◆ことばの話285「入籍」

山本リンダさん(50)が結婚を発表しました。

西城秀樹さん(46)も結婚しました。

このところ、40〜50歳代の方、頑張っています。

こういった芸能人が「結婚」した際に、スポーツ新聞やテレビのワイドショーでよく使われる言葉が、「入籍」です。「事実婚」ではなくて、実際にお役所に婚姻届を出す、という意味合いです。

しかし、実はこの「入籍」、結婚の意味はないことをご存知でしょうか?

辞書を引くと、

「戸籍の手続きで、ある者が既存の戸籍に入ること。入家。」(広辞苑)

「ある戸籍にいれる(はいる)こと」(三省堂国語辞典)


となっています。この「入籍」は主に「養子」などの時に使われるのだそうです。

確かに、旧民法の下では、新婦は新郎の戸籍に入る、というより、○○家の嫁として、その○○家の戸籍に「入籍」していた訳(妻は婚姻によりて夫の家に入る)ですが、現在の新戸籍法では、新郎と新婦は一緒に新しい戸籍を作ることになっています(新しく戸籍を編製する)ので、そういった意味では、厳密に言うと、「創籍」とか「造籍」という言葉(もちろんこんな言葉はありませんが)になると思います。

「入籍を結婚の意味に使うのは、旧民法下での家長制度を引き継ぐ、悪しき習慣だ」と言う人の言い分も分からないではないですが、新明解国語辞典には、

「結婚した相手の人や養子に迎えた人の身分を、その家の家族の一人となるように法律上正式に手続きをすること」

とあります。この表現が、より実態に即しているのではないでしょうか。

新婚夫婦二人で新しい戸籍を作って、その二人の戸籍を、日本国の全体の「戸籍」の中に「入籍」する、という考えでも良いのではないか、と思うのですが、いかが?

ちなみに山本リンダさんの記事の見出しは、

「リンダさん、教授と結婚」(読売5月8日夕刊)

西城秀樹さんの記事は、

「秀樹さんが婚姻届」(朝日5月8日・夕刊)

と、一般誌は「入籍」と言う言葉は使っていませんでした。

スポーツ紙は使っていたと思います。読売テレビの「あさイチ!」(5月9日)では、

「山本リンダ、電撃入籍」

というスーパーが出ていました。

「どうにもとまらない、リンダ、困っちゃう。」

「ヒデキ、感激!!」

まあ、お決まりのフレーズは、こういったところでしょう。

2001/5/18

(追記)

あの梅宮アンナさんも、できちゃった婚で「入籍」!!

「できちゃった婚」については、「平成ことば事情331」をご覧ください。

2001/6/15

(追記2)

2004年3月3日ひなまつり、女優の水野真紀さん(33)が、衆議院議員の後藤田正純さん(34)と結婚。その報告記者会見で、
「本日入籍しました。」
と水野さんが答えていました。芸能人本人が言うんだから、これは仕方ないか・・・。
2004/3/5



◆ことばの話284「憮然とした表情」

日本新聞協会の新聞用語懇談会の席でこんな話が出ました。

「森・前総理がマスコミの前でコメントを出さないようになってから、森・前総理の表情を指して"憮然(ぶぜん)とした表情で"という記事を多く目にしたが、辞書を引くと"憮然"というのは、"自分の力に余るという表情で、ため息をつく様子。"など失望した様子を表すという意味しか載っていない。しかし今使われているのは、"ブスッとした不満気な表情"という意味。この意味はまだ辞書には載っておらず、新しい意味である。」

えーっ!?そうだったのか!?ちーっとも知らなかった。

確かにいくつかの辞書を見ましたが、今、森・前総理に対して使われているような意味は載っていませんでした。(あとで、「大辞林」には載っていることがわかりましたが。)

しかし、「ブスッとした、不満気な表情」以外で「憮然とした表情」を使うことが、あるでしょうか?私は、ありません。

そこでこの「憮然」について考えてみました。まず、家にある辞書を引いてみると、

「どうにもできないでため息をつく様子」(三省堂国語辞典)

「自分の力に余るという表情でため息をつき様子」「意外な出来事でぼんやりする様子。暗然。」(新明解国語辞典)

「失望してぼんやりするさま。失望や不満でむなしくやりきれない思い出いるさま。」「あやしみ驚くさま。」(広辞苑)

