきたい』と打倒浅尾組、ペア初優勝へ勝負水着で挑む。」
とありました。Google検索(5月8日)では、
「勝負水着」=2390件
でした。
2007/5/8


◆ことばの話599「沖縄のお菓子」

もう先々月のことになりますが、アナウンス部の部旅行で沖縄県の宮古島に行ってきました。その帰り、宮古空港で子供のおみやげに何を買おうかと物色していた時のこと。ウルトラマンのかわいい絵が描かれた食べ物が目に付きました。その箱には、こう記されていました。



「沖縄限定・ウルトラマンちんすこう」



おお!「ウルトラマンちんすこう」!!セブンとかタロウとかコスモスとかいうウルトラマンは聞いたことがあったけど、「ちんすこう」というのは初めてだ(当たり前か)、しかも「沖縄限定」なら価値もあると思い、さっそく購入しました。(でも、「ウルトラマンちんすこう」はちょっと弱そう。)



しかし、家に帰ってから気づいたのですが、そもそも「ちんすこう」が沖縄にしかないのだから「沖縄限定」に決まっているではないか。し、しまった、やられた!。もっと早く気づけよな。



でも、この「ウルトラマンちんすこう」は、小さなウルトラマンの格好をした、なかなかかわいいビスケットでした。ウルトラマンがサーフボードに乗っているキーホルダーもおまけに付いていたし。



そして先日のこと、いつも利用している駅の構内で、沖縄の物産を販売していました。ちょうどその日は家内の友人が家に来ていたので、おみやげとしてその沖縄の菓子を購入しました。名前は、



「さーたーあんだぎー」



油で揚げた大きなドーナッツの固まりのようなものです。かりんとうのように、食べ出すと結構止まらないんですよね。



さて。ここでハタと気づきました。「ちんすこう」と言い「さーたーあんだぎー」と言い、



沖縄のお菓子の名前は、ひらがなが多いのではないか。



お菓子だけではなく、沖縄の言葉(ウチナーグチ)はひらがなが多い。理由は何か?考えてみました。沖縄方言は、共通語の漢字かな混じり文の表記には馴染まないからではないか?母音の数も共通語の5母音ではなく、もう少し多いと聞いたことがありますし、漢字に固有の読みとは違う読み方があることから、漢字は使いにくい。だからひらがな表記になるのでは?という至極まっとうな理由を思いついたのですが、それならば、他の方言も同じですよね?そうでしょうね。以前、東北方言(詳しい地名は忘れました)の会話で、とっても短い会話というのを、何かの本で読んだことがあります。



A「どさ?」



B「ゆさ。」



A「ゆ?」



B「だ。」



というものです。共通語にすると、



A「どこへ行くの?」



B「湯(銭湯)に入りにいくんです。」



A「湯(銭湯)に行くの?」



B「そうです。」



という意味。Bさんの「だ」の前には、小さな「ん」が入るかもしれません。「方言十省略形」ということで、地元以外で、パッとこれを聞いて意味が分かる人は、まずいないでしょう。この「どさ?」「ゆさ。」にしても、漢字で表記できるのは「ゆ」=「湯」という名詞ぐらいです。方向を示す「さ」(共通語では「へ」にあたるのでしょうか)は、漢字での表記は無理です。もっとも共通語の「へ」もひらがなですが。



また、漢字変換の話で言うと、関西方言の「好きやねん」をワープロで一括変換しようとすると、「数寄屋年」となってしまう。ジャストシステムが先月から売り出した関西弁の変換も一発変換できるというワープロソフト「一太郎12」だと、ちゃんと一発で「好きやねん」と変換できますが、今後、もしかしたら、沖縄方言も漢字に変換できるようになるかもしれませんね。でも、漢字にしていいのかな?してしまうと、方言らしさが失われるのではないかという心配もあります。



うーん、どやさ。(「どやさ」は今いくよ・くるよさんがよく使うギャグ?のような言葉。京都弁と思われる。)

2002/3/4


(追記)

司馬遼太郎の対談集『東と西』(朝日新聞社・1990年11月10日)に、司馬遼太郎さんと、日本中世史の第一人者で歴史家の網野善彦さんとの対談が載っています。その中(182p)で網野さんが、こんなことを語っています。



