◆ことばの話190「荒げる」

今日(10月19日)のニュースのナレーション原稿の中で、

「声を荒らげた」

という表現がありました。これを皆さんはどう読まれますか?

声を「あらげた」?それとも「あららげた」?

実は、従来これは「あららげた」と「ら」が二つ重なった形で読まれてきたのです。

広辞苑の第5版をはじめ、たいていの辞書は「あららげる」を見出しに載せて、「あらげる」は載っていません。私が調べた中では唯一、三省堂の「新明解国語辞典」の第5版だけは「あらげる」を見出しに掲げています。(第4版は載っていない)

つまり辞書の世界では「あらげる」はまだそれほど認知されていないと言うこと。

しかし、実際の社会ではどうでしょうか?

読売テレビ社内で20人に聞いたところ、「あららげる」派が5人、「あらげる」派が、15人でした。

街頭で聞けば、きっともっと「あらげる」派が多いのではないでしょうか。

言葉というものは日に日に変わっていくものです。それを「乱れ」という人もいますが、社会言語学では「揺れ」というふうに呼んでいます。

放送で使う言葉というものは、基本的には保守的なものですから、新しい言葉を使う人が半数を越えた時点でも、まだ今までの形を変えようとしないように思えます。

実はこのことばについてはNHKが過去に調査を2回していて、1回目の調査(対象100人)では「あらげる」派が84%、2回目の調査(対象1400人)では同じく77%と、大多数を占めていたということです。

これを受けてNHKでは内部の放送用語委員会で、平成3年(1991年)に既に採用が決まっているそうです。

結局、読売テレビ「ニュース・スクランブル」でも「あらげる」で読むことにしました。

2000/10/19


◆ことばの話189「〜と申しました。」

広島と熊本に出張の予定が入り、ホテルの予約の電話をかけました。

まず広島。満室ではないかと心配していたのですが、その日は「ご用意できます。」とのこと。連絡先や名前、宿泊日数などを言って手続きを終えた後に、係の女性が、こう言いました。

「私、○○と申しました。」

えっ?「申しました。」?なんで過去形なの?それとも先にあなた、名前を言ったっけ?それを確認するための言い方なの?

ちょっと気にかかったまま、次は熊本のホテルの予約の電話を。ところがここでも年配と思しき男性フロントが

「△△と申しました。」

と言ったではありませんか!?

ホテルのフロントという職種で、今「〜と申しました。」という自己紹介の仕方が流行っているのでしょうか。

「私、係の○○と申します。ご予約は確かに承りました。

と言うべきだと私は思うのですが、この文を省略して、下線部だけを使うようになったのでしょうか?

それとも、このところ流行っている言い方の「よろしかったですか?」の流れを汲むものなのでしょうか。この「よろしかったですか?」は、お客さんに対して初めて尋ねる内容について、あたかも"さっき一度聞いたけど、念の為に確認する"ような感じで話し掛ける言葉です。名古屋の人がよく使うらしいですが。

いずれにせよ、今後広島・熊本以外でこの言い方を耳にしたら、チェックするつもりです。

以上、"道浦と申しました。"

2000/10/18

(追記)

大阪のホテルニューOに宿泊予約をしたところ、セールス担当マネージャーが、用件を聞いたあと電話を切る際に、
「わたくし、Mと申しました。」
と過去形で名乗ったという話を、Sアナウンサーが教えてくれました。大阪も・・・・ホテル業界の業界用語になっているようですね、どうも。

2004/4/9


◆ことばの話188「導電性ポリマー」

今年のノーベル化学賞は、白川英樹・筑波大学名誉教授の受賞が決まりました受賞対象となったのは、電気を通すプラスティック。これを10月11日の各紙朝刊は

「導電性ポリマー」あるいは「導電性高分子」というふうに表現して、見出しにもこの字が躍っていました。「導電=どうでん」という言葉は、辞書には載っていませんが、見て字の如く、"電気を通す"という意味でしょう。専門用語のようです。

ところが、そんな中にあって、朝日新聞のみが「伝導性高分子」という表現を掲げていました。それを見た私は、最初、「あつ、間違えたんや!」とイジワルっ子の気持ちになって、ほくそえんでいました。夕刊に「訂正」の記事が載ると思って。

ところが、夕刊のどこにも「訂正」の文字はありませんでした。おかしいなあ、と思って辞書で「伝導性」を引いてみると、そこには「熱や電気を伝える性質」とあるではですか!つまり「伝導性」でも間違いではないということです。

しかし、やはり「伝導性」では「熱伝導」「なのか「電気伝導」なのかが、詳しい説明を読まなければわかりません。耳慣れない言葉だけど、「導電性」のほうがパッと見てすぐ分かると思いませんか?

そう思いつつ、翌日の朝刊を何気なく見ていると・・・・出ていました、「おことわり」が。白川教授の特集インタビュー記事の下のところ、いわゆるベタ記事で。



<おことわり>化学賞受賞が決まった筑波大学の白川英樹名誉教授の業績を、スェーデン王立科学アカデミーの日本語発表文に従い、「伝導性ポリマーの発見と開発」としてきましたが、今後、専門家の間で使われることの多い「導電性ポリマー」と表記することにします。



ということでたった1日で「伝導性ポリマー」という言葉は紙面から消えたのでした。



しかしそれにしても、1日しか経っていないのですけれど、このベタ記事が載った10月12日には、私も、そして世間も、もうノーベル賞の興奮が冷めてしまっていました。なんて、熱しやすく冷めやすい・・・これこそ"超伝導"ですね。ただし、これは"電気伝導"ではなく"熱伝導"の話でした。

(P. S .)

