◆ことばの話170「長押し」

携帯電話など持つまい・・・と思っていたのに、今年3月に地下鉄日比谷線の事故を見てから、「やはりニュースをリアルタイムに伝えるためには携帯電話を持っていなくては・・・」と思って購入してから、はや5ヵ月。便利ですねえ、携帯電話。特にメールは助かります。

さて、そのケータイを購入したてで説明書と首っ引きになっていた頃に気付いた、おそらく「ケータイ専用用語」と思われる言葉があります。



「長押し」



です。データを登録したり、また削除したりする時に使う動作なんですが、文字どおり、「ボタンを少し長めに押しつづける動作のこと」です。

何ということのない言葉なんですが、辞書(新明解国語辞典・広辞苑・日本語大辞典)には載っていません。



良く似た字面のコトバとしては「長押」があります。これは「なげし」と読みます。

「日本建築で、柱と柱の間に取り付けた横木」のことです。

しかし、日本建築が少なくなってくると「長押」そのものがなくなって、コトバとしても「死語」に足を踏み入れることになるんでしょうね。もう、なってるかな?

もし、今年のアナウンサー試験の漢字の読みで「長押」を出したら、ほとんどの受験者は「ながおし」と読むことでしょう。あっ、このホームページを読んだ人だけは、ニヤッと笑って「なげし」と読むことでしょうが。

2000/8/25

(追記)
4年ぶりに、追記です。
先日、初めて東京の六本木ヒルズに行った時に乗ったエレベーター。緊急電話ボタンの下に、こんな表示がありました。

「緊急の場合はこのボタンを長押してください。」

この「長押してください」は「なが・おしてください」ではなく「ながおし・してください」と読む、つまり「長押」で「ながおし」と読ませるのだと思います。
つまり、もう携帯電話だけではなくて、ボタンを長く押すこと全般を、
「ながおし(長押し・長押)」
と呼ぶことが定着しているのだな、と感じました。

2000/7/10


◆ことばの話169「プチ」

日経新聞の土曜版に連載されている「はやりの考現学」という欄があります。

この前の土曜日(8月19日)の特集は「プチがいっぱい」という記事でした。

このところ、ホテルにレストラン、菓子から携帯情報端末まで、商品名やうたい文句に、「プチ」というコトバを冠したものが目立ってきた、というのです。

囲み枠であげられた例としては、

(機器類)

 ・ プチウェブ=NTTのISDN専用小型ネット端末

 ・ キャメッセプチ=NTTドコモのデジタルカメラ搭載メール端末

 ・ プチカット=小型シュレッダー

 ・ プチソフィア=女性向け多機能体温計

(飲食物)

 ・ VOプチ=飲みやすいブランデー

 ・ プチシリーズ=ブルボンの一口菓子

 ・ プチフランク=コンビニ・ミニストップの焼きたてパン

(サービス)

 ・ プチメール=IDOの携帯電話の文字メッセージサービス

 ・ プチホテル=リゾートから都心に拡大

(ファッション・流行)

 ・ プチプリ=安物、小さい柄、ちょっとかわいい、写真シール印刷機の小型版など

 ・ プチ家出=友人・知人宅を転々とする行為

(書籍)

 ・ プチ哲学=佐藤雅彦・慶大教授の小論・画集(2000年6月出版)

(マネー)

 ・ プチ投資家=小口投資家を博報堂がこう名づけた



このほかアイドルグループの「プッチモニ」も、「ちょっとメンバーの数が少ないモーニング娘。」の省略形のようですし、歌った曲が「ちょこっとラブ」



「ミニ」と「プチ」はどう違うのか?「ミニ」は英語で耳慣れていますが、「プチ」はフランス語でちょっとおしゃれに、可愛く聞こえるような気がします。



この記事によると、バブルの頃にも「プチ」の小規模な流行があったそうです。地価上昇で「小さいもの」しか楽しめないという時代背景があったそうですが、今残っているものは「プチトマト」ぐらいなんだそうです。「プチシュークリーム」も残っていると思うけど。きのう食べたぞ。



そうだ、名前じゃないけれど、包装材の空気の入った粒のついたビニールシートも

「プチプチ」

してますよね。好きなんですねえ、あれ・・・。

2000/8/25


◆ことばの話168「H」

三菱自動車工業が、クレーム隠しやリコール隠しを30年間にわたって行っていたというニュースは、自動車のユーザーのみならず社会全体に大きな衝撃を与えました。

三菱自動車の河添社長は、先月(7月)の記者会見では「課長クラスまでの現場レベルの者がやったことだ」と言っていましたが、今回は「部長クラス以上も知っていた」と、会社ぐるみのクレーム隠しだったことを認めました。

