◆ことばの話585「頌春」

武庫川女子大学言語文化研究所の佐竹秀雄先生から、郵便が届きました。



「LCりぽーと」という印刷物を送ってくれたのです。今回のvol14の特集は「ことばにまつわる笑い話」このLCリポートを読んでいるLC倶楽部の会員さんから寄せられた、約70件の「笑い話」(失敗談のような感じ)が載っています。



その最初のほうに載っていたのが、こんな話でした。



「頌春」を「こうしゅん」だと思い込んでいた。「こうしゅん」と入力しても変換されないので馬鹿なワープロだと思っていた。



え!「頌春」って、「こうしゅん」じゃないの!?



あの年賀状に「賀正」とか「賀春」とか「謹賀新年」とか、そういった感じで書いてある文字ですよね。「頌」の偏は「公」ですから、「こう」だとばっかり思っていましたが・・・。



ではこの「頌春」は、一体何と読むのか?



漢和辞典で引かなくてはなりますまい。1、2、3・・・・13画ですね。



13画の漢字は多いなあ。



あったあった。



なんと!「しょう」でした。だから「しょうしゅん」



読めないよねえ、これ。意味は「(春を)ほめ称える」ことだそうです。



一体どのくらいの人が読めるのか?



私の予想では、若者は全滅でしょう。年配の方が読めたとして、私の回りでは95%の人が読めないと見た!漢字博士のS君は読めるだろうけど。ちょっと、プチ・テストしてみました。



その結果、社内の20代から40代までの25人に聞いたところ、ちゃんと「しょうしゅん」と読めたのは、3人でした。正解率は12%。思ったより「高い」と思います。正解した人の年齢は、37歳、39歳、40歳。こんなところで学歴を言うのもなんですが、彼らの出身大学は、立教大学、京都大学、京都大学です。やっぱ、京大は、学力高い?



その後、漢字検定一級、しかもで全国2位の漢字博士のS氏に聞いたところ、こともなげに「"しょうしゅん"ですねえ。」と答えられました。さすが!(当然か。)

2002/2/22


◆ことばの話584「スタイ」



ジャンプの選手がつけているゼッケンのことを「ビブ」と言っていることについて、福井大学の岡島助教授が、インターネットの掲示版「ことば会議室」で書いてらっしゃいました。「ビブ」は、サッカーの紅白戦で、片方のチームが着るチョッキ(死語ですか。いわゆる「ベスト」)の名前として、10年以上前から耳にしたことがありましたが、英語で言うところの「ビブ」の本来の意味は「前掛け」「よだれかけ」なんだそうです。



で、その「よだれかけ」のことを、最近は日本でもこう呼ぶ、というのをご存知でしたか?



「スタイ」



私は知りませんでした。



妻の聞いたところ



「常識でしょ。わたしだって子育てしてるんだから。」



と言われてしまいました。



同じく、2歳の女の子の子育てに、結構参加している弟に聞いたところ、



「知ってるで。"赤ちゃん本舗"とかに子供用品を買いに行ったら、"スタイ"って書いてあるもん。」



むむ、やはり常識となってきているのか。



英語に詳しい脇浜アナに聞いたところ、



「あー、なんか聞いたことあります!なんで知ってるんやろ?」



と言いながら、パソコンをいじって、



「わかりました、アメリカに留学してすぐの時に"めばちこ"(=ものもらい、麦粒種)が出来た時に、向こうの友達にSTY(スタイ)と言われたんでした!」



ということで、この「スタイ」は「よだれかけ」とは関係ありませんでした。



では、「よだれかけ」の意味の「スタイ」という言葉の語源は何なのか?



インターネットで調べると、どうもアメリカの会社の商品名がそのまま普通名詞的に使われているのではないか?というところまではわかりましたが、どこの会社の製品なのかは、わかりませんでした。



今後も"継続取材"ということでスタイ。なぜか九州弁。左門豊作ふうに。

2002/2/24


(追記)

『大阪弁の秘密』(わかぎゑふ、集英社文庫:2005、11、25)を読んでいたら、「よだれかけ=スタイ」のことを、大阪弁では、
「しずく受け」
と言っていた、と載っていました。しずく受け、ですか。これもいかにも大阪弁。キレイですね、名前は。よだれ以外のしずくだと、ちょっと、イヤですが・・・。
平成ことば事情2228「アフガン」の「追記」に書いたように、朝日新聞の関西版、2005年7月18日の「ことば力養成講座」で「スタイ」を取り上げていました。関東版は7月17日に載ったそうです。