読売テレビの「あさイチ!」でこのニュースを伝えたすぐ後に、うどんのつゆの「どんでん」のコマーシャルをやっていました。出来すぎた話です。

2000/10/13

(追記2)

また、この週の土曜日(10月14日)の朝日新聞のコラム、「泉麻人の週末流行語大賞」でこの「導電性ポリマー」を取り上げていました。泉さんは"導電性ポリマー"について「一見、新種の難病か・・・とも取れるようなこの素材は、簡単にいえば"電気を通すプラスティック"というものらしい」と書いています。

2000/10/20


◆ことばの話187「肉汁」

先日、ニュースのグルメもののナレーションで「肉汁」という言葉が出てきました。お肉を焼いた時に出る汁のことです。これを女性アナウンサーは「にくじる」と読んでいました。それを聞いて私は、

「ん?にくじる?"にくじゅう"じゃあないのか?」

と思い辞書を引いたところ、やはり「にくじゅう」しか載っていません。しかし、彼女も中堅アナウンサー、そんなに簡単に間違いを犯すとは思えなかったので、「もしかすると、最近の若者は"にくじる"というのかもしれない!?」と思い、会社内で25人に「"肉汁"ってどう読む?」と聞いてみました。その結果は、

「にくじゅう」・・・・・9人

「にくじる」・・・・・16人


という結果が出ました。やはり若い人を中心に「にくじる」派が勢力を伸ばしていたのです。思うに「〜しる(じる)」で思い浮かぶものは、「味噌汁」「けんちん汁」「豚汁(ぶたじる・とんじる)」など。「〜」の部分が、その汁の「具」を表わしているものが多いように感じます。それに対して、「〜じゅう」という場合は、ある物から出る「しる」という感じで、例えば「果汁」「墨汁」などが思い浮かびます。

「逆引き広辞苑」を引いてみました。それによると「〜しる」は、たくさんあります。

「藍汁」「青汁」「芋汁」「沖魚汁」「膿(うみ)汁」「上汁」「言伝汁」「越川汁」「さくさく汁」「追っ立て汁」「潮汁」「卯の花汁」「あら汁」「集め汁」「御事汁」「掻き立て汁」「草の汁」「蕪汁」「鹿児島汁」「呉汁」「河豚汁」「けんちん汁」「鯨汁」「蜆汁」「三平汁」・・・・などなど。ちょっと省略しますが、全部で73語載っています。

「〜じゅう」は、「一汁」「液汁」「果汁」「苦汁」「膿汁」「胆汁」「肉汁」「乳汁」「墨汁」「ろ汁」の10語が載っていました。

これを見ると、必ずしも、私が言っていることが当たっている訳ではないようです。レモンの果汁を「レモンじる」とも言いますし。

しかし、やはり「にくじる」と聞くと「鼻汁」などを思い浮かべてしまいます。一方、「じる」と同じく「じゅう」は濁る音ではありますが、「にくじゅう」の方が「ジュージュー」焼けるおいしそうな肉の香りが漂ってくる気がします。

まだ「にくじる」という言葉は「広辞苑」には載っていませんが、辞書に載る日も近いのかもしれません。編集部としては「に・苦汁(くじゅう)」の選択なのかもしれませんが。

2000/10/13


◆ことばの話186「発覚!」

元フジテレビ・アナウンサーで、3ヵ月ほど前に歌舞伎の坂東八十助さんと離婚した近藤サトさんに新しい恋人が出来た、という記事が昨日(10月11日)のスポーツ紙に一斉に載りました。読売テレビの「あさイチ!」をはじめ、各社のワイドショーでもこの話題を取り上げていました。その時の見出しが



「近藤サト、新恋人発覚!」



「発覚」ということばを辞書で引いてみますと、

「隠していた悪事・陰謀・秘密などが人に知られること」

とあります。確かにサトさんは見つからないようにはしていたとは思いますが、「新恋人」は「悪事・陰謀」なのでしょうか?

「発覚」ということばには、やはり悪事が発覚というイメージが付きまといます。

新聞用語懇談会の放送分科会で1999年7月に話し合われた「気になることば」の中でも、

「仁科明子さんの子宮がんが発覚したとき・・・と言っていたが、子宮がんは隠さなければならないようなことではない。"発見された時"あるいは"分かったとき"とするのが妥当だろう」

というふうに話題に上ったことがあります。

しかし、なかなかこの場合「発覚」にかわることばが見つからないんですよね。

「ニュース・スクランブル」の坂キャスターと「発覚」について話したところ、



「もう、ワイドショーなどではバンバン使われてるし、"発覚"に悪事というイメージは薄まってきてるんじゃないですか。」



なるほど。そうやって使われれば使われるほど、悪事のイメージは薄まっていくということですね。

そういえば例の「20(今)世紀最後の〜」も、使われれば使われるほど、希少価値がなくなってきて陳腐になってしまったのと同じでしょうかね。

その事実の"発覚"に気付かなかったのは、"不覚"でした。

2000/10/12