◆ことばの話200「蜜月」

「歌手の松田聖子さんが2度目の離婚」という記事が、今朝(12月6日)のスポーツ紙の一面を飾りました。それはさておき(もう、“さておく”のか!)その記事の中に、「蜜月」という言葉がありました。



「現在、某有名アーチストと蜜月(みつげつ)関係にあるが・・・」



という記述。これを読んだアナウンス部アルバイトのT嬢が、私に質問してきました。



T嬢「道浦さん、“蜜月”ってなんですか?」 道浦「“蜜”と“月”をそれぞれ英語で言ってごらん」

T「えーっと、“ハニー”と、“ムーン”?」

道「そう。続けて言うと・・・」

T「ハニームーン・・・あっ、ハネムーン!?」

道「そのとおり。ハネムーンを日本語に訳す時に漢字をそれぞれ当てはめたのが“蜜月”。意味はだから、結婚してすぐの時のような甘い関係というか、そんな感じかな。そこから転じて、両者の関係がとても良い時に“蜜月関係”という言われ方をするんだと思うよ。」

T「へー、初めて知りました。」



一応念のために辞書を引いてみると、やはり「蜜月」は「ハネムーン」の訳語のようです。ただ、本来の意味は「結婚した当月」のことを指すようです。(“広辞苑”にはそうありますが、“コンサイス英和辞典”には“結婚後の1ヵ月”とあります。こちらの方が正しい気がします。)しかし今「ハネムーン」というと「新婚旅行」の意味でしか使われていないんじゃないでしょうか。良く考えると、きっと「ハネムーン・ジャーニー(直訳すれば“蜜月旅行”。しかし、“新婚旅行”は言っても“蜜月旅行”は、現在は全く聞かない言葉)」を省略した形で「ハネムーン」と呼んでいるのでしょう。



T「ふーん、じゃあ、“フルムーン”は?」

道「あれは“ディスカバージャパン”とか“いい日旅立ち”とか言ってた、国鉄の旅行キャンペーンの一種でしょ。」

T「そうだったんですかあ。」

道「話はそれるけど、HONEYのを音訳する時には“ハニー”“ハネ”“ホネ”の3種類があるね。一般的には“蜂蜜”の意味で“ハニー”、さっき出た“新婚旅行”の時は“ハネ(ムーン)”、あと化粧品で“ホネケーキ”というのもあったけど、あれは“骨”ではなくHONEYの発音を“ホネ”と聞いた結果なんでしょう。」



もしかしたら「骨=やせている」というイメージが、女性用のもの(化粧品)だけに、好まれるのかもしれません・・・好まれないか。

2000/12/6


◆ことばの話199「熟女インフレ」

ここ数年、新聞のラ・テ欄で「熟女(じゅくじょ)」という文字を目にすることが、大変多くなっています。ピークは去年でした。「熟女」という代名詞で語られたのは、サッチー、ミッチーやデビ夫人などなど。記憶に新しいところです。

ところで最近、知り合いの女性からこんな話を聞きました。

「昔は“熟女”と言うと、40代前半くらいの成熟した“女ざかり”の人を 指していたように思う。あんなふうになりたいな、と思わせる感じだったのに、このところの“熟女”というと、サッチーとかミッチーでしょ。こう言ったらなんだけど、年齢が上がり過ぎじゃないの?」

そう言えばそんな気がしますね。さっそく広辞苑をひいてみましたが、「熟女」は載っていませんでした。そこで2000年版の「現代用語の基礎知識」をひいてみると、



「1999年、テレビのワイド番組を賑わした、いわゆるサッチー騒動、“熟女バトル”とも言われたが、“熟女”という造語ができたのは、今からかれこれ20年前で、当時は40代前半を指した。きっかけはいわゆる熟女ヌードで、大谷直子、池波志乃、高田美和、岩下志麻、五月みどりのミディ女優たちがヌード写真集やカレンダーで妍(けん)を競った。いわゆる女盛りだった。それが昨今の熟女は還暦をとうに過ぎ70歳に手が届こうとしている。」(文教大学・稲垣吉彦教授)



というふうに載っていました。

やはりそうだったのか・・・。(ミディなんて、死語ですよね。)

それにしてもなぜ“熟女”の年齢が飛躍的に上がったのか?