とありました。やはり「ぶすっとした憮然」はありません。

思うにこの「憮然」の「憮」が常用漢字ではないので、これまで「ぶ然」という混ぜ書きの表現が使われてきたのではないでしょうか。そういった中で、本来の失望を表す「憮」の字の意味がなくなって、「ぶ」の「音」だけが残った。

「ぶ」の音から連想するのは「ぶすっと」(ふてくされる)、「ぶりぶり」(怒る)、「ぶつくさ」「ぶつぶつ」(文句を言う)といった擬態語です。また、「無様・不様」「侮蔑」「不細工」という「ぶ」で始まる言葉が思い浮かびます。いずれにせよ、どちらかというと後ろ向きな、否定的な語感を持つ言葉です。

こういったイメージを持つ「ぶ」たす「然」=「ぶ然」。

この「然」は、「新明解国語辞典」によると、

【1】漢字一字の副詞についてその通りであることを表す。

(例)偶然・当然・必然・未然・自然

【2】漢字一字の形容語について、その状態であることを表す。

(例)同然・平然・冷然・超然・毅然・猛然・率然・はい然

【3】名詞についていかにも・・・であるように見える意を表す。

(例)学生然として・白タク然とした車



最後の「白タク然とした車」という例が、いかにも「新明解」らしい感じですが、これは「新明解然とした用例」とでも言うのでしょうか。

高木ブーさんに似た風貌の持ち主は「高木ブー然とした男」ですかね・・・。

それはさておき、この「然」の接尾語としての言葉の作り方から見ると、今、「憮然とした表情」の意味として使われている「ブスッとした不満の表情」の場合は、漢字一文字ではない(=ひらがな一文字)副詞(=擬態語)「ぶすぶす」「ぶつぶつ」などの省略形としての頭の一文字「ぶ」に「然」をくっつて、「いかにも〜であるように見える」という意味を表しているのではないでしょうか。

「ぶすぶす」を「ぶ」に省略するなんて・・・と思われるかもしれませんが、たとえば、「アマコスト駐日大使」(いつの時代や?)なんて、「ア大使」という表現はしょっちゅう使われていましたし、「ベース・アップ」が「ベア」となることから考えればありえないとも言えません。

また、「悄然」「率然」「毅然」「純然」などの、「○然」という形の言葉は、「○然たる〜」という表現が使えることからも、基本的には、漢語由来の古語です。現代人(特に中年以下の若年層)が漢語に弱いことから考えて、「憮然」の本来の意味が分からずに、今使っているような意味にしてしまったとしても、まあ仕方ないのではないでしょうか。

意味の変化に「ぶ然」という「混ぜ書き」も、背中をあと押ししたのではないかと考えます。

こういった事態に「憮然たる思い」を抱いている方もいらっしゃるのでしょうね。

2001/5/22

(追記)

産経新聞のSさんからメールを頂きました。Sさんも用語懇談会のメンバーです。

それによると、「ぶ」という濁音のついた音には、否定的な響きがあると。語義の変化にはこういった「言葉の響き」(音韻・リズム)も大きな影響を及ぼしているのではないか、ということでした。

また、「愕(がく)然」も本来「意外なことに驚く」という意味なのに、「ガクッとくる」「がっかりする」の意味に変ってきていて、「女にふられて"がく然"として歩いててん」などと使われることがあることや、「呆(ぼう)然」も本来は「意外なことに、なす術を失って」の意味なのに、「ボーッとする」の意味で「暇を持て余して一日ボー然としていた」といった使われ方をしているそうです。

これは「愕」「呆」「憮」の漢字の意味をまったく考えなくなっているからだ、というのがSさんの意見。これは私と一致しています。

また、関西学院大学社会学部の宮原浩二郎教授の著書「ことばの臨床社会学」(ナカニシヤ出版)に「カラダ語とアタマ語」という論文が出ています。それによると、「ひどくちがう」が「カラダ語」とすれば「重大な差異がある」は「アタマ語」なんだそうです。

同じように「知る」「考える」は「カラダ語」、「認識する」「思考する」は「アタマ語」

です。それを援用すると、従来の「憮然」「愕然」「呆然」は「アタマ語」で、「ぶ然」「ガク然」「ボー然」は「カラダ語」と言えるのではないでしょうか。

宮原教授は次のようにまとめています。少し長いですが、引用しましょう。

「子どもはアタマ語を知らないし、知的青年はカラダ語を忘れたがる。そのため、カラダ語は子どもの専売特許であり、アタマ語は知的青年の専売特許だということもできる。けれども、言葉はカラダ語だけでは貧しいし、アタマ語だけでも貧しい。もちろん、子どもや青年はそれでいい。ただ、大人には大人の言葉づかいというものがある。それは"カラダ語とアタマ語の往復運動"によってはじめて可能になるのだ。」