網野「琉球では十五、六世紀ぐらいからひらがなを公文書に使い始めるんですね。面白いことにカタカナじゃなくてひらがなが入るんです。」



司馬「ひらがなのほうですか。」



網野「ええ。琉球王国内の役人の任命状には、琉球語をひらがなで表現した文書が使われています。さっき言いましたように、本州、九州では口語表現にはカタカナを使っていた。坊さんの世界でも、江戸の儒者もカタカナを使った。漢文を訓読するときの訓点がカタカナの起源ですからね。だから、琉球に口語表現が入るんだったら、あるいは坊さんや儒者の世界が琉球に影響したのだとすれば、カタカナでいいはずなのですが、ひらがなが入っている。ぼくの想像ですけれども、これは女性の芸能民の活動によるのではないか。(中略)そういう遍歴する芸能民の影響がどうも言葉や文字の上では大きかったんじゃないか。」



網野さんの話によると、やはり沖縄にはもう500年ほど前から「ひらがな文化」のようなものがあったのではないかと思われますね。

2002/3/10


(追記2)

NHK放送文化研究所のSさんからメールが届きました。



「サーターアンダギー」は、正しくは「サーターアンダアギー」ではないか、ということです。そもそもこのお菓子は、



「サーター(砂糖)十アンダ(油)十アギー(揚げ)」



という三つの言葉が一つになったもののようで、だとすると、元の形をちゃんと残した



「サーターアンダアギー」と「アンダ」のあとに「ア」が付くべきだということのようです。



なるほどそうだったのか。



で、インターネット上ではどうか調べてみました。(検索エンジンgoogle)結果は、



「サーターアンダギー」………・2510件



「サーターアンダアギー」………・6件



「サーターンダギー」………・・・1件



でした。 使われ方は、「サーターアンダギー」が圧倒的に多いようですね。

2002/3/14


(追記3)

先日、JR京橋駅構内で、沖縄の物産を売っていたのですが、その目玉はサーターアンダギーでした。そこの看板には、
「沖縄のドーナツ」
と書かれていました。そのまんまやなあ。

2007/5/7


◆ことばの話598「萌え」



(この話はもしかしたらもうずいぶん前に書いたかもしれないのですが、検索しても出て来ないので、書きます。)



去年(2001年)の11月頃、NHK放送文化研究所の塩田研究員とメールのやりとりをしていた時のことです。塩田さんが「京都へ行ったら、女子高生が"かわええ"と言っていたが、それは関西の若者ことばなのか?」というご質問でした。それについてはさて置き、そのメールのやりとりの中で、塩田さんが「それは"萌え"のようなものですかね。」と書いてきたので、すかさず私は「"萌え"って何ですか?」と聞いたところ、「ご存じないのですか?」と資料を送ってくれました。皆さんは「萌え」って知ってますか?



「できるインターネット2001年6月号」によると、2001年3月1日から31日までの検索エンジンgooで、「検索窓」に打ち込まれた新語辞典検索キーワードベスト50。その堂々1位に輝いたのが「萌え」という言葉なのです。まあ、流行語ですが。さっそく意味の解説を見てみましょう。



「語源は諸説あるが、誤変換(おそらくは故意)が元となって広がった言葉とする説が有力。美少女ゲームやアニメキャラクターに対する"燃える、燃えた"(好きになった、夢中である)ことを表す。最初は"燃える"という熱い感情を、いくらかの照れを込めて表現したものだったと推測されるが、"萌え"という新語として定着した。会話中ではキャラクターの名前や属性(キャラクターデザインの中の要素、担当声優など)などを頭に付け、後には送らないことが多く、"○○ちゃん萌え!""眼鏡っこ萌え〜"などと使われる。意味を強める時は"萌え萌え"と繰り返したり、"激萌え""豪萌え"など意味を強調する言葉を加えて使う。」



とありました。よくわかりましたが、私は使ったことはないし、直接目にしたこともありません。かなり強烈なアニメファンで、しかもネット愛好者でないと使わないのかもしれません。



この記事が載ったのが、去年の6月、そしてデータは去年の3月と言うことなので、それから約1年経った現在のネット上の"萌え"の状況はどうなっているか?検索エンジンgoogleで"萌え"を検索してみました。すると!



