◆ことばの話265「大きな文字」

去年の12月から、「読売新聞」の文字が大きくなっています。おおむね好評な、この「大きな文字化」の背景には、新聞を読む人の中に老眼の人が増えたこと(つまり読者の高齢化、もしかしたら作り手の高齢化も)あるいは若者の新聞離れを防ごうと、細かくて難しそうな文字から、大きくて見やすい、とっつきやすいものにしたということがあるのだと思います。

この流れは、新聞界全体に及んでおり、朝日新聞も4月1日から、1段12字だった文字数を11字にし、文字面積は22.8%広がりました。(2001年3月15日、朝日新聞・朝刊1面)。、産経新聞も4月2日から1段11字の15段にして、これまでより28%字が大きくなりました。毎日新聞も5月の連休明けから(=5月7日の夕刊から)、「聖教新聞」や「赤旗」も大きな文字にするそうです。

3月28日付けの産経新聞によると、地方紙では、今年(2001年)2月に徳島新聞、沖縄タイムス、室蘭民報、静岡新聞が、いずれも1段11字に、河北新報はテレビ欄と株式市況の文字を拡大。3月には北海道新聞、信濃毎日、下野新聞などが文字を拡大しているそうです。



また読売新聞は2月22日の朝刊で「42紙が足並み 大きな文字主流に」と言う記事を載せています。50年続いた「1ページ15段」から「1ページ14段」に変えて「1段12字」を守ったと書かれています。そして中京大学・情報科学部認知科学科の三好芳雄教授のもとで「1段12字と11字、どちらが読みやすいか?」ということを学生10人に聞いた結果を載せています。「(自分ではなく)一般的にはどちらが読みやすいと思うか?」という質問には、9人が「12字」、1人が「11字」という結果が出ています。調査対象人数が少なすぎるので、あまり参考にはならないような気がしますが。



産経新聞によりますと、「明治・大正・昭和の初期は、各社思い思いの文字の大きさと書体だったものが、第二次世界大戦中に、用紙確保が難しかったため、記事を詰め込んで文字が小さくなった。戦後も用紙不足が続いたが、昭和26年(1951)に日本新聞協会で"文字の規格"を申し合わせた。」

この頃の新聞は、1段15字の、1ページ15段だったそうです。

「第一次文字拡張戦争」が始まるのは、昭和56年(1981)、朝日新聞が東京・築地に本社を移転してコンピューター製作を開始してから。文字を拡大するとともに、、「1段14字」にし、他社も対抗して文字を大きくしました。産経新聞も1段15字で左右を20%拡げた文字を使用するようになり、その後も昭和63年(1998)、平成2年(1990)と文字を拡大してきたそうです。(産経新聞)

そして今回の「第二次文字核大戦争」は、おととし(1999年)、西日本新聞が口火を切り、これに佐賀新聞が対抗。いずれも1段11字。それが去年(2000年)12月、読売新聞が文字を拡大してから「文字拡大"戦争"になった」(産経新聞)そうです。



ところで文字が大きくなると、当然限られた紙面ですから、文字の数は減りますが、なかなかそのことに触れる新聞はありません。昭和63年(1988)当時でしたか、「読売新聞ニュース」という番組で「文字が大きくなる」ことを告げた時に、打ち合わせの中で「そうすると、文字の数は減りますよね。」と当時のキャスターに話したところ、「それは本番では言わないでくれ」と言われたのを覚えています。ところが産経新聞は正直にその事実を記しています。

「1ページの掲載字数は減少しますが、朝刊は基本ページ数を32ページに増やしてスペースを確保。」(産経新聞)

確かに字数は減ってもページ数を増やせば、今までと同じ「記事のボリューム」を確保できるでしょう。

しかしページ数が増えない新聞は、字数が減ります。それによって、記事の内容にどのような影響が出るんでしょうか、出ないんでしょうか?記事の文体が変わったりするんでしょうか?そのあたりについて調べてみました。



まず、字数がどれほど減ったのか?去年の12月に字が大きくなった読売新聞と、今までどおりだった朝日新聞について、比べてみました。紙面は2000年12月15日の朝刊1面を使いました。

すると、朝日新聞は1段に12字で79行、それが12段ありました。(一番下の広告の欄、3段は除く。)字数にすると、1万1356字です。

これに対して、読売新聞は、1段12字(これは朝日と同じ)で75行、それが11段あり、文字数は9900字。(同じく一番下の広告欄3段は除く)その差は1456字です。

