◆ことばの話320「優先座席」

最近(といっても、去年の年末ぐらいから)JR環状線の窓ガラスに、ちょっとカラフルなシールが貼ってあるのに皆さんお気づきでしょうか?以前は「シルバーシート」のマークが貼ってあった位置です。

名前は「優先座席」。英語で「Priority Seat」とも書かれています。

以前は「シルバーシート」、つまりお年寄り専用座席として、「お年寄りに席を譲りましょう」ということだったのですが、この「優先座席」に優先して座ることが出来る人は、お年寄りのほか、妊婦さん、乳幼児を連れた人、ケガをした人などが具体的にあげられています。

私としては、いいことじゃないかな、と思います。いくら若い人でも、とってもくたびれているときもあるし、ケガをしているときもあるでしょうし、幼児はともかく、乳児を連れた人には席を譲ってあげたいな、と思います。

いつも私が通勤に使っている京阪電車では、もうずっと前から「優先座席」という表示でした。JRが遅すぎたくらいです。けど、以前の紺色と白の2色のシールに比べて、今度の優先座席は、カラフルなのが良いですね。

こういうふうに変った背景には、元気なお年寄りが増えたということもあると思います。お年寄りの人数が増えてきたので、お年寄り全員に席を譲っていたら、いくら席があっても足りない・・・と考えたのかもしれません。私はまだ年寄りになっていないのに、こんなお年寄り増えちゃって・・・。

私が年寄りになる頃には、利用者のほとんどがお年寄り。電車は全部畳敷きになって、そこにお年寄りが座る。元気な若者だけが立つためのスペースが、板の間で隅の方にちょこっとだけある、そんな車両が出来たりして。 けど今の若者は、畳なんかなくたって地べたにお尻をつけて座ってますけどね。そのうち足が退化して、立てなくなるかも・・・。

2001/6/12


◆ことばの話319「加速する次世代」

最近「次世代携帯電話」「次世代原発」など「次世代」という形容詞(?)のついた言葉を、よく目にするようになりました。

本来「次世代」といえば、人間に当てはめると、「次の世代」ですから、2、30年先のことを指していたのではないでしょうか。そしてそのあとの「次世代コンピューター」「次世代旅客機」「次世代戦闘機」などというのも、今開発中で、かなり先に実用化の見通しのものを指したように思います。

ところが、ケータイの場合はちょっと事情が違います。「次世代携帯電話」は、なんとこの5月から試験が開始、関東では10月から、関西では12月から使われるという代物。なんと"近い"「次世代」でしょうか。

このあいだは東京では「次世代出改札システムSUICA」なんてものも出ていました。

先日、ケータイ関係のメーカーの方にお話を聞いた時には、

「今は"次世代"って言っても、早いときは"2、3ヶ月"ってこともありますね。」

と話していらっしゃいました。ひえ〜!!早すぎる!とっても追いつけましぇーん・・・!

などと思っていたら、今朝(5月29日)の朝刊には「第4世代携帯」という言葉が見出しに出ていました。本文をよく読んでみると、「次々世代携帯電話」と書いてあるではないですか!「次々世代」!!「じじせだい!」・・・「爺爺世代」ではありません。もう世の中は、「次世代」を通り越して「次々世代」に飛んでいるのですゾ!

「びっくりしたなー、もう。」(これは古すぎて、新しいかも。)

ずっと追いかけていくと息切れするから、ゆっくりついて行って、周回後れで、また先頭にくっつこうかな。

えっ?なんですって?そういった技術は、ファッションと違って、グルグル回っていない、直線的ですって?・・・そんなこといわれても・・・ねえ。皆さんはどう思われますか?

2001/5/29
(追記)

今朝の新聞(6月12日・読売新聞朝刊)には「次世代ゲーム機」という任天堂の「ゲームキューブ」と、マイクロソフトの「XboX(エックスボックス)」が紹介されていました。ともに、今年の11月に発売予定です。

また、6月5日の日経新聞・夕刊は、「次世代液体燃料」の「ジメチルエーテル(DME)」の商業化に向けた調査を行う会社を、三菱ガス化学や伊藤忠商事など4社が合弁で作ると正式に発表したニュースを載せています。こちらは「2006年末稼動の製造プラント建設を目指す」ということなので、やや従来の「次世代」に近い表現だと思います。それにしても、まさに「加速する次世代」と言った感じですかね。

しかしその一方で、6月4日の日経新聞には「自民税調、進まぬ世代交代」という記事も。自民党の税制調査会の会長が74歳から81歳に交替。最高顧問ガ79歳で、若手メンバーがなかなか実権を握れないことについて書いています。