なんと44万9000件も出てきたのです!たとえば、



「萌え萌え大作戦」「萌え萌えアニメ日記」「萌え萌えお兄さん」「うさんくさいポップス萌え萌え天国」「真綾萌え」「萌えキャラ討論室」「砂沙美ちゃん萌え萌えPLAZA」・・・・。



"勘弁してくれよお"



って感じです。あれ?まだ平成ことば事情597の「って感じです。」が尾を引いてやがる・・・。「もーえー」わ。

2002/3/5


(追記)

このHPを見た、冒頭でご紹介したNHK放送部文化研究所の塩田さんから、



「"萌え"の反対語は"萎え"だということがわかりました。」



というメールが届いたことを付け加えておきます。

2002/3/8
(追記2)

「萌え」はもうメジャーになってしまいました。どのくらいメジャーかと言うと、なんとJTBから、
「もえるるぶ」
という東京案内のガイドブックまで出てしまったのです。平仮名ばかりだと、どこで切っていいかわからないので漢字を交えると、
「萌え るるぶ」
です。「萌え」系の人が望むような東京ガイドブック「るるぶ」なのです。案内する店も、本の装丁も。私が日経新聞の書籍広告でそのタイトルを見つけたのは3月30日。そしてその翌日に出た『週刊文春』の書評欄で、酒井順子さんがやはりこの「もえるるぶ」を取り上げていました。そこで勇気を出してその本を取り寄せました!・・・・うーん、えらい表紙や。そういう趣味は、ないんだけどね。
JTBパブリッシングは、
「もえるるぶ制作委員会」(=4人)
まで設立して(と言うか4人だけど)、取り組んでいるぞ。いいのかJTB!しかし、それだけこの本を買う人がいるということで、需要は高いのでせうねえ・・・。
2005/4/11

(追記3)

2005年11月7日の日本テレビ「おもいっきりテレビ」で中継していたのが、酉の日の鷲神社。たくさんの露店が出て、「熊手」が縁起物として売られていました。商売繁盛を願って商売の人が買っていくそうです。関西で言うと「えべっさん」にあたるのでしょう。その中に、
「萌え萌え熊手」
というのがありました。そこには、
「おかえりなさいご主人様」
と記されていました。時代ですかねえ・・・。
2005/11/11


◆ことばの話597「ありがとうございましたって感じ。」

日本テレビの女性アナウンサーがオリンピック特番でメダルを取った選手に向かって、



「ホントにおめでとうございますって感じですね。」



と言ったことに対して、平成ことば事情573「日の丸飛行隊」の中で(追記)に書き、私は怒りをぶつけました。しかし、いまどきの若者にとって、この「〜って感じですね」というフレーズは、もしかしたら、普通の言葉になっているのではないか?と思わせるコメントがありました。



2000年8月に行われた「21世紀の石原裕次郎を探せ」というオーディション、覚えてらっしゃいますか?ホラ小泉総理の息子・小泉孝太郎さんも受けたけど落ちたという、例のオーディションです。



それでグランプリを獲得した徳重 聡さん(23)が、初仕事として「オロナミンC」のCMの撮影に臨み、本格的デビューを果たしたという話題を、3月1日(金)朝から各ワイドショーで取り上げていました。私が出演していた「あさイチ!」でも取り上げたのですが、その中で彼は、CMの出来具合に関してこんなコメントをしていました。



「実物よりずっとカッコよく撮ってくれて、ありがとうございましたって感じですよね。」



で、でたあ。「〜って感じです」。



本人には「照れ」もあるのでしょうが、その割りに彼は堂々としていました。



よく考えるとこの「〜って感じ!」という言い方は、数年前から耳にしていました。



自分の気持ちや意見を言うのに、「〜って感じ」をつけてあいまいにする言い方は、良識ある方々にはひんしゅくを買っていました。但し、そういったしゃべり(=話し方)をする人は、いわゆるコギャルなど、子供・・・というか「ガキ」に限られていたので、若者言葉の範疇として「しょうがないな」と見過ごされてきたのではないでしょうか。



ういった世代が、今、20代前半から半ばになってきて、社会的にもちゃんとした「場」で話をするケースが出てきた。そこで、社会に出てから身に付けた「〜ですね」という丁寧体の話し方を使って文章を締めくくるのですが、その前の段階では、これまでのコドモ時代に身についた、自分の気持ちを表明する時の話し方である「〜って感じ」を、気づかずに使ってしまう。その結果「〜って感じ」と「〜ですね。」がくっついて、



「〜って感じですね。」



という形になってしまうのではないでしょうか。しかし、もうお気づきのように、これは相手にとって、とても失礼な印象を与えます。こんな言い方を現在している若い方、大いに注意していただきたいって感じですね。また、これはうつりやすいって感じなので、「けしからん!!」と気にしている人ほど、ご注意下さいって感じですね。・・・・・ああ、もう、いや!!



