◆ことばの話230「新省庁の略称、その後」

1月6日の新省庁発足から、まもなく1週間。特に大きな混乱もなく、新しい省庁は仕事を始めているように思えます。

それで問題は、新省庁の略称。どうなるのか?と去年の12月23日に、この「平成ことば事情205」で書きました。さて、あれはどうなっているのか?

まだ1週間と期間が短いので、テレビでは略称を使っていないように思えます。(もちろん、すべての局の番組をチェックした訳ではないので、もう使っているところもあるかもしれませんが。)

一方、活字媒体の新聞はどうか。この1週間の新聞(関西版)をチェックしてみました。

まず朝日新聞。ここは「環境省」「総務省」など省略せずに使えるものはもちろんそのままで、これまでと同じ省略形である「農水省」もそのまま3文字に省略しているものの、「国土交通省」など長いものは省略せずそのまま使っているようです。

毎日新聞。ここは調べてみて分かったのですが、この一週間、官庁の名前が出てくるような記事がほとんどないのです。これは驚き。

続いて産経新聞。これもなんと官庁の名前が出てこない。官庁筋に取材をしていない・・・ということはないですよね。なんでだろう?

そして、読売新聞。ここがおそらく一番早く略称を取り入れているのではないでしょうか。

まず省庁再編の翌日の1月7日、「石油精製を自由化〜非常時の供給体制は強化」という記事の大見出しの下の見出しに、「経産省が法整備へ」と、「経済産業省・資源エネルギー庁」の略称として「経産省」を用いています。この「経産省」に関しては、平沼経済産業大臣が6日の会見で「"経産省"では計算高い感じがするので"経済省"で通したい」と宣言しています。(1月7日・毎日新聞)しかしそうなると、経済産業大臣の略称は「経済相」となってしまい、内閣府の「経済財政担当大臣」(額賀福志郎氏)と混乱する恐れもあり、内閣府側からは「"経済産業省"は"産業省"がふさわしい」という声も出ていて、略称が落ち着くにはまだ時間がかかりそう(毎日新聞)とのことです。

また、1月9日には「ケアマネジャーの質向上へ〜上級資格を導入」という記事の大見出しの下横書きの小見出しで「厚労省方針」と出ています。「厚生労働省」の略称です。「功労賞」ではありません。

そして本日、1月11日、朝刊一面トップの記事「大学"17歳入学"自由化〜将来15歳で可能に」の見出しの真ん中に「文科省、来春にも資格緩和」と、今度は「文部科学省」の略称として「文科省」まで登場しています。「門下生」ではありません。

こうなると注目は「国土交通省」が、いつ「国交省」(こっこうしょう・黒龍江省ではありません)という略称で登場するか、ということでしょうね。

ちなみに「自自公」のあとに「自民・保守・公明」の連立が出来た時に、その略称がどうなるかについて書いた(ことばの話105)のですが、それが「自公保」に落ち着くまでには、約1ヵ月かかりました。今後も省庁の略称に注目していきましょう。

2001/1/11


◆ことばの話229「つなげるとつなぐ」

最近よく耳にする表現に、

「今日のゲームを、明日につなげたいですね。」

というのがあります。野球の解説者やアナウンサーが言っているような気がします。

この「つなげたい」がちょっと気になるのです。「つなげる十たい(希望や意思を表わす助動詞)」という形ですが、「つなぐ十たい」で「つなぎたい」と言わずに、なぜ、「つなげたい」なのでしょうか?

日本国語大辞典という大きな辞書を見てみると、「つなぐ」も「つなげる」も両方載っています。ただ「つなぐ」は1ページの半分ぐらいに渡って意味や用例が出ているのに対して、「つなげる」はたったの5行しか記述がありません。意味は2つだけ、用例は1つです。これから見ると、「つなぐ」の方が「つなげる」よりも良く使われてきたのではないかなぁと思います。

なぜ「つなぐ」から「つなげる」になるのか?あっ、けど「つなげる」と言っても「つなぐことができる」という可能の意味の「つなげる」ではありませんよ。

フンイキとしては「つなぐ」よりも「つなげる」の方が、行為をする人の積極的な意志が感じられるような気もします。両方、他動詞ですが。ちなみに自動詞は「つながる」です。

