◆ことばの話245「"ありうる"か"ありえる"か」

朝5時30分からの帯(月〜金曜)の番組「あさイチ!」でキャスターを務めるS解説委員が、「ちょっと、ちょっと・・・」と手招きをしています。

何事か、と近寄っていくと、

「あのさぁ、最近気になってしょうがないんだけど、"ありうる"と"ありえる"はどう違うの?ちょっと調べといて!」

はあ、確かに両方の言い方がありますよね。どっちも間違いではないと思うのですが、まず、辞書で「ありうる」を引いてみました。すると、ちゃんとそこに書いてあるではないですか。

文語形「ありう」とその口語形「有りえる」との混合。

意味は「理屈や公算の上からは、有るものと考えられる。否定形は"有りえない"」

(「新明解国語辞典・第五版」三省堂)


辞書ってやっぱり便利ですねえ。

ちなみに同じ三省堂が出している「三省堂国語辞典」には、言葉の意味は書いてありますが、(文語形「ありう」・・・)云々は書いてありません。また講談社の「日本語大辞典」にも、語の意味は書いてありますが、文法的な記述はありません。そして、岩波書店から出ている「岩波国語辞典」には「ありうる」の項目自体がありません。もちろん「ありえる」も載っていないのです。岩波書店には「ありうる」は「ありえない」のか?と思って、「広辞苑」を引くと、こちらには載っていました。

文語の「ありう」の連体形を終止に使ったもの。意味は、あって差し支えない、そうなる可能性がある。

(「広辞苑・第五版」岩波書店)


おや?少し解釈が違うようだぞ。「ありう」の連体形・・・活用させてみましょうか。

  未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
(あり) うる うれ えよ

この連体形「うる」を終止形として使っている、というのが「広辞苑」の解釈です。

古い文語と、新しい口語が混ざって出来たとする「新明解」とは立場が違うようです。

さあ、どうしようか。

困った時には、去年(2000年)の11月に刊行が始まったばかりの、日本最大(50万項目、100万用例。ちなみに広辞苑は23万項目)の国語辞典「日本国語大辞典・第二版」(小学館)を引いてみることにしましょう。おお!「語誌」(=その言葉・単語の意味や用法、その変遷を詳しく記述したもの)として、大変詳しく出ているぞ!

文語「ありう」の連体形「ありうる」が終止形にも用いられるようになり、文章語としてそのまま固定したために、「ありえる」という形にならず、現在の口語でも「そんなこともありうる」「ありうる話だ」のように変則的な下二段活用の形を保っているものと思われる。

(「日本国語大辞典・第二版」小学館)


とあります。「広辞苑」に近い解釈ですね。ちなみに「ありえる」を引くと「"ありうる"を見よ」となっています。

ということで、どうやら「ありうる」の方が、辞書の上では優勢です。ただ、やはり文語っぽくて古い感じがするところと、否定形が「ありえない」しかないということもあって、「ありえる」という言い方も、現在ではかなりの勢力であることも否めません。

21世紀中には、辞書の表記上も「ありうる」より「ありえる」が優勢になることも「ありえないとは言えない」でしょう。(・・・なんかそんなコマーシャル、ありましたね。)

2001/3/8


◆ことばの話244「Kyotei」

先日、日本新聞協会の新聞用語懇談会・放送分科会に出席した時に、テレビ東京の委員からこんな質問が出ました。

「最近うちの社では、ある番組スポンサー(「○○製薬」なんですが)の提供枠をアナウンサーが読む時に、こんな注文がつくんです。というのは、"「○○せーやく」ではなく、「○○せいやく」と読んでください。"他の社ではそういうようなことはないでしょうか?」

「経済・けいざい」とか「映画・えいが」などを発音する時に、私たちは大抵「けーざい」「えーが」というふうに、二重母音(?)のような「えい」を「えー」というふうに長音で発音します。それを長音=伸ばすのではなく、二重母音ふうに発音せよ、というのがそのスポンサーの要求らしいのです。

他社では、そういった要求はなかったようなのですが、私は一つ思い当たることがありました。読売テレビの夕方のニュース番組「ニュース・スクランブル」のスポンサーの一つに「競艇」があるのですが、この「きょうてい」の女性のナレーションが、「きょーてー」ではなく、いつも、

「きょうてい」

と、しっかり語尾の「てい」を発音しているので、なんとなく耳に引っかかっていたのです。何かそういった動きが今日本語の中に起こっているのかな?