私が考えるに、やはりサッチーやミッチーに対して、そのままの呼称(例えば、オバサンもしくは、おばあさん)で言うことが、はばかられるからではないでしょうか。

20年前の"熟女"は良いイメージを伴っていました。だからその言葉を、それにふさわしいとは決して思われない人に対して使うことで、相手に敬意を表わしているのです。といえば聞こえはいいです、一種のごまかしですね。

たとえば、夜の繁華街を歩いていて、ぽん引きのお兄さんに「ヨッ、社長!」と声を掛けられるのもそれに似ていますし、お昼のワイド番組で司会者が、スタジオに集まってくれた、"かつてお嬢さんであった人たち"に向かって「お嬢さん!」と呼びかけるのも、同様の表現法ではないでしょうか。「現代用語〜」にはこういう言葉も載っていました。

「四〇にして マドモアゼル」

2000/11/30

(追記)

「四十にしてマドモアゼル」は「四十にして惑わず」のパロディです。念のため。(うちの妻は、分かりませんでした。) また、「熟女」に似たもう一つの表現を見つけました。「マドンナ」です。「マドンナ議員」とか、言いましたよね。これも一種のごまかし、ごますりでしょう、今となっては。

2000/12/23


◆ことばの話198「ウマやか」

前から気になっていたのですが、今日(11月12日)は「エリザベス女王杯」というのもあったようだし、ちょうどよいでしょう。
それは会社の行き帰りに見かける京阪・京橋駅のホームの売店の裏にある、広告の看板なんです。そこには、以下のように、「やか」で終わる形容詞らしきものが、黒の太いゴチック体で、ズラッと14個も並んでいるのです。

はれやか。しとやか。なごやか。
まろやか。さわやか。こまやか。
かろやか。すこやか。おだやか。
かろやか。すこやか。にぎやか。
スポやか。ウマやか。

お察しのように、スポーツ新聞と競馬新聞の広告看板です。スポーツらしい写真も、馬の絵も何にもなく、ただ、こういった「ことば」が並んでいるところが目を引きます。
縦に読んだり、横に読んだり、斜めに読んだりして、何か安藤のような物がこの中にあるのでは・・・と思って解読を試みたのですが、どうもそういうことはなさそうです。
最後の二つ、「スポやか」と「ウマやか」は、もちろん、辞書には載っていない「造語」でしょうが、これだけ4文字の「〜やか」が並んでいる中に紛れ込んでいると、まあなんか、そんなものかなあという気にさせられてしまいました。
ただ、毎日のようにこの「〜やか」を目にしているうちに、一つ疑問が出てきました。

「なぜ、“あざやか。”がないのだろうか?」と。

「しめやか。」はなくても良いですが、「あざやか」はスポーツにしても競馬にしても、良く使う形容詞ではないかなあと思うのですが、皆さんはどうでしょうか?
2000/11/12
(追記)

6年ぶりの追記です。
地下鉄・堺筋線に乗ったら、宝塚ファミリーランドの跡地に計画中の高層ツインマンションの宣伝の中吊り広告が。そこにはこう書かれていました。
「はれやか、のびやか、うららか」
「やか」って、なんだか人の心をうきうきさせる響きなのかもしれませんね。
2006/11/27
(追記2)

6年ぶりに追記して読み直してみると、肝心の広告に載っていた14個の「やか」のうち、3行目の2つの「やか」が間違っていることに気づきました。正しくは、

はれやか。しとやか。なごやか。
まろやか。さわやか。こまやか。
しなやか。はなやか。おだやか。
かろやか。すこやか。にぎやか。
スポやか。ウマやか。

でした。「しなやか」と「はなやか」ですね。また、その下の「安藤」は間違いで、正しくは、
「暗号」
でした。すみません・・・。
2006/11/29


◆ことばの話197「フインキ」

福井大学の岡島助教授が主宰していて、いつもよくお邪魔するネットの掲示板(?)「ことば会議室」をのぞいていると、こんな記述がありました。



「最近、“雰囲気”ということばを“フンイキ”と言わずに“フインキ”と言っているのを耳にしますが、“ン”と“イ”がひっくり返ってしまうようなことはよくあるんでしょうか?」



