◆ことばの話435「三階の"かい"と"がい"」

「世の中は 澄むと濁るで 大違い 刷毛に毛があり ハゲに毛がなし」



という狂歌があるそうです。確かにそうですね。

最近、「ビルの3階」と言う時の「3階」を「サンカイ」と濁らずに言う人が増えているようです。正しくは「さんがい」と濁ります。アナウンサーであれば「ガ」は鼻濁音ですが。

そもそも九州など西日本では「サンカイ」と濁らない傾向があるようですが、最近は東京などでも若い人たちが「サンカイ」と濁らない清音で発音しているようなのです。NHKの1999年の「ことばの揺れ調査」によると、「サンカイ」と濁らない人の割合は21.5%、「サンガイ」と濁った人は73.4%だったそうですが、年齢層を若い世代に絞れば、もう少し割合が上がるのではないでしょうか?

なぜ濁らなくなったのか?

まず考えられる原因は、前につく数詞によって濁ったり濁らなかったりするのは面倒くさい、覚えられないということ。

次に、エレベーターなどで階数を音声で表示するものが増えていますが、それらは階数によってちゃんとした読み方を示すのではなく「数字十(プラス)階」という形の合成音声なので、「さんがい」ではなく「サンカイ」という清音で音声表示してしまうということ。それで階数の読み方を覚えた若い人たちが増えているのではないかということです。

検証は出来ませんが、この間エレベーターに乗って

「サンカイデス」

という合成音声の案内を聞いた時に、そうかもしれないなと思いました。

また、なぜ「3」だけ濁るのか?これは言い習わしによるとしか言えませんと、NHKの用語研究班の方も書いています。「3羽」「3匹」なども「3」は濁りますね。

ちなみに「13階」「23階」も「ジューサンガイ」「ニジューサンガイ」と濁ると、NHKの「放送用語保存版222」には書いてありますが、こちらは「サンカイ」よりもさらに濁らない人の割合が多そうです。

2001/10/15

(追記)

先日、初めて行った東京の六本木ヒルズのエレベーターの音声案内は、
「サンカイ」
と濁りませんでした。ちなみに私の自宅マンションのエレベーターは、
「サンガイ」
と濁ります。

2004/7/10


◆ことばの話434「God Bless America」

同時多発テロを受けたアメリカ。あのニューヨークの光景は、大震災の時の神戸の状況にも似て、胸が痛みます。

しかし一週間後には、証券取引所も再開されました。その再開にあったって、証券取引所では、一人の女性歌手によって歌が歌われました。曲名は「God Bless America」。

公人が靖国神社に参拝すると、日本だとひと悶着起きますが、アメリカは1ドル紙幣にも

「IN GOD WE TRUST」(私達は神〈紙?〉を信頼する)

と書いてあるぐらいですから、証券取引所で「GOD」が出てきても問題は全くないでしょう。それはともかく、この歌が良かった。証券取引所に集まった人々がみんな頭を下げて聞き入っているんですが、最後の方では小さな声で一緒に歌う人も出てきました。

こういうふうに歌が人々を勇気づける風景が、フツウにあるアメリカというのはいいですね。「アメリカらしさ」を感じました。私は男声合唱を20年以上やっているので、いいなあと感じました。アメリカ人になりたい。その時だけ。

ちなみに、民主党の鳩山代表たちが、テロの犠牲者達のために歌を歌う練習をしているところが、テレビでちょっとだけ紹介されていましたが、その時の曲は「ふるさと」でした。

震災の時の避難所などでは、「上を向いて歩こう」などが歌われていたようです。

「歌」が全てを救う訳ではありませんが、歌うことで新しい力が湧いてくることがあるのも確かです。

2001/10/11


◆ことばの話433「冷凍年度」

昨日は仲秋(中秋とも)の名月でした。夏も終わっちゃいましたねー。ということで、夏の新聞スクラップを整理していたら、こんな記事が・・・。

「エアコン異例の8月増産〜猛暑で品不足続く」(日経8月10日)

西日本は8月も暑かったんですよ。

さて、その記事では、エアコン各社の2001年度の出荷台数に触れているんですが、そのなかで「2001年度(冷凍年度)」と書いてありました。「冷凍年度」って何だ?と読み進めると、

「2000年10月から2001年9月まで」

とありました。普通「年度」というと、学校にあわせたような、また「会計年度」を基準とした、

「4月から翌年3月まで」

を思い浮かべますが、それぞれの業界などでこういった独特の「年度」があるのかもしれませんね。もう10月に入りましたから、「冷凍年度」的には「2002年度」に突入しているのですね。

けど、最近は冷暖房のついたエアコンが多いから、「冷凍年度」だけでなく「暖房年度」なるものもあるのかも?それは、いつからいつまでなんでしょうかね?

