◆ことばの話595「悪の枢軸」

アメリカのブッシュ大統領が、北朝鮮、イラン、イラクを名指しで

「悪の枢軸」

と呼んだことが、話題となりました。あまり「枢軸」という言葉は、最近耳にしません。普通の会話の中には出てこないでしょう。私の脳みその中で「枢軸」を検索して出てくるのは、「枢軸国」くらいです。第二次世界大戦の時のドイツ・イタリア・日本。三国軍事同盟。もちろん、私が生まれる前の話ですが。「戦争を知らない子供たち」をリアルタイムではちょっとしか知らない子供たちでしたから。ジローズ。

「悪の枢軸」と聞いて思い出したのは、

「悪の十字架」

え?知りません?ある男の人がトボトボと街中を歩いて辿り着いた大きなビル。その閉ざされた入り口を見上げてひとこと。

「開くの、10時か。(あくのじゅうじか)」

ほかにも「亀の呪い」(亀は昔からノロい。)とか「恐怖の味噌汁」(きょう、麩の味噌汁)など、いろいろ流行りました。

ことほどさように「悪(あく)」というのは、ギャグにされかねないほど、その存在感の薄いものだったのです、我々にとっては。

もう一つ、「枢軸」という言葉ですが、どうも翻訳語の匂いがします。辞典を引いてみると、「枢軸」に当たる言葉は、

「Axis」

でした。意味は「【1】軸・軸線・中心線【2】(the Axisの形で)国家間の枢軸:第二次世界大戦での枢軸国(日本・イタリア・ドイツ)」と出ていました。

広辞苑で「枢軸」を引くと、

「枢軸」=戸の枢(くるる)と車の心棒。運転の中軸の意)

【1】活動の中心となる肝要の箇所。枢要。特に、政治機関の中心。

【2】(Axis)第二次大戦前から戦時中にかけて、連合国に対立し、日本・ドイツ・イタリア3国およびその同盟国相互間に結ばれた友好・協同の関係。1936年10月のローマ・ベルリン枢軸の呼称に始まる。

おお!調べてみるものですな。1936年10月の「ローマ・ベルリン枢軸」というのが、この手の「枢軸」の呼称の開始なんだそうです。でも、戸の「枢(くるる)」って何?

「枢(くるる)」

【1】扉の端上下につけた突起(とまら)をかまちの穴(とぼそ)にさし込んで開閉させるための装置。くる。くろろ。

【2】戸の桟。さる。

【3】回転装置の心棒。枢軸。

とありました。なんか、擬態語がそのまま名前になっているんですね。擬態語を漢字で書けるのは、面白いですね。けど、絶対に読めませんよね、「枢」と書いて「くるる」なんて。でもわかったようなわからんような。もう、「突起(とまら)」を引くのはやめておきます。

話がそれてしまいましたが、なんせ、「枢軸」って言葉は「悪の」という形容がつかなくても、それだけで「悪いイメージ」が付着しているような気がします。今、「二人組」→「ににんぐみ」が、放送では「悪い人のコンビ」のような使われ方で、だんだんその色に染まってきているような感じです。(「ふたりぐみ」はニュートラルなイメージ。)

でも、第二次大戦の時の日本・イタリア・ドイツの3国と違って、北朝鮮・イラン・イラクは、別に手を結んでいるわけではないし、イランとイラクなんて戦争やってたくらい仲も悪いですから、そういった意味では、「枢軸」なのかどうかは「?」が付くと思います。アメリカにとって都合の悪い国をひっくるめて「枢軸」と呼んでいるだけの気がします。臨床心理学者で今度文化庁長官になった河合隼雄さんの講演集"「日本人」という病"(毎日コミュニケーションズ・1995、1、5)という本の中(204ページ)で、湾岸戦争の時、

"ブッシュ大統領(当時)は「自分たちは絶対正義で、フセインは悪魔だ」と言っておりますし、フセイン大統領は「われわれは聖戦を戦っているのであって、ブッシュが悪魔だ」と言って、互いに確信を持っている。どちらも、後ろに神さんがついているという感じです。"

つまり、「正義か悪か」というふうなものは絶対的なものではなく、立場が違えば同じ事をさして全く反対の見方のなってしまう、ということですね。

2002/3/4

(追記)

