◆ことばの話415「1グループ、2グループ」

高校生クイズのナレーション録音中の後輩Oアナウンサーから電話がかかってきました。



「道浦さん、チーム数を言う時は"いっチーム、にチーム"ですかね?それとも"ひとチーム、ふたチーム"ですかね?」



「うーん、そうだね。どちらでも間違いじゃないけど、原則は"漢語読み"で、"いっチーム、にチーム"だろうな。ただ、一つだけのチーム、二つだけのチームということを強調する時は"ひとチーム、ふたチーム"でもいいだろうね。」



「でも3チーム以上は、さん、よん、ご・・・と漢語読みになりますよね。」



「そのとおり。"みチーム、よチーム"とは言わないね。"さんチーム、よんチーム"でしょう。特にこの場合は序数詞が、英語の"チーム"という言葉だから、よけいに和語系の"ひとつ、ふたつ、みっつ・・・"は合いにくいのではないかな。

例えば建物を数えなんかに使う"棟(むね)"という助数詞は、"ひと棟、ふた棟、み棟、よ棟、いつ棟・・・"と和語系でもいけるし、"いち棟、に棟、さん棟、よん棟、ご棟・・・"と漢語系でも大丈夫だね。

それから、外来語が助数詞の場合は、例えば"いちごが1パック、2パック、3パック"という場合は、和語系の"ひとパック、ふたパック、みパック"、漢語系の"いちパック、にパック、さんパック"あるいは、数字の英語読みで"ワンパック、ツーパック、スリーパック"というのもOKですね。」

「なるほどー。参考にします。」



ふだん何気なく使っている言葉の中に、"不思議"は潜んでいるものですよね。

2001/8/24


◆ことばの話414「皇寿」

平成ことば事情400「桃太郎のおじいさん・おばあさん」で、平均寿命のことに触れましたが、9月は敬老月間。長寿の方を祝ったりしますね。



60歳(数えで61歳)の「還暦」のお祝いに始まって、

70歳=古稀(古希=こき)・・・古来、稀なので。

77歳=喜寿(きじゅ)・・・「喜」の略字が七十七に分解できるから。

80歳=傘寿(さんじゅ)・・・「傘」の略字が八十に分解できるから。

88歳=米寿(べいじゅ)・・・「米」の字が八十八に分解できるから。

90歳=卒寿(そつじゅ)・・・「卒」の略字「卆」が九十に分解できるから。




ここまでは、その漢字や略字を分解し、足し算することでその年齢を表す数字になる、というものでしたが、ここからはちょっと考え方が変ります。



99歳=白寿(はくじゅ)・・・「百」から「一」を引いたら「白」の字になる。そして、100−1=99なので。



と、引き算になります。

ここまでは、割とよく知られた長寿のお祝いです。このあとはどうなるか?生きていたらの話ですが、



108歳=茶寿(ちゃじゅ)・・・「茶」を分解すると「廿」と「米」。

それで「二十」と「八十八」を足すと「百八」。20十88=108歳。

111歳=皇寿(こうじゅ)・・・「皇」を分解すると「白」と「王」。

「白」は99、「王」を分解すると、「一」「十」「一」になるので、これを全部足すと、

99十1十10十1=111




ということです。まあしかし、いくら長寿世界一の日本とは言え、ここまで長生きするのは、それこそ「古来、稀」なんではないでしょうかねえ。

2001/8/22
(追記)

112歳以上のことは、
「珍寿」
と言うそうです。112歳以上は珍しいため(毎年祝う)のだそうです。
「孫が古希、娘が米寿でわしが茶寿。」
2004年9月17日の日経新聞夕刊の「薬用・養命酒」の広告に載っていました。古新聞を見直していて、見つけました。

平成ことば事情836「緑寿」もお読みください。

2005/11/14
(追記2)