2002/3/5


(追記)

3月7日のNHK「ひるどき日本列島」(12:20〜 )の冒頭、湯島天神から梅の中継で松本和也アナウンサーが、



「きれいですねー、春が来たって感じですよね。」



と、「って感じですよね。」を使っていました。これはそれほど違和感がありませんでした。なぜならば「春が来たって感じ」は客観的な描写だからではないでしょうか。



それに対して「ありがとうございました」や「おめでとうございます」は、発言者の気持ちを示すものですから、発言者の主観であって客観的な感情ではない。それに「〜って感じですね」を付けて、視聴者に共感を求められても、「あんたの気持ちなんか知るかい!」となります。あれ?これと同じ事を感じる言葉があったゾ。そうだ、



「私って、昔からプリンが大好物じゃないですか。」



と初対面の人に言う「じゃないですか」と全く同じだ!だから違和感を覚えるわけだ!。納得って感じですね・・・やめんかいっ!!



2002/3/7


◆ことばの話596「BSE」

「狂牛病」という呼び名が避けられています。



去年12月13日、BSE問題全国農業団体対策本部というところからの「お願い」を受けて、放送各社は順次、「狂牛病」という呼び方を控えて「BSEいわゆる狂牛病」という言い方に移って来ています。



1月22日現在でテレビ各社がどういう状況か、テレビ東京アナウンサーの榎田卓央氏とNHK編成の村上氏が、聞き取り調査で調べてくれました。



それによると、表記は、NHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日は「BSE」、テレビ東京は「狂牛病」。



「読み・リード」は、NHK、日本テレビ、TBS、テレビ朝日、テレビ東京は「BSEいわゆる狂牛病」で、フジテレビは「いわゆる」を入れずに「BSE・狂牛病」とも言うとのこと。



また「本記」では、NHK、日本テレビは「BSE」が中心、TBS、テレビ朝日、テレビ東京は「狂牛病」ということでした。その後、1ヵ月半ほど経ちますから、また状況は変わっているかもしれません。



また、共同通信は2月6日から「BSEいわゆる狂牛病」という表記に変えたとのこと。また、各新聞も、徐々に「狂牛病」を言い換えるようになってきているようです。



2月25日に毎日新聞が、今日から原則として



「BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)」



とします、1面に「お知らせ」を載せました。また、2面にはかなり詳しく「なぜ変更するか」という理由などを書いていましたが、これは、BSE問題全国農業団体対策本部から寄せられたものとほとんど同じでした。



また、読売新聞は2月28日に同じような「お知らせ」を載せました。こちらは、



「BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)」



と微妙に違いますが、ほとんど一緒です。他の各社はまだ「BSE」を採用していないようですが、今後はどうなんでしょうかね。



「エイズ」なんかも最初は「HIV」と言われた時には、訳がわからない感じがしましたが、今は定着しました。まあ「HIV」はウイルスとしてのHIVとして使われることもありますし、薬害HIVが出た時に変わったということで、きっかけも良かったのかもしれませんね。



しかし最近は「国後島・友好の家、いわゆるムネオハウス」と聞いて「狂牛病のようだ」と感じている人もいます。「いわゆる」が、そう思わせるのでしょう。「いわゆる」をあまりにも頻繁に使うとそういうことになります。



また「北朝鮮=朝鮮民主主義人民共和国」の場合は、放送だと「通称、正式名称」の順なので、「いわゆる」は登場しませんが、新聞はなぜか表記が逆で「朝鮮民主主義人民共和国=北朝鮮」、つまり「正式名称、通称」の順となっているので、「=」の部分を「いわゆる」と読むこともできます。



「こと」も同じような使われ方をしますが、語順は逆になります。「ジュリーこと沢田研二」の場合は「通称、正式名称」の順です。たまに、逆に覚えている人がいて、「沢田研二ことジュリー」なんていうのも耳にします。訳がわかりません。この「こと」の時に私の中で思い浮かぶのは「ジュリー」なのです。なぜかな?



2002/3/5

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