2005/12/16


◆ことばの話583「山中」

夕方のニュースをアナウンス部で見ていて、先輩のMアナウンサーが、こう口にしました。



「サンチューっての、どうも気になるんだよなあ。」



大阪のトラック運転手が殺されて、箕面市の山の中に遺体が捨てられたニュースの原稿の話です。



「話し言葉は"山の中"だよな。"サンチュー"なんて言わないよな。」



そうですね。あまり言いませんね。



「おれ"サンチュー"と聞くとどうしても三球・照代さんを思い出しちゃうんだよな。」



さすが、園芸担当、いや演芸担当って、それは"サンキュウ"ですよ。でも、この問題を考えると「夜も眠れない」のではないでしょうか。まあ「夜も寝ないで昼寝して」るかもしれませんが。



そんな話があった翌日、その話を聞いてはいないはずの報道のデスクが書いて原稿には、しっかり、



「箕面市の山の中で



と、話し言葉で書いてありました。うむ。なかなか言葉に対する意識は高まっているようだぞ。よろしい、よろしい。ちゃんと「山の中」と、かみ砕いて書いてくれて、「サンチュー」じゃなくてこれは「サンキュー」。



でも、事件は未解決。謎は深まるばかりです。

2002/2/24


◆ことばの話582「伝染病」

「伝染病という言葉は使われなくなるのか?」



ということについて、1999年3月に新聞用語懇談会の放送分科会で話題として提出しました。それからようやく3年経って、討議の場に上りました。しかし、その場では結論は出なかったので、国立感染症研究所に電話をして聞いてみました。



すると、やはり「伝染病予防法」が3年ほど前に改正されて「感染症予防法」に変わったことによって、お役所関係から「伝染病」という言葉は駆逐されて、すべて



「感染症」に変わったそうです。



では「法定伝染病」というのはどういうふうな名前になったのか?



答えは「感染症第1類〜第4類」となったそうです。言うなれば「法定感染症」でしょうか。そのうち、いわゆる「隔離」をされるような「法定伝染病」は、現在の「感染症第1類」と「第2類」で、



「第1類」はエボラなど出血性の感染症



「第2類」は、赤痢やコレラといった消化器系の感染症



だそうです。第3,4類に関しては、一応「サーベランス」、つまり「調査」のために届け出て欲しい、というような病気なんだそうです。



以前は「第1類」「第2類」にあたる「法定伝染病」こういった病気にかかったことがわかると強制的に隔離病棟に入れられたのですが、現在は一応「本人の同意を得た上で隔離」するそうです。ただし、エボラ出血熱などで、本人が「隔離はイヤ」と言っても、周囲への影響もあるので、「超法規的措置」として「隔離」するそうですから、やっぱり「強制的」と考えてよさそうです。



ということで、現場では「伝染病」という言葉は使われなくなってきているのが現状のようですね。

2002/2/7


◆ことばの話581「駅前」

今回はちょっと"いちゃもん"風です。わかっちゃいるけど、書いちゃいます。



取材の帰り、タクシーの中からふと見かけた、マンションのモデルハウスに掲げられた大きな看板、



「○○○○谷六駅前、キャンセル住戸発生!」



このところ、大阪の都心でも、大きなマンションが結構たくさん建設されていますが、そのうちの一つでしょう。



「谷六」というのは、大阪の人は皆さんご存知のように「谷町六丁目」の略称・通称です。このほか例えば、



※谷町四丁目→谷四(たによん)



※谷町九丁目→谷九(たにきゅう)



※天神橋筋一〜六丁目→天一(てんいち)、天二(てんに)、天三(てんさん)、天四(てんよん)、天五(てんご)、天六(てんろく)・・・個人的には「天四」はあまり聞かない気がします



※日本橋一丁目→日本一(にっぽんいち)



※上本町六丁目→上六(うえろく)



といった具合に、略称・通称は使われています。



で、それはそれで良いのですが、私が「おやっ?」と思ったのは、「谷六」=谷町六丁目には、地上に鉄道の駅はなく、あるのは地下鉄(谷町線・長堀鶴見緑地線)の駅だけなのです。



そうすると、「駅前」というのはどこを指すのか?より正確に言うならば、



「駅前」ではなく、「駅上」ではないだろうか?



ということなのです。 これは調べなければわかりませんが、大阪よりももっと地下鉄が多い東京でも、地下鉄の駅の近くのマンションに「駅前」というふうな名前をつけているものがあるのでしょうか?あるいは「駅上」というふうな名前があるのでしょうか?「駅上」は聞いたことがないですねえ。



でもさらに理屈を言うならば、地下鉄の駅の出口は、地上にありますから、そう言った意味では「駅(の出口)前」と言えなくもない。また、地下から直接マンションの地下に繋がっているような場合は、「駅(の地下の出口の)前」とも言えます。



そこまで考えないですよね、普通。あーあ。

2002/2/19