また、リコールに繋がるようなクレームの書類には、「H」というアルファベットをつけていました。「H」は「秘匿」・「保留」の意味だそうです。それぞれをローマ字で書いた場合の「HITOKU」と「HORYU」の頭文字です。

この「H」について河添社長は会見でこう話しています。



「私は、Hを知ったのは、今回が初めてでございます。」



なーんか別の意味にも取れそうで、ちょっと不謹慎ながら苦笑してしまいました。

もともと秘密の書類につける印としては、秘密の「秘」を○で囲った「マルヒ」という記号がありますが、今「マルヒ」のマークを見つけると、「ああ、これは秘密の文書なんだな」とすぐ分かってしまいます。そこで「H」にしたんでしょうが、これもわかるでしょうね、普通は。わかりやすいもの。

文句がある人に対しては「まあ、まあ」と懐柔して、ことを荒立てずに収めるという方法は、「いかにも日本的」ですが、雪印乳業の食中毒事件に端を発して、毎日のように起きている、品質劣化・異物混入事件も、今までなら個別に担当者が対応して、ことを荒立てずに済ましていたと思われます。そうでなければ、こんなに続けざまにコトがおきるはずはありません。今までも身の回りでこういった事件は起きていた、と考えるのが自然です。

そうすると、三菱自動車のクレーム隠し問題も、三菱だけではなく実は・・・と類推するのが自然ではないでしょうか。ある自動車メーカーに勤めていたという視聴者の方から、こんなメールを頂きました。



「車のマイナーチェンジの回数が妙に多くありませんか?無料点検キャンペーンのハガキが来たら注意して下さい。なぜ無料なんでしょうか?」

2000/8/25


◆ことばの話167「おんねとう」

きのう(8月23日)、北海道根室市の温根沼(おんねとう)の漁港で、カレイの刺し網になんと、ヒグマが引っかかって水死するという珍しい出来事がありました。

地元の漁師さんによると「30年漁師をしているが、ヒグマを網で取った話など聞いたこともない」(読売新聞)ということです。

さて、このニュースを「あさイチ!」で紹介したところさっそく視聴者の方からメールが届きました。それは

「“おんねとう”ではなくて、“温根湯(おんねゆ)”ですよ!」

というものだったんですが、原稿をもう一度チェックしても「温根沼(おんねとう)」としっかり振り仮名がふってあります。それに良く見ると、原稿の方は「沼」と書いて「とう」、メールを送って下さった方は「湯」と書いています。漢字も違うんです。

もしや・・・と思って地図(二宮書店の高等地図帳)を見ると、なんと「温根湯(おんねゆ)」という温泉が載っているではありませんか!しかも「温根沼(おんねとう)」は載っていないのです。

しかし、新聞には「温根沼(おんねとう)」は根室市で、しかも「漁港」と書いてあるのに、この「温根湯(おんねゆ)」は石狩山地の北東の山の中にあります。

おかしいな、と思って、今度は「コンサイス地名辞典」(三省堂)を引いてみました。すると、驚いたことに、「おんねとう」が3つも載っていたのです。つまり、
【1】 温根沼(おんねとう)= 根室市。根室湾の奥の潟湖。タンチュヅルの飛来地。
  面積4.9平方キロメートル。
【2】 温根沼(おんねとう)= 根室市街東方、太平洋に面した沼。
  タンチョウヅルの飛来地。
  面積0.5平方キロメートル。
【3】オンネトー湖= 十勝支庁足寄(あしょろ)郡足寄町。
  サンショウウオの生息地。
  雌阿寒岳(めあかんだけ)の西麓の沼。別称、オンネトー。

三つ共、アイヌ語の「大沼(オンネトー)」に由来する名前だそうです。私は【3】の、カタカナの「オンネトー」かと思っていたのですが、この「ヒグマ」のニュースの発信地は、【2】の「温根沼(おんねとう)」だったのです。

さらに、地名辞典には、「温根湯温泉(おんねゆ・おんせん)」も載っていました。網走支庁常呂(ところ)郡留辺蘂町(るべしべちょう)の常呂川支流の無加川(むかがわ)中流に硫化水素泉、だそうで、この「おんね」は、やはりアイヌ語の「オンネユ(年老いた湯)」に由来するんだそうです。

結局、視聴者の方の勘違いで、こちらの方が正しかったのですが、その指摘があったことで、ちょっと「おんねとう通(つう)」になることができました。感謝、感謝!