どんどん次世代、次々世代へ進む世界がある一方で、進まぬどころか、かえって逆行している世界もあると。まさにこちらは魑魅魍魎、奇々怪々の「爺爺世代」ですね。

2001/6/12

(追記2)

また見つけました、「次世代」。今度は「次世代医療機器」という見出しです。

日経新聞の6月22日朝刊です。東芝がアメリカのジョーンズ・ホプキンズ病院と共同開発した、患者の負担を減らすために体内観察しながら手術するというものだそうです。

進んでるんですね、実感ないけど。

2001/6/22

(追記3)

またまた見つけました「次世代」!日経新聞は「次世代」の宝庫です。

7月27日の朝刊で、「次世代壁掛けテレビ(TV)」

そして「半導体メモリーの主力DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー←長い説明やな!しかもよくわからない)の次世代品種」

見出しは「DRAM次世代品急落」。解説では「次世代DRAM」という表現も。この次世代品種の取引価格が急落したというのですが、次世代品種なのに、もう取り引きされているというのが、どうも分からない。まあ「次世代携帯電話」も、もう出ていますが、あれは今しばらくは「試験期間」ということで。本格的に使われているなら「次世代」ではなく「現行世代」じゃあないのかな?どーも、わからん。

2001/7/28


◆ことばの話318「地上波テレビ」

携帯電話のことを「ケータイ」と呼ぶのはもうすっかり定着しました。2年前までは、「ケータイ」か「ケイタイ」か、表記が分かれていたのですが、それも今ではほとんど「ケータイ」ですよね。東京の山の手線に乗った時に、ガラスに貼ってあったJフォンの広告は、「ケイタイ」でしたが。ちなみにJフォンの名古屋も大阪も「ケータイ」ですけど。これは、「ケータイ」が「電話」としてよりも「携帯端末」としてメールやインターネットに使用されることが多くなった現在から考えると、「実にうまく省略したなぁ」という感じがします。それとともに、若い人にとっては、「電話と言えばケータイのことをさす」ようにもなってきました。その流れで、これまでは家にある加入電話のことは、当然ただの「電話」と呼んでいたものが、「家電(いえでん)」と呼ぶようになって来たというのです。これは、(親子電話の子機などの)コードレス電話の普及によって、コードのついたこれまでの電話のことを「ひもつき電話」と呼ぶようになったのと似ています。新しく登場した電話が、これまでの電話の名称を乗っ取ってしまい、押し出された従来の電話の名称が新しく出来る、ということです。

これと良く似たものに、「地上波テレビ」というものがあります。BS、CSが登場するまでは、読売テレビをはじめ、「テレビと言えば、当然、地上波テレビ」のことでしたから、なにも「地上波」なんて冠(形容詞)をつけなくても良かったのです。その後1980年代後半に衛星放送のテレビが出てきて、「衛星放送」に対応する言葉として「地上波」という言葉が、専門家の間では生まれました。この時点ではまだ、一般の人達は「地上波」という表現は使っていなかったように思います。(見坊豪紀氏の「ことばのくずかご」によると、実はそれ以前、1970年代に、有線のケーブルテレビに対応する言葉として、「空中波テレビ」という言葉もあったそうです。これは今の「地上波テレビ」のことです。「空中」と「地上」は違うと思うんですけど。要は、電波が空中を飛ぶのか、ケーブルの中を流れるのかという視点が「空中波テレビ」、それに対して、電波をどこから送り出すかに着目して、地上のテレビ局から発射して地上に立っているテレビ塔を経由して皆さんのご家庭に届くのが「地上波テレビ」、地上のテレビ局から発射して衛星に当てて跳ね返って来て皆さんのご家庭・・・といってもお金を払っている契約者のみですが・・・に届くのが「衛星放送テレビ」というわけですね。)

ところが、去年の12月に衛星デジタル放送が始まった頃から、新聞紙面でも「地上波テレビ」と言う表現をよく見かけるようになりました。ラジオ・テレビ欄の紹介で「地上波テレビは13面」などと言う表記です。この表現は、かなりもう一般的になったのではないでしょうか。

これまではフツウに「テレビ」と言っていれば良かったのに、新しい道具(衛星放送、デジタル放送など)が登場することによって、「地上波」という形容詞をつけなくてはいけなくなったこれからの「テレビ」は、一体どんな道を歩んでいくのでしょうか・・・。

2001/6/12

(追記)