エアコンメーカーのダイキン工業の広報部に電話で聞いたところ、

「暖房年度というものはありません。冷凍年度というのは空調業界独特のもので、会社としては、"冷凍年度"と一般的な"会計年度"の二つの年度を使っていることになります。」

というお答えでした。ふーむ、いろいろ聞いてみるものですね。「冷凍年度」初めに、一つ賢くなりました。

2001/10/2

(追記)

2003年7月3日の日経新聞に、

「米穀年度」

という言葉が出てきました。これは、

「11月から翌年の10月まで」

なんだそうです。これは納得しやすい。その期間はおそらく「新米」表示ができるんでしょうね。いろんな業界で、「年度」の区切りがあるものなんですね。

2003/7/31


(追記2)

「読売スタイルブック2002」を読んでいると、52ページから53ページにかけて、「年度」がいろいろ出ていました。(これまで読んでいても気づかなかったなあ。)それによると、

「財政年度」・・・国によって違う。日本、イギリス、カナダ、インド、ニュージーランドではその年の4月1日から翌年の3月31日まで。アメリカでは前年10月1日からその年の9月30日まで。フランス、ロシア、ドイツ、オーストリア、イタリア、中華人民共和国、ベルギー、オランダ、スイスではその年の1月1日から12月31日まで。
「米穀年度」・・・前年の11月1日からその年の10月31日まで。
「酒造年度」・・・その年の7月1日から翌年の6月30日まで。
「肥料年度」・・・その年の7月1日から翌年の6月30日まで。
「小麦年度」・・・日本・アメリカはその年の7月1日から翌年の6月30日まで。
「綿花年度」・・・国際年度、アメリカ年度はその年の8月1日から翌年の7月31日まで。インド、エジプトでは、前年の9月1日から翌年の8月31日まで。日本ではアメリカ年度を使うことが多い。
「砂糖年度」・・・国際年度は、その年の10月1日から翌年の9月30日まで。




というのが載っていました。いろいろあるもんなんですねー。特に農産物には、それぞれ独自の年度があるようですね。

2003/8/31

(追記3)
2004年11月13日の読売新聞の解説欄のコラム「編集委員が読む」で大橋善光・編集委員が「年度区分」というタイトルで書いていました。それによると、最近、各「年度」の始まりと終わりの時期に変化が見られるそうです。たとえば、
(以前)          (新しい年度)
「酒造年度」 10月から翌9月      7月から翌6月(1960年代半ばから)
「米穀年度」 11月から翌10月     7月から翌6月(2003年から)
「冷凍年度」 10月から翌9月      4月から翌3月(今年から)

このほか「会計年度」も、4月に始まって3月に終わる「三月決算」が依然として多いのですが、東証一部上場企業全体に占める割合は、
1999年末=83,4%  →  2003年末=79,6%
と減ってきているのだそうです。ふーん、世の中は動いていますねえ。

2004/11/24
(追記4)

2009年1月3日(土曜)の日経新聞朝刊のおまけ(?)「日経PLUS 1」に、
「一年の目標、立てますか?」
というアンケートが載っていました。1000人に聞いて、去年(2008年)は466人が立てたと、また今年(2009年)は665人が立てると答えたそうです。みんな結構、真面目と言うか、ちゃんと目標を立てているんですね!すごい!
また、一年の目標を立てるのが「1月から」という人が一番多く62%、「4月の年度はじめから」という人も10%いたそうです。
そして「4月に始まらない年度もある」として紹介していたのが、
10月から始まる「コーヒー年度」(=国際コーヒー機関の生産量統計。主要産地の収穫時期に合わせて)
というのが紹介されていました。ほお。コーヒーねんど。「コーヒーマンボ」のようですね。その他に、国内では、
*10月に始まる「砂糖年度」
*7月に始まる「酒造年度」
という、「追記2」「追記3」で書いたものの他、
*繭が出回る時期に合わせた6月からの「生糸年度」
などがあるそうです。やはり業界によって区切り方が違うのですね!改めて、納得。
2009/1/6



◆ことばの話432「小京都」

読売テレビのアナウンサーには、平日の午後5時49分から45秒間の仕事があります。「サスペンス予告」と呼んでいる枠で、その夜の読売テレビのおすすめ番組を紹介するコーナーです。そこで読み上げる原稿をチェックしてた同僚の萩原アナウンサーが