2000/8/24


◆ことばの話166「生」

今週、一週間(8月21日〜25日)、辛坊キャスターが夏休みの間、ピンチヒッターで「あさイチ!」でニュースを担当しています。早起きは辛いね、午前3時に起きて、4時には会社に入るんですから。まあ、1週間だけだから、なんとかなりそうですが。

さてこの番組のメインキャスターは、このところメキメキ、力をつけてきている中元綾子アナウンサー。1日に最低でも一度、必ず大ボケをかましてくれます。

きのうもやってくれました。



「生パンティ」



女性を襲って、その下着を奪う行為を繰り返していた男が逮捕されたというニュースだったのですが、そのスポーツ紙の見出しに出ていたこのコトバを紹介したもので、彼女になんら責任はないのですが、まあー朝の番組で、女性の口から出てくる言葉ではないわなあ。視聴者の方からお叱りのメールも、約1通届きました。



それにしてもこの「生パンティ」って、何が「生」なのか?なんか変な感じのするコトバだと、番組後、アナウンス部の部屋で問題になりました。(正確に言うと、私が問題にしました。)新品の「パンティ」は「生」ではなく、あくまでも女性が「はいているもの」を指すものと思われます。

よく似た語感で「生」がつくものでは「生足(なまあし)」「生写真(なまじゃしん)」など、おたくっぽいイメージの言葉が並びます。

かたや、ほかに「生」のつくことばでは、「生中継」「生中(ビール)」「生唾」なども あります。「生」というと「加工していない自然の状態というニュアンスだと感じているのですが。

まず、辞書の「生」を引いてみることにしました。すると「生」の1番目の意味として



「動植物を採取したあと、煮たり焼いたり乾かしたりしない、そのままの状態(のもの)」



とありました。そうか、確かに、煮たり焼いたり乾かしたりしていない状態だよな、採取した後。

違和感の原因がわかりました。ここでさす「生」の目的は「食べること」にあるということ。また、「生」の対象物は動植物であるということ。この二つの条件を「パンティ」は満たしていないのです。

いや、もう一歩踏み込んで言うと、逮捕された男が、この「パンティ」を身につけている「女性」という人間を「動物」として、あるいは「食べ物」として見ている、文字どおり“生臭い”感じが「生パンティ」というコトバから感じられて、おたくっぽい、いやらしいニュアンスが流れてくるのではないでしょうか。

・・・これ以上この問題に踏み込むのは止めておきましょう。どうも皆から“ひんしゅく”を買いそうな気がします。

2000/8/23

(追記)

堀井令以知『ことばの由来』(岩波新書、2005)を読んでいたら、「生」に関してこんな記述が123ページに。
「『新撰大阪詞(ことば)大全』(1841、天保12年)に、
『とらとは酒のなまゑひのこと』
とある。『なまゑひ(生酔い)』は泥酔者のこと。」

そうか、「生酔い」というと、まだ少ししか酔っていないのかと思ったら、泥酔のことだったのですか!知らなかったなあ・・・
なお、「生」に関しては、「平成ことば事情921生セラ」もお読みください。

2005/6/28

(追記2)

阪神電車に乗ったら、車内掲示板の電光掲示で、
『みなさまの足阪神電車』
という表示の「み・さ・の」「オレンジ」で、「な・ま・足」「緑色」だったので、「緑色」の表示だけ読むと、
『なま足』
に見えました!
平成ことば事情1012「生黒」と、平成ことば事情1989「生ヨン様」もお読みください。

2005/11/29
(追記3)

見坊豪紀・稲垣吉彦・山崎 誠『新・ことばのくずかご84−86』(筑摩書房)の72ページに「フォーカスした写真」という項目で、
「チェッカーズがおしっこしてる。堀ちえみのスカートがまくれてる。原宿竹下通りの一角にそんな写真がずらり六百五十種も。称して『生(なま)写真』。」
ということで、
「生写真」
が、朝日新聞1984年12月8日の夕刊3面「にゅうす・らうんじ」欄に載っていたと書かれていました。もう20年以上前から、風俗ふうの「生(なま)」は使われていたんですね。
2006/9/11