2002年12月18日、東京・大阪・名古屋のテレビ局は総務省に対して「地上波デジタルテレビ放送」の免許申請を行ないました。いよいよ来年末から始まるので、1年前ということです。この際に、日本テレビ系列では、

「地上デジタル放送」

「波」のない形で表現するようになりました。理由は・・・分りません。聞いてないので。「ナミではない」放送を目指す、ということでしょうか。冗談ですが。

また、本放送開始までには調べておきます。宿題ですね。

2001/12/20


◆ことばの話317「初卵」

春の動物の産卵期も一段落、というところですが、この4,5月のトピックスといえば、佐渡島のトキの産卵。合計ウン個の卵を産みました。うちウン個はだめだったんですけれど。

さてこのニュースの中で「初卵」という言葉が出てきました。これで「ういらん」と読みます。初めて耳にしました。初耳です。これは「はつみみ」と読みます、当たり前ですが。

「初」と書いて「うい」と読むものにはどういう言葉があるか? 「初産(ういざん)」「初孫(ういまど=これは“はつまご”とも読む)」「初陣(ういじん)」ぐらいしか、思い浮かびません。「初(うい)やつじゃ、ささ、ちこう寄れ」なんてえのも、ちょっと思い浮かびましたが。「ういこうぶり」っていうのもあったっけ?「日本国語大辞典・第二版」(小学館)を引いてみました。すると、



「初見参(ういけんざん)」「初子(ういご)」「初冠(ういこうぶり・ういこうむり)」

「初声(ういこえ)」「初心(ういごころ)」「初言(ういげん)」「初事(ういごと)」

「初子持ち(ういごもち)」「初琴(ういごと)」「初参(ういざん)」「初産(ういざん)」「初陣(ういじん)」「ウイスキー」これは違った、「初立(ういだち)」「初立(ういだつ)」「初旅(ういたび)」「初(うい)たび(=“たび”は生理中の女性が炊事を別にすること・初潮の時、一人前の女性になった祝いとして、宴席を設けること。または、その祝宴)」「初知行(ういちぎょう)」「ウイチタ=アメリカ合衆国カンザス州の地名」・・・また間違えた、「初妻(ういづま)(=新妻・にいづまのこと)」「初出(ういで)」「初濡(ういぬれ)(=情事に初心であること)」ヌフフ。「初花(ういばな)」「初妊(ういはらみ)」「初舞台(ういぶたい)」「初奉公(ういぼうこう)」「初枕(ういまくら)(=男女が初めて共寝すること)」いい言葉だなあ。「初孫(ういまご)」

「初学(ういまなび)」「初牢(ういろう)(=初めて牢屋に入ること)」名古屋の名物ではなかったんだ。「初業(ういわざ)(=初めての手柄)」



いやあ、驚きました。こんなにたくさん「うい〜」の言葉があるとは!

次いでだから「初(うい)」も引きました。



「名詞の上に付いて“初めての、最初の”の意を添える。“うい”は“生まれて初めて”の意。これと類義の「はつ」は、ある一定の周期ごとの初回、例えば、一日、一年などにおける最初の意であることが多い。



そうだったのか!!

皆さん、生まれて初めて「初(うい)」の意味が分かった気がしませんか?答えはもちろん、

「ウイ」(なんでフランス語やねん。)

2001/5/27


◆ことばの話316「4倍増」

NHKのニュースを見ていると、

「去年の4倍に増えて・・・」

というナレーションがありました。その時の画面には

「4倍増」

と出ていました。そこでふと思いました。

「4倍に増えるのと、4倍増は違うのではないか?」

というのも、元の分=「1倍」に「4倍分」が「増」えれば、もとの「5倍」になるのではないか、と考えたのです。

たとえば「50%増」といえば、「150%」ですし。

早稲田大学の飯間浩明さんにメールで教えを請うたところ、こんな返事が返ってきました。



「“4倍増”は“4倍、増える”ではなく、“4倍に増える”と補って読むものだと思います。“5割増”のほうは“5割に増える”ではなく“5割、増す”ということで、別個に扱って良いと思います。問題は“AB”という2字漢語で、”AにBする”という形で例えば、“東行”は“東に行く”、“右折”は“右に折れる”、“倍増”は“倍に増える”でやはりこの形ですね。」



なるほどねえ。つまり「5割増」のような、「1」以下の時の表現方法が特別だということですかね。「元々の分(=1)」より小さい数字になる場合は、そもそも「増える」とは言いません。「減る」というのですから、「1以下が特別」だというのも、なんとなく分かった気がしました。



「納得した気分が4倍増、疑問が5割減」といったところでしょうか。

2001/6/8

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