その後、「きょうてい」については、ある事に気付きました。というのは画面には漢字でもカタカナでもなく、ローマ字(英語かな?)で「Kyotei」と出ているのです。

つまり、いままでのおっちゃんばかりが券を買いにくる「競艇=きょーてー」ではなく、もっとスマートでおしゃれな、若い男女も気軽に参加できるような競技としての「競艇」は、「競艇=きょーてー」であってはならない。そのためには「Kyotei」とローマ字で表わし、発音も二重母音を使って「きょうてい」としなければならなかったのではないか、ということです。

「○○製薬」も、そういったイメージチェンジを考えていたのかどうかは、分かりませんが、もしかすると・・・というところですかね。

2001/3/6

(追記)

郡史郎編「大阪府のことば」(明治書院)の74ページ「和泉方言」の項に、音声面での特色として、

共通語(大阪市内も)のような「エーゴ」「テーネー」「スイエー」ではなく、「エイゴ」「テイネイ」「スイエイ」と言う人が多いのは、このあたりの特徴かと思われる。

とありました。もしかしたら、その関連もあるのかも?

2001/6/18


◆ことばの話243「左98米、右64米」

東京に出張に行った時に、いつも目にする看板があります。東京駅の八重洲中央口を出て大丸の横を抜けてまっすぐ行ったところに立っている看板です。これがとっても気になるんです。そこには、

  タクシー乗り場  
←左98米 現在地 右64米→

と、矢印とともに大きく書かれています。

「米」は「メートル」という意味です。私がこの看板の何が気になるのか、もう皆さん、お気づきですよね。そうです。そうなんです。私は、

「なんでこんなに中途半端に細かい数字を書いてあるのか」

が気になって仕方がないのです。もし私がこの案内看板を立てるとしたら、こうします。

  タクシー乗り場  
←左100米 現在地 右60米→

ねっ、こっちのほうが、落ち着きませんか?

「左98米、右64米」なんて書いてあったら、「えっ、98メートルと64メートル?どっちにしようかなあ、えーっと、その差は30と、4メートルか、うーん、どっちに行こうかな」と迷ってしまうじゃないですか・・・あれっ?ちょっと待てよ。もし、私が言うように「左100米、右60米」と書いてあったら、間違いなく私は右の、近い方(60米)のタクシー乗り場に向かうな。すると、左のタクシー乗り場で待っているタクシーの運転手さんは、商売上がったりだな。な―るほど、そのような深―い理由が、この看板には隠されていたのか!どちらで待機しているタクシーの運転手さんも仕事にあぶれないように、均等にお客さんを分けるために巧妙に仕組まれた看板だったのか!!

妙に感心してしまいましたが、お客さんにとっては、心惑わせる看板だよな、これは。

まあ、こんな事で悩んでいるのは、私ぐらいかも知れませんが。一度東京駅の八重洲中央口に行かれた際には、見てみてくださいね。

2001/3/2
(追記)

ビ、ビックリしたあ! 久々に東京駅に行ったのでこの看板を見ると、なんと「右64米」の上に訂正したあとがあって、今度は、
「右62米」
となっているではありませんか!! やっぱり・・・律儀なんだ、この看板作った人は・・・。

2004/1/27

(追記2)

ビ、ビ、ビックリしたあ!!
2月20日に出張で東京へ行った時に、また気になって東京駅八重洲中央駅で降りて、くだん(九段ではありません、漢字で書くと「件」)の看板のところに行ってみると、な、なんと!看板がなくなっているではありませんか!
周辺を探してみましたが、どこにも見当たりません。盗まれたか?よーく、看板があった場所を見てみると、地面に二つの大きな丸い、杭を抜いた後にコンクリで埋めたような跡が。さらに周囲を観察すると、タクシー乗り場がその看板のあった場所のすぐ左20メートルぐらいのところにあるではないですか。「右64米」もとい「右62米」のタクシー乗り場は?と思って右に行ってみると、なんとそこには「高速バス用の乗り場」が作られていたのです。どうやら、東京駅八重洲口は今、改装工事中のようなのでした。それに伴って、名物の(と私が勝手に思い込んでいた)看板は、撤去されたようなのです。
うーん、残念・・・。
ところで、八重洲口の「八重洲」というのは「ヤン・ヨーステン」といいうオランダ人が江戸時代に住んでいたところから「ヤンヨース(テン)」→「八重洲」となったそうですね。本当かな?
2004/2/25

(追記3)

いやあ、大阪も東京の後を追っているのか・・・この間(2009年2月)、大阪市営地下鉄の淀屋橋駅で、矢印を見つけました!
「←65m 45m→」
という表示。「左」「右」の文字はなく、矢印と数字のシンプルなものですが、一応、
「5m刻み」(「1m刻み」ではない)
というところが、納得の表示でした。
2009/4/15