2001/5/22

(追記2)

文学作品の中に、新しい意味の「憮然とした表情」を見つけました。川上弘美「センセイの鞄」(平凡社2001、6、25)です。

* 「センセイは、なんだかくすくす笑いつづけている。何をこのひとは笑っているのだろう。憮然としたまま、わたしは手洗いに行き、勢いよく用を足した。」(110ページ)

* 「"ワタクシはあのあと石野先生をお連れしてサトルさんの店にまいりました"また戻った、というわたしの言葉は聞こえなかったようだ。そうですか。お連れしたんですね。それはようございました。私は憮然と答えた。どうしてセンセイと話をするときにわたしはすぐに憮然としたり憤慨したり妙に涙もろくなったりするのだろう。もともとわたしは感情をあらわにする方ではないのに。」

最初の方は、何が楽しいのか教えてくれないセンセイに対して不機嫌になってブスッとしているさまを、次は、お花見の後にわたしではなく石野先生と一緒にサトルさんの店に行ったセンセイに対するヤキモチを焼いてブスッとしているさま。

ともに、新しい意味での「憮然」です。

2001/11/13


◆ことばの話283「ス・ズ・ツ」

メジャーリーグ、日本人選手の活躍で盛り上がってますねえ。今までのが「大リーグ」だとすると、今のはやはり「メジャーリーグ」と呼んだほうが良いなあ、なんて感じますが、それにしてもチーム数の多いこと!全部で30チームもあるんですって。日本のプロ野球はご存知の通りセ・パあわせて12チーム。その2.5倍!サッカーのJリーグが、J1(ジェイワン)が16チーム、J2(ジェイツー)が12チームのあわせて28チームですから、それよりも多いのです。

で、なかなかチーム名が覚えられないのですが、ニュースを読むときに迷うのが、チーム名の最後についている、複数形を表す「S」の読み方。別に英語を読んでいるのではないのですが、だからこそ困るのです。

「メッツ」「ジャイアンツ」「パイレーツ」の3チームは、おしりが「ツ」ですから問題はないのですが、残りの27チームは「ス」なのか、「ズ」なのか?これが難しいんです。

一応、読売新聞のスポーツ欄に載っているチーム名と、ベースボールマガジン社の「月刊メジャーリーグ」という本に載っている表記を調べてみたところ、次のようになりました。(読売とベースボールマガジンの表記は、どちらも同じでした。

「ス」(S)で終わるチーム 「ズ」(Z)で終わるチーム
(アメリカンリーグ)  
ホワイトソックス マリナーズ
タイガース デビルレイズ
エンゼルス ブルージェイズ
インディアンス レンジャーズ
レッドソックス ツインズ
アスレチックス ロイヤルズ
ヤンキース オリオールズ
(ナショナルリーグ)  
カージナルス ブリュワーズ
ドジャース エクスポズ
カブス マーリンズ
パドレス アストロズ
ダイヤモンドバックス レッズ
ブレーブス フィリーズ
  ロッキーズ

ということで、ほぼ二分されていることがわかりました。(「ス」=13チーム、「ズ」=14チーム、「ツ」=3チーム)

ところが、平凡社新書から2月に出た「大リーグと都市の物語」(宇佐見 陽著)を見ると、

「ス」のチームは、アスレチックス(アスレティックス)、ダイヤモンドバックス(ダイアモンドバックス)、ホワイトソックス、レッドソックスの4チームしかありません。

あとの「ツ」=3チームを除いた、23チームはすべて「ズ」なのです。


語感から言えば「ドジャーズ」「タイガーズ」「カージナルズ」「ヤンキーズ」「ブレーブズ」「パドレズ」などは、「あれっ??」と思うのですが、どうも英語の発音だと、そうなるみたいです。英語では「タイガーズ」でも、日本の阪神は「タイガース」、濁りません。阪急(現在のオリックス)だって「ブレーブス」と濁らなかったですよね。

日本人は、英語を外来語として受け入れる場合に、複数形の「S」を取ったり、冠詞を省いたりいろいろ言いやすいように"料理"していますが、この「ズ」の濁点を取って「ス」に変えてしまうのも、その一種なんでしょうかね。