この1456字が読売新聞に閉める割合は、14.7%にも及びます。朝日新聞に占める1456字のの割合は12.8%。いずれにせよ、思っていたよりも字数は減っています。両紙を比較すると、読売新聞は1面につき、朝日新聞の87.1%の文字しか載っていないことになります。



ただ、ページ数は朝日新聞の36ページに対し、読売新聞は40ページありますから、総文字数は、朝日40万8816字、読売39万6000字。読売は朝日の96.9%の文字数ということになります。文字の数が減ることで、どういった影響が新聞紙面に出てくるのか?記事の文体が変わったりするんでしょうか?そのあたりについて、調べてみました。

同じ日にどの新聞にも載っている記事で、比較がしやすいように「ベタ記事」で比べてみました。(大きな記事だと、個性を出そうとするために構成が変わってきて、文体の比較がしづらくなるためです。)

その結果、記事の内容は修飾語が少なくなった分、情報は減っているものの、よけいな修飾語がないぶん、スッキリしてわかりやすくなっている気がしました。



また、1月6日からの省庁再編での新省庁名の略称を、一番早くから積極的に取り入れているのは「読売新聞」です。次は「朝日新聞」。これは、推測に過ぎませんが「文字が大きくなって紙面が狭くなった」ことが関係しているのではないでしょうか?ちなみに読売・朝日・産経と文字が大きくなってみると、日経新聞の文字がかなり小さく見えてきました。今まではそんなに気にならなかったのに。その日経は、かたくなに「文科省」とか「厚労省」といった略称を使いません。



問題は文体の変化よりも記事の項目数です。各社とも大きく取り上げているニュース(ニュース性が高いもの)では、内容に見劣りはしないものの、残りの紙面スペースが少なくなってしまうために、項目数が減ってしまう。よその新聞に載っている小さめの記事が、こちら(読売)には載っていない、ということがどうしても起きてしまいます。

記事の内容もさることながら、「どのニュースを紙面に載せるか」という選択、デスクの判断が、今まで以上に大きくモノを言うようになっていると言えるでしょう。

それとともに、読者側は「新聞に載っていることしか世の中では起こっていない」わけではなく、「新聞に載ってない出来事も、たくさん起こっている(可能性がある)」ことを、常に意識しておく必要があるでしょう。これこそメディアリテラシーの分野ですね。あれっ?これはなにも新聞だけの話ではなくて、テレビの世界も、まったく同じことが言えますね。

2001/4/21


◆ことばの話264「繁忙期・多客期」

先日、出張の飛行機の便を調べようと、時刻表を見ていた時のこと。料金の欄を見て、「おやっ?」と思いました。

そこには「通常期」と並んで、

「多客期」

という言葉が記されていたのです。もちろん、「多客期」のほうが料金が高く設定されています。

鉄道(JR)の場合は、「通常期」のほかに「繁忙期」と「閑散期」の3段階あって、それぞれ料金が違います。飛行機は2段階です。

ふだん鉄道を使うことが多かったせいか、「繁忙期」は知っていましたが、この「多客期」という言葉は初めて目にしました。「広辞苑」にも「三省堂国語辞典」にも載っていません。

それにしても、言いにくくありませんか?「たきゃくき」

われわれアナウンサーは、「旅客機」のことを「りょきゃくき」とは言わずに「りょかっき」といっていますが、これは「たかっき」とは言わないでしょう。「たきゃくき」としか言いようがないんですが。

よく考えると「繁忙期」という言葉も、利用者側の見方ではなく、あくまで鉄道側の言葉です。お客が増えて「繁忙」なのは、てんてこまいの鉄道会社であって、利用者はお正月でもゴールデンウイークでも、たいてい「休み」でどこかに遊びに行くんですから。まあ、遊びで忙しいのかもしれませんが。「閑散期」も同じ事です。

「多客期」はそれに比べると公平な感じがしないでもないですが、とにかく「言いにくい」こと、この上ない。

ヘンな言葉です。

2001/3/26


◆ことばの話263「スイカ」

先日出張で東京に行った時に、山の手線の電車の中吊り広告で「スイカ」という文字を見つけました。



「もうスイカかぁ、最近は季節感がなくなったよな、フルーツも・・・。」



と思ってよくみると、果物の話ではなかったのです



「スイカってなに?」



の文字の下で、ペンギンがカードを持っています。そして



「SuicaはJR東日本のICカードです。」



はっ?カード?

