◆ことばの話345「埼京線」

子どもと一緒に電車のビデオを見ていました。東京の電車が続々と出てきます。

その中に、私の学生時代にはなかった路線がありました。

「埼京線(さいきょうせん)」

です。このネーミングに関して疑問が浮かびあがりました。



「京葉線も京浜線も、東京の"京"が最初に来て、しかも読みはケイとなっているのに、この埼京線は、東京の"京"が後ろで、しかもケイではなくキョウとなっているのはなぜ?」



関西の場合(JR西日本)を考えると、「神戸線」「京都線」「湖西線」「関西線」「学研都市線」など、行き先、もしくは通行する地域の地名を冠しています。

例外としては「阪和線」(大阪〜和歌山)や「東西線」というのもありますが。



時刻表の前の方に載っている、東京の路線図を見てみましょう。

武線、武蔵野線、外房線、内房線、京葉線、山手線、東北本線(宇都宮線)川越線、南武線、横須賀線、常磐線、中央線、根岸線、鶴見線、青梅線、五日市線、成田線

おや?京浜線というのが載ってないぞ。

それと、どうやら行き先やその線が通る地名を冠したものが多いようですね。そういう意味では、出発点と目的地(終着駅)の2地点の頭文字を冠した線の方が例外かな?

埼京線のほかは、常磐線(常陸の国と福島県の磐城)、総武線(房総と武蔵野)、京葉線(東京と千葉)ぐらいですかね。

ここから推測するに、昔は2地点を結ぶ名前を良くつけたのだけれど、最近は一つの地名で代表させてきた、そんな中で、「埼京線」はレトロ感覚(?)で2地点の合体した名前になった。おそらく双方の綱引きがあったのかもしれませんね。

これは想像するだけですが。

このあたりの事情、ご存知の方、ぜひ教えて下さい。

2001/6/22


◆ことばの話344「カウス」

先日、会社の近くのショッピングセンターを歩いていたところ、父の日(6月17日・日曜日)のワゴンセールをやっていました。そのワゴンに書かれていたのは、



「カウス 1000円」



おや?カウスって、もしかして「カフスボタン」のこと?

近づいてよく見てみると、やはりそこで売っていたのは「カフス」でした。



そして、今日(6月18日)の夕刊に、高知県の副知事が、不正融資先から8万円相当の18金の「カフスボタン」をもらっていたことがわかり辞任へ、という記事が出ていました。こちらは「カフス」ボタンでした。



和英辞典で「カフス」を引くと「cuff」と載っていて、逆に英和辞典を引くと「cuff」は、「服の袖口、カフス。」となっています。「カウス」は載っていません。



そう言えば、漫才師の「中田カウス・ボタン」も、「カフス・ボタン」ではなく「カウス・ボタン」です。

そうか、「カウス」は、いわゆる「気づかれない大阪弁」なんだ!

郡史郎編「大阪府のことば」(明治書院)の60ページに、その名もズバリ「気づかれない大阪弁」が取り上げられています。

これは「全国共通語とは言いにくいが、そうした意識は薄い語や表現」をさします。

例えば、

・ オシピン(=画鋲)

・ オトドシ(=おととし)

・ カッター(=ワイシャツ)

・ キクナ(=シュンギク)

・ モータープール(=有料駐車場)

・ ヘレ(=ヒレ肉)

・ サシ(=ものさし)

・ ダイビン(=おおビン)

・ ショービン(=こビン)




などが上がっています。・・・( )内が共通語。

このほか、「机の上のものを、ナオシなさい」(=机の上のものを、カタヅケなさい。)なども、気づきにくい大阪弁の一つでしょう。

ほんとに、気づかないもんですねえ。

2001/6/18


◆ことばの話343「四畳半」

最近のマンションなどには四畳半の部屋がなくなってきたようです。その為でしょうか、先日こんなことがありました。

NNN24のニュースで女性キャスターが、原稿の中に出てきた「四畳半」という言葉を、



「ヨジョーハン」(HLL・HL=Hは高く、Lは低く発音します)



と読んだのです。

普通、「四畳半」は、



「ヨジョーハン」(LHLLL)



というコンパウンドしたアクセントで読みます。

彼女のようなアクセントだと、畳を敷き詰めた部屋ではなくて、4,5畳のフローリングのスペースが頭の中に浮かんでしまします。

これはおそらく、彼女の家・部屋には、四畳半のタタミの部屋がなくて、フロアは板張りのフローリングか、カーペットが敷き詰められているのではないでしょうか。行ったことも見たこともないけど。