今日(8月30日)の日経新聞にこんな記事が。
『北朝鮮は「悪の枢軸」米国務次官「正しい表現」』
韓国訪問中のアメリカのボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)が、ソウルでの講演の中で「ブッシュ大統領が北朝鮮のことを、イラン、イラクとともに『悪の枢軸』と表現したのは正しい。」と述べたそうです。
その上でボルトン国務次官は、米朝枠組み同意を維持するために、北朝鮮に速やかな査察受け入れを促し、一方、日米韓への最近の対話姿勢や7月からの経済改革試行に対して、定の評価をした、そうです。
2002/8/30

(追記2)

2003年5月16日の朝日新聞の家庭欄、

「ラテン男も家事や子育て」

という見出しで、イタリアの少子化対策について記されていました。その中にこんな言葉が。

「動き出した少子の枢軸」

日本と同じく、ドイツとイタリアでも少子化が目立つんだそうです。でもこんな所にまで、「枢軸」は付きまとってくるんですねえ。

2003/6/12

(追記3)

今朝の日経新聞にワシントン発・森安健記者の記事で、
「チェイニー氏らは『戦争の枢軸』〜民主党重鎮、ケネディ議員が批判」

という見出しで、ケネディ上院議員が1月14日に演説し、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウルフォウィッツ国防副長官の3人を『戦争の枢軸』と名指し批判したということが書かれていました。いわゆる「ネオコン」と呼ばれる人たちですね。よその国を「悪の枢軸」と呼んだり、同じ国の要人を「戦争の枢軸」と呼んだり、アメリカの人は「枢軸好き」ですねえ。
2004/1/16

(追記4)

2月13日の日経新聞のコラム「春秋」には、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」演説から2年が経ったのだが、その裏話として、
「一般教書演説の原案はイラクのみだったが、側近がイランも、と主張、ついでに(?)北朝鮮も加え三国まとめて枢軸に。真偽が定かでない、そんな裏話を以前米メディアで目にした。」
と記しています。たしかにイラク、イラン、北朝鮮、つながりがあるようでないような。適当にええい、くっつけちゃえ!・・・な―んてことがあったのかもしれませんね。もちろん、真偽の程はわかりませんが。
2004/2/26



◆ことばの話594「全米歴代NO.1!」

休日の午後、ビデオを借りてきて見ました。「ジュラシックパーク3」。今日、お話するのは、その恐竜の映画に関してではありません。その本編の前に、いろんな映画の広告があったのです。その中の一つが「トゥームレイダー」という映画。宣伝を見ていると、アンジェリーナ・ジョリーという肉感的な女優さんが主演のアクション映画のようで、映画は去年、既に公開されていて、近々ビデオがリリースされるようです。その一番最初に大きな文字で出てきた宣伝の文句が、

「全米歴代NO.1!」

ほお、アメリカでは人気の映画がなんや。ところが良く見るとその下に少し小さな文字で、

「女性主演映画」

という文字が見えます。え?女性主演映画に限って歴代NO1なの?と思っているうちにその文字は消えてしまったので、ビデオを巻き戻したところ、さらにその下に、

「オープニング新記録樹立」

とありました。 ほたら、なにかい、「女性主演映画」の「オープニング」に限って「全米歴代NO1」というわけ?「オープニング」と言われても、何日間なのか分からないし、「女性主演映画」に限られても・・・ねえ。すごいのか、すごくないのか。

こういった表現は、実は日ごろよく見かけますが、特に映画の世界では多いのではないでしょうか?中味で勝負できれば、何もコケオドシ的な数字を並べたこういった宣伝法は取らなくて良いのでしょうが。というより、「みんなが見た映画だから私も見なくっちゃ・・・」とは思わない様に、内容が面白そうだから見ようと思えるように、消費者サイドも賢くならないといけないのじゃないかなあと思います。

いや、消費者はもう、そんな事にはとっくに気づいていて、大げさな数字を並べ立てた宣伝は「数字には嘘はないのだけれど、中味が嘘くさい」ことに気づいているのではないでしょうか?

