◆ことばの話370「安全靴」
飛行機に乗る前に、手荷物チェックと身体チェックを受けます。金属探知器の下を通る、あれです。その手前に、こんなポスターがはってあるのにお気づきでしょうか。
「ポケットの中にこんな物は入っていませんか?」
という文字の下に、携帯電話、CDプレーヤー、ラジオ、小銭入れ、キーホルダー、ナイフなど10数種類のものが、イラストとともに示されています。
そういう物をポケットに入れたまま、金属探知器の下をくぐると「ビーッ」という大きな音がして、「ちょっと失礼します」という声とともに、万歳の姿勢をしたまま検査官に身体検査をされて、結構恥ずかしい思いをしてしまう訳です。最近は、キーホルダーやケータイ、小銭入れなどを入れる、小さめのプラスチックのカラフルなかごが、列の横に準備されていたりもしますね。
それはさておき、問題はこのポスターの中に描かれた、これです。
「安全靴」
ご存知でしょうか、安全靴。広辞苑によると、
「作業中の落下物から足を保護するため、爪先に金属などを入れて補強した靴」
だそうです。爪先の部分が金属で出来ている、あるいは金属をかぶせている作業靴。
見たことありますけど、ごっついですよ。
ひとこと言って、いいですか・・・。
「そんなものが、ポケットに入るかぁ!!」
なお、アナウンス部の先輩の森たけしアナウンサーも、同じ意見だということを付け加えておきます。
2001/7/13
◆ことばの話369「アレフ・オウム真理教」
「オウム真理教」が「アレフ」と改称して、ずいぶん経ちます。
その「アレフ」の大阪支部が入居している吹田市内のビルに、吹田市内の20の団体で作る「地域安全・オウム真理教対策吹田市民会議」のメンバー38人が、7月11日に立ち入り調査を実施しました。
その際に、新聞各社が改称した「オウム真理教」をどう表記しているかというと、
読売=オウム真理教
日経=オウム真理教(アレフに改称)、とカッコ付きで表記
ということでした。他の新聞はこのニュースを扱っていなかったか、私が見落としたためにわかりませんでした。
読売テレビの報道局では、
「アレフに改称したオウム真理教」
というふうな表現を、最初に一回は使う事にしています。その後は「オウム真理教」です。
改称する事で、その犯した罪が消えるわけではありませんし、事件そのものが風化してしまうことは、決して許してはいけないでしょう。
名前というものは単なる記号ではなく、やはりその実態・実体を表すもので、大切なものなのですね。しかしその逆も考えられるわけで、改称したものを使い続けると(名前の持つ魔力から)元々の実体に対する意識も薄れてしまうことも考えられます。
この事件の裁判が続く限り、「オウム真理教」という名前に対する責任を、教団も持つ必要があるのではないでしょうか。
2001/7/22
◆ことばの話368「揺さぶる・揺すぶる」
先日、生後2か月の赤ちゃんがミルクを飲まないことに腹を立てた父親(33)が、激しく赤ちゃんの頭部を揺さぶったことが原因で、赤ちゃんが脳内出血を起こす「揺さぶられっこ症候群」となって3か月後に死亡し、父親が逮捕されるという痛ましい事件が起きました。
このニュースを伝えたよみうりテレビの辛坊キャスターが、
「赤ちゃんの頭を揺すぶって・・・」
と言っていました。おや?細かいことだけど、「揺さぶる」と「揺すぶる」は違うのじゃないかな?と思って、新聞(7月11日朝刊)をみると、唯一この記事が載っていた朝日新聞の見出しは、
「頭揺すられ死亡」
でした。本文を見ると、
「正誤2カ月の長女の頭を揺さぶるなどして死亡させたとして・・・。」
「激しく揺さぶるなどして・・・」
「死因は頭が激しく揺さぶられたため・・・」
「・・・思うように飲まなかったので、いら立って頭を強く揺すぶった、と容疑を認めているという」
となっていました。見出しと本文で、「揺する」「揺さぶる」と違い、容疑者本人の自供では「揺すぶった」を使っていました。
この微妙な違いに関して、一番わかりやすかったのは、「新明解国語辞典」でした。この辞書によると、
「揺さぶる」=外から力を加えて大きく揺れるようにする。(何らかのショックを与えて気持ちを動揺させる意にも用いられる。(例)心(足もと・基盤・政局)を揺さぶる。
(名詞)「揺さぶり」(例)揺さぶりを掛ける
「揺すぶる」=大きくゆれるように動かす(例)からだを揺すぶる
「揺する」=小刻みにふるえる(ゆったりと弧を描く)ように動かす。(名詞)揺すり(例)貧乏揺すり
ということです。なるほど、一目瞭然ですね。
「揺さぶる」も「揺すぶる」も、ともに大きく揺れるようにすることですが、自分で相するのか、外から力を加えるのかによって、「揺すぶる」と「揺さぶる」は違う訳です。今回、この赤ちゃんは、自分で「揺すぶった」のではなく、外から力を加えられて、つまり父親によって「揺さぶられた」のですから、どちらの言葉を使うかは、もう、おわかりですね。
朝日新聞は、記事本文では細かく使い分けをしていましたが、見出しで「揺さぶられ」とすべきところを「揺すられ」と、一文字節約したために、微妙にニュアンスが変わってしまったのではないでしょうか。テレビの音声では、「一文字節約」する必要がないので、やはりちゃんと「揺さぶった」と言うべきだと思うのですが、いかが?