居住空間の変化は、従来あった言葉のアクセントにまで影響を与えるという話でした。

2001/6/16


◆ことばの話342「ゆず」

いま「ゆず」というタイトルを見て、「ああ、音楽の話だな」と思った方、はずれです。 果物の「ユズ」の話です。

6月中旬の土曜日のお昼のニュース、季節の話題をお届けしました。その中の一つが「ユズの出荷」のニュース。下読みをした原稿には、こうありました。



「ユズの産地として知られる和歌山県古座川町では、ひと足早く、ユズの出荷が始まりました。」



ユズの産地として知られるって、私は残念ながら知りませんでしたが。それにしても、「ひと足早く」って、何に比べて「ひと足早く」なんだ?取材したカメラマンから原稿を受けて、手を入れた女性記者に聞いてみると、



「"露地物よりひと足早く"って、取材をしたカメラマンの原稿に書いてありましたけど。」

「ということは、これはハウス物のユズなんだね?」

「そうだと思いますけど。"露地物"って言葉、あまり聞かないので切ったんですけど。」 「聞くよ!常識やないの、露地物、ハウス物は。八百屋さん行けば、そんな言葉聞くやろ。イチゴかて、露地物とハウス物があるやんか。」




記者は八百屋さんに行かないのでした。普通はコンビニなのでした。

この記者は入社もう6年目くらい、優秀な記者なのですが、ふだんは「露地物」よりも「事件物」の方が専門です。



「それじゃ、ここ"露地物より、ひと足早く"に直すよ。」

「はい、わかりました。」



そうして下読みを繰り返すうちに、また疑問が湧いてきました。



「"ひと足早く"って、本来の露地物のユズは、いつ頃とれるんだ?」



ユズと言えば思い浮かぶのは、12月22日頃の冬至の「ゆず湯」。冬のイメージがあります。みかんなどの柑橘類もとれるのは秋か冬です。ゆずのシーズンはいつなのか?

広辞苑を引いてみると、「夏に白い花を咲かせた後に実がなる。季語は秋」となっていました。季語の「秋」はおそらく今の8月ぐらいを指すのでしょう。とすると、もともとユズの実がとれるのも7月か8月。そうすると、「ひと足」どころか「ふた足」も「み足」も早くないか、このハウス物のユズは。そこでもう一度、女性記者聞くと、



「取材したカメラマンが送ってきた原稿には"1ヶ月以上早く"とありますけど」



おいおい、1か月以上早いのを「ひと足早く」という表現で良いのか?

取材したカメラマンに確認の電話を入れてみると、やはり「露地物のユズが取れるのは7月中旬以降」ということでした。

結局、デスク判断で「1か月早く」という表現ではなく「ひと足早く」のままで放送したのですが、たった25秒のニュース原稿でも、その裏側ではこんな葛藤があるんです。

「ゆず」の話でした。

2001/6/16


◆ことばの話341「鳥貝」

日本海側の京都府宮津市では、今特産化を目指す養殖の「鳥貝」の収穫が行われています。

そんなニュースをお伝えしました。

下読みの段階でこんなフレーズが・・・。



「去年放流した、鳥貝の稚魚が今では9センチにまで成長し・・・。」



ちょっと、待った、なんで「貝」の小さいのが「稚魚」やねん。「貝」は「魚」か?それも言うなら「稚貝(ちがい)」でしょ。

まあ確かに「稚貝」よりも「稚魚」のほうが耳慣れてはいますが。しかし私は「ちがいのわかるアナウンサー」を目指していますので。

さらに読み進んでいくと、



「漁業協同組合では、2万個の貝の収穫を目指し、300万円の売り上げを見込んでいます。」



なるほど。ここでちょっとひっかかったのは、「2万個」。

貝の数え方は、「1個、2個」でいいのでしょうか?

こういった時にはやはりこれです。「新明解国語辞典」。この辞典には、ものの数え方(助数詞)が載っているのです。「鳥貝(とりがい)」を引いてみると、



「握りずしなどに使う海産の二枚貝。肉は薄黒く、先がくの字に曲がっている、ザルガイ科。」

とあり、そのあとに、



「かぞえ方=一枚」



とやはり書いてありました。二枚貝なのに、一つで一枚。お寿司も一つしか注文しなくても二つ(一かん=なんか難しい字でしたね。)一緒に出てきますね。関係ないか。

まあしかし、「2万枚の貝の収穫」と言うとかえってややこしい感じになるので、本番の放送では「2万個」で読みました。

たった25秒のニュースでも、裏側ではこんなに格闘しているんですよ。

2001/6/16