そんなことホントにあるんかな、と思って更に読み進んでいくと、別の人が書いた



「高校の教師をやっているが、クラスの生徒の90%が“フインキ”だと思っていた」



などという書き込みもあって、「えーっ、ほんとー?」という状態。

ためしに、近くにいた若いデイレクター「雰囲気」とい書いた紙を見せて

「これ、なんて読む?」

と聞いてみると、なんと、

「フインキでしょ」

と答えるではありませんか!

確かに、耳だけで聞いていると「フンイキ」の「ン」をしっかり発音せずに早口で言うと 「フインキ」に聞こえなくもありません。でも漢字を見れば明らかに「雰囲気=ふん・い・き」ではありませんか!

この現象はきっと、「雰囲気」という漢字を知る前に「フンイキ」ということばを耳で聞いて(それも、発音・滑舌の悪いものを)「フインキ」だと思い込んでしまっているところから始まっているのでしょう。

岡島助教授は「“ン”と“イ”の“音転倒”というよりは、“国語音韻論”で金田一京助が言うところの“類音牽引”でしょう。つまり、“○ンイキ”という形のことばは“音域”ぐらいしか思い浮かびませんが、“○インキ”ということばは“陰気”“近畿”“新規”“珍奇”“人気”“悋気”のように数が多く、慣れているために、そちらに引っ張られているのではないでしょうか?」と述べてらっしゃいます。

わたしはそれに加えて、“ン”と“イ”は共に口の形をあまり動かさずに、口内で音を鼻に抜くか抜かないかの違いだけで楽に発音できるという点も、“ン”と“イ”が逆転(というか混同)された原因ではないかと思います。

さらに、その微妙な違いを聞き取れない「耳の悪さ」というものも加わっているのではないでしょうか。

いや、“耳が悪い”というよりも、これまで聞き取ることの出来た日本語の母音・子音を、“脳が”聞き取れなくなってきているのではないか、ということも考えます。つまり日本語には外来語の大量流入によって、古くはなかった“ディ”“ティ”などといった外国語の発音形態が取りいれられていますが、その反面、これまでの日本語にあった発音形態が意識から消えてきているのではないか、ということです。これはぜひ「ニューススクランブル」の「平成ことば事情」の取材で取り上げてみたい“雰囲気”になってきましたね。

2000/11/12


◆ことばの話196「クリック式」

アメリカから脇浜アナウンサーが帰って来て、はや2ヵ月が経ちました。

カリフォルニアではメディアの最新事情を勉強して帰ってきたそうですが、もちろん、今最先端をいくデジタル事情も、みっちりと勉強してきたそうです。何せ、普通なら2年かかるところの大学院の修士課程を、詰め込んで1年で習得してきたんですから。

その脇浜アナが、

「読売テレビのホームページが新しくなるんだけど、クリック式は誰がやるのかな。」

というふうなことを話しているのを耳にしました。(ホームページの模様替えは、読売テレビ=10チャンネルに合わせて、10月10日に行われたのですけれど)

「えっ?クリック式?それ、何?どうするの?」

と思って聞いてみると、 「ホームページの立ち上げなどの時に行うもので、オープニング・セレモニーの“テープカット”のようなものですよ。」

という答えが返ってきました。

つまり、誰か代表の“エライさん”が司会の「どうぞ!」の合図に合わせて、マウスをクリックすると、くす玉が割れて、ホープページがオープンする・・・といったものらしいです。最初聞いた時は「ネジ式」や「日本式」「アメリカ式」のような「〜の方法」の意味の「〜式」かと思って、「クリック式って、どんなやり方なんだろうか?」と思ってしまいましたが、「入学式」「卒業式」「開会式」の「式」だったんですね。

まだ、このことばは、脇浜アナ以外の口からは私は聞いたことがありませんし、活字で目にしたこともありません。私にとっては「最新式」のコトバです。

2000/11/12