なんでも自動改札機に入れなくても、ワンタッチで通過できる新しい新カードが「スイカ」なんだそうで、4月から、埼京線でモニターテストが開始され、2001年末では首都圏で導入予定ということ。

それにしてもなぜ「スイカ」なんでしょうか?

ポスターの細かい文字を読んでみました。



「Suicaは、Super Urban Intelligent Cardの頭文字をとって名づけられました。」



・・・無理があるような気がします。頭文字って、最後は頭から二つも取っているじゃない。さらにその下には、



「首都圏スイスイ化」



という文字も・・・。こちらのダジャレがメインだったのかな?しかも「Suica」のロゴのうち「i c」だけ、色が変わっていて、「ICカードなんだよ」ということも意味しているようです。たぶん、あまり気付かれないだろうけど。

券売機などを使ってお金をチャージ(入金)することで、1枚のカードを繰り返し利用できるそうです。確かにそれは便利!確か、台湾か香港では、もう実用化されているはずです。関西圏でも、きっとごく近い将来に導入されるんでしょうけど、名前は、もう少し分かりやすい方がいいなあ。

なんてことを思って、この「平成ことば事情」で書こうと思って忘れていたら、昨日(3月22日)発売の「週刊文春」に見開きのカラー広告が出ていました。

2001/3/23


◆ことばの話262「タリバン」

アフガニスタンで、石窟の大仏が壊されていて、世界中の非難・注目を浴びているというニュース。ご覧になったことがおありでしょう。その場所がアフガニスタンの「バーミヤン」というところです。私はそれを聞いて、「ああ、あの中華料理のチェーン店」と思ってしまいましたが、そのお店のネーミングはまさに、ここから採ったそうです。

それはさておき、その大仏を壊している人たちを、私はずっと「タリバン」だと思っていたのですが、どうも「タリバーン」と長音符号「−」が入って表現も目にします。

調べてみると、朝日新聞だけが「タリバーン」「読・毎・産」の3紙は「タリバン」と短い書き方になっています。

また、今週号の「週刊文春」(3月29日号)の書評欄(180ページ)で、宮崎哲弥氏が取り上げているテーマがこのバーミヤンの石仏破壊。宮崎氏は「タリバーン」と表記していますが、その宮崎氏が薦める本のタイトルは「タリバン」(アハメド・ラシット著・講談社)と「長音符号」がありません。たぶん、宮崎氏は朝日新聞をとっておられるのでしょうね。

外国の地名や人名は、日本新聞協会の用語懇談会で、ある程度の統一の目安は作っているのですが、それはあくまでも目安、強制力はありません。地名は人名に比べて統一の度合いが低いように感じます。

この間大きな地震がインド西部の街の名前も、「ブジ」と書いているところと「ブージ」とやはり長音符号「−」をつけた表記の二通りあります。

この場合、長音符号があるということは、そこにアクセントがあると考えて良いでしょう。

アクセントを示すのに「−」を使うかつかわないか。それも特に定められていないのが現状なのです。

発音すれば本来どちらも大して違わないと思うのですが、表記すると随分感じが違いますよね。

日本語って、ホントに不思議ですね。というより、やはり「書き言葉」と「話す言葉」は違うものなのですね。

2001/3/23


◆ことばの話261「平日ずーっと半額2」

「平成ことば事情242"平日ずーっと半額"」の続きです。結構、反響がありました。「確かにそうだよなぁ。」と言う声。さらに、これは「あさイチ!」に届いた視聴者からのメールなんですが、こんな声も。

「"平日ずーっと半額"というのは公正取引委員会は何にも言わないんでしょうか?」

そうか、それは確認してみよう。とりあえず、テレビのCMのことだから、あの

「JAROってなんじゃろ?」

の、公共広告機構に聞いてみよう!と質問の主旨をファックスしました。

すると折り返し、係の方からお電話を頂きました。その電話の内容は・・・



「そういったお問い合わせは、こちらにも何件かございました。そこで、こちらも直接公正取引委員会に電話で聞いてみました。その結論から申しますと、"不当表示ではない"ということでした。なぜかというと、過去に確かにその値段(130円)でハンバーガーを売っていた実績があって、それの半額(65円)での販売なので、いわゆる"二重価格"にはあたらず、不当表示とは言えない、ということでした。」