◆ことばの話242「平日ずーっと半額」

日頃、よく食べているハンバーガー。特に研修で大阪大学大学院に通っていたこの半年は、大変お世話になりました。最近は、ずいぶん値段が安くなっていますよね、昔に比べて。今から20年ほど前の学生時代には、ハンバーガーが1個200円。チーズバーガーやらなんやらは、300円ぐらいしたような気がします。学生にとっては高かった。特にアメリカに行った時に食べたハンバーガーは、2ドルぐらいしました。当時、1ドルは260円ぐらいでしたから、1個520円!!今の円ドル換算なら1個230円くらいにあたりますが、日本では今、普通のハンバーガーは、平日は65円でしょ。1ドルで2つ買える計算ですよ。時代は変わったんだなあ。まさに"お買い得"といった感じがします。

そんなハンバーガーの安さに文句を言う訳では決してないのですが、先日、そのハンバーガーのCMでこういうのを目にしました。

「平日ずーっと半額」

あれっ?ちょっと待てよ。「ずーっと半額」って、「何の」半額なの?

「土日」の半額でもありますし、「以前の値段」「本来の値段」に比べて半額だというのはもちろん分かります。

しかし一週間のうち、「土日」と「平日」では、「2日」対「5日」で、「平日」の方が日数が多いのです。それならば、本来「土日は、平日の倍額」というのが普通なのではないでしょうか。ただ、それでは宣伝になりませんね。

また、「以前の値段」や「本来の値段」というのは、「ずーっと半額」が決定した時点で、少なくとも「本来の値段ではなくなる」「現在の値段(=以前の半額)が本来の値段になる」のではないでしょう?

「半額」という言葉は本当に魅力的なので、使いたくなる気持ちは分かりますが、よくスーパーなどのチラシに「当店平常価格10000円」と書いてある下に「本日4980円」とか書いてあって、「おっ!ごっつい、お買い得!」と、つい買ってしまったりするものですが、実はいつ買いにいっても、その店では「4980円」だったりします。「当店平常価格」でホントに「平常」売られているかどうかは、大きな問題です。

「(これから)ずーっと、以前の値段の半額」ということだけが、言葉上は何とか納得出来るのですが、それでさえも「ずーっと」がどのくらい「ずーっと」なのか、それによって変わってきます。「永久的に」という意味の「ずーっと」ならば、「半額」という表記は返上して「新しい定価」とすべきですし、もし「期間限定の"ずーっと"」なら、期間を明示すべきではないでしょうか。

てなことを、昼飯時にハンバーガーを食べている人に向かって話していると、みんな口をそろえてこう言いました。

「けど、安いからええやん。」

そうなんだよなあ。安さと食欲の前には、「理屈は無力」なのでありました。

2001/3/2


◆ことばの話241「おーうーちー」

いよいよ3月31日に、大阪に「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」がオープンします。映画ファンならずとも、楽しみにされている方は多いと思いますが、読売テレビの「ニュース・スクランブル」では今週の月曜日(2月19日)、そのUSJから生中継でUSJの魅力をお伝えしました。

その中継リポーターだったUアナウンサー。遊園地などが大好きな彼女に「何が一番面白かった?」と聞いたところ、

「E.T.」

という答えが返ってきました。

「E.T.のどこが面白かったの?」

実は、話はここからなのです。乗り物がおもしろかったとか、仕掛けがおもしろかったという答えを私は期待していたのですが、彼女はの口から出たのは、

「おーうーちー」

「でぇーんーわぁー」

という答え。

「???」

なんのこっちゃ、と思っている私に彼女はこう答えました。

「ETが出て来てしゃべるんですけど、英語だと"Phone call"とか"Go home "とかいう短い英語の文をE.T.が言うと思うんですけど、その部分が日本語に吹き替えられていて"おーうーちー" "でぇーんーわぁー"。しかも、E.T.だから、しわがれたおじさんの声になっていて、それが良くも悪くも一番印象に残りました。」

というのです。

へーえ、吹き替えになっているのか。E.T.は地球外生物で、もともとほとんど言葉は通じないんだから、吹き替えなくても・・・と思わないこともないですが、通じない言葉の中で通じる、数少ない言葉だからこそ、吹き替えて日本のお客さんにも分かってもらおうということなんでしょう。

けどUSJでは、確かアジアをはじめとした海外からのお客さんもターゲットにしていたのでは?その海外の人から見れば、片言の日本語をしゃべるE.T.が、文字どおり"地球外生物"に見えるのかもしれませんね。

一度、確認のため見に行く必要がありそうです。

2001/2/23