2001/5/4

(追記)

念のため、英語に詳しい・・・というかアメリカ人の女性に、全チーム名を読んで発音してもらったところ、やはり、「大リーグと都市の物語」というホンの中にあったように、「アスレチックス」「ダイヤモンドバックス」「ホワイトソックス」「レッドソックス」と「メッツ」「ジャイアンツ」「パイレーツ」の計7チームを除く残り23チームは、「ズ」という発音でした。しかし、しっかり「ズ」と言うものもあれば、軽く「ズ」と言うものもあり、同じ表記の「ズ」でも、耳で聞いた感じは「ス」に近い「ズ」もありました。

もしかしたら今後、日本語表記も英語の発音に近いものになっていくかもしれませんが、やっぱり、「タイガーズ」は、慣れないですよね。(アメリカ人の彼女は、「タイガースと濁らないなんて信じられない」とおっしゃってましたが。)

2001/5/11

(さらに追記)

1991年に出た、福島良一著「大リーグ物語」(講談社現代新書)では、「ドジャース」

「タイガース」のように「ス」を使っています。専門の本でも、色々違いが見られるようです。

2001/5/18

(追記)

7月3日の朝日新聞の「青鉛筆」に、私と全く同じことを考えている人の記事が載っていました。

元編集者の横井忠夫さん(65)が「語い・辞書研究会」で「球団名の日本語読みは、なっていない」と発表したのだそうです。

複数形のSは、無声音の後なら「ス」だが、有声音につくと「ズ」と濁る。この中学英語の基本が、日本のメディアでは無視されているというわけだ。
*間違いは大リーグに限らない。ジャイアンツやドラゴンズはいいが、タイガースは×だ。「英語教育のため阪神は改名すべきだ。響きだけでも強くなれるでしょ。」


とまとめているのですが。

まあ「英語」と、「英語のような外来語」は違う、ということですね。しょうがないか。

「阪神タイガーズ」になっても、弱いものは弱い、強いものは強いと思うのですが・・・。

2001/8/9


◆ことばの話282「傘下」

まだ梅雨入りには早いですが、皆さんは「傘下」という字、読めますか?「かさした」?そのままやがな。「かさ」の「した」と書いて「さんか」と読みます。

この言葉がニュース原稿でどういう時に使われるのか、調べてみました。

なんでそんなことを?と思われるでしょうが、実は「暴力団」を表現するときにこの「傘下」を使うことがあります。そして、以前のニュースでは例えば「山口組系○○組、組長」というふうな表現が多く使われていたけれど、最近は「山口組傘下の暴力団組長」という表現になっている、という声があったので、実際のところはどうなのか?読売テレビ報道局のコンピューターに登録された過去1年の原稿から「山口組系」と「傘下」をキーワードに検索してみました。すると、

「山口組系」・・・・44回

「傘下」・・・・・・34回

という結果が出ました。「傘下」よりも「山口組系」の方がよく使われていたのです。

また、この「傘下」も使われ方を詳しく見てみると、

暴力団関係・・・9回(2件)

銀行関係・・・23回(12件)

郵政3事業・・・1回(1件)

外資系生保・・・1回(1件)


でした。回数は使われた回数、( )内は、同じニュースの原稿は1回と数えた場合の件数です。

これを見るとわかるように、「傘下」は暴力団関係で使われるよりも、「大和銀行傘下の地方銀行が」とか「さくら銀行の傘下入り」というふうに、銀行関係で使われたことのほうが、倍以上多い。これが何を意味するかと言うと、今、いかに銀行業界が「業界再編」の波の中で、統廃合やグループ化といった具体的な動きを行っているか、ということです。

またその際に、資本系列が同じ、あるいは今まであったその枠を越えての動きが出てくることによって「傘下」の意識も変ってきているということもあると思います。

「夜目 遠目 傘の内」なんて言葉もありましたが、「傘の内」から「傘の外」に出た時に、きっちりやっていけるかどうか。「寄らば大樹の陰」ということわざどおりには、なかなか行かない時代になってきているようです。