「〜ぐ」で終わる他動詞が「〜げる」に変わった例はほかにあるのでしょうか?そう考えて、「逆引き広辞苑」で「〜ぐ」で終わる動詞をピックアップしたところ、結構あるんですね。私が調べただけでも117個もありました。その中で他動詞はまだ全部チェックしていませんが、例えば、「挙ぐ・上ぐ・揚ぐ」は「挙げる・上げる・揚げる」というふうに変わっています。そもそも「挙ぐ・上ぐ・揚ぐ」は文語です。それに対して「挙げる・上げる・揚げる」は、現在の口語。しかし「つなぐ」も「つなげる」も文語ではなく現代口語・・・と私は認識しています。そこから考えると、「挙ぐ・上ぐ・揚ぐ」のような「〜ぐ」の形が文語のイメージがあるので、同じ形の「つなぐ」も「〜げる」=「つなげる」にあいたのでしょうか?よくわかりません。

なかなか興味深いことばです。

これは次回に「つなげたい」ですね。

2001/1/12
(追記)

2009年12月9日、大阪市営地下鉄・堺筋線の「堺筋本町駅」で、こんなポスターを発見!「つなげます!未来へ」
「堺筋線が開業40周年」を迎えたという告知のポスターです。

「つなぎます」では、ありませんでした。
2009/12/10


◆ことばの話228「ナイス反応!」

全国高校サッカー選手権もベスト8が激突、盛り上がってきました。今年は東北勢が健闘してベスト8に、3チームも食い込んでいます。

その準々決勝の草津東対遠野戦をテレビ中継で見ていると、草津東の鋭いシュートに対して、遠野のゴールキーパーが素晴らしいセービングを見せました。

その時に実況のDアナウンサーが、こう叫びました。

「ナイス反応!」

うん?「ナイス反応」?なんか違和感を覚えると共に、笑いが込み上げてきました。

テレビを一緒に見ていたHアナウンサーは、

「うーん、中学の時によく"ナイス押し上げ"とか言っていたのを思い出しますねえ。"ナイス"は英語で言えるんですけど、"押し上げ"は英語でどういうか知らないから、言えないんですよね。」

そういうことか。

それだったら他にもあるぞ。「ナイス切り込み」「ナイス走り込み」「ナイス飛び込み」

「ナイス〜」の「〜」に英語が入れば「ナイスシュート」「ナイスクリア」「ナイスオーバーラップ」「ナイスキーパー」「ナイスセーブ」など、カッコよく(?)決まるのですが、「〜」に日本語が入ると、なんかズッコケ気味ですね。

しかし、実況の勢いで「ナイス」が口を衝いて出てしまったら・・・まあしょうがないかなあ、「ナイス反応」。あんまり「ナイス」じゃ、ないスけど。

2001/1/5


◆ことばの話227「最悪」

デスクのM氏から、

「来月の勤務希望表は、最悪、24日までに出して下さい」

というメールが届きました。

この「最悪」という表現、よく耳にするのですが、ちょっと引っかかりました。なんでかなあ。

かみくだいて言うと、「最悪の事態としても」ということ。さらに他の言葉に置き換えると「遅くとも」ということになりますね。この場合、「遅い」ということは勤務を調整するデスクにとっては「悪い」事態ですから、その、連絡が最も遅れる=最も悪い状態であるという意味で「最悪」という言葉が使われたのでしょう。さらに言うと

「"最悪でも"の"でも"が省略されている」

と言えます

これに似た表現では、

「最低、10勝を目標に頑張る」

といった表現もあげられます。これも「最低でも10勝」の「でも」が抜けていますが、意味は通じます。「でも抜けことば」でも言えるでしょう。

「"でも"も"へちま"もあるか!」といわれて育った世代が「でも」を言わなくなったんでしょうか?「デモ反対!」とかいってたりして・・・。

あっ、でもが(3行上に)入ってた!

「でもしか教師」なんて言葉もありましたよね、昔。

2001/1/5

(追記)

という文章を書いたとたんに、受け取ったメールに「最低一年に一回、行っています。」という表現が含まれていました。これも「でも抜け」です。かなり広がっているようですね。

2001/1/5


◆ことばの話226「30歳代」

現在私は39歳。2001年は、30代最後の年で、40代初めの年になります。

さて、この「30代」「40代」という言葉が、最近どうも「30歳代」「40歳代」というふうに「歳」が入った形で、よく見かけたり耳にするようになってきました。

去年10月の読売新聞のスポーツ欄、ゴルフの記事で、

「賞金王争い、30歳代主役」

という大見出しがありました。文文の中でも「30歳代前半以下」(随分限定の多い表現ですこと。)とか「20歳代」という表現が出てきます。

また、今朝(1月5日)の日本経済新聞でも、

20−30代向け低価格店拡大」

という見出しが出ているにもかかわらず、本文には、

「(主な顧客層は)二十〜三十歳代に想定されており・・・」

と「歳」が入った形で記されています。

テレビのニュースでも、字幕は「20代の男」と出ているのにアナウンサーの読みは、「20歳代の男」となっていたり(「今日の出来事」2000、12、19)、今はあまり考えずに「20代」と「20歳代」が併用されているようです。

ただ「10代」に関しては「10歳代」というと、何かそぐわないような気がします。

なぜ「○歳代」とうふうに「歳」が入るようになってきたのか?