「なるほど。しかし、"平日半額"はもう1年もやっていますし、今回は"ずーっと半額"と銘打っている訳ですから、これは"通常料金の半額"ではなく、"旧定価の半額"つまり"新定価"なのではないですか?」



「その点については確かに、おっしゃることもわかるのですが、"ずーっと半額"となってからまだ日も浅いことですから、今後もほんとに"ずっと半額"を続けられた時点で"不当表示"ということになる可能性はある、公正取引委員会の方もおっしゃってました。」



なるほど。

あとは、直接、公正取引委員会に聞いてみなくてはなりますまい。

ということで、さっそく公正取引委員会に電話してみました。



「ハンバーガーの"平日ずーっと半額という広告は"ずーっと"なら、(平常価格の)半額ではなくそれ自体が"平常価格"に当たるのではないでしょうか?」



「公正取引委員会が"不当表示防止法"に基づいて監視している"当店通常価格"というのは、本来、安くないのに安くみせかけるような表示の仕方です。これは専門用語で言うと"不当顧客誘因性があるかどうか"ということなんですが、そこから考えると、いまのところ、ハンバーガーの"半額"表示は、過去に長年にわたり、その"通常価格"で販売した実績があるので、不当表示とは考えていません。また、一般の消費者が、表示された"通常価格"を不当に高いと認識したものについて、不当表示かどうかを調べるんですが、そういった意味でも、一般消費者が"不当に高いと感じている"とは思えません。別にハンバーガー屋さんの肩を持つ訳ではないのですが。」



「一般消費者が不当に高いと認識したものについて調べるというのであれば、判断基準は一般消費者の多数がどう考えるか、その結果を見てから判断なさるということですか?」



「そういう訳では忍ですが、あくまで実際の物の価値より不当に高い表示をしているかどうかということは基準になりますね。」



「じゃあ、旅行業者のパックツアーの料金などは、平日と、休日・休前日、お正月などで 料金が極端に違いますが、、"平日"を売る際に、"(お正月料金の)半額"というような売り方をしても構わないんでしょうか?そういった例は見たことはないですが。」



「うーん、例えば、ホテル料金なども"平日・閑散期"と、"休前日・繁忙期"で違いますが、その場合にピーク時の"繁忙期"を通常価格として、平日は"半額"というような表示をすると、これは"不当表示"にあたるでしょうね。」



「じゃあ、ハンバーガーも似たような例ではないですか?」



「いえ、あくまでこれは個別事例なので。ハンバーガーの場合は、今のところ"不当表示ではない"ということです。ただし、今後、未来永劫にわたって"不当表示ではない"という訳ではなくて、2、3年経ってもまだ"半額"という形でやっていれば、"不当表示"になる恐れもあるということですね。」



と、まあ、こんなやり取りがありました。

今後もハンバーガーと、長いお付き合いになりそうです。

2001/3/26

(追記)

それから11ヵ月、円安の進行や、半額効果が薄れたことを理由に、マクドナルドは、ついに「平日ずーっと半額」をやめて、今月(2002年2月)14日からはハンバーガーを80円にする(今は半額なので65円)ことを発表しました。
しかし、これはむずかしいですよ。え?何がかって?
つまり、値上げなんだろうか、値下げなんだろうか?ということです。
今までの半額セールをやめることから言うと、値段が65円から80円に「値上げ」ですが、本来の定価(130円)から考えると、80円になるということは「値下げ」ですよね。
どうでしょうか?
「値上げ」と言ってしまうと、「今までの65円はやっぱり定価だったのか!」となるし、「値下げ」というと「値下げなのになぜ65円から80円になるんだ!」と叱られそうだし・・・。むずかしいねえ。

2002/2/7

(追記2)

いったんやめた「平日半額」。でもやっぱり、値段を上げたら売れなくなってしまったので、マクドナルドはなんと、前回の65円を下回る、
「59円バーガー」
を8月から売り始めました。するとちょうど夏休み中ということもあって、またお客が戻ってきたということです。一端は収束したかの様に見えたデフレですが、ちっとも収束していなかった・・・。しかし、前回の「平日半額」というキャッチフレーズに比べると、「59円」というのは、値段としては更に安くなっているのだけれど、イメージのインパクトは軽くなってしまった気がします。
ちなみに30年前、日本で初めてハンバーガーを売り出した時の値段は、
「1個=80円」
だったそうです。当時は1ドル360円だったんだろうな。それともスミソニアン体制で308円かな?

2002/8/29

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