11月21日の各紙朝刊によると、11月20日に日本将棋連盟の創立81年を祝う記念パーティーが、大阪市内のホテルで開かれたそうです。将棋界では、将棋盤のマス目の数=81マスにちなんで「81」を、
「盤寿(ばんじゅ)」
として祝う慣行があるそうです。へー、知らなかった!もしかしたら、ほかの業界にも、こういった特別のお祝いがあるかもしれませんね。

2005/11/21
(追記3)

2007年4月17日の読売新聞朝刊1面の「元気をつくる・第2部 医療の力5」という特集記事の見出しには、
「より美しく『超寿』時代」
となっていました。「超寿」というのは、本文中には出てきませんが、このところの「アンチエージング」(抗加齢)の行き過ぎに対して、老いを受け入れ年齢に応じた最高の健康状態を維持する「ヘルシーエージング(健康な加齢)」を説いている医師、アリゾナ大のアンドルー・ワイル教授の話が、この「超寿」にあたるのですかね。
2007/8/12


◆ことばの話413「チョロ、チョロ、チョロ」

8月13日の夕方、スペインのマドリードの空港で、旅客機の機体(主翼)から燃料が漏れているにもかかわらず機長が離陸しようとしたため、乗客が抗議して離陸を中止させる騒ぎがありました。(8月17日・毎日新聞参考)

このニュースを「あさイチ!」でやりました。その際、乗客が撮影したビデオの映像が流れていたのですが、そこには、翼から漏れ続ける、燃料らしき液体の様子がしっかりと映っていました。また、それとともに「燃料が漏れてるよ!ほら!」というふうな、撮影している乗客のスペイン語の声もしっかり入っていました。

そのスペイン語、言葉の意味はわからないのですが、まず聞こえる音は



「ミロ、ミロ、ミロ」



そして字幕には「見ろ、見ろ」と出ていたのです。しかもそのあとに聞こえた声は、



「チョロ、チョロ、チョロ」



そして字幕には、「燃料がチョロチョロ漏れ出しているぞ!」だったのです。

これはスペイン語と日本語の偶然の一致なんでしょうか?それを見た辛坊解説委員が、



「ほんまに、スペイン語で"チョロチョロ漏れ出している"という意味なのか?調べて!」



というので調べました。

すると!スペイン語で「チョロ」というのは、 「chorro」と書いて、「チョーロ」と発音し、意味は「絶えざる流れ出し。噴き出し。」と辞書にはありました。おおよそ意味はあっていたわけです。ただ、実際は「チョロチョロ」ではなく、かなりの量が流れ出している訳ですから、少し誤訳とも言えますけどね。

でも、「チョロチョロ」という擬態語が、不謹慎だけどなんか笑えてしまう。ちなみに、「ミロミロ」も、「見つめる、眺める」という意味の「mirar」の(おそらく)命令形で、「見ろ!」なんですよ。これも偶然の一致だけど。言葉っておもしろいですね。

2001/8/23


◆ことばの話412「42」

「忌み言葉」というものがあります。例えば、このタイトルの「42」は、「ヨンジューニ」と読む分にはよいのですが、「シジュウニ」と読んだり、「シニ」と読むと、「死」につながる。また「9」は「キュー」ならよいが「ク」は「苦」につながるとか、「人間は考える葦であるの「葦(あし)」は「悪し(あし)」につながるので「よし(良し)」と言い換えるといった類です。

こういった言葉は、字面(書き言葉)ではなく、音(話し言葉)で忌むか忌まないかの判断をしています。おそらく文字が一般化する前から、こういった「忌み言葉」は存在したのでしょう。文字が存在しなかったからこそ、同音異義語の中で生まれたとも考えられます。

さてこの忌み言葉については、いろいろ書かれたものがあるので、詳しくは書きませんが、

日本語の音の問題ですので、当然、日本語を使わない(なじまない)外国人にとっては、「関係ないネ」ということになると思います。そのあたりに着目して、プロ野球選手の背番号に注目してみました。「死に」「死死」「四苦」など、嫌われるようなゴロ合わせの背番号をつけている選手は日本人か、外国人かについて調べました。(参考資料・「プロ野球選手データ名鑑」2001=4月9日発行ですので、今シーズン開幕時の背番号です。既にいなくなった選手もいます。)