思うに、年齢以外で数字で表わすものが増えてきたから、「20代」というふうに「歳」を入れないと、何の20代なのかが分かり辛くなってきているからではないでしょうか。

ただそれは、文脈から判断する事は十分可能だと思うので、私としてはすっきりと「歳」を入れない言い方のほうが好きなのですが。皆さんはどうですか?

2001/1/5

(追記)

このところ、やはり「○歳代」「○代」の見出しが気になります。

1月7日の読売新聞では、「年賀状の手作り、デジタル派4人に3人」という記事でアンケートの対象者が「20−30歳代」と出ていました。

1月9日の朝日新聞は、「神戸・長田区で靴のファッションに新しい風〜メーカー世代交代で20・30代が100人増」という見出し。

同じく朝日新聞、1月10日の記事。「震災で県外に避難したまま、兵庫県に戻っていない人の4割が30−50代」というないようでしたが、朝日は「○代」が好きなのかな?

2001/1/11

(さらに)

産経新聞も「国内10例目の移植〜 30代男性脳死判定」(1月9日)「赤ちゃん連れ去り〜不審な 30代男女」(1月11日)と、朝日と同じように「○代」を好んでいるようです。

一方、毎日新聞は1月9日の「10例目の脳死移植」の記事では「30歳代男性から・心臓は大阪で少年に」と「○歳代」を使用していますが、翌10日の経済の記事「景気どうなるの?変質する消費〜総中流の崩壊」の見出しで、「現金で"億ション"30代に所得格差」というふうに「○代」を用いています。

それぞれの新聞社の中でも、完全に統一にはなってなくて、「これから」というところでしょうか。

2001/1/12
(追記2)

昔の資料を整理していたら、こんなのが出て来ました。
2006年9月15日の新聞用語懇談会放送分科会で私が質問した議題が、
「『三十歳代』と『三十代』の使い分けの基準はあるのか?」
というもの。
「もともと『三十代』の方が多かったと思うが、ここ数年『三十歳代』が増えて、今は混在している。使い分けの基準は、ありやなしや?」というものでした。
これについて答えてくれたのは、以下の各社の委員です。
(NHK)「三十歳台」ではないのか?統計などでは「三十歳台」という表記は多い。
(フジテレビ)「『十歳代』はダメ」ということは徹底している。
(共同通信)「三十歳代」という表記も、記者ハンドブックに載っている。
ということでした。
どうも、統計などの データでは「三十歳台(代)」、ふつうの文章では「三十代」と言うのが一般的かもしれません。
現在のグーグル検索では(2014年9月24日)、
「10歳代」=166万0000件
「10代」 =471万0000件
「10歳台」=  2万0700件
「十歳代」 = 19万3000件
「十代」  =334万0000件
「十歳台」 =  2万2600件

「20歳代」= 150万0000件
「20代」 =1280万0000件
「20歳台」=  9万3500件
「二十歳代」= 14万4000件
「二十代」 = 67万9000件
「二十歳台」=  1万6100件

「30歳代」= 121万0000件
「30代」 =1410万0000件
「30歳台」=  11万3000件
「三十歳代」=   6万4200件
「三十代」 =  58万8000件
「三十歳台」=     7320件

「40歳代」= 120万0000件
「40代」 =1250万0000件
「40歳台」=  11万5000件
「四十歳代」=   5万1200件
「四十代」 =  49万1000件
「四十歳台」=     5960件

「50歳代」= 129万0000件
「50代」 =1570万0000件
「50歳台」=  10万6000件
「五十歳代」=   5万2600件
「五十代」 =  43万1000件
「五十歳台」=     6060件

「60歳代」= 105万0000件
「60代」 = 535万0000件
「60歳台」=   8万8500件
「六十歳代」=   3万3800件
「六十代」 =  34万6000件
「六十歳台」=     3580件


といった具合です。なお70歳以上の人は、ご自分でお願いします。
なお、「平成ことば事情1875台か代か」もお読みください。

2014/9/24


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