おや、ずいぶん話がそれてしまいましたね。

2001/5/4
(追記)
7年ぶりの追記です。その間に、いろんな業界の関係も変わってきているようです。
2008年9月10日の日経新聞朝刊、焼肉店チェーンの「牛角」を展開するレックス・ホールディングスが、「傘下」のコンビニエンス・ストア業界7位の「am/pm」を売却する方針を固めたという記事が載っていました。ここに「傘下」が出てきました。焼肉チェーンの「傘下」に「コンビニエンスストア」があるのです。異業種です。同じ業種の「傘下」ではないのです。手広いですね。そして、ここにも出てきましたが、この7年で広がったのは、
「○○ホールディングス(HD)」
という名前の「持ち株会社」です。そういった会社には「傘下」が多いのだろうなと。また、「傘下」という言葉が復活しているかもしれません。
2008/9/10


◆ことばの話281「ぐっすり、どっぷり」

アナウンス部で雑談をしていると、

「"ぐっすり"という言葉は、熟睡する時の形容にしか使わないよね。」

と聞かれました。

「そうですね。」

と答えてから、ちょっと待てよ、確かにそうだが、「ぐっすり」に似た形の副詞は、随分たくさんあるな、と思いました。

つまり「○っ△り」という4文字の副詞で、最初から二つ目が小さい「っ」、一番最後が「り」で終わる副詞です。

例えば、「たっぷり」「どっぷり」「とっぷり」「ゆっくり」などなど。

いくつか数え上げると、どれも意味の上でも「時間・数量などが十分に余裕がある状態」を示しているように思えて、「もしかしたら、何か法則があるのではないかな?」とひらめきました。

「擬音語・擬態語使い方辞典」(創拓社)という辞典をみてみると、そこには、あるわあるわ、こんなに「○っ△り」という形の副詞が載っていました。

あっさり・うっかり・うっとり・おっとり・がっかり・かっきり・がっくり・がっしり・かっちり・がっちり・がっぷり・がっぽり・きっかり・ぎっしり・きっちり・きっぱり・くっきり・ぐっしょり・ぐっすり・ぐったり・げっそり・こっくり・こっそり・こってり・さっぱり・しっかり・しっくり・じっくり・しっとり・じっとり・しっぽり(いいなあ)すっかり・すっきり・ずっしり・すっぱり・ずっぽり・そっくり・たっぷり・どっかり・とっくり・どっさり・とっぷり・のっぺり・はっきり・ばっさり・ばったり・ばっちり・びっしり・ひっそり・ぴったり・ふっつり・ぽっかり・ぽっくり・ぽっちゃり・ぽっちり・ぼってり・みっちり・むっくり・むっつり・めっきり・ゆっくり・ゆったり

うわあー多いなあ。62語。このほかに私が思いついた「こんなのもあるのでは?」というものは、

ねっとり・ぬっぺり・ぷっつり・ぺったり・べったり・まったり・むっちり・もっこり

といったところ。合わせると70語。どうですか?共通点は見えてきましたか?やはり当初考えていたような傾向が見られますね。それと、促音の「っ」がなくても意味は通じるので、「っ」は、「△り」の前の部分、つまり「○」を強調しているものと思われます。そして、「○」の部分は、擬音や擬態語と思われるものの一部が使われていると思うのです。例えば、

「うかつな、うっかり」「ぐうぐう、ぐっすり」「たぷたぷ、たっぷり」「ぼてぼて、ぼってり」「きちきち、きっちり」

といった具合です。

これについて、早稲田大学の飯間浩明さんに質問のメールを出したところ、飯間さんはご自分のホームページ「ことばをめぐるひとりごと」上で"「ぐんにゃり」と「ぐったり」"というタイトルで、いろいろなこの手の副詞をあげながら考察してくれました。

その際に参考にされたのは浅野鶴子編・金田一春彦解説「擬音語・擬態語辞典」(角川書店)で、そこに載っている擬声語(オノマトペ)は1647語。そのうち「○ん△り」型が25語、今回私が取り上げている「○っ△り」型は106語あり、実に4倍もあることを調べられました。

また、江戸時代にも「○っ△り」型は140種ほどあったのに対して、「○ん△り」型は45種ほどだった(「研究資料日本文法4」鈴木雅子)そうです。そこには「ひったり」「びったり」「へったり」「べったり」などの「○っ△り」型の擬声語が多く紹介されているそうです。

つまり4文字のこういった「擬声語副詞」の場合、「○」のあとが促音便(「っ」)になるほうが、撥音便(「ん」)になるものより多いということですね。

そこから考えると、擬声語自体が、促音便になりやすい音が「○」の中に入るとも言えるのではないでしょうか。

そのあたりも飯間さんは調べてらっしゃるようですが、なんだか専門的になりすぎてしまいました。

「さっぱり」わやです。

2001/5/18

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