そう信じたいのですが、でもGOグループの「年利20%の資金運用」なんて甘い話に乗って総額480億円も払う人が、全国に総計4万人もいる、というニュースを耳にすると、まだまだなのかな、とも感じます。

ニュースの中でも、例えば考古学なんかで、掘って何か出てきた時に、

「最古級のうちのひとつ」

なんて表現が使われます。「最も古い」わけではないのです。でもその「最も古いクラス」というのは、いくつで「クラス」を形成しているのかは不明です。

また観覧車で、

「世界最大級のうちのひとつ」

って、「世界最大」ではない、けど大きいと言う意味ですよね。

それなら「世界で何番目に大きい」とハッキリ言ったらどうでしょうか。中には、

「○○を除けば、世界最大」

なんて表現も、たまに見かけます。それは「世界最大ではない」よ。世界で二番目だよ。

「数字で表せる、一番でなければいけない」という呪縛にとらわれると、こういうことになってしまうのではないでしょうか。タハッ・・・。



2002/3/7


◆ことばの話593「キャラリスト」

平日の休日、他局の夕方の生番組を見ていたら、ある女性社長を取り上げていました。彼女の職業は、

「キャラリスト」

初め聞いた時には、カラーアナリストのようなものかな?と思ったのですが、どうも違うようです。「キャラクター」を演出する仕事、何だそうです。41歳の彼女は、アメリカ大統領にもこういったキャラクターのスタイリストのような仕事の人がついていることを知って、自分もこの仕事をやってみよう!と思ったそうで、現在スタッフは20人、売り上げは年1億2000万円なんだそうです。

VTRで仕事の様子を見ていると、仕事はお客さんの趣味や仕事内容を詳しく聞き取ることから始まり、それに第一印象を170種類(だったと思う)もの「形容詞」に分類して、その人の「キャラクター」を診断。それにあった服装を判断して、オーダーメイドで服を提供するという仕事ですって。いろんな仕事があるものですね。

インターネットの検索エンジンGoogleで「キャラリスト」を検索してみると、1820件も出てきました。しかし、この仕事の意味での「キャラリスト」のほかに、「アニメなどのキャラクターのリスト」という意味での「キャラリスト」も多数あったようですから、この仕事の意味での「キャラリスト」がどのくらいあるのかは、よくわかりません。

そのテレビを見たあとに、レンタルビデオ店で借りてきたビデオを見ました。ブルース・ウィリス主演の「キッド」という映画。驚きましたねえ、これは偶然でしょうが、この映画のブルース・ウィリスが演じる役の職業が、

「イメージ・コンサルタント」

いろんな人物の仕事上での「顔」を演じさせるためのアドバイスや根回しをするという仕事です。これって、「キャラリスト」とまったく同じじゃない!

この映画には、間もなく40歳になるイメージ・コンサルタントの男のもとに、なぜだか8歳の頃のまだ子供の心を失っていない自分が目の前に現れるのです(!?)。その8歳の自分が40歳の自分に、40歳男の仕事について問い掛けます。

8歳「パイロットじゃないの?」

40歳「違う。イメージ・コンサルタントさ。」

8歳「それ、何?」

40歳「つまり・・・。」

8歳「コンサルタントって何するの?」

40歳「コンサルティング」

8歳「それって、何すること?」

40歳「自分は何もせず、人にあれこれ命令する。"黙ってろ"とか・・・。」

8歳「・・・フーッ・・・。」

それからしばらく経った頃に、8歳の自分が、40歳に話しかけます。

8歳「よくわかったよ、将来、大人になってボクがする仕事。説明できるよ。」

40歳「何て?」

8歳「人に嘘の付き方を教えて、違う人間の振りをさせる。違う?」

40歳「・・・そのとおり・・・。」

8歳「そうだろ、簡単だ。」

40歳「・・・そうだな。」

厳しいこといいますね、このチビは。でもそのセリフは、製作者・脚本家・監督が書いたもので、「イメージ・コンサルタント」という職業がアメリカでは、少なくとも一部の人たちからはそういうふうに見られていることの表われかなあ、と思いました。

そしてその後、今度文化庁長官になった、臨床心理学者の河合隼雄さん"「日本人」という病"(潮ライブラリー・1999、1、5)という本を読んでいたら、その中にこんな一節が。

「ドッペルゲルガーという症状があります。現実の世界で、自分と全く同じ人間をもう一人見るという恐ろしい症状です。たとえば、何か後ろで気配がする感じがして、ひょいと振り向くと、もう一人の自分が座っている。それがドッペルゲルガーです。また、現実にではなく夢の中で、もう一人の自分に出会うことがあります。これは、"ドッペルゲルガーの夢"と言います。一時期、この夢のサンプルをいろいろ集めていたら、私がそれを見てしまったのです。」

実際映画の中で、主演の40歳男・ブルース・ウィリスは精神科医(心療内科でしょうか)のクリニックを訪ねるシーンもありました。この「キッド」という映画、河合先生に言わせれば「ドッペルゲルガーの映画」ということになるのではないでしょうか。