  「42」 「44」 「49」
(巨人) メイ 柏田 堀田
(ヤクルト) ツギオ 松田 青柳
(横浜) ・・・・ ズーバー バワーズ
(中日) バンチ 種田 ティモンズ
(阪神) クルーズ 伊達 吉本
(広島) ラドウィック ディアス 福地
(ダイエー) ミッチェル 吉田 水田
(近鉄) ・・・・ 加藤 ガルシア
(オリックス) ・・・・ 川崎 新井
(西武) カブレラ 佐藤 清水
(ロッテ) ・・・・ ・・・・ 吉鶴
(日本ハム) 高橋 斉藤 上田



ご覧のように、「44」「49」に関しては、特に日本人選手が嫌っているようには見えないのですが、「42」に関しては、12球団の中で、日本人がつけているケースは、たったの1件です。(外国人選手6人、誰もつけていない球団4、ヤクルトのツギオ選手は、ブラジル出身)その唯一の選手は日本ハムの高橋憲幸投手。群馬県出身の30歳、1996年ドラフト5入団です。

やはりプロ野球界においても「忌み言葉」としての背番号はありましたね。

勝負事は縁起を担ぐので、よけいにそういった語呂合わせは重要視されるのかもしれません。

「語呂合わせ」といえば阪神の野村監督。現役時代から、二桁の背番号で、それを一つづつ足すと、一の位が「0」になる番号が好きなんだそうです。だから現役時代は「19」で「1十9=10」で「0」、ヤクルト監督になってからは「73」で「7十3=10」で「0」、阪神に来た時は「82」で「8十2=10」でやはり「0」。その後また、

「73」に変えて現在に至ります。

でも、足して下ヒトケタ(一の位)が「0」って、オイチョカブでいうと、一番弱い「ブタ」じゃない。どおりでなぁ・・・阪神、「42体(シニタイ)」ですなあ。ハア〜・・・。

2001/8/31


◆ことばの話411「"はかいし"か?"ぼせき"か?」

お盆のお墓参りの季節。そういったニュースを読むことになります。その担当の女性アナウンサーから内線の電話がかかってきました。


「あの、ハカイシか、ボセキか、どっちがいいでしょうね?」

「文脈は?」

「"墓石"に水をかけ、花を供えて手を合わせていました、ですけど。」

「うーん、やっぱり、ハカイシだろうな。そっちの方が情緒があるじゃない。ボセキにすると、ボセキ販売の業者みたいだし、固いよね。まあ、墓石そのものは固いんだけど。」


ということで「ハカイシ」に落ち着いたんですが、しばらくすると、また電話です。


「お盆のお墓参り、2万基のお墓にお参り、お供えやお花・・・みたいに、やたらと"お"が出てくるんですけど、いいですかね?」

「うーん、確かにそれは気になるなあ。この間、Oアナ(男性)が"お通夜"ってニュース原稿で読んでたから、"通夜"でいいよって言ったけど、女性が読む時はやや柔らかめに"お"がついてもいいかもしれんなあ。しかし女性でも、"お"をつけずに中性的と言うか、きっちり読んだ方が、ニュースはピシッとするかもしれないなあ。」

などと、うだうだ考えてました。

「おたま」とか「おみおつけ」とか、もう今更「お」を取れなくなって、一つの言葉になっているものもありますが、この場合、そういうものは「おそなえ」「お盆」くらいかな。「お盆」も「盆休み」とか「盆」でもいいんだけれど、この「お盆」で「お」をつけるくらいは、やわネタだし、許されるのではないかなあ。

結局、「お」をつけるのは「お盆」「おそなえ」「お参り」し、あとの「お墓参り」「2万基のお墓」「お花」の「お」は取って読むことにしました。

日本語ってホントにむずかしいですねぇー。

2001/8/17

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