「うーん、これはどうかなあ。」

と声を上げました。何が起こったのかと原稿を見せてもらうと、そこには今晩のおすすめ番組「火曜サスペンス劇場・20周年記念番組・エジプト・パピルス殺人事件」の紹介コメントがつづられていました。片平なぎささん演じるフリーライターと、船越英一郎さん演じるカメラマンのコンビでおなじみのこの人気シリーズは、なんと好評につき第30弾(!?)。舞台はいつも「小京都」なのだそうです。見たことあったけど、それは知らなかった。問題は今回の舞台なんですが、番組タイトルからも分かるように「エジプト」なんです。そこで紹介文には、



「エジプトの小京都と呼べるルクソールという町で連続殺人事件が発生します。」



というものなのです。呼べるかぁ?ルクソールは「小京都」って。大きなピラミッドがたくさんある町なんでしょ。私は行ったことないけれど、萩原アナウンサーが言ってました。

普通「小京都」というのは、「日本国内にある京都を小さくしたような情緒のある町」と認識しています。海外まで「小京都」というのはちょっと傲慢では?

でもよく考えると、アメリカのロサンゼルスにある「リトル・トーキョー」は「小東京」だし、「リトル○○○○」という名前の町は、世界各地にありますね。まあ、その場合は、ある国の人たちが移民で住みついた町というイメージなので、ここで言う「小京都」ではありませんが。でも「小京都」を英語で直訳すると「リトル・キョウト」になりますね。

辞書で「小京都」を引いてみましょう。



小京都=古い町並みが残り、京都のような趣を持つ小都市。(広辞苑第五版)



うーん、そりゃあピラミッドがあるくらいだからルクソールに古い町並みは残っているんだろうけど、果たして京都のような趣を持っているのでしょうか?京都にピラミッドはないぞ。砂漠も。いろんな意味での「金字塔」は、あるかもしれませんが。

そうなんですよね、「金字塔」ってピラミッドのことなんですって。ピラミッドは漢字の「金」という「字」に似ているから「金字塔」。でも、あれは「塔」かな?つい数年前まで私が思い描いていた「金字塔」は、「オベリスクのような形をしていてそこに金色の文字が刻まれている」というものでした。

それはさておき、「小京都」に「金字塔」かあ。なんか、ヘンですね。本当にルクソールが小京都なのかどうかは、10月9日の「火曜サスペンス劇場」を見て確認して下さいね。

2001/10/4

(追記)

その後、萩原アナウンサーに確認すると、ルクソールには大きなピラミッドは少なく、みものは「王家の谷」だということです。

2001/10/5


◆ことばの話431「感動ファクトリー」

夜、「すぽると」という名の他局のスポーツ番組(まあ、こう書けばフジテレビのことだと、すぐバレてしまいますが)を見ていてふと、気づきました。番組のサブタイトルでしょうか、「すぽると」の横に「感動ファクトリー」というロゴがあったのです。この平成ことば事情183「感動をありがとう」でも「感動」について書いたのですが、今回は、「感動」と「ファクトリー」=工場という言葉の結びつきに関して、ふと、考えました。

「感動」とは何か?ある出来事に際して、その人の喜びや悲しみの気持ちの中に湧き起こる、希望や驚き。かな?

同僚の、英語に堪能な脇浜アナウンサーによると、「感動した」は英語では、「touched」「move」といった単語を使うんだそうです。「琴線にタッチした」「ハートが揺り動かされた」というような感じかな。

さて、その「感動」がどうも安売りされているのではないか?と思うのです。

この局では以前「ニュース工場」という名のニュース番組もやっていましたし、「工場」「ファクトリー」という言葉が好きなようです。私が「工場」や「ファクトリー」という言葉から連想するのは、「大量生産」「画一的」「物質文明」といった言葉です。それと「感動」あるいは「ニュース」といったものは結びつきにくいと思うのですが。あえてそれを結び付けようというところには、均質な「感動」を大量生産する、モノとしての「感動」という「製品」が見えてきます。

以前「感動をありがとう」で書いたように、今の世の中、どうも「感動」を求めているのです、もう10年以上前から。その視聴者の要求に応える形で「もっと、もっと」感動を与え続けてきたら、「感動」は「ファクトリー」で「生産」されるものになってしまいました。しかし、「感動」でも「喜び」でも、そういった人間の感情は、続けて大量に与えられた場合、人間の感覚はマヒします。もっと強い刺激を求めるようになります。今まさに、世の中は「感動中毒」になっているのではないでしょうか。

・・・でも、昨日の長嶋監督の引退、阪神和田選手の引退セレモニーの様子などを見ていると、やっぱり求めているんだよね、「感動」。

2001/10/2

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