2002/3/4


(追記)

2003年9月11日の産経新聞で「キャラリスト」
を取り上げていました。見出しは、
「家にいながら服販売、相談」
「ネットで活躍『キャラリスト』」

というもの。大阪市西区のアパレル・ベンチャーのエニーズ(川崎昌子社長)が、ネットを使って注文服の販売と相談を行うのだそうですが、年間契約した顧客のスタイリストとなり、ビジネススーツや靴などについて総合的に助言する「キャラリスト」を、ネットで育成、登録して業務が出来るようにするとのこと。
現在この会社には、キャラリストが80人いますが、これを3年間で2000人に増やしたいとのことです。
久々に見ました、「キャラリスト」。Google検索では、2030件。「キャラリスト」と「スタイリスト」の2つをキーワードにして検索すると、わずかに12件しか出てきませんでした。

2003/9/11


◆ことばの話592「寝たきり」

お昼のニュースの直前の番組で、寝たきり老人を扱った内容を放送していました。

その中で、

「寝たきりを作らないように」

というコメントがあったのですが、私は聞くとはなしに聞いていて、ドキッとしました。

なぜなら、そのコメントは、まるで工業製品の

「不良品を作らないように」

と言っているかのように聞こえたからです。何が引っかかるのか?やはり、

「作らないように」

の部分でしょう。「寝たきり」の状態にあるのは、「人」、「人間」です。それに「作る」という「物」に対することばを使うことに違和感があるのではないでしょうか?

例えば「子供を不良にしないために」というのを「不良の子供を作らないように」というと、なんか、おかしいでしょう?あ、「子供を作る」は、ちょっと別の意味がありますね・・・。例として適当でないか。

ま、それはそれとして、「作らないように」とともの「寝たきり」と呼び捨てのように言うのも、いやですね。「寝たきり」は状態を示すのでしょうが、「寝たきり老人」の略語のようにも感じられるからです。中には「"寝たきり"ではない、"寝かせきり"なのだ」という方もいらっしゃるようですが。

いずれにせよ、「寝たきりを作らないように」という表現は、私にとっては「不可」です。

2002/2/28


◆ことばの話591「担保する」

若干、古い話になりますが、1月28日、お昼のニュースで、民主党の熊谷国会対策委員長がインタビューに答えて、こう話していました。

「国会での説明に信頼が担保されなければ、何ものも信じられない。この問題が解決しなければ、きょう衆議院で予定されていた委員会採決には応じられない」

この「信頼が担保されなければ」という言いまわし、政治家の話の中には時々出てきます。

「信頼を担保する」

なんとなく、しっくり来ない言い回しです。普通「担保」というのは、例えばお金を借りる時に、ちゃんとそのお金を返しますよ、という証拠として、あるいは万が一返せなくなった時の「人質」ならぬ「ものじち」として、相手に預ける物のことですよね。

ローンでマンションを買った時には、そのマンション自体がそのローンの担保とされたりするわけですね。

政治家はこんな訳のわからない言い方をしますが、政治用語としては、「ローンの担保」とは違う意味があるのでしょうか?

熊谷国体委員長の発言を、フツーの言葉で言いかえると、

「信頼が保証されなければ だと思うのです。そうすると、政治家の言う「担保する」の意味は「保証する」なのではないでしょうか?なんでこうなっちゃったんだろう?あ、そうか。わかったゾ。「保証」という言葉だけでは信用できない

→その保証の保障にあたる取り引き材料=「ものじち」を出せ!

→「担保」する

という流れではないでしょうか?

フツーの世界では「保証」で済むものも、玉虫色の政治の世界では「担保」されなければ、誰が納得なぞするか!!ということですかね?

2002/2/24


(追記)

東北大学の後藤斉先生から、「政界用語というよりは、法令用語、官庁語かもしれない」「ネット検索では、1947年の国会での発言の中にも"公正を担保する"という使用例がある」とのご指摘を頂きました。国会会議録検索システムから。

衆議院本会議―60号 1947 / 11 / 18

○ 鍛冶良作君「この法律は・・・経済統制事務その他重要な公共事務を行う経済團体の役職員に対しても右両罪の成立を認め、その職務執行の公正を担保することを目的として設けられたのでありますが・・・。」

ご指摘、どうもありがとうございました。

2002/2/28