2001/7/20
(追記)
これを書いてから9年、また同じようないたましい事件が起きました。
2010年3月16日、生後2か月の長女を強く「揺さぶり」脳に障害を負わせ殺害したとして、大阪府警は堺市中区の24歳の母親を「殺人容疑」で逮捕しました。(読売新聞の記事より)これも被害者は「生後2か月」の赤ちゃんです。
このニュース、3月17日の各紙朝刊では、
(朝日)揺さぶられっ子症候群
(日経)揺さぶられっ子症候群
(毎日)揺さぶり乳児殺害
(産経)乳児揺さぶり死亡
(読売)2か月長女殺害容疑、「育児疲れ」揺さぶる
で、読売の本文では、
「揺すって」
という表現も出てきました。読売テレビは3月16日の『ニュースten!』では、
「揺さぶられっ子症候群」
で放送しました。Google検索(3月17日)では、
「揺さぶられっ子症候群」=3万2900件
「揺さぶりっ子症候群」 = 0件
「揺すぶりっ子症候群」 = 3590件
「揺さぶられ症候群」 = 145件
でした。
2010/3/17
◆ことばの話367「アジアン・ダブルマック」
表題のようなハンバーガーが売られているようです。例の「平日半額」のお店で。
この「アジアン」とは一体どこを指しているのでしょうか?
「中国語を喋るアジア系と見られる男性2人組みが作っているハンバーガー」
なのでしょうか。・・なわけないか。以上が問1。
問2. 「アジア系外国人」「アジア人風」という場合に、日本人は入らないんですね。「外国人」と書いてあるから、入らないのか。
話がそれました。
最近、アジアン料理を売り物にするお店をよく見かけます。数年前にはやった「エスニック料理店」とよく似たものなのでしょうか。
この「エスニック料理店」は、また最近「無国籍料理店」に名前を変えているようです。
「無国籍」といいながら、エスニックな、いろんな国の料理を提供してくれます。 そういう意味では「無国籍」ではなく、「多国籍料理」なのではないでしょうか?この場合「多国籍」と「無国籍」は同じ意味でしょうか?(湾岸戦争でイラクを攻めたのは「多国籍軍」であって、けっして「無国籍軍」ではありません。)
それとも、完全に「○○料理」ではなく「○○風料理」なので、 国籍をなくして「無国籍」なんでしょうか?
「多」が「無」に通じるなんて、東洋的というか、哲学的というか。
難しいですねー。
2001/7/11
(追記)
7月13日に上記のハンバーガーを買いに行ったら、もう売っていませんでした。残念・・・。
2001/7/17
◆ことばの話366「タフな後半」
サッカー日本代表が優勝したキリンカップ。世界ランキング10位のパラグアイや、ストイコビッチ率いるユーゴスラビアを倒しての優勝ですから、価値がありますね。
7月4日に行われたそのユーゴスラビア戦のハーフタイム、日本テレビの村山アナウンサーがこんな言葉を・・・。
「非常に蒸し暑い中、タフな後半になりそうです。」
「タフな後半」という表現は、初めて聞きました。
「タフ」を国語辞典で調べてみると・・・
*「がんじょう。不死身」(三省堂国語辞典)
*「非常に体力が有って、少々のことではへたばらない様子。(例)タフな神経の持ち主。」(新明解国語辞典)
*「体や精神が強く、へこたれないさま。頑丈なさま。物についてもいう。(例)「タフガイ」(新潮現代国語辞典)
*「頑丈なこと。スタミナがあること。(例)「タフガイ」「タフな体」(広辞苑)
といった具合です。「神経」や「体」については「タフ」は使われていますが、「後半」という「物」(?)について使えるのかどうか、私は疑問です。
この「タフな後半」の意味は、おそらく「タフな精神や体力が必要とされる後半」という意味ではないかと思うのですが、ちょっと、無理があるんじゃないのかなあ。
サッカー担当の若手、大田アナウンサーに、こういった表現はサッカーではよく使われるのかどうか聞いたところ、
「タフな試合、というような使い方は耳にしますね。その際は、接触プレーなどが多い試合、という意味ですけど。」
という答えが返ってきました。
サッカーから広がった表現には「身体能力」ということばがありますが、今後この表現(「タフな試合」というふうな)が広がるかどうか、注目ですね。
2001/7/10
(追記)
2003年5月31日、東京ドームの巨人・阪神戦。8回裏に巨人が2点を勝ち越し、4対2とリード。あとは守護神・河原が3人をピャリと押さえれば巨人の勝ち、という試合。
ところが、ご存知(かな?)のように、阪神がこの9回表になんと11点を取って、結局13対5で、大大逆転勝ちを収めました。
この同点に追いついてところで、実況の日本テレビ・河村亮アナウンサーが、
「タフな試合になりました。」
というコメントを口にしました。「タフな」という表現は、サッカーだけでなく野球でも生きていましたね。タフな言葉です。
2003/6/1
(追記2)
2009年2月11日、横浜での、2010年南アフリカワールドカップのアジア最終予選の第4戦、対オーストラリア戦。結果は0対0の引き分けに終わりました。この中継を見ていたら解説者が、
「タフな相手」
と言っていました。この場合の相手はもちろん「オーストラリア代表チーム」ですが、「タフな」は、
「強い」「手ごわい」
という意味なのでしょうね。
なおNHKの内山俊哉アナウンサーは、次の試合のことを、
「バーレーンでのホームゲーム」
と言っていましたが、もちろんこれは言い間違いでしょう。正しくは、
「バーレーン(代表)とのホームゲーム」
ですね。
2009/2/12
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